人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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感想欄や評価者リストの中にちらほら別の二次作品の作者の方々がいて吃驚しております。

雷狼輝刃さん、静岡万歳!さん、1423-aさん、風音鈴鹿さん、星野優季さん、星雲 輪廻さん、saharaさん、血涙鬼・彼岸さん、Blue-dさん、アルサーさん、高評価ありがとうございます。

それでは第五話、原作スタートです。



日常ノ終ワリ

月曜日、それは新たな週の始まり、しかし『サザeさん症候群』『月曜日病』などという言葉が存在するように、希望を感じる人は多くない。だが、病室にて包帯と学校の制服に身を包む少年、南雲ハジメは例外である。寧ろ嬉々とした表情だ。

 

 (ようやく退院できましたね。学校に行くのも久しぶりです)

 

 退院の手続きを済ませ、病院の外に出ると、それを待っていた少女がいた。

 

「おはよう、ハジメくん。身体の方は大丈夫?」

 

 少女の名前は白崎香織。ハジメの恋人である。事前に退院の日を教えたので、迎えに来てくれたようだ。

 

「おはようございます、香織。体調は良好です。すみませんね、迎えに来てもらって」

「気にしないで。私がやりたくてやってるんだもん。じゃあ、あんまり気乗りしないけど、学校に行こう」

 

 そう言って香織は手を差し出し、ハジメはそれを取る。この二人、既に『学校一のバカップル』という呼び名をつけられている。学校外ではだいたい手を繋いでいて、学校でもだいたい二人(+α)で一緒にいる為、さもありなん。因みに香織が「気乗りしない」理由はそのうち分かるぞ。

 

 二人が学校に着き、教室に入ると男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。とはいえ病棟の惨劇を生き延び、十年弱病魔と闘い続けているハジメにとってはそよ風に等しい。因みに繋いでいた手は離している。

 

(そんなに敵意を向けずとも、どうせ数年後には僕はこの世にいませんよ)

 

 などとハジメが内心で思っていると、ハジメの親指に痛みが走る。どうやら内心を見透かした香織が爪半月を押したらしい。とりあえずハジメが視線で謝っておくと、香織は満足そうな表情をする。

 尚、男子生徒からは敵意を向けられるが、一部の女子生徒からは生暖かい視線を向けられている。彼女らはハジメと香織がお似合いだと思っており、儚い恋を応援する側である。そして、その他の女子生徒はハジメを見ようとはしない。原因はパニシング症候群に対する忌避感だ。ハジメに危険はないと頭では分かっていても、感情的に折り合いをつけられないのだろう。

 

「よぉ、化け物! 今日は巣から出てきたのか? どうせずっとお絵描きしてるんだろ?」

「うわっ、キモ~。そんなの小学校で卒業しとけよ~」

 

 一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。絡んできたのは檜山大介といい、毎回飽きもせずに突っかかってくる。近くで蛙のように大笑いしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人で、だいたいこの四人が学校に来る度にハジメに絡む。因みに、ある一件からハジメが画家『ゼロ』である事は知られている。

 尚、本人達は気付いていないが、香織はゴミを見る目つきで四人を見ている。まるで『下劣な者には軽蔑を』と言わんばかりの視線。余程の変態でもない限り喜ばない。

 

「ええ、芸術活動に勤しんでいました。個人的な趣味もありますが、少なくない収入になるもので。どうやら海外にもファンの方がいらっしゃるようでして、オークションに出したらイギリスの方が372000ポンド(日本円で約860万円超)で買い取ってくれましたよ」

 

 言うまでもなく、オークションという形式を取っているからにはその値段になるまで価格を吊り上げた人間が何人かいるということである。ハジメは暗に『ゼロを敵に回すなら、その顧客も敵に回るぞ』と脅したのだ。このようなやり方は好ましくないが、相手にはこのような手段しか通じないのだから仕方がない。目には目を、歯には歯を、暴力には圧力を。檜山達は自分達よりも発言権のある者は襲えない。最終的に潰されるのは自分達であると分かっているのだ。まあ、実力行使に出ないというだけで、悪口を言う等の陰湿な手段を取るだけだが。しかし、今日『敵は海外にもいる』という新事実が判明したため、暫くはなりを潜めるだろう。もっとも、『喉元過ぎれば熱さを忘れる』という言葉もある通り、暫くしたらまた突っかかってくるのだろうが。

 

「君はやはり最低だな、南雲。権力を使って、気に入らない人間を陥れるのがそんなに楽しいか」

 

 そう声をかけてきたのは正義と善意の塊、天之河光輝である。どうやら光輝の目には、ハジメが圧力によって檜山達を苦しめているように映っているようだ。

 

「おや、天之河君ですか。仕方がないでしょう。こうでもしなければ、僕のような弱者は蹂躙されるだけだ。それとも、大人しく暴力に屈しろと? ガンジーに憧れるのは結構ですが、それを僕に押し付けないで頂きたい」

 

 ハジメとて聖人ではない。攻撃されれば反撃はする。右の頬をぶたれて左の頬を差し出すような精神性は持ち合わせていない。香織と出会った時に言った『夜鷹のように生きて死にたい』というのは噓偽りのない本心ではあるが、現実は非情であり、それだけでは生きていけない事も知っている。特に香織のような、本人の意志とは関係なくただ一緒にいるだけでトラブルを生んでしまう恋人を持つ身なら。

 香織が学校に行くのに気乗りしない理由はこれである。自分のせいでハジメは無用なトラブルに巻き込まれてしまうのだ。

 

「…それが君のやり方という事か」

「ええ、これが僕のやり方です。必要とあらば権道を用います。軽蔑なさってくれて結構、しかし僕は自分と香織を守る為なら、悪にでもなる」

 

 最後だけ声を低くして言うハジメ。自らの行為を正当化するために恋人の名前を出すことに、ハジメは僅かながら嫌悪を感じるが、これもまた嘘偽りのない本心である。一方香織はその言葉に、不謹慎と思いながらも嬉しく思っていた。恋人に守ると宣言されたことが嬉しいのだ。いや実に人間の心は広い。あまりに広すぎるのだ。理性の目で汚辱と見えるモノが、感情の目には立派な美と映る。

 

「ところで貴方は信じないでしょうが、大多数の人間にとっては、悪行の中に美が潜んでいるのです。貴方の目に悪と映るのなら、まあ、そういうことでしょうね」

 

 ハジメはトドメの一言を放つと、自分の席に向かおうとする。光輝はまだ納得していないと詰め寄ろうとするが、そこに不謹慎を集めて固めたような声がかかる。

 

「はーい皆さんシケたツラ並べてご機嫌麗しゅう!」

「ちょっとエリリン! 空気読もうよ!」

「おや、中村さん、おはようございます」

 

ややハイテンションで声をかけてきたのはクラスメートの中村恵里だ。そして彼女の親友である谷口鈴がそれを諫めている。恵里は元は眼鏡を掛けた落ち着いた図書委員の生徒だったのだが、とある一件から皮肉屋・性悪・自由人という、誰とは言わないがどこぞのA之河K輝が最も嫌いそうな性格になった。本人曰く豹変したわけでも多重人格というわけでもなく、「ただ猫を被るのをやめただけさ。いや、被ってるかな?チェシャ猫を」とのこと。軽く翻訳すると、「変わったんじゃない。隠してた」ということだ。鈴と恵里は今ではボケる方と諫める方が逆転している。どちらも以前より楽しそうなのが幸いだが。因みに眼鏡は伊達である。

 

「あれ? どうしたんだい、K。まるでモルグ街で黒猫に遭遇したみたいな顔をしてるじゃないか」

「…いや、何でもないよ、恵里。香織も、君の優しさは知ってるけどそんなどうしようもない奴に構ってやる必要なんか無いんだ」

「何度も言ってるよね。私はハジメくんが好きで、私が一緒にいたいから付き合ってるんだって」

「はぁ…いい加減現実を見なよ、K。君がご執心の『お嬢さん』は既に別の男が好きなのさ。教室をブロードウェイか何かと勘違いしてるのかもしれないけど、毎回同じ演目を見せられたら観客だって飽きるよ?」

 

 恵里は光輝の事をKと呼ぶ。そして夏目漱石の『こころ』になぞらえて揶揄う。これも過去が関係しているのだが、随分と辛辣だと言えよう。ありふれ原作既読勢の方々なら、彼女の過去はだいたい想像がつくのではないだろうか。

 

「香織もよくもまあそんな陰険な奴に付き合うよな。俺には何がいいのかさっぱりだが」

「…おはよう、坂上くん。別に分かってもらわなくていいよ。ハジメくんの良い所は私が知ってるだけで十分だから」

「おはようございます、坂上くん。陰険なのは否定しませんが、僕が望んでいるのは存在する事(to be)であるというのは理解してほしいですね。どうか忘れないで欲しいのですが、この不定詞は中国語では他動詞なのです」

「フン…」

 

 坂上龍太郎、天之河光輝の幼馴染で、脳筋。熱血や根性というモノが大好きな種類の人間であり、ハジメのようなインドア派で弁が立つ人間とは相容れないらしい。ここ最近皮肉屋にシフトチェンジした恵里に対しても同様だ。

 

「…お前ら入り口付近で屯ってんじゃねえよ。通行の邪魔だ」

「その声は清水か…君は昨日も学校に来なかったらしいな。少しは真面目に物事に取り組んだらどうだ?」

「ヘイヘイ今日も元気だな、天之河」

「おい、清水!」

 

 清水のおざなりな態度に龍太郎が嚙みつくが、清水は何処吹く風だ。

 

「坂上も五月蝿えよ…昨日俺が休んだのはチェスの大会によるもの。つまり公欠だ。学校公認なんだよ。お前らも空手やら剣道やらやってんなら分かるだろ?」

 

言い終わるとカロリーmイトを取り出し、食べ始める清水。

 

「ついでに言うなら、俺は不真面目に物事に取り組んでるわけじゃねえ。俺はチェスという人生に自分という賽を投げた。俺は賭けに勝ったが、勝者には次が待ってんだ。不真面目になりようがねえのさ。分かったら、そこどいてくれ」

 

 光輝は表情を歪ませるが、そこにまた別の声がかかる。

 

「おはよう。南雲君に清水君、毎回ごめんなさいね」

 

 香織と並ぶ学校の『二大女神』、八重樫雫だ。光輝と香織は喜色を浮かべ、ハジメと清水も挨拶をする。

 

「お気になさらず、八重樫さん」

「おう、あんまし実害ねえしな」

 

 ハジメと清水の二人は自分の席へ向かう。ハジメは笑顔を向け、清水は振り返らずに手を振る。そしてそのどちらにも敵意の視線が向く。恵里は以前、清水に対し『”二大女神”に対する態度が雑だから敵意を向けられるんじゃないの~?』と揶揄うように言ったことがあるが、返答は『南雲を見てみろよ。親しげにした所で”不敬罪”だ』という皮肉だった。そもそも清水は一人の女性に憧れており、たとえ『二大女神』であろうと同級生の女子など眼中に無い。チェスもそれで始めたのだ。

カロリーmイトを食べる清水と、香織を伴ったハジメが席に着くと、ハジメに新たな声がかかる。

 

「な、南雲!」

「おや、園部さんですか。おはようございます。どうしたのです?」

 

 声をかけてきたのは園部優花。実家は洋食店『ウィステリア』で、ハジメが仕事で絵を納品しに来たときに知り合った。

 

「いや、あの、その…ウチで新メニューがでるから、今度食べに来ない?勿論香織も一緒に。か、勘違いしないでね。これはあくまで宣伝! アンタに何かあるわけじゃないから!」

「何も言っていませんよ。しかしそうですね。暇を見つけて食べに行くのもいいかもしれません。大丈夫ですか? 香織」

「うん。大丈夫」

「あ、後、また何か売るときあったら言って。私だけ宣伝するのもアレだし…アンタがくれた簪、結構気に入ってるから」

 

 優花は指で髪をいじりながら、耳を少し赤くする。暫く話して、【じゃあ、またね】と言い、優花は去っていった。だが香織は少し不満そうだ。

 

「…ハジメくん、私以外の女の子にもプレゼントあげてたんだね」

「プレゼント…ああ、簪ですか。しかし本人にも言った通り、あれは殆ど在庫処理みたいなものですよ」

 

 優花にあげた簪はゼロ(ハジメ)の絵とのコラボ商品であり、ハジメからすれば『売れ残ったので、よかったらどうぞ』くらいの感覚だった。しかし、もらった方がどう感じるかは別の話である。

 

「…ハジメくんの女たらし」

「え″…まあ、何か要求があれば可能な限り聞きますよ」

「じゃあ、また私をモデルにした絵を描いてほしいな」

「分かりました」

 

 香織は満足したように微笑む。それを見た恵里が【面白い事になってんねぇ。賭けでもしないかい?】といい、清水は【お前は此処をラスベガスか何処かと勘違いしてんのか?触らぬ神に祟りなしだ。ほっとけ】と返し、気付かれなかった遠藤浩介は人知れず涙を流す。こうして彼らの一日は始まる。

 

 

 そして時計の針は昼頃まで進む。

 ハジメと香織は当たり前のように二人で昼食をとる。学校で二人が食べる弁当は香織が作っており、母親の薫子曰くとても楽しそうだとのこと。

 しかし、二人の時間を意識的か、はたまた無意識か妨害しようとする人間が一人。

 

「香織、そんな奴とじゃなくてこっちで一緒に食べよう。せっかくの美味しい手料理を南雲なんかに食べさせる事は無いよ」

 

 それは、爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝だ。恐ろしく空気が読めない男である。

 香織の右手から『ベキッ』と何かが折れる音がした。見れば持っていた箸が真っ二つにへし折られている。どうやら怒りのボルテージが天元突破した果てに握力が一時的に向上したらしい。

 実際、香織は光輝に対して怒りを抱いていた。何故自分と恋人が過ごす大切な時間を邪魔するのか。面積の増えていく包帯が、色が抜けていく髪が、ハジメの死がゆっくりとでも近づいている事を嫌でも知らしめる。だからこそ、二人で過ごせる時間は大切にしたいのだ。一緒に混ざりたいというのなら何も思わない。だが何故執拗に自分とハジメを引き離そうとするのか。

 香織が一言文句を言おうと席を立った瞬間……。

 

(―――えっ!?)

 

 光輝の足元に純白に光り輝く魔法陣が現れ、クラス全体が凍り付く。その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大していく。

 

 数分後、光によって真っ白に包まれた教室が再び元に戻る頃、異常事態が起きていた。ハジメ達、教室にいた人々が跡形もなく消えていた。それ以外の、弁当や教室の備品は放置されたまま……

 




はい、三人目の性格改変、中村恵里さん。
賛同者は少ないと思いますが、作者的にはありふれの中ではかなり好きなキャラクターです。吹っ切れたサイコパスな行動とか、散り際とか、悪役の美学を踏襲したキャラクターな気がします。原作での最期は賛否両論あるようですが、あれはあれで彼女にとっては救いだったのかなと考えたり。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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