人形タチハ世界最強   作:三文小説家

120 / 133
 ようやく愛子先生とのあれこれに一応の決着が付きます。


魔ノ山―Movement-5―救世主ノ嘆キ

 ハジメ達の前に立ちはだかるのは〝装甲重戦車アイディオン〟。正面に盾を展開し、ハジメ達の行方を阻んでいる。通路を全て塞ぐほどの大盾であり、飛び越えていくのは現実的ではない。更に、先程のラストゼーレや一般兵達、更に背後から歩行兵器も現れた。

 

「楽しくなってきましたね……」

「それは本心? それとも皮肉?」

「半々ですかね」

 

 ハジメと優花は軽口を叩く。そして表情を消すと、ハジメは背後の歩行兵器にアストレイアによる射撃を、優花はアイディオンにイエスタデイをぶつけた。更にハジメは一般兵をゼロスケールによる連射で掃討し、歩行兵器に〝朱樺〟による刺突攻撃を加える。

 

「一つ、蝶の羽ばたきで吹雪を起こしましょう。宮崎さん、ご協力を」

「う、うん!」

 

 ハジメは敵を一掃するために〝折鶴〟を展開した。

 

「吹雪は終焉の使令なりて」

 

 ハジメが行動指令を出すと、折鶴が吹雪を巻き起こす。それに追従するように、奈々が氷の剣を振り、舞う。地面を踏めば霜が敵に迫り、それに捕らわれた敵をハジメが銃撃で掃討してゆく。そして、氷に完全に捕らわれた歩行兵器を奈々が剣で両断した。それでも壊れない歩行兵器だったが、ハジメのアストレイアの〝拡散射撃〟と高速接近からの冷気を纏った飛び込みと二連斬撃によってとどめを刺された。

 

 それを見計らったか、優花から声がかかる。

 

「終わったならこっちを手伝ってくれない? 予想以上にマナーの悪い上客だわ」

「客はこちらの方ですけどね。対応の悪い店員と言ったところでしょうか」

「どっちでも良いよ!」

 

 この状況に置いて尚も軽口をたたくハジメと優花に、妙子が苦言を呈する。アイディオンはその圧倒的な防御力で大半の攻撃を弾き返し、ハジメ達を押し出そうとしている。死と闘いを求めるヨルハ部隊のスタンスとはいまいち噛み合わないが……その理念とは別に余程愛子を逃したくないらしい。

 

「鴉羽よ……我々の刃になってください」

 

 ハジメが巨大な氷塊をぶつける〝冷華刹那〟でアイディオンを押し戻す事に成功する。単純な火力勝負であり、昇格者の力でこれとなると奈々と妙子はほとんど役に立てない。

 

「厭ですねえ……僕の嫌いな力対力の闘いだ。転移前も転移後も、それほど本質に違いはない。畑山先生が結局、僕の力を求めたことを考えても、力が強いものが勝つ、というのはある種の真理なのかもしれません。認めがたいですが」

「ハジメは反対派なのね」

「感情的には認めがたいですね。僕は学者であり画家ですから。力とは対極の位置にいると言っても過言ではありません。本来であれば、僕は護衛隊のような生徒の味方でありたかった。慈悲は人間の心を持ち、憐憫は人間の顔を持つ。愛は人間の聖なる姿であり、平和は人間の衣装である……しかし、それを実現するには野蛮さと力が要る。ままならないものです」

 

 アイディオンは機銃を撃って来るが、昇格者にとっては雑談をする暇すらもある。この機械は防御面に特化しているようで、攻撃性能はあまり高くないと見える。

 

「やっと、愛ちゃん先生の想いが南雲っちに通じたのかな……」

「諸々の発言を撤回する気は有りませんよ。合理的な理由もなく、僕の、組織の行動を妨害したというのは事実です。僕は彼女の実存に賛同したわけではない。思想の一部が同じだとしても、僕と彼女は交わらない。あまりにも在り方が違い過ぎますから」

 

 籠の中の鳥であり籠そのものである愛子と、籠から飛び出したハジメや優花。その在り方が根本的に違う以上、分かり合えることは無いのだろう。実存は本質に先行する。仮に本質が似通っていたとしても、ハジメと愛子では実存が違い過ぎる。

 

 やがて、アイディオンを機能不全に追い込んだ。完全に破壊する前に引っ込んでしまい、トドメをさせなかったが、まずは愛子を探す事を優先する。

 

 ロックが事前に偵察し、候補地を幾つかマークしていたおかげでほどなくして見つかった。そして、憔悴した様子の愛子を見つける。連れ戻そうとしたハジメ達だが、愛子はひどく抵抗した。

 

「離してください! 私みたいな未熟な教師なんていらないんでしょ!」

「思春期の女子みたいな拗らせ方しないで下さいよ25歳」

「ハジメ、喧嘩売ってんのかしら? こんな醜態晒さないわよ」

「優花はね? 貴方はイレギュラー側でしょうが。僕が言ってんのは僕あてに恋愛ポエム送って来る傷心女のことですよ。顔も知らない相手によくもまあヒスれるもんだと思いましたがね」

「じゃあただの痛々しい妄想女じゃない」

 

 ついでに言うなら自暴自棄具合は一時期の優花と大差無いだろうとハジメは思ったが、口には出さなかった。

因みに、恋愛ポエムについては実話である。ハジメは画家や芸術家としてある程度有名であるのだが、有名税と言う奴か、時折変なものが送りつけられるのだ。香織に危害が加えられなかったのは不幸中の幸いであるが……

 

 なお、その会話は着実に愛子の精神にチクチクとダメージを蓄積していった。奈々が「優花っちも南雲っちも愛ちゃんに追い打ちかけないで!」と言ったが、抵抗する気力すら刈り取ったようで愛子から力が抜けた。

 

「私は……無能なんです……私みたいな教師は……いない方が……」

 

 そして、愛子は叫ぶ。

 

「私は! 貴方達のためにやってるのに! 私を! 私を悪い人みたいに言わないでください! 他の教師みたいに見捨てれば良かったんですか!? 私は……私は良い人に……教師になりたいだけなのに……! 生徒達だって! 私がいなければとっくに戦わされてた! 命が軽んじられるこの世界で! 私だけが生徒を心配してるのに! 私は他の教師のように……私は……!」

「愛ちゃん落ち着いて!」

 

 奈々と妙子が抑え込むが、愛子の狂態は止まらない。そして、それを見たハジメと優花の反応は、

 

「明日の自分に親指立ててぶん投げていいですかね」

「中指立ててぶん投げ返されるわよ。とはいえ、私達から特に言う事無いのよねえ……今そんな猶予ないし」

 

 ということで、昇格者の膂力で愛子を拉致。安全圏まで超速演算で連れ去った。奈々と妙子には、頑張ってついてきてもらった。問題ない。帰る工程は大抵省かれる。そして、息切れしている奈々と妙子を尻目に、ハジメと優花は話し合った。正直、ヨルハ部隊の相手もしなければならないのだが、愛子を放置しておくとまた暴走しそうだったのである。

 

「こんのメンヘラども(ヨルハと愛子)め! それで、現在進行形で暴走しているお嬢様(愛子)についてなんですけども……」

「病理的にはメサイア・コンプレックスかしらね。転移前はもう少し普通だった気がするんだけど。この世界に来てから後天的におかしくなった印象よ」

 

 メサイア・コンプレックスとは、個人が救済者になることを運命づけられているという信念を抱く心の状態を示す言葉である。今回に当て嵌めるなら、愛子は生徒を救う教師である事を運命づけられていると、少なくとも本人は信じている状態なわけである。

 

「私は……貴方達のためにやってるのに……」

「Ooh, Majestic僕らはどうすればいいんだ。教えてくれジョニー」

「ジョニーじゃないけど纏めるわ。治療法はシンプルよ。先生の言う方法で、先生の思った通りに成功すればいいの。私達が」

「なぁるほど。完璧な作戦ですねー。不可能って点を除けばよぉ」

「諦めないでマイケル」

 

 ハジメ、静かに発狂。頭が爆発する気分を味わった。実に良い日だ。優花はハジメが落ち着いてから話を再開する。因みに、愛子は視界に入ってはいるが、声は聞かせていない。話は全て〝通達〟で行っているからだ。

 

「教師って物がトラウマになりそうなんですけど、僕」

「正直私達にできることは何も無いわね。というよりお門違いよ。リリス曰く、先生は楽になりたいがために他人を利用していると言った。否定はできないわ。何故私達の方法が間違っている前提なのか。何故先生の方法が成功する前提なのか。理論と現実が対立した時に何故理論を優先するのか……そういう疑問を全て解決する解として、生徒達を自分の支配下に置きたいとしか思えない」

「カントも言っていましたね……『人間が未成年の状態にあるのは、理性が欠けているのではない。他者の指示を仰がないと自分の理性を使う決意も勇気も持てないからなのだ。つまり、人間は自らの責任において未成年の状態に留まっている事になる』。すなわち畑山教諭は我々生徒を未成年の状態に置きたいわけだ。更には、畑山教諭自身も未成年の状態にある」

 

 ハジメは天を仰ぐ。ハジメ達が自分の人生を生きようとすればするほど、愛子の法に抵触するわけなのだから。解決方法など無いように思える。

 

「貴方……達は……」

「「?」」

 

 何やら愛子が喋り始めた。

 

「貴方達は……心が無いのですか? 何故……無感情に……立っていられるのですか……? どうして……私は……貴方は……ああ……」

「完全に思考回路焼き切れてるじゃないですか」

「焼き切れてるにしても今の発言は聞き捨てならないわね……ハジメは行って。この赤毛のアンは私が相手をするわ」

「お手柔らかに」

 

 ハジメは工場に戻っていった。どのみち、ハジメがここにいて出来る事は愛子にダメージを蓄積することしかない。多少関わりのある優花の方がマシな結果になるだろう。

 

「!?」

「駄目! 優花!」

 

 優花は愛子に……愛子の頭の上に戦輪イエスタデイを投げつけた。どうやら、多少正気に戻ったらしい。この手に限る。

 

「さて、落ち着いたかしら」

 

 優花は愛子に問いかける。自分に心が無いというのならば、お前はそれを持っているのか。清水から借りた漫画に、似たようなセリフがあった事を思い出す。

 

「その脳を喰らえば、私はその心を手に入れられるの? その目をポタージュにすれば、私は貴方が見ている景色を見れるの? その舌を焼いて食べれば、同じ言葉を口にできるの? その心臓を赤いスープに浸せば、先生と同じ心を手に入れられるの?」

「…………」

 

 愛子はそれに返すことができなかった。優花の彼女を見る目が、あまりにも悲しいものだったから。

 

「私にだって心はあるわ。ただ、他人と引き金が違うだけよ。ハジメだってそう。それを私達は心と呼んでる。茫漠たる灰の海で、私達は船と船員を見つけた。ただそれだけで、私達は海賊と呼ばれたの」

 

 周りから理解されなかった時、優花は相応に苦しんだし、何故仲良くできないのかと苦悩もした。そして、苦悩の末に割り切った。それは多くの人を切り捨てる〝寂しい〟考え方なのかもしれない。周囲から見れば、心の無い生き方なのかもしれない。

 

 だが、優花にとってはそれは鎖からの解放だった。それは虚無と呼ばれる人生であろうと、確かにそれは幸福なのだ。

 

 神は優花の、ハジメの生き方を葡萄のように摘み取ろうとする。白鯨と言う使いを出して、飲み込もうとする。既に優花とハジメの片足を食いちぎった白鯨は、貪欲に彼らを求める。それが二人の心を、百本の足を持つ百足に仕立て上げるのだとも知らないで。

 

「私達は黒と白で繋がっている。きっと、白しかない先生たちからすれば理解できない事なんでしょうけれど」

「…………」

 

 やがて、愛子は重く口を開く。彼女も、優花との対話、教師と生徒という立場の対話がこれで終わる事を、感じ取っていた。

 

「私は今でも、園部さん達の生き方は肯定できません……他者を切り捨てて生きる。それは間違いなく、〝寂しい〟生き方ですから」

「…………」

「でも、園部さん達の生き方を真っ向から否定する根拠も、私は持ち合わせていません。園部さんが言ったように、園部さんが私になることはできませんし、逆も然りです」

 

 そして、愛子は一息つく。

 

「今の私には、どちらが正しいのか判断する事はできません。私が魔物の迎撃を頼んだことで、南雲君は更に孤独になってしまいました。それはきっと、私が何かを間違えたからなのでしょう……」

 

 愛子の願いが実行された結果、ハジメは〝孤独な魔王〟へと成り果ててしまった。優花を護衛隊へと入れたは良いが、結果的に優花の孤独を助長しただけだった。愛子が正しいと思っていたことは、全て裏目に出ている。愛子とて成人した大人だ。ここまでの結果が積み重なって、そこから目を逸らす事は出来なかった。

 

愛子の独白を、優花は黙って聞いている。

 

「ですので、私も、園部さん達の言う〝黒〟を受け入れてみようと思います。そのライフスタイルはとても真似できるものではありませんし、肯定できるものではありませんが、見守ることはしようと思います……」

「そう。ありがとう」

 

 優花は目を伏せて、愛子に礼を言った。理解も納得も得られていないが、とりあえず受容はしてもらえた。それで充分だ。

 

 優花自身、これが褒められた生き方ではないだろう事は分かっている。周りに合わせる事をせず、恋人のいる人に恋をして、挙句の果てに教師の言う事すらもないがしろにする。

 

 だが、それが優花の生きる道なのだ。優花が周りに迎合しようとしなかろうと、日は昇り、そして沈む。雨の中で立ち尽くそうと、その中で誰にも気づかれない涙を拭おうと、だ。

 

 狂いそうになりながら周りに合わせるなら、全てを壊したいと思っただろう。だが、優花は偽りの笑顔を浮かべる必要のない場所を見つけた。ピークォド号に乗り込んだ彼女は本当の笑顔で船長にこういうのだ。

 

「愛してます」

 

 と。

 




 はい。まあ、発狂からの立ち直りが早すぎるかもしれませんが、一回キチゲ解放すると案外落ち着いたりしますよね(実体験)。それこそ精神鑑定(物理)で正気に戻るくらいには。

 とりあえず、お互いに不干渉で行きましょう。という決着になりましたね。愛子先生はハジメ達昇格者のスタンスを理解も納得もしていませんが、どうにもできない以上ほっとくしかない。みたいな結論です。

 この先生、何度か話しているかもしれませんが、体格とか性格とか以前に教師としてどうなの? という部分が個人的に目立つんですよね。捻くれた見方をすると生徒の自立を妨害しているようにしか思えない。教師としての熱意は本物だと思いますが、出力される行動がね……まあ、ちょっと誇張した部分もありますけど、原典での行動原理を見ると典型的なメサイア・コンプレックス。威厳のある教師でありたい、生徒の恩師になりたいっていうのはアドラー曰く教育としては失敗してんのよ。

 という諸々の疑問を今回のウル編で描いた形になります。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。