リハビリとして、随分前に投稿した『侵攻スル機械』において、話の流れでカットしてしまった優花VS光輝を書いてみました。
「俺は間違った道に進む君を正さなければいけない。決闘だ!」
優花は呆れたような表情で、自身に剣を向ける天之河光輝を見た。彼の背後を見れば、雫と龍太郎が必死になって止めている。なお、その効果についてはあまり期待していない。優花はカミュの『シーシュポスの神話』を思い出していた。
神を欺いたことで、シーシュポスは神々の怒りを買ってしまい、大きな岩を山頂に押して運ぶという罰を受けた。彼は神々の言い付け通りに岩を運ぶのだが、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちてしまう。同じ動作を何度繰り返しても、結局は同じ結果にしかならないのだった。
きっと、龍太郎は分からないが、雫は幼少期から光輝をこうやって止めてきたのだろう。そして、何度かは上手くいった時があるのかもしれない。しかし、シーシュポスの運んだ岩のように、光輝は何度も麓まで転がり落ちてきたのであろう。そして、結局今の関係に落ち着いてしまったのだ。
優花は溜息をついて答えた。
「決闘に負けた所で私が考えを変えるとも思わないし、決闘したところで他の問題が解決するとも思えないけれど、良いわ、受けてあげる」
「園部さん!?」
「安心して、雫。もう分かってるでしょうけれど、ソイツは一度砕かないと黙らない。私は騒音問題を解決したいだけよ」
どの辺に安心できる要素があるのか分からないが、優花は雫に笑いかけた。
「騒音!? 言うに欠いて騒音だって!? 馬鹿にしているのか!」
「事実よ」
一方、自分の正義の行いを〝騒音〟扱いされた光輝は尚も優花に喰ってかかる。その大声が光輝が〝騒音〟たる証明をしてしまっているのだが、残念ながら本人は気付いていない。
さて、一応合意が成立してしまった以上、二人の戦いを止めるのは不可能である。不安しかない中で、雫は訓練場についていった。
「園部優花! 転移する前からの協調性の無さ! 周りを振り回す傍若無人さ! 挙句の果てに仲間を見下す悪辣さ! もはやこれ以上は看過できない!」
「鏡を見てきたらどう?」
「よって! 俺は君を矯正しなければならない! この決闘に負けたら、その態度を改めてもらう!」
「考えてはあげるわ」
猛る光輝に対して、優花は余裕の表情だ。おまけに、考えを改めるとは明言していない。「考える」と言っただけである。それに気付いているのかいないのか、光輝は怒りの表情で剣を向ける。
なお、観客席はかなり賑わっていた。クラスメイト達を始め、王国の騎士や神官なども来席していた。
「勇者様! その生意気な女を懲らしめて下さい!」
「勇者様! 最強の神の使徒の威光を見せてくれ!」
「勇者様!」
「勇者様!」
「いいぞ天之河!」
「園部! 前々からアンタは気に入らなかったのよ!」
騎士の大半や神官は光輝の方を露骨に応援している。それは一部のクラスメイトも同じであり、勇者としての光輝に期待する者や、純粋に優花が気に入らない者など玉石混交である。
(優花……!)
(優花っち……!)
そんなアウェイな環境下で奈々と妙子を始めとする愛ちゃん護衛隊の面々は固唾を飲んで優花を見守っていた。優花を怖いとは思っていても、彼女は護衛隊の希望でもあるのだ。自分達の安全を確保するためには優花に勝ってもらうほかない。奈々と妙子は純粋に優花が心配なのだろうが。
光輝と優花のステータスは、光輝の方が高い。トータスの常識で言えば、優花が勝つとは考えづらいのだ。
そんな中での優花本人はと言うと、
「……ふふっ」
笑っていた。まるで周りの状況など気にしていないかのような様子で、笑顔を浮かべていたのだ。そして、あろうことか光輝に向かって手を伸ばし、挑発するように指を動かす。
(能書き垂れてないでさっさと来なさいよ)
そんなメッセージが読み取れる動きに、光輝の顔は怒りに染まり、群衆からのブーイングが勢いを増す。光輝は怒りのままに優花に斬りかかる。殺しはしない。少し痛い目に遭ってもらうだけだ。これは謂わば罰である。
しかし、その攻撃は成就しなかった。
「!?」
何故なら光輝が唐突に転んだからである。訳が分からないというように光輝が自分が走って来た背後を見ると、地面に一本のナイフが刺さっていた。瞬間に理解する。光輝は優花の投げたナイフに躓いて転んだのだ。
「卑怯者!」
光輝は立ち上がり叫ぶが、優花は何処吹く風である。そもそも、あの挑発すらもブラフだったのだ。優花は右手に注目を集める事で、左手から注意を逸らした。そして、光輝が走り出すのに合わせて左手からナイフを投擲したのである。
「ええ、卑怯よ。盗賊にやられた事と同じ事をしたのだもの。勇者様には受け入れがたい戦法でしょうね。メルドさんは評価してくれたけれど?」
優花がそう言うと、光輝の表情が青くなった。人間ってこんなに顔色が変わるのね、と、優花が感心していると、光輝が吠える。
「メルドさんが、そんな戦法を評価するわけがない! 嘘を吐くな! 園部優花!」
「本当よ。後で本人に確認してみたら?」
「嘘だ……そんな卑怯なやり方を……メルドさんが……」
譫言のように呟く光輝を前に、優花は戦輪〝イエスタデイ〟に手をかける。
「それで、まだやる気かしら?」
「当然だ! もう手加減しない! 刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け! 〝光刃〟!」
光輝の剣が光り出す。明らかに強化されている。
(威力は高いわよねえ)
そんなものをわざわざ喰らってやる道理はない。優花は横にずれて回避すると、カウンターとしてナイフを投げつけた。光輝は思わずそれを目で追ってしまう。光輝のステータスであれば当たったところで無傷なのだが、或る意味真面目に訓練していた弊害なのかもしれない。
「助かるわ。なまじ見えてしまうばかりに、つい目で追っちゃうのよね」
「しまっ!」
そして、そのナイフに視界を捕らわれてしまった光輝は別方向から飛んできたイエスタデイに対処できない。結果、まともにその攻撃を喰らってしまい、少し吹き飛ばされる。
優花とて、最初から今の強さだったわけではない。愛ちゃん護衛隊として活動する中で〝成長途中〟だった期間は確かに存在し、その間は格上の魔物や盗賊、機械と戦う事もあった。そして、〝格上〟であるからこその弱点というものも確かに存在するのだ。
〝なまじ対処できるが故に全ての攻撃に反応してしまう〟という弱点が。
今回の光輝は諸にその弱点を突かれた形となる。
「俺は、負けるわけにはいかない!」
「今度は何」
「君の攻撃は軽いんだよ! 園部優花!」
光輝はそう叫ぶと、観客席を背後に両手を広げる。
「君は俺には勝てないよ。何故だか分かるか?」
「ステータスが高いからかしら? それとも《投術師》は《勇者》には勝てないとか?」
「ああ、やっぱり君には勝てないな。俺の肩にはトータスの人々の、クラスメイトの期待が! 希望が乗っているんだ! 俺には勝たなければならない理由がある!」
「…………」
「だけど君には何もないじゃないか! 君が戦うのは君一人か、数人の友人のためだけだろう! そこには大義も! 正義もない! だから君の攻撃はこんなにも軽いんだ! そんな君がどうして俺に勝てる!? 何も背負ってない君が! 勝てるわけが無い!」
その光輝の演説に、観客席が沸き立つ。口々に「勇者様!」「勇者様!」と光輝をほめたたえ、光輝はそれに応えるように手を振る。そこには人々の期待に応える勇者と、それを信奉する人々。悍ましい程の連携が取れていた。
なお、それに対する優花の返答は、
「ふーん……じゃあ、この攻撃も効かないんでしょうね」
そう言う彼女の指には幾つもの金属がリングを通してぶら下がっていた。光輝が訝し気に優花の視線を追って足元を見ると、
「!!」
幾つもの手榴弾が転がっていた。近い未来にミレディ戦でも使用される事になるハジメの開発した手榴弾。地球において火薬を爆発させるのに魔法は使われていない。完全に科学を用いた《数学者》の産物である。
その爆発をまともに喰らってしまった光輝は少なくないダメージを負う。更に、優花の手にある鎖が鞭のようにしなり、それに繋がれたイエスタデイが光輝に強烈な一撃を与える。
「これは持論だけれど、この世で最も強いものの一つは物理法則じゃないかしらね。今だってほら、火薬の爆発に、引力、張力、遠心力……すべて物理法則だわ」
この鎖はまだ一度手にした物体を引き寄せる魔法〝引蜘蛛〟を習得していなかった時に補助として使っていたのだが、今のように使えば火力の底上げが出来る。
なお、優花はその後のライセン大峡谷で『お祭りの景品』呼ばわりしていたが、この時のことも思い出していたかもしれない。
なお、優花がこの考えに至ったのはハジメに対する失恋からである。勝負は始まる前に終わっていたのだ。時間という、物理法則によって。香織より前に優花が出会っていれば、少なくともアタックする事は可能だったろうに。
「そんな……はずは……」
煙を上げながら立ち上がる光輝を尻目に、優花は鎖とは別にワイヤーを伸ばして訓練場に置かれた訓練用の武器を引き寄せる。具体的には手斧と槍を。それを腰や背中に固定すると、光輝を改めて見据え、槍を真上に投げた。
「何を!」
「喋りすぎ」
優花は再び手榴弾を投げた。しかし、
「二度も喰らうか!」
光輝もそれを回避する。だが、
「あなたワンパターンなのよ」
優花の方が
優花の持論とは裏腹に物理法則に正面から喧嘩を売るような複雑怪奇な動きで光輝を追い詰める二つの斧。
「万翔羽ばたき、天へと至れ! 〝天翔閃〟!」
既に〝限界突破〟を発動していた光輝は、しゃらくさいとばかりに剣に聖なる光をまとわせてから、振り下ろすことによって そのエネルギーを斬撃として飛ばす〝天翔閃〟で斧を破壊する。
だが、それも優花の読み通りであった。
「ハジメならきっとこう言うわね。然るべき力、然るべき軌道、然るべき座標、それらが完璧に整ったって」
武器を介して魔法を吸収する魔法〝蛇喰〟で〝天翔閃〟を吸収しながら優花は光輝に笑顔で伝える。ハジメの名前が出たことで光輝の顔が歪むが、それよりも頭上から襲来する脅威に反応した。
「っ!」
それは優花が真上に向かって投げた槍。それが《投術師》の力と重力によって加速された状態で光輝に迫る。かろうじて聖剣で防いだが、光輝の腕は痺れてしまった。
「うっぐ!?」
更に、光輝は突然の衝撃に吹っ飛ばされる。見れば、地面に刺さった槍に引っ掛けられた鎖がイエスタデイを振り回して光輝にぶつけたのだった。
光輝は肩で息をしており、度重なる攻撃によって大きく消耗していることは明らかだった。優花がイエスタデイを回収して光輝を見ていると、彼女に石が飛んでくる。
「いくらなんでも横暴だぞ!」
「正々堂々戦いなさいよ! 卑怯者!」
「がんばれー! 勇者様ー!」
それは観客席の群衆だった。大人数で優花に対して石を投げ、野次を飛ばす。
そんな光景を見た光輝は、
「皆……俺は勝つ!
民衆の声に応えて立ち上がる。声援が力になるとでも言うように。だが、優花はというと、
「ありがとう。この期に及んで武器を提供してくれるなんて」
投げられた石を全てキャッチし、ジャグリングしていた。民衆は石を投げるのをやめ、得体のしれないものを見るような目を優花に向ける。
「折角だし、貴方の言う通りに声援を力にしようかしらね。〝襲蜂〟」
優花は跳びあがり、投げられた石を光輝に投げる。〝襲蜂〟という投擲物を増やす魔法を使って。その結果、雨のような数の石が地面を抉るほどの威力で光輝に襲来する事となった。無論、光輝のスペックであれば一つ一つは問題にすらならない。だが、数が多ければ話は別である。頭や手に当たれば致命的な隙となり、行動を阻害されてしまう。
更に、優花はその無軌道な石の雨すらも攻撃に利用する。ナイフを四本投げると、そのナイフは石に跳弾しまくり、光輝に様々な方向から襲い掛かる。もはやこの投擲精度は人間をやめているような気もするが……ついでにかなり滅茶苦茶な物理法則が働いているような気もするが……あまり気にしてはいけない。
「くっ、この!」
防戦一方の光輝にイエスタデイの追撃が迫り、それも防いだと思ったら、
「そんな……」
光輝の目の前には手榴弾が飛んできていた。既に動く体力は使い果たしたのか、まともに喰らってしまう光輝。顔面に爆風を受けた光輝はそのまま気絶してしまう寸前で再び〝天翔閃〟を放とうとするが、
「〝百舌鳥〟」
優花がこっそり鎧の隙間に刺し込んでおいたナイフから更にダメージを与えられ、その衝撃で今度こそ気絶した。
観客席は阿鼻叫喚であり、何人かはホッとした様子を見せてもいる。なお、優花の、光輝曰く悪友達はこの結果を予想していたのか、特に大きな反応は見せていない。鈴だけは大きく息をついていたが。
優花と光輝の決闘はこうして終わりを迎えた。その後の展開は、優花に対する目線が良くも悪くも多少変わったり、雫が優花に慰められたりと、本編に書いた通りである。
とりあえず一言。優花さん強すぎん? ハジメみたく《数学者》でもないのに跳弾や座標戦術を使いこなす投術師。しかも一部を除いて魔法が効かない。相手にしたくないなあ……まあ、これに喧嘩売った光輝君の勇気は評価します。今後の描写のハードルが上がりましたねー。ナイフと戦輪で戦況を巧みに操る優花。この後格を落とさずに書けるか、それが問題だあ。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する