「お待たせ」
「お疲れ様です」
優花は再び工場に戻り、ハジメと合流していた。優花は愛子とのやり取りを説明しながら、ハジメと工場の奥へと向かう。愛子と最も話し合えるのは優花であったことは間違いない。〝普通〟でいられなかった優花と、〝普通〟の側に立つ愛子では立場が真逆である。しかし、だからこそ二人は話をする必要が有った。〝分かり合えない事〟を分かり合うために。
「それもいいですが、大層なお出迎えですよ」
「あら本当」
目の前には先程通路で戦いを繰り広げたアイディオン。そして、いつか樹海で引き分けた首無しの使徒、オレステスが待ち構えていた。アイディオンは歩行形態に移行しており、先程までとは別物である。そして、オレステスは〝オーレオール〟と名前を変え、『星』こと衛星型天使サハクィエルの力によって更に強化されているようだ。
「作戦は?」
「
「了解」
短いやり取りで役割を決め、ハジメと優花が動く。
WARNING アイディオン
WARNING オーレオール
優花は投げたナイフを足場にアイディオンを飛び越え、イエスタデイを投げつける。それを手元に戻し、今度は旋回して投げつけた。同時にナイフを散らしておき、輪を通して四方八方から飛んでくる〝分解〟の羽根を、ナイフを足場に回避する。或る時は綱渡りのように歩き、或る時は背面飛び、或る時はナイフごと動かして位置を移動する。
(〝遊麟〟で弾き返してもいいけれど……ちょっとリスクが高いわね)
昇格者の再生能力に任せて素手で分解の羽根を弾き返すという手もあるし、以前はそうして闘った。が、今では別の手段がある。
「ちょっともったいないけど……ハジメ、またナイフを作ってちょうだい」
「さりげなく仕事が増えた気がしましたが?」
文句を言うハジメは置いておいて、優花はナイフで羽根を撃つ。すると羽根は跳弾して優花を避けるように散らばり、
「!」
更に幾つかはオーレオールに向かう。
「流石に自傷してくれるほど甘くはないみたいね」
あわよくば自分の羽根でダメージを負ってはくれないかと思ったが、そこまで甘くはないらしい。
遠距離攻撃では埒が明かないと判断したか、オーレオールは〝神速〟によって加速し、双大剣による近接戦を挑んで来る。
「惜しいわね」
その斬撃は優花を少しだけ掠めた。すぐさま背後から刺突攻撃が来るが、それは一瞬触れて軌道を逸らした。
「やっぱり素手で触るもんじゃないわね……〝火鼠〟!」
優花はその一瞬の隙をついてナイフに炎を纏わせて弓矢のように放つ技〝火鼠〟によってオーレオールを至近距離から狙撃する。
「こちらも負けてはいられませんね」
一方、ハジメはアイディオンを相手に、マシンガンを改造し連射性に特化させた弓〝リーブラ〟で立ち回っていた。〝アストレイア〟は威力は申し分ないのだが、連射性と機動性には欠ける。その欠点を補ったのが、マシンガンだったゼロスケールを弓に変形させたものだ。
「まあ、まずは派手に一発」
ハジメはアストレイアで大型の矢を放ち、アイディオンの盾を崩す。そして素早くリーブラに持ち替え射撃、アイディオンの機銃を回避して射撃、更に翻って三発矢を放ち、跳躍して斜め下に矢を放ち、最後に引き絞って矢を放つ。
「おっと危ない」
アイディオンがシールドバッシュを仕掛けてくるが、ハジメは回避して、その隙に指を鳴らして〝纏雷・零式〟を使う。〝纏雷〟とは奈落の一層目で狼型の魔物が使っていた技であり、当時は使えなかったが〝重力魔法〟を習得した今ならば疑似的に再現することができる。
ハジメは〝纏雷・零式〟をリーブラと自分自身に付与して再び弓を引き絞る。
「亡霊よ、目を閉じて、安らかに眠れ」
アイディオンが盾で薙ぎ払おうとするが、ハジメは背後に雷速で回避して強力な電撃矢を放つ。更に機銃による掃討も右へ左へと雷速で回避して強力な電撃矢を放ち続けた。
「この矢は、貴方への憐みです」
最後に、ハジメは頭上に向けてアストレイアから矢を放つ。矢が到達した先には〝折鶴〟が雷雲を形成しており、その中に突っ込んだ電撃矢は部屋一体に落雷をもたらした。その落雷はアイディオンだけでなくオーレオールにも及んでおり、雷の持つ速度の性質上分解できずに大きく仰け反っていた。
「良いステアね」
優花はこの好機を逃さずにイエスタデイでオーレオールを両断した。
「I’ll be backはもう要らないわよ」
優花は三度も目の前に立ちふさがった神の使徒を相手に皮肉を言う。ともにリベンジ戦となったアイディオンとオーレオール戦は、このような形で終息となった。
「それで、随分変なのに目を付けられてるわね」
戦闘後、工場を進みながら優花がハジメに言う。確かに妙な連中である。戦争が好きというわけでもなく、ただ死に場所を求めているというのはハジメにも通ずるところであるが、ヨルハ部隊は闘いによる戦死を求めているのだ。自殺方法にしては随分と限定的である。
おまけに、そうかと思えばアイディオンのような無人機や兵器と成り下がった神の使徒まで現れる始末。相手の意図が見えず、本当に亡霊でも宿っているかのような不気味さである。
「で、香織から聞いたけど、最後まで付き合うつもりなんでしょう?」
「まるっきり他人事には思えないですしね。神の国に憧れた愚かしい自己犠牲であろうとも、彼等を解放したいのですよ」
「香織が不安定になるわけだわ……」
優花は溜息を吐いてハジメに向き直った。
「貴方は本来、あんな狂人共に付き合う必要なんて無いのよ。私と香織とユエの三人がかりで現世に繋ぎ止めて、まだ足りないわけ? まるでサナトリウムに滞在したら自分まで体調が悪くなって延々と抜けられないカストルプじゃない!」
「よくトーマス・マンの『魔の山』なんて知ってましたね」
「うるさい。そんなことどうでもいい。重要なのは貴方がもはや病気だってことよ。私は、貴方が死にたがるのは豹がキリマンジャロの山頂で死んでたみたいに何か得体のしれない理由があるのかと思ってた。けど、今はっきり分かったわ。貴方はサナトリウムの空気にあてられて病んだだけの病人。もしかしたらアヘン中毒も併発してるかも。貴方がやるべきことは亡霊の相手じゃなくて、静かな部屋でラジオを聞くことよ」
静かでありながら迫力のある優花の弁舌に、ハジメは面食らう。
「しかし、相手の方から僕をご指名ですからね。受けないわけにも行きません」
「それこそ
ハジメのなけなしの反論も、優花に封殺されてしまった。優花にとって、ハジメは完全にアヘンの使い方を間違えた患者なのだ。アヘンは元々医療用だが、使い方を間違えれば国さえ傾く薬物中毒になる。宗教も、音楽も、酒も経済学も人民のアヘンだが、適切に使えば人生の治療薬になり得る。だが、ハジメはその使い方を間違えたのだ。いまや死と言うアヘンはハジメを蝕む病魔と化している。
「とりあえず、ここまで踏み込んだ以上、後戻りはできないから付き合ってあげる。だから、フューレンに戻ったら私に付き合って。そう簡単に治るとは思わないけれど、僅かでも軽減できれば良いわ」
「…………」
「良いわね?」
「……はい」
ハジメは頷くしかなかった。なし崩し的に優花とのデートの約束を取り付けられてしまったが、ハジメに拒否権は無かった。
段々と文章が短くなっている気が……
備忘録
ハジメの弓:主にパニグレのビアンカ・真理やアリサ・エコーの動きを参考にするつもりです。一撃一撃の攻撃力は銃より上です。
纏雷:原作ハジメの技です。レールガンの要である能力ですが、今作では重力魔法を手に入れたこのタイミングでの披露となりました。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する