人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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魔ノ山―Movement-7

 工場を進んでいくと、一つの大きな部屋があった。広大で天井の高い舞踏室のようにがらんとした広場であり、その気になれば百組のペアがバロックダンスを踊れそうな大広間である。所々壁は錆びついており、年月の経過を思わせる。それがこの空間を暗く引き立てていた。

 

「ご足労、感謝する」

 

 部屋の中央まで歩いた時、ハジメ達の背後から声がした。ハジメは即座に二丁拳銃を抜く。だが、構えない。ハジメは声の主がこちらを攻撃しない事を知っていた。

 その男はそこにいた。人間族の不倶戴天の敵、魔人族。端正な顔の亡霊。ハジメを認めると、亡霊は目を細めて笑った。

 

 部屋の大掛かりな自動扉を前にレイスは立っていた。罠もなく、部下もなく、構えすらない。

 

「作農師には申し訳ないことをした。だが、その甲斐はあったようだ」

「僕一人であれば、きっとそれが無くともここに来ましたよ」

 

 レイスは優花の方を一瞬だけ睨むと、再びハジメに視線を合わせる。香織とは違う女だが、レイスにとっては邪魔者に変わりはなかった。

 

「扉の向こうには部下たちを待機させている。その女が介入できないようにするだけの実力は持ち合わせているぞ」

「それはそれは……何とも楽しいお誘いだ」

 

 レイスは何の前触れもなく二丁拳銃を抜き、ハジメに向けた。ハジメもまた、レイスに銃口を向けている。

 

「お前の目は俺と同じだ。俺や部下と同じく、生存の階段から降りた目だ」

 

 レイスの発砲と共に、地獄が開始した。

 

 

 

 

 

 銃火が二人の中央で閃く。互いに駆け寄ったハジメとレイスは、弾丸を応射し合いながら接近した。レイスの弾丸がハジメのゼロスケールを一丁弾き飛ばす。しかし、ハジメは一瞬で弓に変形させて矢を放つ。天秤がバランスを取るかのように、二人は一丁ずつ銃を弾き飛ばされた。

 

「気分はどうですか。魔人族の亡霊よ」

 

 ハジメは優花から投げられた銃を受け取りながらレイスに尋ねた。

 

「この世のものとは思えぬほど、最高の気分だ」

 

 レイスもまた、飛行ユニットを呼び出しながらそう答えた。

 

 人型の機動形態に変形した飛行ユニットでレイスはハジメに斬りかかる。ハジメはその下を潜りながら背後に回って弓を撃つ。そのまま二発、三発と連射するが、飛行ユニットを巧みに操るレイスは全て躱してゆく。

 

 レイスは飛行ユニットからミサイルの雨をハジメに浴びせる。ハジメもまたゼロスケールで撃ち落としてゆき、その中を錐揉み回転しながら突撃してきたレイスを朱樺による縦回転斬りで斬りつける。

 

(〝嵐雪〟)

 

 機銃の掃射を行うレイスに、ハジメは冷気の竜巻で対抗する。ハジメはそのまま銃から発する冷気で攻撃し、朱樺で二度斬りつけ、冷気の渦を放つ、そこから横薙ぎに一閃し、冷気と斬撃の交差攻撃を加える。

 

 レイスもビームサーベルを構え、突進。

 

(避けるべき方向は……)

 

 突進と同時にビームサーベルを構えた方向を注視する。そして、ハジメは反対側に回避。その判断は正しく、レイスがビームサーベルを構えた方向は焼き払われていた。ハジメはすかさずアストレイアで後隙を狩ろうとするが、読んでいたかのように矢は打ち払われた。

 

 そのまま、今度は高威力のレーザーを飛行ユニットは放つ。だが、それは大きな隙となり、ハジメのアストレイアによる攻撃を許す事となった。

 

「これが俺の求めた世界だ!」

「何故求めたのです?」

 

 レイスの放った対人ミサイルを撃ち落としながらハジメは訊ねる。

 

「お前は何故こちらに来ない?」

 

 しかし、レイスが返したのは質問だった。何故レイスと同じ側にハジメが来ないのか、ただただ不思議なのである。ハジメとてそれは説明できない。香織がいたからなのか、もっと根本的に異世界の住人だからなのか。あるいはその全てなのかもしれない。

 

「さてね……ただ、少なくとも引き留める人がいるのは確かですよ」

「そこの女か。それとも、以前に相対した時にいた女か」

「彼女達もその一人です。彼女達は僕に音楽を届けてくれた。ずっと聞きたかった音を、ずっと求めていた旋律を僕にくれた。まだ奏者としては未熟で、拙い音だと前置きされながらも、僕に音楽を聞かせてくれた」

「その音楽はどうだった」

「言うまでもなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――素晴らしい音楽だった」

 

 これまでに、それほど引き込まれる音楽を聞いた事は無かった。あらゆる音が耳を震わせた。あらゆる旋律が骨を揺らした。優花と香織はどちらも、自分達の未熟さを呪っていた。だがハジメの感想は全くの逆だった。録音していなかった事を後悔するほどには。彼女達の演奏はいつも唐突で、録音機を取り出す暇がない。或いはそれも、意図された物なのか。そして、音楽とは彼女達の生き方そのものでもあった。

 

 脳細胞の一つ一つが、その音楽を聴く前と後では別物に生まれ変わったように感じた。その音楽を知る前と後とでは、世界が全く違ったもののように思えた。

 

 それまでのハジメには生きるか死ぬかしかなかった。病に侵され、同胞たちが死していく中で順番を待つ。その音楽はハジメの目を開かせた。暁に差す陽光がそうするように。

 

 レイスの飛行ユニットが機能を停止し、墜ちる。それと同時にレイスは離脱して、その直後に飛行ユニットは爆散した。

 

「俺は軍人だった」

 

 レイスは軍人だった。自分は軍人であり、祖国を護ること、自分の育った土地で生きる人々のために戦うこと、彼等のために死ぬことが自分の天命であることを疑ったことはなかった。

 

 だが、敵の人間族が死ぬ中で、同胞の魔人族が死ぬ中で、レイス達は生き延び続けてしまった。かつての自分を知る者が敵にも味方にも次々いなくなる中で、レイスの部隊にだけは死神の鎌が逸れ続けた。

 

 最後にはウルという僻地に飛ばされ、或る意味では生きたまま埋葬された。戦地を生き延びた彼等に、生きる場所など存在しなかった。彼等は幽霊であり、死んだ兵士であり、主無き軍隊だった。祖国を護って戦い、死ぬはずだった彼らの命は、誰のためにも使われず、ただくすんで汚れ、地に堕ちて行った。

 

 部隊の中には自殺する者もいた。レイスはそれを止めなかった。止める言葉など有るはずがない。だが、死なない者もいた。彼等は何処までも軍人であり、自ら死ぬことは軍人である事を否定することだった。戦い、傷つき、仲間を失い、それでも立ち上がること。それが、彼らがかつて軍人だったということの意味であり、今も彼等を軍人として駆動させている血液だった。

 

 彼らは戦場を求めた。軍人である事を証明してくれる場所を。何かのために戦い、たとえ死ぬ事になろうとも、自分達が何者であるかを確かに思い出させてくれる場所を。

 

 彼らは戦場を渇望する亡霊となった。

 

 祖国を失い、誇りを失い、ただ敵を求めて闘い続ける、山脈の死霊となった。

 

「神の使徒よ……」

 

 ハジメの銃弾が、レイスの胸を穿った。

 

「最後まで、素晴らしい弾丸だ……」

 

 それが、レイスという老兵の最期だった。

 

 ハジメはただ銃口を向けて、老兵を看取った。それが、最大限の敬意だった。

 

「最後に……一つ伝えておくことがある」

 

 息も絶え絶えに、レイスが喋り出す。

 

「この工場の奥に……街を破壊するための……兵器がある……破壊するかどうかは……好きにしてくればいいが……」

「なるほど。貴重な情報をありがとうございます。トドメは必要ですか?」

「頼む……」

 

 一発の銃声が、部屋の中に響いた。

 




 レイス戦でした。なんと、レイスは実は老兵でした。原作の方だと結構若いとは思うのですがね。ただ、作劇上老兵の方が都合が良かったのでこうしました。老いた老兵と若いハジメが同じ価値観で物を語り合う……ありふれ原作には無い場面ですが、今作のハジメだとこういう展開もあり得るのです。原作の方だと、魔人族に関する掘り下げはあんまりないので、書くのに苦労しましたが……

 そして最後のセリフ……優花とのデートは当分先になりそうですね……

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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