人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 すみません。飽きた。

 という事で、やや無理矢理展開をぶっちぎってます。まあ、原作沿いの物語も進めたかったし結果オーライですかね……



魔ノ山―Fine

 銃声は一発のはずだった。しかし、実際には二発三発と銃声が響いている。

 

「ふふ……あははは……なんて贅沢なんだ」

 

 ハジメがレイスや魔人族の死体を撃ち続ける。その表情は狂気に彩られ、先程までの高潔な死神の面影はもはや無い。そこにあるのは殺意と獣性に満ちた殺人鬼のものだった。

 

 ―――ぱん!

 

 そこに乾いた音が響き、銃声が止む。

 

「死体を無駄に撃っちゃダメ」

 

 それは優花がハジメの頬を叩いた音だった。もう見ていられなかったのである。ウルの街に来てから加速度的に壊れていく愛する人を止められるのであれば、何でも良かった。

 

「ねえ、もう帰りましょう? 何だか、ハジメがどんどん壊れていくみたいで、それを見ているのがつらいわ。ねえ、お願い。死神になんかなったら嫌。どうしてあんな連中に付き合わなきゃならないのよ。一緒に街を歩きましょう? 一緒に音楽を楽しみましょう? 暫くは闘いなんて忘れて……」

「…………」

「ハジメ!」

 

 泣き出しそうな優花を尻目に、ハジメがそれでもと工場の深部に進もうとした時、音もなく肩を掴まれた。

 

「情報提供ありがとうございます。後は私達がやっておくので、南雲さん達は迷宮攻略の方へどうぞ」

 

 掴んだのはリリア―ナだった。正確には分身のリリス。笑顔だが笑っていない曖昧な表情だ。

 

「……お任せいただくというお話だったはずですが」

「気が変わりました。正確には、香織のお願いなんですけどね」

「香織の?」

「貴方が完全に死神に変わってしまう前に、この闘いから引かせるように、と」

 

 リリアーナはつまらなそうに宙に浮き、ハジメを見下ろす。

 

「異なことをおっしゃいますね。この世界において、闘いは避けられない。そして、闘いを行えば行うほど、僕の症状とやらは進行するでしょう。結局は問題の先延ばしに過ぎない」

「貴方の病態についてはよく分かりませんけれど、香織達からすれば、それでも違う部分はあるのでしょう」

「香織にあまりこのような事を言いたくはありませんが……世迷言を言うものだ。僕の病態については僕が最も理解している」

「傲慢なことですね。私の性ではありませんが、恋人の忠告くらい聞いた方が身のためですよ。自分のことは、時に自分自身が最も理解していない、なんてことはよくありますよ。私がいつの間にか、概念魔法を手にしていたように」

「概念……?」

 

 ハジメがリリアーナの言葉に疑問を持った時、足元にリリアーナの作ったポータルが開く。こんな技が使えるのならば愛子達を送る時に使えばよかったのでは? という疑問を思う間もなく、別の事象にハジメは気付く。

 

(回避できない……?)

 

 ハジメは〝超速演算〟を発動させて回避しようとするが、何故か回避できない。仕方なくリリアーナを攻撃しようとしても、何故か攻撃が当たらない。ここでリリアーナを攻撃しようとする時点で、ハジメには暴走の兆候があるのだが、本人は気付いていない。

 

「概念魔法は既に発動済みです。幸運には同量の不運を。レイスを倒せたことは幸運でしたね、南雲さん」

「何……?」

「貴方が敵の将であるレイスを倒したことを幸運だとすれば、私の概念魔法は同量の不運が降りかかると言っているのです。まあ、時間もないので結論のみ教えましょう。貴方は不運な出来事、つまり、私の技を回避できなくなる」

「……!」

 

 ハジメの身体はポータルに飲み込まれてゆく。見れば優花も同じ状況である。しかし、優花は抵抗していない。優花も香織と同じか、とハジメが思っていると、

 

「ご清聴ありがとうございました。続きは香織達とごゆっくり」

「待て……!」

 

 そういう前に、ハジメ達は転移させられた。

 

「尤も、私は運など信じておりませんが」

 

 リリアーナの声が誰もいない工場の部屋に響く。「それにしても」と彼女は独り言ちる。

 

「まさか私に攻撃しようとするとは……思ったよりも病理は深刻かもしれませんね。南雲さんが暴走する前に、頼みましたよ。香織、優花。こんなところで壊れてしまっては困ります」

 

 

 

 

 

「リリス!」

 

 ハジメは叫ぶが、彼等は既に列車メフィストフェレスの側に転移させられていた。ハジメが状況分析を始める前に、香織がハジメに抱き着いてくる。

 

「良かった……コンダクターが、これ以上に壊れる前で……」

「香織?」

 

 香織はハジメから離れると、涙を拭きながら訳を話し始める。

 

「レイスっていう魔人族と戦った時から実は兆候はあったの。コンダクターはあの時、笑ってた」

「…………」

「君が何を考えているのかは分からない。人を殺すのが楽しいのか、同族への憧憬なのか、いずれにせよ、あの時コンダクターが口にした言葉は嘘でもないけど、本当でもない」

 

 確かに、とハジメは思う。レイスと戦っていた時も、ガイストと戦っていた時も、更に言えばミレディと戦っていた時もどことなく精神は不安定だった。狂気にも似た精神の不安定さや残忍性。自身のコントロールが効かないと言っても良いかもしれない。

 

 尤も、ミレディからはエヒトと同じであると評されたが、そこまで精力的にはなれないと思うハジメ。普段の冷静さは人間関係に摩耗した燃え尽き症候群と言ったものに近く、普段は意図的に人を弄ぶような兆候は見られないが、「その人で遊ぶ」と発言したように、何かしらの引き金によってそれは表出するらしい。

 

「……ハジメはレイスのことを〝贅沢〟って言ってたわ。何が贅沢なのかって言ったら、誰かによって死を与えられる事なのよね、きっと」

「面白い見解ではあります。それは確かに僕の衝動だ」

 

 優花がハジメの容態をそう分析する。

 

人生は苦痛であり、人生は恐怖である。だから人間は不幸なのだ。しかし、今では人間は人生を愛している。それは、苦痛と恐怖を愛するからだ。

 

 と、ドストエフスキーは書いたが、ハジメは少なくとも苦痛と恐怖を愛してはいない。生きる意味など本当にあるのかと今でも自問自答するし、死の欲動(タナトス)の誘惑に身を投げそうになることも何度もある。

 

「……かねてより、僕は死を考える事で、濃密で充実した人生を、本当の意味で人間らしく生きることができると思っています」

「…………」

「フロイトは、僕達の自然の一部は文明と相容れない性質を持ち、表に出すのを禁じられていると言いました。文明は僕達の一部を抑圧する事で決して癒えない傷を負わせ、或る種の脆弱性を生む。僕の、このタナトスでさえ」

 

 しかし、ハジメは地球よりも抑圧の弱いトータスという世界に来てしまった。地球にいた時は芸術によって、エスと超自我の対立を穏便に解決できていた。だが、トータスにおいては違うエスの発散方法を見つけてしまった。ハジメの殺意がそのまま肯定される世界というものを、体験してしまった。

 

「言ってしまえば必然ですよ。戦場と言う特殊な環境において、普遍性を要求する方がおかしい。僕は死神を気取っていたが、そろそろ獣に戻る時なのかもしれない」

 

 ハジメはそう締めくくった。香織達はそれに返す言葉が無かった。何故なら香織達は知っているから。ハジメが毎晩のように悪夢に(うな)されていた事を。そして、その内容も。ハジメが夢の中で誰を殺し、それに愉悦を感じていたか。

 

 ハジメはあの夜の殺人に嫌悪を抱いている。それは間違いない。しかし、それは同時に死への誘惑でもあった。魂に直接触れる殺人と言う行為。ハジメの精神は間違いなくそれに快楽を感じてもいた。自身の死。他者の死。それに触れることは、ハジメにとって快楽なのだ。

 

 その衝動が、欲求が、エスが〝敵を殺す〟という大義名分のもとで発散できるのならばそれで良いのかもしれない。とも思った。病棟の惨劇によって歪められたその衝動を、適切な形で生かせるのならば。

 

 だが、それを許すわけにはいかなかった。

 

「ハジメ……それは駄目」

「そうだよ。自らの欲求に従って何かを殺すのは、獣になるのは駄目だよ。それは暗澹たる道。魔王どころか、名前の無い怪物になっちゃう」

 

 ユエと香織が口々にハジメの獣性を否定する。敵を殺すなとは言わない。衝動を消せとも言わない。しかし、その衝動に身を任せるのは受け入れられなかった。それが生きるために必要な行為だとしても。

 

 おそらく、それをハジメ自身も分かってはいるのだろう。だからこそ、毎晩のように苦しんでいる。機械の身体となって、性欲等が減衰した事も関係しているが、膨れ上がる衝動に、どう対処していいか分からないのだ。

 

「それなら、さっき私が言った通りに、音楽や散策を楽しめばいいじゃない。勿論、私達の身体が欲しいならあげるわ。名前の無い怪物になるより、よほどマシよ」

「優花ちゃんの言う通りだね。音を奏でよう。詩を吟じよう。So long lives this, and this gives power to thee.衝動を別の方法で満たす事を考えればいい」

 

 香織がそう言った後、そこに(ティオ)が現れる。彼女の武器である両刃の槍を持っていることから戦闘中であったのだろうが、相変わらず廷の身体にも服にも傷一つついていない。

 

「迂闊であったわ……お主がそこまで深い闇を抱えておったとはな。伴侶にすると言っておきながら、妾の目は節穴であると証明されてしもうた」

「仕方の無いことだと思いますよ。むしろ、会って数日であれだけの洞察をしたのは驚嘆に値します」

「仮に政略結婚と言えど伴侶は伴侶よ。夫の精神の不調を治すのも妻の務めの一つじゃろうて」

「ごめん、ちょっと待って。伴侶って何。政略結婚って?」

 

 廷がハジメに、自身の浅慮を後悔するような言葉を投げかけると、その中の特定のワードを耳聡く聞き取った香織がハジメに詰め寄る。

 その様子を見かねた廷はすぐにフォローに入った。

 

「これこれ、南雲ハジメに罪は無い。妾が結婚という名のビジネスを提案しただけのことよ。尤も、断られてしもうたがな」

「ビジネスって……」

「妾はこれでも一国の姫じゃからの。婚姻もビジネスの一つよ。まあ、お主らにすぐさま受け入れろとは言わぬ。待つのは得意じゃからな」

 

 あまりにもさっぱりとした恋愛観に、香織達は何も言えなくなる。地球、というより現代日本とは圧倒的に価値観が違うのだ。どちらが悪いとも言えない状況であり、そもそもハジメは断っているため、香織としてもこれ以上は責めることができない。

 

「さて、行った行った。こちらの処理は妾達がしておくでな」

「ありがとうございます。ご武運を」

 

 ハジメ達はそう言って、ウィルを伴ってメフィストフェレスに乗り込む。そして、それを動かした後、背後で爆炎が吹きあがったのを感じた。

 




 結構唐突な展開に思えるかもしれませんが、このイベント(死体無駄打ち)自体はどこかでやる予定ではありました。ハジメが壊れていく、というより元々壊れてはいたのですが、地球では芸術によって抑えられていたものがトータスでは抑えが効かなくなった感じです。

 こういう事って本来は氷雪洞窟でやるべきなんでしょうが……まあ、氷雪洞窟では別のものを用意しています。もしくはその時も同じ事言ってるかもしれませんがね。

 本来は工場も何話かかけてしっかり攻略する予定だったのですが、展開がウル編で間延びしているのと、面白いと思える話が書けなくなってしまったのもあり、無理矢理終わらせました。中途半端で申し訳ない。代わりと言っては何ですが、次回は廷視点でNieR:Automataを代表する機械生命体との戦いをお届けします。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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