人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 ラングランスさんが本格的に登場します。

 影の国の名前を変更しました。


影ノ檻

 フリートホーフ壊滅後、ハジメはラングランスを交えて影の中の一室で顔を合わせていた。

 

「ごきげんよう。お久しぶりですわね、ハジメ殿」

 

 その容姿は肌の青白い海人族といった風情で、瞳は赤い。黒い服装に、黒い口紅をしている。その服装は英国かどこかの貴族のようにも、海賊のようにも見え、胸元の赤いコサージュが目立っていた。

 

「ええ、お久しぶりですね、ラングランスさん。通達中も思いましたが、まさか貴女直々に赴くとは」

「他でもない、〝海〟での狼藉ですもの。粛清部隊である私が赴くのは当然ですわ。それも攫われたのが海人族の子供ともあれば」

「貴女は国家元首でしょうに。そんなにフットワーク軽くて良いんですか」

「後継者教育の一環ですわ。いつまでも私が付いているわけには行きませんし、私がいつまでも長である必要は無いでしょう」

 

 なお、部屋は香織が防音結界を張っているので会話の内容が外に漏れる心配はない。ラングランスは足を組み直す。彼女の履くスラックスが衣擦れの音を立てる。それは隙と言うよりも、彼女が歴戦の猛者であることを象徴する音にハジメは思えた。

 

「そういえば、ラングランスさんの部下の方々は何処へ?」

「ここですわ」

 

 ラングランスがそう言って指を鳴らすと、彼女の影が拡がり、その中から黒い軍服に身を包んだ深人族の粛清部隊の兵士たちが現れる。影の中に招待された時もそうだったが、驚くハジメに、ラングランスは少し得意そうに笑った。

 

「私は何処にいても、部下たちの不在に困ることは有りませんわ。トータスのあらゆる場所の影に空間を作り、その中に深人と竜人の国を作りましたの。それを以て、この空間を〝影の国(シャッテンライヒ)〟としたのですわ」

 

 一方その頃、フューレンのギルド長イルワの部屋にも深人族の男が現れていた。

 

「貴方は誰ですか! どこから入ったんですか!」

 

 イルワの秘書であるドットがその男に問うが、男はその問いには答えずに説明を続けた。

 

「目論見は大成功だった。地下ですらない影の中までは神の目すら届かない。やれることは無限にあった。何処かから入ったわけじゃない。俺らは最初からここにいたのさ。影の中で、二千年かけて力を蓄えたんだよ」

 

 それに対し、イルワは答える。

 

「君達は常に足元にいたわけか。ぞっとしない話だね……国と言うからには、軍隊もいるのだろう。それも、街一つくらい簡単に破壊できるような、ね」

「流石、理解が早くて助かるぜ。早い話、教会と影の国(シャッテンライヒ)、どっちを敵に回した方が楽かって話だ」

「決まっている。数万の魔物や機械を殲滅したというゲーテ(ハジメ)君ですら、そして影の国(シャッテンライヒ)とやらすらも天人五衰の一部に過ぎないわけだ。それを敵に回すなんて、ギルド長としても、私個人としても有り得ない判断だ。キャサリン先生が協力するわけだよ……」

 

 そして、その男からラングランスへ連絡が行く。

 

「リーマンからですわね。フューレンは我々に協力してくださるそうですわ。それとアンカジ公国も、ですわね。アンカジ公国の方は少し厄介な問題が起きているようですが……まあ、解決は現地の部隊に任せましょう」

「確かに、自分の影の中に世界を作られていたなどと言うのは、ぞっとしない話ですね。敏腕を以て知られるイルワ支部長も、協力に頷かざるを得ないわけです」

「ええ。優雅な交渉でなくて残念ですけれど、準備に手間がかかった分、楽に事が進んでいきますわね」

 

 なお、影の国の中の兵士達はエヒトが繰り出す真の神の使徒達ともやり合えるレベルの猛者揃いである。ラングランスは兵士達を影に戻すと、ハジメに向き直る。

 

「まあ、これ以前にも、王国の裏から、いえ、影から手を回して色々やっておりましたが……」

「例えば?」

「とある人材を抹殺したり、人事に手を回したりですわね。九龍衆とリリアーナ王女は表から、アトランティスと影の国(シャッテンライヒ)は裏から人間族を蝕んでいたという事です。我々は古代の解放者のような愚は犯しませんわ。仮に神が人間族や魔人族を煽動しても、瞬く間に鎮圧できます」

 

 『鎮圧』とは言っているが、場合によっては殲滅も厭わないであろうことはハジメにも想像がついた。そして、自分達の旅もまた、全て監視されていたという事も。数も質も揃った軍隊で制圧する。なんとも理に適った策である。

 

「それと、フリートホーフに誘拐されていた子供たちは既に影の国にて保護しておりますわ。準備が整い次第、ギルドと連携して対処を決めていきます」

「なるほど、僕達が出る幕は無さそうですね」

「ええ。そして、後は部下たちに任せる事となりそうです。私も貴方達の旅に同行させていただきますわ」

「え?」

 

 唐突にねじ込まれたラングランスの言葉に、ハジメは素で聞き返してしまった。ラングランスは確かに「ハジメ達の旅に同行する」と言ったのだ。

 

「それはまた、どういう風の吹き回しで」

「簡単な話ですわ。貴方はまだ新参者。私が先達としてサポートして差し上げます」

「本音は?」

「監視、ですわね。貴方は異世界からエヒトによって召喚された存在。正直言って、完全には信用できない、という声が影の国(シャッテンライヒ)内部で上がっておりますの。故に、私が同行して監視しようというお話ですわ」

「なるほど、尤もですね。それならば好きなだけ監視してくださいな。旅に花が増えるのは良き事ですし?」

 

 ラングランスは「ん“っ」と咳ばらいをしてから、ハジメの仲間を紹介するように促した。ドアから入って来た香織、ユエ、優花、ミュオソティス、シア、ロック、雫、清水、カイネと自己紹介をしていく。

 

「戦力としては及第点、ですわね」

「それはどうも」

「この戦力で及第点か……深人族、及び影の国(シャッテンライヒ)というのは相当な戦力を抱えているようだな」

 

 カイネの嫌味混じりの称賛にラングランスは「フン」と鼻を鳴らすと、「二千年かけて集め、作った戦力ですわ。そう簡単に上回られたらたまりませんもの」と返した。

 

 すると、雫がおずおずと疑問を口にした。

 

「その……ラングランスさんは、いざとなれば本当に人間族を皆殺しにするつもりなんですか?」

 

 それは確認と言うよりは、そうでなくてほしいという願望のようなものであった。しかし、ラングランスは別段それに心を動かされた様子はない。その疑問にも気怠げなお嬢様口調でただ淡々と答えを返した。

 

「皆殺しにするかは分かりませんが……古の解放者の二の舞にはしませんわ。私は、己の職責を全うしなければなりません。この計画の犠牲者を蔑ろにするような振る舞いは、明確な裏切りに当たりますのよ」

「それは……でも……」

「そもそも、我々深人族は人間から神敵とされています。本来は人間とは敵対関係ですのよ。暴君になりたくはありませんから、言論の自由等々縛るつもりはありませんが、敵対するならそれ相応の手段を取るだけですわ」

 

 ラングランスに人間族に対する慈悲は存在しない。アトランティスや影の国(シャッテンライヒ)に亡命でもして従うならば話は別だが、神とやらに煽動されて敵対する輩に配慮は必要ない。慈悲は義務のように与えられるものではないのだ。

 

「安心なさって? リリアーナ王女のいる手前、穏当な手段で協力を要請していますわ。まあ、人間族を全面的に信用できるかと言われれば疑問ですけれど。それでも昔のように話が通じないわけではなさそうで安心です」

 

 ラングランスは足を組み直して、黒い口紅が塗られた唇を動かす。

 

「それに、洗脳されたところで、裏切られたところで、どうとでも出来ますから」

 

 彼女の目は、光を映していなかった。しかし、直ぐに表情を戻すと、「暗い話はここまでにしましょう」と椅子から立ち上がる。

 

「貴女方、歌は好き? 踊りは? 私と一曲どうかしら?」

「確かに好きですけど、そんなには踊れません……」

 

 香織が代表して答えると、ラングランスは笑みを零した。

 

「問題ありませんわ。私がリードして差し上げます。詩に、歌に、音楽……そういったものを皆様と一緒に語り合いたいですわ」

 

 

 

 

 

「汝、豊かな畑には大麦、小麦、裸麦、蚕豆、豌豆、烏麦、山々には緑の草食む羊の群れ、平らなる牧場には冬の飼葉、堆高き乾草あり、堤は畦溝、畝に添いて走り、雨多き四月は貴方の心のままに麗しく彩らる―――」

「それが、貴女の世界に存在する文学ですのね。雄大な耕作地が目に浮かぶような、素晴らしい表現ですわ」

 

 香織とラングランスが文学についての会話をかれこれ二時間ほど続けていた。今のセリフはシェイクスピアの『テンペスト』からの引用だろうとハジメは思ったが、ハジメとて香織ほどシェイクスピアに詳しいわけではなく、知識の無い状態からついていけるラングランスに対して尊敬の念を覚えた。

 

 そして、香織との文学談義を終えたラングランスはハジメに向き直る。

 

「さて、これからの話をしましょうか、ハジメ殿」

「これから……とは?」

「貴女の希死念慮、そして、それに端を発する殺人衝動のお話ですわ。きっと、貴方に恋慕する女性達も聞いておいたほうがよろしいのではなくて?」

 

 ラングランスはハジメ達に向き直る。

 

「貴方の過去に何があったのかは問いませんし、その殺人衝動や狂気が悪だと断ずるつもりもありませんわ」

「意外ですね。理知的な貴女の事ですから、理性を強く保て、とか言うのかと思いましたよ」

「それも戦場においては貴重な才と言えますわ。少なくとも、犠牲から目を逸らすよりは理性的な判断だと、私は思います」

 

 重い言葉だった。ラングランスは二千年前から神と戦う準備をしてきたと言っていた。その言葉を額面通りに受け取るのであれば、彼女はハジメ以上に死に触れているのだろう。殺人を忌避する事は地球の基準で考えれば美徳には違いないが、戦場においては致命的な隙となりかねない。

 

 美徳が常に善行に繋がるとは限らないのだ。

 

「貴方達を戦場に引きずり込んだ世界の住人の身で、何を言っても響かないかも知れませんが、これだけは言わせて頂きますわ……強くなりなさい。何かを失う事を恐れないくらいに、強くなるのです。そして、自身の狂気を利用できる程に、理性を確立するのですわ」

「理性を確立、ですか……」

「ええ、貴方はその年にしてはかなりの理性と思想を兼ね備えている。それは間違いありません。しかし、この世界で殺人に触れることによって、貴方は狂気に飲み込まれそうになった。狂気を考えずに過ごせるのであれば、それはそれで立派ですが、そういうわけにもいかないでしょう。ならば、負の価値を正の価値に転換させるしかありませんわ」

「……そうですね。こちらの世界でも同じような事を言っていた精神科医がいましたよ。僕はまだ、その段階に至るには遠いようですが」

 

 すると、ラングランスは笑みを浮かべてハジメに言う。

 

「戦場において狂気に呑まれる経験は、普遍的なものですわ。それ自体は特別な事でも何でもありません。重要なのは狂気を理性に変換する事。貴方は重々承知でしょうけれど……」

「その結果、僕が殺人鬼になったとしても?」

「善や悪は相対的なものに過ぎませんわ。たとえ、皆を導く光になれないとしても、闇の本質を導くというのであれば、それはそれで一つの道です。旅の終点は自らの心に尋ねるしかありませんわ。ただ、殺人鬼というのは、人間社会においては少々暮らしづらいとは思いますけど」

「そうはなりたくないものですね……死について考えないというのは不可能ですが、ただの災害にはならないようにいたしましょう。尤も、必要であればその限りではありませんが」

「それはそれは……その時は遠慮なく頼りにさせていただきますわ。人間達は自覚が無いようですけれど、彼等は破滅的な言動を取りがちですもの」

 

 ハジメとラングランスが笑い合い、ハジメの恋人達が何とも言えない表情をしていると、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「おねえちゃーん!」

 

 ラングランスに飛びついてきたのは、フリートホーフに攫われていた海人族の少女だった。

 




 説明回みたいになりましたね。まあ、天人五衰も色々やってます。

 備忘録

 影の国(シャッテンライヒ):

 トータス(主に人間族領)の影に空間魔法で一つの世界を作り、深人族と竜人族が逃れる国とした。深人族は海底、竜人族は大陸外に国を作っているが、人間族の土地の影にも国を作っている事になる。なお、描写されていないが、影の中にある都合上、かなり暗い。地上から影を無くすことなど不可能である他、神の目をごまかせるのが最大のメリットである。
 余談だが、深海は太陽の光が届かないため、基本的に暗い。そのため、影を徐々に広げる事で支配圏を拡大していった経緯がある。アトランティスとレゾンラリティは名前こそ異なっているものの、共に深人族の領地である。
 なお、用途は神に煽動された人間族の殲滅が現実目標となった際の作戦拠点である。駐留している軍隊は真の神の使徒ともやり合えるらしい。また、あくまで統治ではなく戦闘を目的としているためか、亜人族への差別などの地上での出来事にあまり関心はないようだ。
 元ネタも分かる人には分かるかもしれない。

 ラングランス:

 深人族の長だが、今では後任に席を譲ることも考えている。そのためか、ガハルド並みにフットワークが軽く、深人族の長と粛清部隊の隊長の二足の草鞋を履く器用な人物。おそらく影を渡って移動できるため、地上での活動がしやすいのだろう。
 基本的には人格者だが、人間族の殲滅を視野に入れるなど冷酷な側面もある。音楽や文学、芸術に興味があるようだ。年齢は二千オーバー。女性。昇格者。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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