人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 一カ月かかった……


オカアサン

「私の……子供……」

 

 機械の母親、マドラはコドモタチに囲まれて満たされていた。いい子も悪い子も、皆等しく自分の子。体内の中枢で繋がり、感覚と思考が研ぎ澄まされ、絆が形成される。蔓延っていく。移ろっていく。果てない回廊の中、心が理解するまで、何度も流し込めばいい。可哀想な子供たちに、罪は無いのだから。

 

 壊れてしまった機械は、己の所業に気付かずに子供を不幸に陥れてゆく。

 

 痛みの無い身体にしようとして、計り知れない痛みを与えてゆく。

 

 そして、何よりも愛らしい存在の命を奪ってゆく。

 

 

 

 

 

 一方、ラングランスは再び遡及装置で正体不明の〝人形さん〟を探索していた。

 

「熱心ですね」

 

 思わずハジメが呟いた言葉に、ラングランスは顔を向ける。その表情は、やや意外そうにも不愉快そうにも見えた。

 

「……どういう意味ですの?」

「いえ、人間族を滅ぼす事も視野に入れている割には、子供達の救出に熱心だなと思いまして」

 

 ハジメは、本人の意志かは分からないが、やや皮肉気に語気を歪める。ハジメとて、人間族の殲滅が最終手段である事など分かっているし、自身の障害となるならば全てを滅ぼすつもりだが。

 ラングランスのその計画を聞いた時は、勝手に仲間意識のような物を持ってしまったのかもしれない。地獄を共に征く、地上の悪魔を殲滅する同胞として彼女に期待した。

 しかし、ラングランスは言葉とは裏腹に人間族の理になる行動も率先して行い、子供達には慈愛の目を向けていた。一度大人への信頼を打ち砕かれたミュウが懐いてしまうほどに。

 

 だから何だとはハジメ自身思う。ただ、愛子を切り捨てた自分自身を糾弾されているように感じたのかもしれない。いずれにせよ、子供じみた感情であることに変わりはなかった。

 

 香織もそんなハジメを止めようとは思ったが、部下や兵に任せるでもなくラングランス自身が出てくることには疑問があった。

 

 ラングランスは、そんなハジメの感情に気付いてか気付かずか、少し笑顔を向けて言葉を返す。

 

「確かに、私の理念と行動は大いなる矛盾を孕んでいるように、貴方には見えるのかもしれませんわね。私はそれに対して合理的な説明を幾つもできますけれど、きっとそんなことは求めていないでしょう」

「…………」

「なので、私から言えることは一つだけですわ。生きるとは本来、大いに矛盾を孕むものです。貴方の迷いは正常なものではありますが、どちらかに限定してしまう必要はありませんわ。ウルでの出来事は聞き及んでおりますけれど、もう少し開き直っても良うございますわよ」

「そうですかね……」

「少なくとも、教師の下から自立する事と、貴方が誰かを助ける事は矛盾いたしませんわ。それに―――」

 

 ラングランスはやや不服そうに言う。

 

「私にだって子供の犠牲を厭う心はありますのよ」

 

 ハジメはある種の強迫観念に襲われていたのだろう。愛子の言葉を拒絶した以上は、冷酷に生きなければならないと、自分を縛り付けていたのかもしれない。或る意味では、カントの言う通り、他者の指示を仰がなければ自分の理性を使う勇気が持てない状態、即ち、未成年の状態に置いているという事だろう。

 

 対してラングランスは、自分の人生は自分で決めるべきだと言った。言い換えれば、自分自身の理性を使う勇気を持てということになる。これは、当初のハジメが抱いていた革命家のような人生に通ずる部分があった。

 

「……なるほど、僕は自分の精神をいつのまにか、未成年の状態に引き下げていたようですね。ありがとうございます。前を向くことが出来そうです」

「どういたしまして、と言っておきましょうか……それにしても、貴方こそ、随分と手慣れていましたわね。彼等を殺すのに。十二分に冷酷な人生を歩んでいると思いますわよ」

 

 ラングランスは足元に転がる子供たちの死体を見て、意趣返しとばかりに皮肉気に返す。それに対してハジメは、自嘲するように息を吐いて返した。

 

「まあ、〝二度目〟ですから」

「二度目?」

「パニシングに蝕まれて機械となった知人友人を、ね。この手で殺したことがあるだけですよ」

 

 ラングランスはそれを聞くと、少しだけ沈痛な表情を浮かべた後に「軽率な発言、お詫びいたしますわ」と述べた。

 

「良いですよ。僕にとっては、過ぎてしまった終幕に過ぎませんから」

「貴方がそう思っているのならば、これ以上は追求しませんわ。それでも、貴方も貴方で随分と波乱万丈な人生を歩んでいるようですわね」

「そうですねえ……地獄はもぬけの殻だ。全ての悪魔は地上にいる、でしょうか」

 

 唐突なシェイクスピアの引用と言う、異世界人に優しくない総括に首を傾げるラングランスに、香織が補足説明を入れる。

 

「彼はパニシングに感染した事で差別されていたんです。地上の悪魔は私達の世界の文学作品からの引用ですけれど、差別してきた人間達を悪魔と呼んで戦っていたという事です」

「そうですの……常々トータスは碌でもない世界だと思っておりましたが、そちらもそちらで中々苦労しそうですわね」

「ええ、本当に……」

 

 香織は子供たちへの哀悼の曲を演奏し終わると、ハジメの下へと行った。ハジメは見失いかけてはいたが、香織はハジメの哀悼者の側面は好きだった。全ての存在は滅びるようにデザインされている。なればこそ、せめて死が救いとなるように祈るのだ。地上の悪魔は全ての人間の中にいる。それはハジメとて例外ではない。そして、ハジメはその悪魔に呑まれそうになっていた。

 

 ならば、香織はそんなハジメをせめて死神であるように支え続けるのだ。

 

「見つけましたわ。あの〝母親〟が消えた空間の裂け目を」

「……やはりそういう事でしたか。この世界には空間を操る魔法なり、方法があるという事ですね」

 

 ラングランスは手に持つ剣杖、ヘカテを該当の場所に振り下ろす。すると、空間は左右に裂け、異空間への入り口が現れた。

 

「行きましょう」

「ええ。歪み切った保護欲に、哀悼の旋律を」

 

 中は木造の建造物のようで、暗いが温かみすら感じられる内装だった。この空間を作ったのが〝母親〟であれば、手段はどうあれ子供たちへの愛情は本物なのかもしれない。

 

「天使にも似た悪魔ほど、人を迷わすものはない。そんな気配を物凄く感じるよ」

「確かに、内装だけは天国のそれだ。しかし、この奥に待っているものは、地獄でしょう」

 

 ラングランスは何も言わない。しかし、その後ろ姿だけでも子供たちの末路を嘆いているように思えた。

 

 三人が進んでいると、まるで時計のような歯車のような魔法陣を起点に円が描かれ、その中に先程の〝良い子〟と〝悪い子〟達が現れる。

 

「終わらせましょう」

 

 三人はそれぞれ武器を抜き、子供達を掃討していった。せめて、計り知れない痛みを一刻も早く終わらせるために。良い子と悪い子を掃討すると、今度はワンピースを着た少女のような機械が現れた。足は鋭利な刃物やコンパスを彷彿とさせる部品に置き換わっており、右手にはぜんまいの柄のような物を持っている。

 

「ママのいうことを……きく……ママを……まもる」

 

 WARNING   ドティ

 

 ハジメは静かにマシンガン形態に変えたリーブラを構えた。ドティがぜんまいで斬りかかって来るのに合わせ、ハジメはライフル、アストレイアで反撃する。子供に対して容赦の無い反撃だが、容赦した所で解決するものでもない。

 

 ドティは更に無数の針を飛ばしてくるが、ハジメは回避して更に冷気の手榴弾を投げ、

 

「目を閉じて、安らかに眠れ」

 

 アストレイアで反撃する。ドティは倒れるが、何者かに操られるように浮き上がり、ゼンマイの柄が背中に刺さり、そして巻かれる。すると、先程までの人形じみた動きが嘘のように機敏に接近し、超速の足技でハジメを蹴り上げる。

 

「へえ……」

 

 ハジメは演算を加速させてそれを叩き落とすと、銃の間合いまで離脱、ゼロスケールで追撃して香織と入れ替わる。香織は雷とともに飛び掛り、エンドピンで突き刺す〝狂嵐ジュンフォニー〟で攻撃する。だが、ドティには回避されてしまった。

 

「まあ、いったん待ちましょう」

「最低限の判断は出来るようですわね。何よりですわ」

「伊達にここまで生き残ってませんから」

 

 先程のハジメの言葉への意趣返しなのか、ラングランスから嫌味が飛んでくるが、さらりと流す。状況も考えずに子供じみた八つ当たりをしたのは自分自身なので、文句は言わない。

 

 一方、ドティは瞬間移動を繰り返し、最後に踵落としを繰り出してくる。香織はその攻撃を弾き返し、その隙にラングランスが両手剣形態に変形したヘカテで一閃。それでもドティは倒れず、ブレイクダンスのような足技を繰り出してくる。

 

「まだ痛みますか?」

 

 ハジメはそう言いながら連続で弾丸を放つ。この言葉は絶えぬ痛みに生きる機械と化した子供に対する憐みの言葉だ。せめて、一刻も早く死という救いを与えなければならない。

 

「なるべく、苦しませずに殺したいのですがね」

 

 ハジメが朱樺による縦回転斬りを喰らわせる。

 

「しかし、出来ない以上は地道に攻撃していくしかありませんわ」

 

 ハジメが離脱すると、ラングランスは両手剣で斬りかかる。

 

「オーバーチュアはここまで、ライトモティーフを奏でよう」

 

 香織も遠隔で音波による攻撃を行う。

 

 これらの攻撃によって、ようやくドティはその生命を停止させる。憐れな子供がまた一人、目の前でこと切れた。

 

「ママ……ママ……」

 

 最後の力で、ドティは母親のことを呼ぶ。彼女にとっての母親とは、生みの親か、それとも自らを怪物へと変えた創造主の事か。

 

 そんな憐れなドティを踏みつけて現れたのが、

 

「私の……子供……」

 

 子供たちが母と慕う者、特異型機械体〝マドラ〟だ。

 

 WARNING   特異型機械体・マドラ

 

 先に攻撃してきたのはクラシカルメイドのような機械体〝マドラ〟だった。間違いない此奴が子ども達を改造していた元凶である。マドラは教鞭のような武器を構え、こちらに襲い掛かって来た。

 

 ラングランスはその攻撃をヘカテで弾き、ハジメ達に警告を飛ばす。

 

「気を付けなさい。この海流は脆弱な生命を飲み込みますわ」

「言われずとも」

 

 ハジメはマドラにゼロスケールを連射しながら答える。前衛では香織がマドラと剣戟を交わし合っていた。〝破軍のマーチ〟で音波の斬撃の連続攻撃を加え、上段を一閃し、細剣を上から振り下ろし、三連撃を加える。

 

 マドラも刺突攻撃を行い、それを香織が受け流す形で攻撃はラングランスに移る。マドラはまるで躾をするかのように教鞭で攻撃を繰り返す。それを、ラングランスは逆手に持った剣杖で弾き続ける。

 

「私の……子供達……」

「対話は、既に不可能みたいだね」

 

 香織が細剣を構えながら呟く。襲って来る以上、対話する心算が無いというのもあるが、「子供……私の……」と呟くばかりで、こちらの言葉に返事をしないのだ。

 

 マドラは〝いい子〟と〝悪い子〟を召喚した。しかし、即座にハジメが銃撃で撃ち抜いていく。

 

「目を閉じて、安らかに眠れ」

 

 改造された子供たちへの、心からの追悼。目の前の敵性体の数は、そのままハジメ達が救えなかった命の数だ。ハジメもラングランスも、万能でも全能でもない。目の前の惨状はそれを如実に表していた。

 今できる事は、せめて一刻も早く子供たちの苦痛を終わらせる事。そして、マドラという怪物を討伐する事だけだ。

 

ハジメは折鶴でフィールドを作り、そこに銃弾を潜らせる事で銃弾を冷気で包み強化する。飛んで行く大きな銃弾による強撃でマドラがよろめくと、ハジメは畳みかけるように接近して銃撃、さらに銃を真上に投擲し、折鶴を介して銃弾の装填をすると飛び上がって真下の敵に連射、更に着地点に投擲して再度装填すると瞬間移動と見紛うような高速移動を繰り返しながら連射し、最後に折鶴を使って高く飛びあがり、〝重合爆発〟によって敵を掃討した。

 

 折鶴と、新たに開発したリボルバー型拳銃〝イラディエイト・アイ〟によって可能となった細やかな動きでマドラを追い詰めてゆく。

 

 イラディエイト・アイは今までのマシンガンと違い、より多彩な状況に対応できるように開発したリボルバー型の拳銃である。折鶴との連携により立体的な動きやスムーズな銃弾の装填が可能になっている。

 

 今まで折鶴や死神の手(ミュオソティスにも使われているアームと折鶴の組み合わせであり、即席で作った間に合わせのものだった)など、様々な兵器を開発してきたハジメだが、連撃や広範囲攻撃などは可能になったものの、最近は白兵戦における動きにやや不便さを感じる事があった。そこで「オーソドックスな拳銃を作ってみるか」と作ったのがイラディエイト・アイである。また、自動式と違って弾が詰まる可能性の低い構造であることも利点だ。

 ゼロスケールとの使い分けが難しいところだが、まあ、ここばかりはハジメの腕の見せ所である。まあ、少々情けないが、ゼロスケールが詰まった時の代用としても使えない事は無い……

 

 閑話休題

 

 追い詰められたマドラは、地面に手をつき教鞭で自分の身体を支える。

 

「許さない……許さないわ!」

 

 そして、ハジメ達に叫ぶと教鞭を自分自身に刺し、浮かび上がる。天井の巨大な扇風機の回転と共に電流を纏い、更には人型としての体裁をかなぐりすてるかのようにスペアの腕を自身に接続し六本腕の怪物となった。

 

「許さない、ね……」

 

 領域を侵したことに対してなのか、子供達を殺したことに対してなのか。その発言の意図は本人のみぞ知る。しかし、ハジメ達は元から許しを得るつもりはない。それを得るには、業を背負い過ぎた。

 

 マドラは電流の槍を投げてくる。ハジメはそれを首の動きだけで躱すとお返しとばかりに銃を撃つ。マドラは地面を這うように動き、そのまま飛び掛かってくるが、全員が回避する。マドラが着地した地点には電流が走った。

 

 マドラはそこから素早く壁を這い回り、再び電流を纏った飛び掛かりをしてくる。こうして見ると、人と言うより機械と言うより、蜘蛛になりそこなった怪物のようだ。尤も、生み出した子に喰われる事は無かったようだが。

 

 マドラは電流と共に手を叩きつけながらハジメ達に迫る。予備動作が見え見えなので攻撃に当たる事は無かったが、直後に放たれる高速の電流はハジメに〝超速演算〟を使わせるほどに早い。更に、隙を潰すように高速で接近してきた。

 

(攻撃自体は単純ですが、予備動作が少ない)

 

 ハジメはマドラの動きをそう分析した。しかし、自分が付いていけないほどではなく、ハジメからすれば緩慢とすら言える。

 

「ふっ」

 

 ラングランスがヘカテを投擲し、隙を作って接近、ヘカテを回収して斬りかかる。香織も入れ替わるようにワルドマイスターのエンドピンによる攻撃を加える。ワルドマイスターの本体を地面に突き立て、斬りつけると、そこから超音波メスのような音波の攻撃が飛ぶ。マドラは負けじと手を振り下ろしてくるが、それはハジメの銃撃で不発に終わる。

 

 そして、最後はラングランスが飛び掛かり、ヘカテを地面ごと突き刺して戦闘は終了した。

 

「私は貴方を倒す事は出来ても非難する事は出来ない。何故なら、私に非道を非難する資格はとうに失われてしまったのですから」

 

 闘いの後に、ラングランスは沈痛そうに呟く。それを、ハジメと香織の耳はしっかりと聞き取っていた。

 




 思った以上にハジメが子供っぽくなってしまった。まあ、愛子先生の言葉には(方向性はどうあれ)悩んではいました。自分は冷酷に振舞った方が良いのではないかと言う懸念もありましたしね。
 そして、それに対して怒るでもなく冷静に返してくるラングランスさん。普通に人間が出来てると思う。愛子先生の時にこの人がいたらまた違ったんかなあ……今言っても栓無き事ですけどね。とはいえ、神に挑む以上は手段を選ばない一面もあります。人間族殲滅を視野に入れていたりね。まあ、リリアーナがいる以上、あくまで最終手段でしょうけど。他にもマドラの事を非難できないと言っていたり、まだ何か裏がある様子。

 備忘録

 ドティ:パニグレのサブストーリー『物言わぬ庭』に登場した敵。ゼンマイを武器に襲い掛かって来る少女の人形。マドラの事を〝ママ〟と呼び、指令を厳しく実行している。

 マドラ:パニグレのサブストーリー『物言わぬ庭』に登場したボス。公式の情報によると、少なくともドティの違法改造を施したのはコイツらしい。今作では子供たちを生きたまま改造するという悪逆非道を成した。

 イラディエイト・アイ:パニグレのバンジ・明晰夢の星六武器。リボルバー拳銃がここにきて登場。蛇足かとも思ったが、ゼロスケールでは対処できない細かい状況に折鶴と併用して対処するということでゴリ押し。後は作者がこの数の武器を使いこなせるのかどうかにかかっている。極論、気分で使い分けてもいいような気はするが……

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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