人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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迷宮ノ闘イ

 カトレアは少し周りを見回すと、溜息と共に光輝達に話しかける。目隠しのようなゴーグルをしているせいで目元は見えないが、冷ややかな目をしていることは明らかだった。

 

「勇者はアンタで良いんだよね? そこのアホみたいにキラキラした鎧を着たアンタで」

「あ、アホ……う、煩い! 魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ! それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

  あまりと言えばあまりな物言いに軽くキレた光輝が、その勢いで驚愕から立ち直って魔人族の女に目的を問いただした。

 

「迷宮に攻略以外の目的で来る奴がいるかい……ああ、アンタらは違うんだっけ? まあ、いいや。どうでも。あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応言っておく。アンタ、あたし達に殺されるみたいだよ」

「こ、殺す……!? どういう意味だ!」

「言葉通りの意味だよ。あたし等はまあ、脱走兵みたいなもんでね? 逃げ場所を探してるんだけど、それを用意してくれるっていう奴が現れたのさ。そして、その条件が……」

「勇者である貴様の命だそうだ」

 

 カトレアはせせら笑いながら光輝に問いかける。

 

「あの女は見たところ魔人族の奴じゃない。あたしの記憶が正しければ、魔人族の陣営にあんな奴はいないよ。その年で人間族側から殺害依頼を出されるなんて、いったいどんな恨みを買ったんだい? 勇者」

 

 依頼を出した女が人間族側かどうかは、カトレアには分からない。ただ、仮面をしていたとはいえ外見は明らかに人間だったのと、天人五衰や影の国を知らない彼女達からすれば、魔人族側でないならば人間側だろうという思い込みも多少はある。後は、勇者陣営の動揺を多少誘えればそれでいいという思いもあった。

 

 いずれにせよ、光輝はその言葉に激昂する事になる。

 

「人間族に……仲間達に……王国の人達に……裏切り者がいるなんて、そんな悪し様によく言えたものだな! やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ! わざわざ俺を倒しに来たようだが、たった二人でやって来るなんて愚かだったな! 多勢に無勢だ。投降しろ!」

「おお怖い。でもまあ、殺したい奴がいるのは今の発言で納得かねえ。政治利用するにも邪魔で仕方ないだろうし? とはいえ、現時点における信用度はアンタもあの女も大して変わらない。もしあたし達を逃がしてくれるってんなら、投降するけど?」

 

 カトレアの言葉に、光輝は迷う。しかし、血が流れないというならばそれに越したことはない。その間に遠藤がカトレアに答えようとする。しかし、それよりも前に光輝が答えてしまった。

 

「分かった。()()()()()()()便()()()()()()()()()()()()()。大丈夫だ。きっと話せばわかってくれる……」

 

 その言葉と共に遠藤は舌打ちし、カトレアは笑い出した。ミハイルは相変わらず憮然としている。

 

「はぁーー、可笑しい」

「な!? 一体何がおかしいって言うんだ!?」

「実に模範的な、優等生的回答をありがとう。おかげでアンタ達と話をする気が無くなったよ」

「何故だ!?」

「俺達は戦争をしているのだぞ? 敵国の兵士が脱走してきたと聞いて、はいそうですかと受け入れてくれるわけが無かろう。それに、お前達人間族による魔人族の扱いはよく分かっている」

「良くて投獄、悪けりゃ拷問の末に処刑……或いは魔人族との闘いの最前線にでも駆り出されるかね」

 

 ミハイルとカトレアの言葉に、光輝の顔は再び憤怒に染まる。

 

「あくまで王国の人たちを悪し様に言う気か!」

「これが現実だよ。異世界から来たって聞いたけど、坊ちゃん達の世界は随分と平和だったんだねえ」

「嘘だ! やはりお前達は邪悪な存在だな!」

「それならばどうする? 殺すか?」

「捕虜にする! お前達が改心するように!」

「話にならんな」

「もう話す事は無いさ、ミハイル。私達の方針は決まったんだからね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

 カトレアが三つの名前を呼ぶのと、ゴンッという音と共に何かが鈴の展開した結界に衝突するのは同時だった。

 

「やけに話が長いと思ってたけど……やっぱり時間稼ぎだったみたいだね」

「話が長いのは、仕方ないだろ。話す事が多かったんだ。まあ、いつでも殺せるように魔物を展開していたのは否定しないけどねえ!」

「そこまで用意周到なら、これも予測済みかな? 〝閃光〟!」

 

 鈴は結界をバースト型のものに変え、襲撃してきた魔物達を切り刻む。それによって現れた姿は、ライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物だった。命名するならやはりキメラだ。おそらく、迷彩の固有魔法を持っているのだろう。姿だけでなく気配も消せるのは相当厄介な能力ではあるが、行動中は完全には力を発揮出来ないようで、空間が揺らめいてしまうという欠点があるのは不幸中の幸いだ。

 

「これなら遠藤君の方が対処しにくいよねえ」

「中村、それは褒めてんのか? それとも喧嘩売ってんのか?」

「どっちだと思う?」

「どっちでもいい。それよりも早くコイツ等を片付けるぞ」

 

 空気とでも同化しているのかと思うほどに気配の無い遠藤を恵里が揶揄う。その間に、遠藤はナイフでキメラたちの首を切り裂いた。恐るべき早業であり、これにはカトレアも口笛を吹く。

 

「やるねえ。魔物が駄目なら、機械はどうだい?」

 

 カトレアがそう言うと、球体に手足を生やしたような機械生命体『ポッパー』五体と、身長二メートルほどで両腕がブレードになっている機械生命体『ヤスパース』を二体繰り出した。

 

「そっちは鈴が相手するよん」

 

 鈴は結界で作った五つの立方体を弾丸のようにポッパーに飛ばす。そして、ポッパーが仰け反ったところでチェーンソーで一刀両断。こちらも、足に車輪でもついているのかと疑いたくなる速さで移動している。

 

 更に、鈴は前宙してヤスパースにチェーンソーで斬りかかる。ヤスパースは両腕をクロスして防御し、なんとか鈴を跳ねのけると、両腕のブレードで斬りかかって来る。しかし、鈴はそれをいなし、一瞬の隙を突いてチェーンソーを突き刺す。そして、胴体から肩にかけて切り上げた。

 

 もう一体のヤスパースが鈴に攻撃しようとするが、遠藤が投げたコインからレーザーを放ち、攻撃を阻害する。更に、恵里が従えた異合火力ユニット『エータ』にマシンガンを連射させる。更にディムマトリックスを撃ち込む事でもう一体のヤスパースも沈黙した。

 

「お、思ったよりやるじゃないか……」

「狼狽えるな、カトレア。勝機が全くないわけではない」

 

 ミハイルの言う通り、現時点での戦力は拮抗している。恵里、鈴、遠藤、光輝、龍太郎の奮闘により、魔物は倒れ、機械は壊されてゆく。

 

 そこまで戦況が進んだところで、永山グループの面々も戦闘に入り始める。永山が近接戦闘を行い、土術師の野村が石の槍で攻撃兼妨害をする。女性陣二人もそれぞれの役割を全うしていた。

 

だが、

 

「惜しいな。お前達は確かに強い。しかし、お前達はその戦闘力を完成させるだけでなく、仲間の誰もがそうなれるように洗練するべきだった」

「……何が言いたい?」

「そうすれば、お前達の仲間は一方的な処刑ではなく、せめて闘いの中で死ぬことができただろう」

「あ?」

 

 ミハイルの言葉に、遠藤が背後を振り返ると、

 

「「ルゥガァアアア!!」」

「グゥルゥオオオ!!」

 

 三つの影が咆哮を上げながら戦っている光輝達へと襲いかかった。

 

 「「ッ!?」」

 

 突然の事態に光輝と龍太郎の背筋を悪寒が襲う。二体の影は、それぞれ光輝と龍太郎に猛烈な勢いで突進すると、手に持った金属のメイスを豪速をもって振り抜いた。

 

 咄嗟に、光輝は剣の遠心力を利用して身を捻り、龍太郎は突き出した右手の代わりに引き絞った左腕をカチ上げて眼前まで迫っていたメイスを弾く。光輝はバランスを崩し地面をゴロゴロと転がり、龍太郎は、メイスを弾いた後の敵の拳撃による二撃目を受けて吹き飛ばされた。

 

 光輝と龍太郎に不意を打ったのは、体長二メートル半程の見た目はブルタールに近い魔物だった。しかし、いわゆるオークやオーガと言われるRPGの魔物と同様に、ブルタールが豚のような体型であるのに対して、その魔物は随分とスマートな体型だ。まさに、ブルタールの体を極限まで鍛え直し引き絞ったような体型である。実際、先程の不意打ちからしても、膂力・移動速度共に、ブルタールの比ではなかった。

 

「…………」

 

 遠藤は助け舟という事で、コイン型アーティファクト〝ザミエル〟を複数枚投げ、爆発させる。ブルタールもどきは大きく体勢を崩し、鈴の立方体によって身体を貫かれた。

 

「ミハイル、一方的な処刑ってのは少し言い過ぎじゃないかい? あのコイン……アブソドの魔力吸収が効かない。あの弾丸みたいな結界もね。思ったより厄介だよ」

「そうだな……やはり、俺達が出るしか無いようだ」

 

 カトレアとミハイルはそれぞれ武器を取った。カトレアは片手剣と大剣のブレード二本、ミハイルはブレードと銃が組み合わさった複合武器だった。更に、二人の背後には随行支援ユニットであるポッドがそれぞれ浮かんでいる。

 

「では、行こうか、カトレア」

「そうだね。ミハイル」

 

 ミハイルは複合武器を回転をかけて投げつけ、二度斬りつけ、武器から分離させた銃で銃撃し、再度合体させブレードで横薙ぎする。遠藤はそれら全てを回避し、ミハイルに迫るが、攻撃の直前に距離を取った。すると、謎のエネルギー体による衝撃が遠藤のいた地面を穿つ。

 

 ミハイルの持つポッドプログラム〝ハンマー〟だった。魔法で作ったハンマー状の攻撃を叩きつけるという、単純ながら威力が高いものである。

 

「ほう、よく避けたな」

「勘だ。と言ってもいいが、仲間内に性格の悪い奴がいるものでね」

 

 恵里のことである。仲間内で修行をしている時に、デルタディセントで罠を張られ、攻撃を喰らった事があるのだ。そうでなくとも、対人間であれば二段構えの攻撃くらいは警戒するというもの。

 

 恵里と鈴も、二人がかりでカトレアと戦っている。カトレアは高速で片手剣を振り回し、更に大剣で回転攻撃を行う。

 

 しかし、鈴は結界を使って受け流し、更に自身の身長ほどもある巨大な立方体をカトレアに飛ばす。更に、恵里は回転する三角形の魔法〝スピニングダスク〟で追い打ち。だが、カトレアの方もそれらを回避する。

 

(一瞬、分身した?)

 

 カトレアの身体が一瞬分身したかのように思えたが、その実、ただ回避しただけである。

 

「随分と派手に避けるんだね」

「派手かい? まあ、そんな恐ろしい武器を持ってたら派手にもなるさ。それよりも、いいのかい? 私らだけに構ってて。お仲間が魔物に襲われてるよ」

「心配いらないよ」

 

 恵里はザミエルを取り出すと、他の召喚組のいる場所に放り投げ、爆破させる。あっけにとられるカトレアに対して、鈴は得意げに語る。

 

「ザミエルはただの兵器だからね。使えるのは遠藤君だけじゃないんだよ」

「ふざけた代物だとは思ってたけど、厄介にも程があるじゃないか……」

 

 そう。ザミエルは兵器である。一人しか使えない個人の魔法などではなく、方法さえ学び、練習すればだれでも使える兵器なのだ。その事実がカトレアの心胆を寒からしめる。もし、人間族が魔物や機械を従えた上で、持たせた籠か何かに入れたザミエルを大量投下されたら……

 

 カトレアはその嫌な想像を必死で振り払った。とにもかくにも、今は目の前の敵に集中するべきである。

 

「遠藤君!」

「っ!?」

 

 鈴が遠藤に呼びかけると、遠藤は頷き返し、三人でザミエルによる煙幕を張る。そして、カトレアとミハイルにレーザーが飛んできて煙幕が晴れたかと思えば、遠藤と恵里、鈴の位置が入れ替わっていた。

 

 二人は三人の戦術の変更への対処にやや遅れる。

 

「清水じゃねえが、チェックメイトだ」

「甘い」

 

 カトレアは遠藤の必殺の攻撃をくらいそうになるが、ミハイルが魔物を向かわせ、事なきを得る。

 

「先に逝く事を覚悟した……感謝するよ、ミハイル」

「礼はいい。来るぞ」

 

 自分に向かってきた魔物を切り刻んで戦線復帰する遠藤。チェーンソーを構える鈴。そして、ファイ、カイ、ゼータ、エータ、シータを周りにそろえる恵里。魔人族を含めた五人が戦闘の仕切り直しをする横で、光輝が何かを考える。

 

 そして、

 

「皆! 争うのはやめるんだ!」

 

 五人の間に入り込み、そんな宣言をするのだった。それも、どちらかと言えば魔人族ではなく、遠藤達に相対するように立っている。

 

「……どういうつもりだ。天之河」

「どういうつもりも何も無い。恵里、鈴、遠藤、お前達は()()過ちを犯すところだったんだぞ!」

「はぁ?」

 

 恵里が本気で何を言っているか分からないという声を出すと、光輝は表情を歪めながら声を張り上げる。

 

「いいか。魔人族は俺達と同じ〝人〟なんだ!」

 

 そう、光輝にとって、魔人族や深人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた。自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな戦っている〝人〟だとは思っていなかったのである。あるいは、無意識にそう思わないようにしていたのか……

 

 その認識が、カトレアの愛しそうな表情で愛する人の名を呼ぶ声により覆された。否応なく、自分が今、手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ〝人〟だと気がついてしまった。自分のしようとしていることが〝人殺し〟であると認識してしまったのだ。

 

「お前分かってんのか? その行動はお前の大好きな王国を裏切る事だってよ」

「〝人〟なら話し合うべきだ! 何故それが分からない!」

「話し合いでどうにもなんねえから、こうなってるわけだが?」

 

 それを聞いた魔人族の面々は、

 

「アッハハハハハハハハ!」

「……まさか、俺達を人とすら認めていなかったとはな」

 

 カトレアは笑い出し、ミハイルはその仏頂面を更に深めた。そして、カトレアは光輝に斬りかかる。

 

「な、どうして!?」

「つくづく自覚の無い坊ちゃんだ。私達は戦争をしてんだよ! 脱走兵の分際でこんな説教垂れるのも馬鹿馬鹿しいけどねえ!」

「未熟な精神に強大な力……か。殺害依頼を出されるのにも納得だ。お前は危険すぎる。必ずや俺達の、そして魔人族の障害になるだろう。何としてでもここで死んでもらうぞ、勇者!」

 

 光輝は〝限界突破〟を継続させながら闘う。タイムリミットが近いが、光輝が魔人族の二人に対抗するにはこうするしかない。

 

「っ!?」

 

 だが、そんなカトレアの背後に遠藤がナイフを持って回る。

 

「忘れるなよ。寂しいじゃねえか」

「生憎と、こっちはお前に思い入れなんかないよ!」

 

 カトレアは遠藤の攻撃を例の残像回避で避けると、遠藤を蹴りで遠ざけようとする。しかし、

 

「おいおい、らしくねえな。さっきと違って、動きが素直すぎるぜ」

「ぐ……」

 

 遠藤はカトレアの足を手で受け止めると、彼女の足にナイフを振り下ろす。深々と刺さるナイフに、絶叫するカトレア。そのまま遠藤がとどめを刺そうとする。だが、

 

「駄目だ遠藤!」

「クソ、無駄に強さだけはしっかりしてやがる」

 

 しかし、それも光輝に邪魔されてしまう。光輝は遠藤に飛び掛かると、遠藤は光輝を押しのける。

 

「何故だ! 何故話し合おうとしないんだ!」

「この期に及んで話し合いかよ……」

「全くだ……アハトド! 暗殺者の男を狙え!」

 

 アハトドは馬頭鬼のような魔物で、唯でさえ強力な魔物達ですら及ばない一線を画した化け物だ。〝限界突破〟発動中の光輝が圧倒された相手なのである。

 

(切り札を使うしかないか……)

 

 遠藤が魔人族とアハトドを屠るための技を出そうとした時……

 

 ズシャ!

 

 突如として、アハトドの身体が不可視の攻撃に切り裂かれる。そして、その方向の暗闇から現れたのは、

 

「か、おり?」

 

 光輝の言葉通り、あの日セイレーンとなって奈落の底に消えた白崎香織だった。

 




 ちょっと遠藤達を強くし過ぎたかも知んない……原作通りのようでそうではない展開なので、調整に苦労しました。

 因みに、リリアーナの狙いは次回以降に。何故、ウルから戦線離脱させてまでハジメ達を呼び寄せたのか。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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