人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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天使タチノ襲撃

「か、おり?」

 

 暗闇から現れた白崎香織に、その場にいた者は様々な反応を示す。あるものは驚愕を、あるものは懐疑を。そして、更に暗闇から現れる者達がいた。園部優花、八重樫雫、清水幸利、そして、

 

(全く……リリスの〝一人遊び(ソリティア)〟も困ったものです。この演劇は、果たしてどんな終幕を演出するためのものなのか……)

 

 南雲ハジメだった。尤も、服装も体格も顔も髪も違う彼のことを初見で気付けた人間は皆無であったが。そんなハジメがリリスの、いまいち意図が見えない策略を内心でぼやきながらも影の中から歩み出ると、辺りを睥睨する。

 

 善戦している友人である恵里、鈴、遠藤とそれなりにボロボロなその他のクラスメイト達、そして、正面に相対する魔人族の二人。

 

『貴方達には『幸運』を演出していただきたいのです。勇者が魔人族に勝つ、もしくは生き残るという幸運を』

 

 影の道を通る前にリリスに言われた事を思い出す。そもそも、クラスメイト達が魔人族に苦戦しているらしいことはリリスから聞いた情報だ。その情報通りにラングランスに頼み、影の道をオルクス大迷宮の内部まで案内してもらった。

 

「ハジメ」

「分かっていますよ、優花。もう二度と、狂気には飲まれない」

 

 レイス戦の際の暴挙を知る優花が心配そうにハジメの肩に手を置く。しかし、ハジメはゆっくりと手をどけると魔人族の二人の前に歩み出る。

 

「ここは、退()いていただけませんか」

 

 それは傲慢な提案だった。少なくとも魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。ただ、ハジメが普通ではないだけだ。それに、この言葉はまだ、魔人族達がハジメの敵ではないが故の慈悲だった。一度闘いが始まってしまえば、命の保証などできない。病棟の惨劇で壊れてしまった少年は、命を奪うのに躊躇はしないだろうという確信が、本人には有った。

 

 更に言えば、仲間となった時に保護する当てもある。クラスメイト達の手前詳しくは話せないが。

 

 一方、カトレアとミハイルも、ここが引き時だとは思っていた。今までは何とか拮抗していた程度に過ぎない。その上、新たな戦力が加勢してきた時点で二人に勝ち目はなくなった。だが、

 

「そりゃ、ありがたい提案だけどねえ……こっちにも引けない理由があるんだよ」

「そうだな。お前達人間族にひれ伏した所で、我等魔人族の扱いは知れている。存在が露見した我らを人間族である貴様らは逃がしはしないだろう。勇者は我らのことを人間族に報告するだろうしな……」

 

 ミハイルは光輝を見てそう言うと、カトレアが最期を引き継ぐ。

 

「そういうことだ。少なくとも、どちらかが死ななきゃならないのさ。せめて苦しませずに殺してくれよ?」

 

 そう言って武器を構える二人。ハジメは一息ついて、目の色を変えた。ありふれた少年の目から、哀悼者の目へと。

 

「仕方が有りませんね。では―――」

 

 瞬間移動と見紛う速さで、ハジメがカトレアの後ろに回る。

 

「闘いましょう」

 

 ハジメの銃撃と共に、闘いの幕は開けた。

 

「アダージョ、アンダンテ、演奏開始」

 

 カトレアが残像回避をしている横で、香織が手始めに、〝反響定位〟で隠れている魔物の位置を割り出す。そして、

 

「貴方達にコーダを捧げてあげる」

 

 〝終嵐のコーダ〟で敵を一掃した。音波の攻撃にやられ、倒れ伏す魔物達。やはり、香織の殲滅力はハジメパーティーの中でも抜きんでている。今回はチェロのワルドマイスターによる攻撃だが、ハープ型アーティファクト〝エーリエル〟による攻撃であれば、辺り一帯が吹き飛んでいただろう。

 

 遠藤達ですら一体一体といったペースだったのに、一瞬で魔物を殲滅させられた二人は面食らうが、直ぐに冷静さを取り戻す。

 

「撃ち漏らしがいる。気を付けて」

 

 香織は短く、しかし演奏者の技能を使って全員に伝えると、光輝の側に下がった。

 

「香織……? 戻ってきてくれたのか?」

 

 香織は光輝を一瞥すると、努めて平坦な声で伝える。

 

「君が望むことを私は言わない。けれど、幼馴染としての最後の情けで、君を助ける」

 

 まるで、赤の他人に向けるような平坦な声。普段の、ミランダがフェルディナンド王子に向けるような愛の籠った声とは違う。しかし、光輝は何を勘違いしたのか、喜色を浮かべて香織に擦り寄ろうとする。

 

 だが、香織はその声をかき消すようにチェロの弦を弾き、周囲の敵を音波の刃で撃退してゆく。香織が光輝の側についたのは、光輝の側にいたかったからではない。ただ、光輝が余計な事をしないように見張るのに最適だったのが香織だったというだけだ。雫は精神的に負担が大きいし、優花は怨みが強すぎて必要以上に光輝を痛めつけかねない。清水でも良かったのだが、彼は絶賛魔人族と戦闘中だった。

 

「お願いだから、大人しくしてて」

 

 香織は冷たい声で光輝に告げた。

 

 一方で、ハジメと清水と優花と雫はカトレアとミハイルを追い詰めていた。いかに二人が強いとは言っても、それはあくまで人間族と拮抗できるレベルの話。昇格者四人がかりで追い詰められれば、限界というものはある。そもそも、この四人に対抗できる程の戦力がこの二人ならば、戦争はとっくに終結している。

 

「流石に、まずいね……一瞬で魔物を全滅させられた時にも思ったが……ここまでの強さだとは思わなかった……」

「勝負にすらならないとはな……」

 

 ハジメは、膝を付く二人を前にしても、レイスと戦った時ほどの手応えも感情の高ぶりも感じなかった。カトレアとミハイルには、かの老兵ほどの経験と蓄積が無かったのも原因の一端ではあろうが、彼等はレイスやハジメの〝同類〟ではないからだろう。彼等は狂気的な死への渇望を持たない。そんな二人では、ハジメの渇望を満たす事は出来なかったというだけのこと。

 

(いえ……この渇望は今向き合うべきではない……今は目をそらしておきましょう……)

 

 それは、ハジメの中に眠る醜い欲望。芸術に昇華しなければ、地球では存在すら許されない欲望だった。これはまだ、香織達にも伝えていない。これを持ったままハジメが死ねば、伝える必要のないことだと思っていた。ハジメが死を渇望するのは、もしかしたら自分が死に値するほどの欲望を持っているからなのかもしれない。

 

「もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

「俺もだ……勇者を殺せなかった事は無念だが、悪運尽きたという事だろう……」

 

 生存を諦めた表情の二人。ハジメが二人の望み通りに二人に死を与えようとした時、

 

「!?」

「…………」

 

 いくつもの天使文字の魔法陣がハジメ達の頭上に現れた。それは、ハジメ、香織、ユエがオルクス大迷宮を攻略している時に現れた、タブリスが召喚されるときのサイン。カトレア達や光輝達が驚く中で、ハジメは自分でも驚くほど冷静に魔法陣を睨みつける。

 

「今回は吉と出るか、凶と出るか……プロスペローのように魔法の書でも持っていれば仲間についてくれるんでしょうかねえ」

 

 ハジメは軽口とぼやきが半々程度の言葉を吐きながら戦闘態勢を取る。魔法陣から現れたのは、それぞれの手に様々な武器を持った、翼を生やした人型の彫像のような存在。俗にいう天使そのものの姿をした存在だった。

 

 さて、彼らの名前は〝エンジェル〟。非常に覚えやすい名前と言える。コイツらについての説明はまあ、名前と外見だけで良いだろう。何故なら、ハジメ達を見た瞬間に襲い掛かって来る存在なのだから。現状、それ以上の説明は不要だ。

 

 ハジメは剣を持ったエンジェルの一突きをイラディエイト・アイでいなすと、カウンターとばかりに頭部に銃撃した。しかし、エンジェルは一瞬よろめいただけですぐに反撃してくる。

 

「生物であれば頭か心臓を潰せば止まるはずですが……」

「生物じゃねえってことだろ。粉々に壊すまで終わらないんじゃねえの?」

 

 清水はそう言いながら竪琴のような弓を持ったエンジェルに剣と闇の拳を召喚する〝黒ノ手〟の一撃を加えた。更に、二発蹴りを入れ剣で強撃を加え、闇の槍を飛ばす〝黒ノ槍〟で追撃する。すると、エンジェルは光を放って砕け散った。

 

 闇魔法を効率よく使う為に作られた〝黒ノ書〟。今では随行支援ユニットのように清水の傍に浮いている。手に持ってる時と比べ、剣を振る時に邪魔にならなくていい。

 

「派手なの行くぞ! 味方側、ちゃんと避けろよ」

 

 清水は地面に手をついて、地面から無数の槍を生やす〝黒ノ処刑〟の準備を始める。今回はかなり広域に展開するので、準備が必要だ。そうはさせまいとエンジェル達は清水を狙うが、

 

「〝深紅・刀光波〟!」

 

 雫、いや、紅が攻撃を構えたエンジェル達に剣波を飛ばす。その後、自身と清水の周りに雷のフィールドを作り、天使達を近寄らせない。

 

「助かった」

「しっかりやって。私から求める事はそれだけよ」

「へいへい」

 

 清水は〝黒ノ処刑〟を発動させた。黒い槍の形に物質化された闇魔法が、一帯の天使達を貫いてゆく。

 

 また、ハジメもイラディエイト・アイを六連射、更に再装填して六連射、そして、冷気を纏った弾丸を放ち、天使の軍の間に冷気の爆発を起こす。そして、弾丸を一発装填し、天使が凍り付いたところに撃つ。更に一瞬で銃を投げ上げて折鶴によって弾丸を装填。跳びあがって優花の戦輪による攻撃の邪魔にならない位置に移動した後、四体の天使に一瞬で銃撃する。そして自分に攻撃しようとした天使二体にカウンター。そして更に天使の銃撃を回避しながら弾丸を六発装填。銃撃した天使に瞬間移動を繰り返しながら銃撃し、優花の戦輪との連携攻撃で締めた。

 

「練習した甲斐がありましたね」

「ええ。更なる演奏を所望しても? ピアニスト」

「文句は無いわ。指揮者(コンダクター)

 

 香織のハジメに対する呼び名を揶揄うように言う優花。そのまま彼女の上半身ほどもある戦輪を婉曲した軌道で投げる。その反対側からハジメが朱樺を持って残像が残るような速さで接近し、氷の一撃を加える。優花も同時に壁を駆け、ナイフを連投、更に空中で錐揉み回転しながらナイフを全方位に連射し、戦輪を引き寄せてそれで近接攻撃する。

 

 更に、香織の分身、〝ファントム・オブ・ジ・オルケストラ〟も戦線に加わった。謎の植物で作られた分身達にクラスメイト達は恐怖を抱くが、香織は気にする素振りを見せなかった。

 

「♪」

 

 香織は歌い、分身と手を取って踊りながら天使をその音で落としてゆく。

 

「音が満ちて落ちてゆく。天の果てにセレナーデ。ファーストヴァイオリンが奏でる主旋律、死にゆく者へのエレゲイア。これは、貴方達に捧げるレクイエム!」

 

 分身達が一斉に演奏を開始する。その音は破壊の波となって天使達に襲い掛かる。レクイエムの言葉通り、その演奏は死にゆく天使達への鎮魂歌となった。身体を砕かれ、羽根をもがれ落ちてゆく天使達。それを事も無げに実行する香織。その光景を見た光輝の胸には、強烈な拒否感が生まれた。

 

 ハジメは香織の元へと歩み寄り、労いの言葉をかける。

 

「お疲れ様です、香織。結局、貴方の手を煩わせてしまいましたね」

「気にしないで。対複数戦においては〝演奏者〟は最適だもの。それよりも、あの魔人族の二人は……」

「逃げられましたね」

 

 ハジメの言うように、二人組の魔人族は既に逃走していた。エンジェル達との闘いのどさくさに紛れて逃げ出したようだ。遠藤達から続く連戦で相当に消耗していたようだが、なんとも足の速いことである。

 

「追う?」

「そうですね。このまま逃がすわけにはいきません」

「分かった。〝反響定位〟」

 

 香織が演奏者の技能である〝反響定位〟を発動し、二人の居場所を捜す。

 

「見つけた」

 

 やがて、二人の位置を特定した。どうやら、迷宮の上層へと向かっているらしい。道中に留まっている騎士達なら倒せると踏んでの行動だろうか。一体どこまでがリリアーナの計算の範囲内なのだろう。と、ハジメは思った。道中の騎士が殺される事も計算の内なのか? まあ、仮にそうだとしたらリリアーナが止めるだろう。

 

 ハジメと香織が二人で魔人族を追おうとした時、それを妨害する声が響いた。

 

「待て! 追う必要は無いだろう! 二人は既に戦意を喪失しているんだ!」

 

 勿論、光輝である。しかし、それは昇格者には届かない。

 

「っ!」

 

 香織は細剣を光輝の喉に突きつける。今は時間が惜しい。上層の転移部屋にいるメルド達の危険が迫っているのだ。故に、香織は細剣を突きつけるという無言のメッセージにとどめ、ハジメと共に二人の魔人族を追った。

 

 香織の行動に呆然としている光輝を残して。

 

 

 

 

 

 一方、カトレアとミハイルは疲弊した身体を引きずりながら七十層の転移部屋を目指していた。実は七十層にはメルド達、ハイリヒ王国の騎士が待機しているのだが、二人は知らない。そして、八十九層から登ってきてちょうど中間あたりでハジメ達に追いつかれた。

 

「どっちかが死ななきゃいけないみたいだね……」

 

 カトレアがそう言って武器を構える。しかし、ハジメの口から飛び出したのは彼女の予想外の言葉だった。

 

「ここなら本音を言えるでしょう。貴方方、こちら側に来ませんか?」

「何だって? いくら脱走兵とは言っても、人間族側に与するつもりなんて無いんだが?」

「いえいえ、人間族でも魔人族側でもない、第三の道です」

 

 そう言ってハジメは、叛神結社〝天人五衰〟、そして、彼等の逃げ道たり得る〝影の国〟について説明した。そして、その影は迷宮内部まで伸びていることも。

 

「そりゃまた……本当なら天地がひっくり返るほどの代物だね。影の中に国を作る? 冗談じゃないよ」

「竜人族と深人族が参加しているという話もな。大陸外は随分と愉快な事になっているらしい……だが、嘘にしては壮大過ぎる。それに、ここで嘘を吐く意味もない……か」

 

 カトレアとミハイルがしばし考え、そして首を縦に振った。

 

「良いよ。乗った。どうせこのままじゃ死ぬんだ。それならアンタ達の言う叛神結社とやらに加担した方が面白そうだよ」

「面白そうなどと……あくまで脱走兵である俺達と利害が一致したに過ぎない。それを忘れるな……」

「分かっていますよ。一夕一朝に友人関係になれ、などと言うつもりはありません。今は利害の一致で結構です。では、この影に入ってください。これで貴方達は公的には死んだことになる」

 

 ハジメはラングランスに渡されたアーティファクトで〝影の国〟へと道を開く。二人の魔人族はその影へと足を踏み入れる。そして、二人の姿が見えなくなった所で影の入り口を閉じた。事後報告にはなってしまうが、ラングランスへと〝移住希望者〟の旨を〝通達〟で伝えるハジメ。返事は……

 

「無事に受理されたようです。天使たちの襲撃といい、イレギュラーなことだらけでしたが、なんとか終息して良かった……後は上層にて待つメルド団長への言い訳と、リリアーナ殿下への苦情を考えなければ」

 

 影の通り道というこれまたイレギュラーな方法で迷宮の深部へと来たため、メルドへの報告の際には誤魔化さなければならない。リリアーナへの苦情がまた一つ増えた。幸い、迷宮は一階一階が層のような構造になっており、なおかつメルド達のいる部屋を通らずとも済む方法がある。

 

「ふむ、とりあえず、迷宮の床を突き抜けてきた事にしましょうか。念の為、それっぽい後も偽造して。遮音結界を頼みます、香織」

「はーい」

 

 錬成師であるハジメならば、穴程度偽造するのは簡単だ。メルド達はこの階層までは降りてこないだろうが、音で気付かれると面倒である。念の為音を遮断しておくことにした。そして、穴を偽造し終わった後は、クラスメイトの元へと戻る事にする。

 

 ああ、そうだ。影の事はクラスメイトに口止めをしておかなければならない。ラングランスは露見してもいいと言っていた(そもそもフューレンで披露している)が、露見しないに越したことはないだろう。まあ、一人制御不能の奴がいるが……リリアーナが何とかするだろうと、早い話、丸投げする事にした。

 

 ハジメがこの後の段取りを決めていると、香織がその手を取って自分の胸に置いた。

 

「香織?」

「良かった。君が、狂ってしまわなくて」

 

 レイスの死体に対する凶行は香織も聞いている。それが再発しなくて良かったという事なのだろう。ハジメ自身、あの衝動が何だったのか、いまいち判然としない部分がある。殺人に対するストレスなのか、それとも別の何かなのか。まさしく、名前の無い怪物としか言いようのない感情。だが、いずれにしても、今回は発現しなかった、それは喜ばしいことだろう。

 

 ハジメは香織を抱きしめた。

 

「コンダクター?」

「しばらく、こうさせてください……背後世界の無い現実に向き合うということは、想像以上に労力を消費する。精神を壊滅させる怪物と、いずれ僕は相対しなければならないでしょう。その前に、今だけは……」

 

 香織は快く頷いた。そして、ハジメの頭を撫でる。

 

「大丈夫だよ、コンダクター。君が怪物となってしまっても、私達が止めるから」

 




 うーん……如何せん香織が強すぎる。音速の広範囲攻撃は少し早かったかな……いやでも出来ないのもそれはそれで不自然だし……と、悩んでおります。これは戦闘描写の今後の課題ですね。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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