人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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ヤバい、暗い。まあたまにはこういう回があってもいいでしょう。あ、原作における月下の語らいはカットです。原作とあまり変わらないので。次回にちょっとした説明は入れるかな。


黄昏ノ梟

王宮の一角、最も高い屋根の上に銀色のシスターがいた。自前の槍を携え、つい最近召喚された『神の使徒』を睥睨する。自分達の計画に使えそうな人材を探すが、誰も彼もが状況に浮かれたチンドン屋。しかしながらその中にイレギュラーを発見する。それは唯一人非戦闘系天職を与えられ、一部を除いた周りからは無能のレッテルを貼られるもの。しかし彼は自分の天職を最も効率的に生かし、様々な成果をあげている。そしてなにより―――

 

「調子はどうだ?」

 

シスターは自分に話しかけてきた赤い服の少女を見る。見た目に反し中年男性のような声で話すこの少女が自分にこの退屈な任務を命じてきたのだ。なので思ったままの心情を答える。

 

「暇です」

「なるほど、使えそうな人材はいなかったというわけか。あの阿呆が召喚した者達も、存外役に立たないものだ」

「あれは見るに平和な世の中で生きてきた子供の集団ですよ。ただ、役に立つ…かどうかは知りませんが、イレギュラーが存在します」

「ほう?」

 

シスターは空中に画面を表示し、少女に見せる。すると今まで無表情だった少女が、僅かながら驚愕の表情へと変わる。それを密かに楽しみながらシスターは話す。

 

「周りとは違う行動を取り、天職を最も効率よく使う者。おまけにパニシングに感染しています。…何故異界の者が感染しているのです?」

「分からん…と言いたいところだが、だいたいの予想はつく。大方あの阿呆がこの世界の者を転移させ、そこから感染が広がったのだろう」

 

シスターはなるほど、と思った。確かにかつての主、エヒトならやりかねない。昔からそうだ。この世界をある種の劇場と考えている。それだけならまだ良いが、助演女優だのエキストラだの、何も考えずに外から呼んで来る。昼間の住人を夜闇に呼び込めば、いつか劇場ごと破綻するものを。あの偽神はデウスエクスマキナの如く万能ではない。全くもって、愚かしい事だとシスターは思う。

 

「まあ、それに関しては今はいいです。重要なのはアレが役に立つか。ひいては我々と同じ昇格者へと至れるか」

「暫くは様子見だな。だが、奴は中々面白い。少し手助けしてやれば、割とすぐに頭角を現すかもしれんな」

 

その言葉にシスターの口元は吊り上がる。エヒトへ嫌がらせ出来るのが嬉しいのか、自身と同じ存在が生まれる事に対する喜びか、おそらく両方だろう。

 

「ところで…」

「なんでしょう」

「君の名は何と呼べばいいのかね。ジュダか、それともドライツェントか」

「お好きなように。朝と夜で分けてもいいですし。どちらも私にはふさわしい。知恵の実を食べ、楽園を追放された裏切り者には、ね」

 

 

小悪党の南雲ハジメ襲撃事件から数日後、谷口鈴は図書館で新たな本を借り、光輝の邪魔が入らない工房の奥で解読するため足を進めていた。実のところ恵里と一緒にいる事が多い鈴だが、割と単独行動することもある。実際、件の小悪党の襲撃時は図書館で本を読んでおり、恵里と一緒にはいなかった。図書館の本を読み漁る事は鈴に少なくない恩恵を与えている。元から持っていたプログラムの知識とこの世界の魔法を組み合わせることで、実に面白い化学反応を見せるのである。

 

「なあ、おい、鈴」

 

そこに声を掛ける者がいた。鈴は少し面倒だと思いながらも声がした方向に振り返る。

 

「こうやって話すのは少し久しぶりかな?龍太郎君」

 

声を掛けてきたのは龍太郎だった。光輝の親友の脳筋である。天職も『拳士』ときており、彼に最適なものと言えよう。

 

「で、何の用?」

「いや、鈴、最近訓練に来ねえからよ。何があったのか気になってな」

「はて?王国側からの訓練には全て出ているけどな?」

「そっちじゃねえよ。光輝が自主的に…」

「ああ、なるほどね。何があったかと聞かれれば、特に何も無いかな。大きな怪我もしてないし、体調も良好だね」

「なら何で…」

 

鈴は果たしてこの問答に意味があるのかと思う。鈴が光輝と一緒に訓練に参加しない理由を説明するのは簡単だが、この脳筋に理解できるのだろうか。しかし鈴としてはありのままを説明するしかない。

 

「ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つ」

「…はあ?」

「要するに、遥か昔に知恵の象徴が飛び立ち、過ぎ去りし夕暮れである現在、目に見える形で残されている知識を現実の事象に結びつけるという行為をしているわけだよ、龍太郎君。書物から魔法を考察し、独自のソースコードで編集、作成し、王国から課せられた訓練でアウトプット、すなわち検証するんだよ。Do you understand?」

 

自身の知恵の象徴、ミネルヴァの梟は遥か彼方、地球へと飛び去ってしまった。鈴はこの世界に関して全く無知である。だが、座学で得た知識でさえ、この世界が 裂き喰らう城塞(ピルムムーリアリス)のような牢獄であることは窺い知れる。そしてそのような場所で生き残るためにはどうするか、鈴達の出した答えは「切り札を増やすこと」だった。単純なポーカーの勝負であればロイヤルストレートフラッシュで事足りるだろう。しかし清水幸利風に言えば、この状況は吊り上がる賭け金(Bets)に違法な倍率(Odds)、何でもありの状態だ。ならばこちらもイカサマでもなんでも手札を増やさなければならない。鈴はそう説明したが、龍太郎は「よく分かんねえ」という顔だ。

 

龍太郎にとっては自分の技能を訓練によって極限まで鍛え上げるのが至高であり、生き残る方法だった。座学の時間だって存在するのに何故さらに本を読むのか理解できなかった。まあ尤も訓練と座学を入れ替えて考えれば鈴の言っている事も自ずと理解できるのだが、そこまで頭が回らないのは脳筋である故か…

それ故に、龍太郎には鈴もハジメや恵里、清水同様訓練をサボる言い訳を言っているようにしか聞こえなかった。

 

「だがよぉ、訓練すればするだけ強くなれるんだぜ?それなら参加しない手はねえって言うか…」

「どんな集団でも2割近くはサボり魔が出るっていう統計学的なデータも存在するんだよね。そしてそういう人間は効率のいい『抜け道』を見つけたがるんだよ。それがその集団に思わぬ形で利益を齎す事になる。つまり鈴達みたいな人間は必要なんだよ」

 

「ロジカル」と言い、主張を締めくくる鈴。だが相手は脳筋だ。客観的なデータも筋の通ったロジックも通じない。龍太郎は今の話を聞いても納得がいかないようだ。

 

「けどよ、皆それで頑張ってんのに一部が楽するなんて、何と言うか…」

「研究すればいいじゃん。楽しいよ?やり方分からないなら教えるし。というか力に溺れたチンパンジーが大半を占めてるこの状況に鈴は恐怖を覚えるよ?」

「けど、けどよ!光輝が言ってるんだから、従ってりゃ上手く―――」

 

鈴は溜息をつく。いよいよこの問答に意味が無いことが判明した。

 

「今朝がた同じような事を言ってきた光輝君にも言ったけどね…君達と話してるとまるで1984年にタイムスリップしたかのような感覚に陥るよ?地球は21世紀で、この世界は文明的には中世レベルだけど。まあその1984年も現実じゃないけどさ」

「お前、何言って…」

「戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なりだったっけ。面白いくらい当てはまるよね。件の小説はディストピアの話だというのに」

「なっ―――おい鈴!言っていい事と悪い事が」

「言われたくなかったら改善しなよ。現に君達のやり方を鈴やエリリン、南雲君に半分強制してるよね。規模の違いはあれど独裁者、ディストピアと変わらない。付き合わされるシズシズが可哀想だよ。最近ではカオリンやユウカリンに泣きついてたりするし。…光輝君は信じなかったけどもさ」

 

ユウカリンとは園部優花のあだ名である。原作と違いそれなりに交流があるのだ。

一方龍太郎は怒りと困惑が入り混じったような顔をしている。自分達のやっている事がディストピア?そんな事があっていいわけが、でも雫の顔は確かに疲れているような沈んでいるような…

思考の渦に飲まれた龍太郎を見て、鈴は今のうちに立ち去る事を選んだ。もう少しで『零日(ゼロデイ)』『伽藍ノ堂』などのオリジナルの結界魔法が完成するのだ。鈴にとってはそちらの方が重要だった。

 

その更に数日後、オルクス大迷宮への遠征訓練が行われる事が発表された。

 

 

生徒達を乗せた馬車は遠征先であるオルクス大迷宮の存在する町、ホルアドへと向かう。その中の一つに六人の生徒が乗っていた。内訳はハジメ、香織、雫、恵里、鈴、そして時々存在を忘れられる遠藤だ。

 

「シズシズ、大丈夫?」

 

鈴が疲れた様子で窓に寄りかかる雫を気遣うように話しかける。香織が背中をさするが、表情は晴れない。事実、雫は疲弊していた。光輝の無邪気な善意によるクラスメートの画一化。自主的な訓練に参加しない者はまるで悪人のように扱われる。ハジメや清水、恵里、鈴のように図太い神経の持ち主ならばどうという事はないが、そうでない者の方が圧倒的に多かった。そしてそのお悩み相談はだいたい雫の所へ流れる。中には八つ当たりじみた理不尽なものまで存在した。

 

「あなた達は楽しそうね。自分のやりたい事をやって」

 

ご覧の通りごく自然に憎まれ口が飛び出る。香織や鈴は少し申し訳なさそうな顔をするが、後の三人はそうでもない。

 

「申し訳ないとは思いますが、これが僕の戦いでして。今まで馬鹿にした事を謝罪せず成果だけかすめ取って行く昼鳶に、雁首揃えてごきげんようと内心で呟き武器を渡すのは吝かではありませんがね。この行為自体を止められては、僕は何もできません」

 

まあ、意地を張っているのかそんな人間はいませんでしたが、と付け加えるハジメ。

性格の悪さ駄々洩れなハジメの言葉に恵里以外が微妙な顔をするが、本人は何処吹く風と作成した拳銃をいじる。

 

「しかしこの世界で拳銃を完成させるとはな。錬成師兼数学者は伊達じゃねえってか」

 

全員の認識から消えかけていた遠藤が口を開く。

 

「だがまあ八重樫の気持ちも分かるがな。誰だって自分の所属するボーリングチームが一位だって時に出ていくのは難しい」

 

遠藤が持論を展開するが、香織はそれに反論する。

 

「多分そう言う事じゃないと思うな。雫ちゃんの家の道場には『門下生は家族である。故に見捨てない』っていう教えがあるの。だから天之河君の事を放置するわけにもいかないんだと思う」

 

その場の人間が「なるほどね~」と頷く中、一人だけ「アホくさ」と呟いた者がいる。それは降霊術の本を読んでいる中村恵里だ。雫がその言葉に眉を吊り上げる。

 

「八重樫流の教えを知らない貴方が、勝手な事言わないで!」

 

実家の教えを馬鹿にされた雫が恵里に噛みつくが、恵里は本を閉じて冷静に言葉を発する。

 

「確かに僕は八重樫流の教えなんざ知らないさ。僕が知っているのは家族という名のしがらみだけ」

「な、なにを」

「その教えは素晴らしきものだ。一見非の打ちどころのない、完璧なものに思えるだろう。でも家族というシステムは呪いにもなり得るのさ。現に十字架に磔にされているのはKだ。でも釘で打たれた傷跡は雫に付けられている。さながらスティグマのようにね」

「っ―――」

「そのスティグマに喜んでいるならまだしも、雫は苦しんでいるわけだ。でも『家族を見捨てられない』からその責め苦から逃れる事もできない。これが呪いでなくて何だというんだい?」

「そ、それは…」

「まあ、これはあくまで意図せずキリストに石を投げ、聖母マリアに呪われた彷徨えるユダヤ人(カルタフィルス)の戯言だ。これを聞いてどうしようと、僕はどうでもいいけどね」

 

最後の一言で、恵里は家族に関して十字架を背負っている事が分かってしまった。雫はそれ以上責める事も出来ず、思考の波に飲まれていく。するとその時ちょうど馬車がホルアドに着いた。

 

「最後に一つ、このクラスに必要なのは救世主(メサイア)でも福音でもない。革命とイルミナティさ」

 

恵里が意味深な言葉を残し、馬車を降りる。続いて他も降りるが、その時ハジメが雫に声をかけた。

 

「八重樫さん、僕は貴女に生き方を強制するつもりはありません。貴女は優しいから、どのような生き方をしても後悔してしまうかもしれません。ですが、どうか壊れてしまう事の無きよう。死にゆく者から、敬礼を」

 

それにややあって雫は答えた。

 

「ありがとう」

 




いつもよりは短めですね。字数的に。いよいよ精神状態がヤバい雫さん。まあ少し過剰に表現してる部分はありますがね。ただハジメ達ほど『性格が悪く』ない雫。作者自身の経験も踏まえて、こうなるのでは?と思った結果です。

あと鈴と龍太郎の関係性も原作とは変わると思います。少なくとも今のままでは恋人同士にはならないでしょう。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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