というわけで、第14話。ハジメsideです。原作だと魔物肉の話題ですね。
―――オ願イ、私ヲ殺シテ
―――ああ、そんな、ヨナ…
―――早ク、助ケテ
―――今、今、
「はっ―――!」
流れる水の音がする中、ハジメは目覚めた。時々見る悪夢を振り払うように頭を振る。見れば左腕が無い。しかし高所落下を思わせる痛みは感じなかった。何かに身体が侵蝕されている感覚はするが、以前のような不快感や痛みは無い。寧ろ徐々に身体が修復されており、まるで侵蝕を受け入れているようだ。現状感じる痛みと言えば、左腕が無い事による幻肢痛だけだ。だがそれだけが、自分の生を確証付けていた。
(傷は左腕以外あらかた完治しており、体調も悪くない。寧ろ良すぎる。今までの苦痛が嘘のよう…)
そこでハジメはとある可能性に思い至ってしまった。今までパニシングに侵されていた時は苦痛が共にあった。自分の身体を勝手に改造されていくのだから、さもありなん。それが今は無い。明らかに異常な状態だ。改造が完了した?だがハジメの知るパニシングの終着点は理性を失った侵蝕体だけだ。今の自分は、理性は…ある。無論この光景が幻覚、または仮想世界のようなものではないという論理的根拠は無い。しかし今の時点でそこまで疑い出すと収拾がつかなくなるので、ひとまずこの状態は現実であるとする。
ここまで考えた所で、ハジメはステータスプレートの存在を思い出す。ダメ元で見てみよう。少なくとも以前の状態との比較はできるはずだ。ハジメはポケットからステータスプレートを取り出す。そして絶句した。
「なんだ、コレ…」
なんと、数字は全て文字化けし、全ての文字が馴染みの無い文字で表示されていた。いや、ステータスの項目、例えば『筋力』や『耐性』といった文字はトータスの文字なのだが、それ以外がおかしい。だがハジメはこの文字を知っていた。
「天使文字…?」
天使文字とは読んで字の如く天使が使う文字とされているものだ。とはいえ世界共通で存在しているわけではなく、宗教や地域、時代によって様々なものが存在している。ハジメはかつてその内の一つを見たことがあり、ステータスプレートの文字はそれに酷似していた。とはいえ言語である以上召喚者全員に与えられているらしい『言語理解』で判読できる。そしてその内容はこうだった。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:X
天職:授格者
筋力:n#$
体力:*@%
耐性:%*&
敏捷:?$+
魔力:$“*
魔耐:!$&
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探知][+精密錬成]・超速演算[+並列思考][+圧縮詠唱]・最適化[+理論最適関数]・熱操作[+極寒][+零度][+重合爆発]・自動修復・言語理解
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レベルとステータスに関してはプレートが仕事を放棄している。これでは数値を過去と比べることすら出来ない。異常である事は分かるが、逆にそれ以外が全くもって分からない。赤いテールランプの光のみを頼りにアンデス山脈上空を夜間飛行する操縦士の気分だ。
次に技能、だいたい問題ないが、可笑しなものが追加されている。なんだ、自動『修復』て。明らかに人間に使う言葉ではない。人形とかアンドロイドとか、そういう物に対して使う言葉だ。人形…?まあいい。
一番謎なのが天職だ。『授格者』とは何なのか。ハイリヒ王宮の本はあらかた読んだが、こんな単語は登場しない。字面からして何かを授かったのだろうが、その何かが分からない。他人の身体で好き放題やっておいて、アフターケアのクオリティは学園祭レベルである。是非ともクレームをつけたいところだが、生憎とここにいるのは自分自身だけだ。
「………………」
そういえば色々な事が一度に起こりすぎて忘れていたが、ここは迷宮の奈落だ。魔物が跋扈していた所で何も不思議ではない。ハジメは遠くで聞こえた物音に、それまでの思考を断ち切った。とりあえず現状確認が先決だ。ハジメはそれほど現場主義者ではないが、この状況では自分が動くしかない。
この場所はまさしく洞窟と言う単語が似合う場所である。低層の整備された通路ではなく、岩や壁があちこちからせり出し、通路自体も蟻の巣のように入り組んでいる。だがその規模は比較にならない。複雑で障害物だらけでも通路の幅は優に二十メートルはある。狭い所でも十メートルはあるのだから相当な大きさだ。歩き難くはあるが、隠れる場所も豊富にあり、ハジメは物陰から物陰に隠れながら進んでいった。
そしてとある四辻に辿り着いた。どの道に進むかと考えていると、視界の端で何かが動く。そっと様子を伺うと、白い毛玉が跳ねている。長い耳もあり、見た目は紛う事無きウサギである。ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。どうぶつノ森にこんなモノが実装されたら間違いなくクレームが来る。
戦力測定の為暫く様子を見ていると、ウサギは耳を動かし警戒し始めた。ハジメは「見つかったか?」と思い銃を取り出すも、ウサギが警戒したのは別の理由だったようだ。
「グルゥア!!」
獣の唸り声と共に、これまた白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出した。その白い狼は大型犬くらいの大きさで尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っている。どこから現れたのか一体目が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。
地球の常識に照らし合わせるなら、狼がウサギを捕食して終わりだろう。しかしここは異世界。地球の常識など容易く覆される。
「キュウ!」
可愛らしい鳴き声を洩らしたかと思った直後、ウサギがその場で飛び上がり、空中でくるりと一回転して、その太く長いウサギ足で一体目の二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。するとどうだろうか、まるで銃撃のような音を立てて狼の首が捻じ曲がった。
ハジメが様子を見ていると、ウサギは回し蹴りの遠心力を利用して更にくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で『空中を踏みしめて』地上へ隕石の如く落下し、着地寸前で縦に回転。強烈なかかと落としを着地点にいた二尾狼に炸裂させた。断末魔すら上げられずに頭部を粉砕される狼二匹目。その後も更に狼が現れ、尾に電流を纏わせウサギを襲うが、ウサギは耳で逆立ちしてのブレイクダンスという曲芸を見せ、狼を葬る。そして前足で耳を払って勝利の雄叫び(?)を上げると、その場を去っていった。それを見たハジメは、
「とりあえず秘密基地でも作りますかね」
と言って『錬成』で壁に穴を開け、暫くの拠点を作ると、中に潜り込み入り口を塞いだ。
先程のウサギと狼の戦闘。それは今までの敵、例えばトラウムソルジャーなど玩具に思えるようなものだ。更に言えば、クラスメート達を恐慌に陥れたベヒモスすらも上回るだろう。現時点のハジメの装備では歯が立たない。
だがハジメはこの状況に恐怖を感じてはいなかった。何故か。
似ているのだ。パニシングの侵蝕体達が跋扈する惨劇の病棟に。あの頃も異形の機械達から逃げ惑い、場合によっては医療用メスや鉄パイプで殺したりもした。しかも今は錬成師や数学者の技能もある。ある意味当時よりも生存難易度は低いとすら言えるのだ。おまけに此処にはパニックとなってあらぬ動きをするクラスメートも、力に酔った勇者もいない。
(おや?意外に簡単な話では?)
ハジメは薄い笑みを浮かべて現状分析を終える。
(それよりも気になるのは…)
ハジメは徐に自分の左腕を見る。肘から先が切断されているはずだったが、今は機械化した左手の骨格部分が付いていた。ステータスプレートに書いてあった『自動修復』なる技能の結果だろうか。時間は掛かるにせよ、部位欠損すらも直ると言うのか。ステータスプレートの表記といい、自分は『人間』という枠組みからは外れてしまったのかもしれない…
しかし仮にそうだとして、一体何の問題があろうか。Nothing lasts forever. 全ての存在は滅びるようにデザインされている。ならば自分に与えられた『人間』という定義が意味を成さなくなった所で何が不思議な物か…。一般的には異常な思考回路だが、ハジメは本気でそう思っているのだ。少なくとも自分自身に対しては。
唯一問題があるとするならば香織や友人達に拒絶される可能性だろうが、まあ、今考えた所でどうしようもない。最優先事項はこの局面を生き残る事である。とりあえず、左腕が完全に直るまで眠るとしよう。眠気も空腹も、疲労すらも感じないが、眠る事は不可能では無いようだ…
そしてハジメが眠りから覚めた頃、左手の修復は完全に完了していた。適当に動かしてみるが、特に不具合は無い。となれば、次の問題は戦力の補充だ。先の魔物同士の戦いを見る限り、現在のハジメの装備である拳銃だけでは地獄からの亡命には心許ない。
「まあ、無いなら作ればいいんですけどね」
幸いにもハジメの手にはオルクス大迷宮での訓練中に色々と手に入れた鉱石がある。無論メルド団長に許可をもらってから採取したものであり、その一部始終を見ていた天之河光輝は渋い顔をしていたが。オマケにハジメの周囲には手つかずの鉱脈が幾つも存在していた。ここから導き出される結論は一つ。マイnクラフトの真似事をすればいい。
「タ タ~ララッタッタッタッタ♪」
ハジメは鼻歌混じりに武器を作っていく。この状況でそんな余裕があるあたり、大分精神性がイカレてる気がするが、気にしたら負けである。精神と思考が天国へ飛び立った事の無い者は真の芸術家とは言えない。その点においてはハジメは紛れもなく芸術家であった。
そして、数学者と錬成師の技能をフルに使って武器の作成、改造を施したところ、そこには二丁拳銃と、一本のブレードがあった。
「まあ、ざっとこんなモンでしょう」
製作者は満足げに頷く。しかし何かが足りないと思いしばし考え、「あ」と思いつく。
「作品には名前を付けておかなければ。そうですね…二丁拳銃は『セイン』、ブレードは『朱樺』と名付けましょう」
ハッキリ言って適当に考えたが、無いよりは格好がつくだろう。
ハジメは早速武器の性能を試す事にした。暫く洞窟内をうろついていると、最初の実験台、二尾狼を発見した。やはりと言うか、4匹程度の群れだ。この狼達はこの階層では最弱格に位置する。故に群れを作ってその弱さを補っているのである。
ハジメは気付かれないように射程距離に近づき、セインで二匹の頭を撃ち抜く。不意打ちで尚且つ遠距離攻撃だった事もあり、狼に命中し絶命した。だが流石に仲間がやられれば他の狼は襲撃者の存在に気付く。残った二匹の狼は銃声からハジメの位置を特定し、一匹が飛び掛かって来た。ハジメは超速演算で躱すと、飛び掛かって来た一匹を銃殺する。
最後の一匹は形勢不利とみて仲間を呼んだ。どこからか三匹の狼が集まり、一斉に尾に雷を纏うが、ハジメの表情に焦りの色は無い。一匹が飛ばしてきた電撃を回避し、逆にこちらも銃撃する。だが今までの戦闘で学習したのか、狼は銃弾を避ける。だがハジメはその場でターンするように二連射し、避けた狼の頭に風穴を開ける。更に他の狼達が電撃を飛ばしてくるが、ハジメはさっきとは逆方向にターンし銃撃、電撃を撃墜する。そして少し宙に浮き、錐揉み回転しながらセインで連射し、最後に飛び上がって銃撃し、その反動でバク宙する。
狼達は全滅し、初陣に勝利したハジメは狼から魔石を取り出しその場を立ち去った。
秘密基地へと帰ったハジメは持ち帰った魔石を見る。魔石は魔物を魔物たらしめる力の核だそうだが、何かに使えない物か…ハジメが魔石を手に持って色々と考えていると、掌の魔石が変化し始めた。
「………………」
ハジメが観察していると、見た目は確かに『石』だった魔石は、赤黒いエネルギーを纏うナニカに変異してしまった。何というか、触れているだけで物が変異するとか、いよいよ自分が人間ではなくなったような気がしてくるが、気にしたら負けである。
とりあえずハジメは『鉱物系鑑定』でこの謎の物体を調べることにした。
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異重合核
パニシングエネルギーの異重合による大規模な構造変動で形成される純正核。
周囲のパニシング侵蝕物を操り、様々な異重合体を形成する能力を有しており、内部に極めて高濃度のパニシングを内包している。
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パニシング症候群というのは人類に理不尽に与えられた罰という意味で地球人が勝手に付けた名前だったはずだが正式名称だったのかとか、「大規模な」と言う割には随分あっさりと出来たなとか、色々とツッコミたい事はあるが、今は気にしたら負けである。トリッキーな物なんだなと納得するしかない。魔石以外で試しても勝手に変異することは無かったため、魔石に含まれている魔力にパニシングが呼応したのかもしれない。
しかしまあ何とも物騒な物が作れるようになってしまった。普通の人間が触っても死にはしないが、碌な結果にならないだろう。
どうしてくれようかとハジメが考えていると、突如として異重合核のエネルギーが活性化した。怪訝に思うハジメをよそに、ソレは針玉のような形状となりハジメの掌に突き刺さってきた。苦悶の声を上げるハジメ。しかし異重合核はハジメの身体に取り込まれ、ハジメは自身の内部でエネルギーが膨れ上がった感覚を味わう。身体が更に改造され、より最適化されたのか、身体が以前よりも軽くなった気がするが、詳細が分からない以上一度に多量に摂取するのは危険と判断し、残りの魔石はポーチに入れて取っておくことにした。薬などにも言える事だが過剰に摂取すると最悪の場合、死ぬ。というわけで、試すにしても最低限期間を開けてやることにした。
書いといてなんだけど、今作のハジメ君薄気味悪いな。まあ作者はこういうキャラ割と好きなので終始こんな感じだと思います(笑)。というかせっかく作ったブレード使わなかった…まあ後々出てきますよ。
元ネタ紹介
セイン:パニグレのAソフィアの武器。その内アームも追加される予定。二尾狼戦での動きはソフィアの通常攻撃『ガンアーツ』の動きを参考にしている。
朱樺:パニグレのルシア鴉場の武器。何処かで鴉場の技も登場するかも?
異重合核:パニグレ本家でも(作者が知っている範囲では)詳細は不明だが、危険物であることは強烈に分かる。少なくとも気軽に拾い食いしていいものではない。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する