人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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めでたくコラボ三話目です。文量は少し短めです。

タイトルはラテン語で『地獄の生活』。森鴎外の著書を文字りました。


コラボー丙 ヰタ・インフェルヌス

 現在、昇格者達は嘗てない危機に直面していた。

 

「どうするの、コンダクター。トータスに来てからの出来事なんて争い、暴力、苦悩の連続じゃない!」

「ええ、召喚された初日から暫くはともかく、時計仕掛けのオレンジ君達の襲撃やセイレーン事件や苦刑ノ乙女の一件……話せそうな部分がワルドマイスターや黒ノ誓約製作記くらいしか無いですねえ」

「言葉すら攻撃的だとこういう時に困るという実例」

「貴方も他人の事言えませんけどね、ユエ。というかこれくらい普通ですよ。羅生門も華氏451度だってここまで上品に話しませんよ。誰が予想しますか。いきなり異世界繋いでくるような相手がここまでナイーブだって」

 

 そう。トータスに来てからの重要な出来事を話そうとすると、(ことごと)く相手の倫理協定に引っかかるのである。まあ、メタい話をすれば、NieRシリーズ(鬱ゲー)とクロスしているので致し方ない部分は有るのだが。

 

 とにもかくにも、話せそうな部分などイシュタル相手の交渉やアーティファクト製作過程程度なのだ。無線ラジオで発信される梗概(こうがい)とてもう少しマトモに解説するであろう。

 

「もう仕方ありません。話せる部分はそのまま話すとして、後はハッタリと行きましょう。気分はさながら姫草ユリ子だ。月経鬱症候群なんぞなった事もありませんがね」

「コンダクターは男なんだから月経なんてなった事なんて無いでしょ。というかそれ、夢野久作の少女地獄だよね。余計駄目じゃない?」

「何んでも無い、何んでも無い。ヰタ・セクスアリスでも無いのだから。舞姫ならぬ歌姫の誕生というだけの話です」

「森鴎外にすればいいってものでもないよ」

 

 なお、その様子を見ていた画面の向こうの並行世界のハジメ達だが、

 

『なあ、一切音声が聞こえてこないんだが』

『向こうの技能なのかもしれない。音か情報に干渉する類のものかも』

『あまりこっちに聞かせたくない類の内容なのかな』

 

 このように訝しんでいた。昇格者香織の天職『演奏者』の技能で疑似的な無音状態を作り出しているのだが、何故『通達』を使わずにこのような事をしているのかというと、それをやってしまうと、無音かつ昇格者達が微動だにしない映像が垂れ流しにされるという大変シュールな状態になる為である。そして、4分33秒ほど経った後、昇格者達の音声が回復した。

 

「まあ、津々浦々紆余曲折焼肉定食あって香織やユエと合流しましたよっと」

『随分と端折ったな。まあ、一応気を遣ってくれたようだし感謝はしておく……焼肉定食?』

『その間にそっちの私に花が生えたり、ユエと恋人になったりしたんだね』

「ええ、ユエの場合、『私を愛せ、さもなくば殺せ』って感じでしたし」

「ハジメ、それは少し語弊がある。確かに愛してくれないなら殺して欲しいとは言ったし、私を一人にするくらいなら殺して欲しいとは思ってるけど」

『語弊でもなんでもないじゃないかよ』

『シームレスに狂った会話しないで』

 

 結局昇格者達は、全てを誤魔化す事にした。セイレーンと化した香織や苦刑ノ乙女となったユエとの闘いは話さない方向で行くことにしたのである。実は昇格者達は知らない事だが、立場が逆転してはいるものの並行世界のハジメと香織の間でも殺し合いが発生していた。

 

 だからと言って、昇格者達の判断は実に正しかったと言えるだろう。わざわざ純情な学生の古傷を(えぐ)る事は無い。

 

『う~、でもそっちのユエと付き合ってるのは納得したよ。そんなこと言われたら見棄てるわけにもいかないし』

『これも愛、なのだろうか?』

『歪んでいるとは思うけれど、愛じゃないかな。こういう愛をテーマにした文学作品は、地球じゃありふれているし。あくまで文学作品、お話の上でだけど』

『それって現実的じゃないってことじゃないか』

 

 一方、並行世界の香織と彼女のパートナーのテイルモンは、ハジメとユエの衝撃的な恋愛劇に少し首を傾げながらも、理解しようと努めていた。

 

「失礼ですね。愛ですよ。純愛ですよ。大好きだから、馬鹿な事だって出来るんです。それが例え人倫に(もと)るものであったとしても、愛する人を殺す事だとしても、何度だって選んで、何度だって飛び込みます。それが僕のユエや香織への愛です」

『あー、力説している所悪いんだが、無理をしてまでこっちの世界観に合わせてくれなくていいぞ。却って倒錯性が露呈してるから。何とか理解しようとした香織達が灰になってるから』

 

 奇しくも並行世界の香織が光輝に言い放ったような論調でユエへの愛を語る昇格者ハジメに並行世界のハジメが待ったをかける。しかし、昇格者ハジメの殺人的な愛に悶える昇格者ユエには聞こえていない。

 

「フフ、白昼堂々の殺害予告……私は死ぬまで一人にならない……私がハジメにしたように、刺して殺して穿って抱かれて……フフフ」

「あの、ユエさん、僕も貴女との愛を確かめ合うのは吝かではないのですが、今は自重しましょう。せっかくぼかした部分が丁寧に鮮明度を上げてしまっています」

 

 見かねた昇格者ハジメが止めに入るまで昇格者ユエはトリップしていた。その間、傍らの昇格者香織は並行世界に向けて一言問う。

 

「そっちは恋愛関係で悩んでるみたいだけど、参考になった?」

『そんなサスペンスな恋愛は求めていない』

 

 並行世界のハジメは無表情でその問いを却下した。しかし、その隣で自我を取り戻した並行世界の香織が、怖いもの見たさなのか昇格者香織にも質問をした。

 

『えっと……その……そっちの私はどういう経緯で、そっちの南雲君を好きになったのかな?』

 

 もしかしたら、二人ともが死ぬだの殺すだので恋愛しているとは思いたくないが故の質問なのかもしれない。

 昇格者香織はその質問に静かに答える。

 

「そうだね……最初に私がコンダクターの事を好きになったのは、夜鷹のような気高さだった。宮沢賢治の『よだかの星』って読んだことがあるかな?病気で死に瀕していながらも命を燃やす彼が好きだった」

『うん。ハジメ君のそういうところは、私も好きだよ。私の世界と同じだね』

 

 昇格者ハジメが病に罹っていたのは先の話で聞かされた事だが、並行世界の香織はどことなくシンパシーを感じていた。彼女も夢へと命を燃やす並行世界のハジメが好きだから。だが、昇格者香織の話は此処では終わらない。

 

「そしてその後に、彼が背負う業苦を知った。確かに彼は気高いけれど、それは急速に死に向かっているから、他人の死を経験しているからだったの。言ってしまえば、特攻隊のそれに近い物だと思う」

『んん?』

 

 並行世界の香織は首を傾げる。確かに昇格者ハジメは夢を持っていた。信念も持っていた。だがそれは、確定した死があったからだった。それに対し、並行世界のハジメは仲間や家族、大切な人やデジモン達と過ごす未来を夢見ている。

 2人のハジメの夢の先は、死と生という正反対の方向を向いていたのだ。

 

「この世界、トータスという名の牢獄で、彼の死は確定事項ではなくなったの。今まで抱いていた信念も、夢も、奪われた。そんな彼の苦しみが、どれほどのものなのか分からない。でも一つ言えるのは、私はコンダクターの枷。彼を生という名の業苦に縛り続けるのは、私のエゴ」

 

 誰も何も言えない。正義とか、信念とか、純愛とか、そんな言葉で片付けられるような問題ではないから。壊れているのが世界なのか、それとも昇格者達なのか、軽々しく決めていいものでは無いことだけは、痛い程に分かった。

 

「私は彼を好きになった日に、世界を呪った。不死身の身体を与えて、ずっと生き長らえていく。そんなSFを妄想していたの。貴方達のように綺麗な思いじゃない。分かる? 私はずっと、誰かを殺したい歌を風に乗せて流していたの」

 

 静かな慟哭だった。

 

 夢や信念は、並行世界のハジメ達にとって生きる標だ。しかし、昇格者達にとっては、限りなく希死念慮を増長させる死神だった。過去に未来に、愛しい人を引きずり込む魔性の星だった。

 

「だから、ごめんね。信念なんてなくても、彼にだけは生きていて欲しいの。夢も明日も、もう要らない。彼の幸せだけを願っていたあの頃には、もう、戻れない」

 

 そう言った昇格者香織を、昇格者ハジメは愛おしそうに見つめていた。

 

 一方、並行世界の面々は同じ原動力を持ちながら、正反対の方向へと向かっている彼らの事が、うまく理解できなかった。何故ならデジモンとはより高位の存在へと進化するために生きる者達であるから。

 

〝全ての存在は滅びるようにデザインされている〟

 

 生と死を繰り返す螺旋に囚われる儚き者達の舞踏など、最も縁遠い者達であったから。

 

(これは呪いか。それとも罰か。不可解なパズルを渡した神に、いつか、僕達は引き金を引くのだろうか)

 

 いつか病室で吟じた詩を、昇格者ハジメは思わずにはいられなかった。

 




クロス先がNieRというのもあって悲観的or狂気的な恋愛観を持つ昇格者達。竜羽さんの作品を読んでいる方々には分かると思うのですが、昇格者達が体験したことを全て話したら人間関係がアルマゲドンになります。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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