「さてと、地獄めぐりの再開と行きますか」
ハジメ達はユエを仲間に入れ、奈落の攻略を再開した。ユエは原典では武器の類を持たず、魔法一辺倒で闘っていた(無論それでも強かった)が、今作ではハジメが武器を製作した。その武器の名は『オズマ』といい、普段は四本のニードルと二つの球体の形を取っている。オズマはパニシングのエネルギーを流す事で形状を変え、時には槍、時には斧と非常に多彩だ。
…原作既読勢の方々ならもうお気づきかもしれないが、今作のハジメはこの時代のトータスでは失われた神代魔法の一つである『生成魔法』の領域に独力で至っている。生成魔法とは、魔法を鉱物に付加して特殊な性質を持った鉱物を生成できる魔法だ。アーティファクトを作るには必須の魔法であり、これが失われたトータスではかなり回りくどい方法で武器の強化などを行っていた。しかしハジメは、それらの手順や制約をある程度すっ飛ばして武器を作れるのだ。香織の『ウーベルチュール』、恵里の『ファイ/カイ』、遠藤の『ザミエル』、清水の『黒ノ書』はアーティファクト並みの性能と言われていたが、実際は名実ともにアーティファクトであった。
オズマを渡された時のユエの表情は最初は半信半疑、訝し気なものだったが、使ってみればしっかり機能するので驚いていた。
「…ハジメ、なんで無能扱いされてた?」
「戦闘職じゃないから…って言ってたな、あの人達」
「後はステータスが一般人レベルだったというのも追加で。病人であったというのもね」
「………………理由、それだけ?」
ユエが知っている範囲ではハジメの作る武器は今の時代ではオーバーテクノロジーと言ってもいい。設計図さえ残っていれば再現は可能だが、一から考えるのは不可能だ。非戦闘職、低ステータス、そんな事など些事と断言できる程に得難い人材のはずだ。病人であるならば寧ろあの手この手で延命を図るだろう。
「ハジメくんを嫌う人にとってはそんな事はどうでも良かったんだよ。どんなに薄っぺらい理由でも、あの人達にとっては聖書の一節ほどの重みになる」
「ハジメ、何したの?」
「何もしてないよ。私と恋人になっただけ」
その言葉でユエは察してしまった。二人が置かれた境遇を。
香織は紛れもなく美少女だ。自らの美貌を自覚するユエでさえそう思う。実際、原典での描写を見る限り、トータスでもあまり見ないレベルの美貌なのだろう。地球でもトータスでも異性からは好意の目で見られ、一部を除いた同性からは羨望の眼差しが寄せられる。
しかし楊貴妃やクレオパトラが証明するように『美女』という存在は争いの火種にもなり得る。それこそ国一つを滅ぼす程の。香織自身に「美しさって、罪ね」などという気障ったらしいセリフを吐く気は無いが、状況がそうさせてしまっている。
しかし、二人のやり取りを聞いていたハジメは香織を抱き寄せて口を開く。
「…何か勘違いしているようですが、香織に罪はありません。『人を愛する事すらも罪』とか、前世で何やらかしたんですか。周りを見ていなかった?余命少ない僕を捨て置いて周りを気にするような女を、僕がそもそも好きになるとでも?」
香織の顔が赤く染まる。ただのフォローかと思いきやストレートな独占欲を不意打ちのように叩きつけられたのだ。無理もない。
「あうう…ずるいよ、
「世迷い事を言うからです。
ユエはそんな二人をとても羨ましそうに見つめるのだった。
「こ れ は ひ ど い!」
「……ハジメ、ファイト」
「気楽ですねえ!お嬢さん!」
現在3人、いや、2人は全力で走っていた。ユエだけはハジメにおぶさっている。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。この階層は樹海のような場所だ。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いである。
しかしこの状況を説明するのにそれらの要素はあまり重要ではない。現在、ハジメ達は200頭にも及ぶラプトル種を思わせる恐竜の群れに追いかけられていた。オマケに恐竜達の頭頂部には向日葵に似た花が一輪咲いている。とはいえその花は可憐なだけのものではない。この状況に陥る前に何体か花を生やした恐竜を相手にした中で、あの花は一種の寄生植物の類であり、恐竜達は操られているという推測が為された。
また、香織に咲いている花とは全くの別物である事も判明している。一体香織の眼の花は何なのか。ハジメ達の中で謎は深まってゆく。タネの分からない物ほど怖いものはない。
「というか何故貴女は僕におぶさっているのですか。浮遊移動できましたよね」
「…力は温存するべき。だから仕方ない」
「あれ?貴女さっき『あまり疲れない』とか言ってませんでした?」
「……ヤツの花が…私にも……くっ」
「今年で一番分かりやすい嘘吐いてるんじゃありませんよ!」
そこでふとハジメは気が付いた。香織が先程から一言も喋っていない事に。
「香織も何か言っておやりなさい!」
「ん?そうだね。二人でイチャつける余裕があるならあの集団に突撃してきたら?」
「怒ってます?あと途方もない誤解をされている気がするのですが」
「ソンナコトナイヨー。ナカマガフエテウレシイナッテ、オモッテルヨー。あ、そうだ、探索終わりに演奏する曲は『トゥーランドット』でいいかな?」
「絶対怒ってるでしょ貴女!」
求婚してくる男達に謎かけをして、解けなければ死刑に処してしまう姫を描いたオペラの名前を出す香織。「対応を間違ったら、分かってるよね?」というメッセージが嫌と言う程伝わってくる。
ハジメが機械の身体で冷や汗を流していると背後の恐竜群団からレーザーが撃たれる。
「ッ…またですか」
実はこの攻撃は初めてではない。群れの中に機械化した個体が混ざっているのか時々こうした攻撃が飛んでくるのだ。しかも今回は数が多い。
「ユエさん、降りて下さい。この物量では被弾しかねない」
「コンダクターの言う通りだよ、ユエ。彼から離れて」
「…むぅ、仕方ない」
本当に渋々と言った様子でハジメから離れ、しかし近くを浮遊するユエ。そんなこんなで恐竜の群れと、妙に持続時間が長いレーザー攻撃を掻い潜り、目的地に辿り着く。恐竜達は自分達を一定の方向に近づけないようにしている傾向があり、そこに大元があると予測した。そしてその方角に見えるのは縦割れの洞窟。3人はそこに逃げ込み、錬成で穴を塞ぐ。
「逃走成功」
「多分ここに本体がいますね。香織、音はしますか?」
「待ってね…うん、この奥から生物特有の音がする」
香織の言葉でほぼ確信を持ったハジメ達。そして周囲を警戒しながら部屋の中央までやって来た時、緑色のピンポン玉サイズの球体が飛んできた。これがイルミネーションであれば美しいのだが、残念ながら鑑賞している余裕は無い。ハジメはセインによる掃射、香織は音波、ユエは旋回するニードルによる全方位攻撃でそれを迎撃していく。途中ハジメ達の攻撃を掻い潜り球体が取り憑いた事もあったが、花は咲いた瞬間に枯れてしまった。相手の混水摸魚戦法は失敗したようである。
ハジメ達が緑球を撃ち落としていると、奥の縦割れからアルラウネ、もしくはドライアドを連想させる魔物が姿を現す。しかも相当にご立腹のようだ。外見だけは人間を模しているとはいえ、所詮は魔物。沸点は低いらしい。
御自慢の胞子が効かない事が分かると、今度は蔓を伸ばしての実力行使を行う。しかしハジメの『重合爆発』の前にあっけなく敗北した。
「ようやく終わっ…た…?」
香織が訝し気な顔をする。どうやら演奏者の耳が不穏な音を拾ったらしい。自分達が入ってきた入り口を警戒する香織。ハジメとユエも武器を構える。
次の瞬間、入り口付近の壁が溶解し、その向こうから恐竜のような機械が現れる。頭部がレーザー砲になっており、逃走中のレーザー攻撃はコイツ等の仕業だったようだ。そして、先の戦いでアルラウネの胞子は機械には効かない事が推定されている。すなわちコイツ等は自分の意志でハジメ達に攻撃を行っていたという事だ。
そしてこの場にいるという事は、
「やっぱり撃ってきますよね」
レーザー砲による一斉射撃がハジメ達を襲った。妙に持続時間が長いのは相変わらずのようで、こちらの動きが制限されてしまう。ハジメはアストレイアによる銃撃で相手の攻撃を中断し、その隙に香織とユエが数を減らしていく。
「カオリ、離れて!」
ユエの言葉通り、香織が後ろに下がると、ユエが魔法名を発する。
『アルマゲスト』
レーザー恐竜『バイオサラマンダー』達の頭上に巨大な黒輪が現れ、付近の敵を引きずり込み、内側で闇属性の殲滅魔法が展開される。
「ユエ、凄い…」
「僕達の出番はなさそうですねー」
ハジメと香織がその殲滅力に感動していると、バイオサラマンダー達は全滅しており、ユエが得意げな、しかしどこか安堵を含む表情で振り向いた。
「…ハジメ、カオリ、私…役に立った」
それは「足手纏いではない」という宣言。道中緊張感の無い行動を取りながらも、内心はやはり不安だったのだろう。もし自分が利用価値無しと判断されて再び捨てられるような事になれば、ユエにとっては絶望だ。
「…っ!」
香織はたまらずユエを抱きしめた。ハジメに近づく彼女に威嚇しながらも、根底が心優しい少女である香織には、ユエを見捨てる気など無い。
「カオリ…?」
「大丈夫だよ。ユエを見捨てたりなんかしない。でも…」
「でも…?」
「
ユエを慈しみながらもしっかりと宣言する香織。ユエのハジメへのスキンシップは単なる仲間に対するものにしては過剰だ。しっかりと釘を刺しておかなければならない。ユエは少し寂しそうな顔をしたが、その後何やら思案する顔になる。
しかしその時周囲を警戒していたハジメが異変に気付く。バイオサラマンダーの死体がアルラウネの残骸の方に引き寄せられているのだ。
「二人とも、今すぐにここから脱出しましょう!」
ユエと香織はハジメの指示を聞き、すぐに行動に移すが、その前に出口が蔓で塞がれてしまった。いや、蔓というよりはケーブルと言った方が近い。
三人がアルラウネの方を振り返ると、バイオサラマンダーの死体が寄せ集まり、変形して機械のアルラウネが形作られていた。
「…ごめんなさい。ハジメ、カオリ」
「責める気はありませんよ。人間の思考力にも限界という物がある」
「謝るべきなのは私もだよ、ユエ。だからお相子」
ハジメ達は復活した敵へ武器を構える。敵の強さとしてはここからが本番だ。
WARNING ラプンツェル
先手は敵、『ラプンツェル』だ。蔓のようなケーブルを伸ばし、こちらを捕らえようとする。しかし香織の音波に弾かれ、逆に弓で切り刻まれる。
ハジメがアストレイアによる銃撃を放ち、セインによる『重合爆発』を発動、更にリーブラによる制圧射撃体勢に移行した。そしてユエは流動エネルギーを操り、地面から赤黒い棘で貫く技『パニッシュメント』で攻撃する。しかし耐久力も上がっているのかラプンツェルは倒れない。
するとラプンツェルは地面へと潜り、代わりに蔓やラフレシアのような花が地面から生える。オマケに花は悪臭のする霧を吐き出し、視界を遮る。
「この霧、毒ですね。僕達にとってはそれ程脅威ではないですが…」
「…ん。でも視界が遮られるのは鬱陶しい」
「ですね。香織は蔓の迎撃を。花は僕達が始末します」
「分かった」
視界が遮られても音を聞き分ける『演奏者』である香織にとっては脅威ではない。そのため、霧の中で蠢く蔓を破壊していく。細剣技やチェロの横薙ぎと弓の投擲の同時攻撃技『雷跳のフーゲ』などを使い、蔓を剪定していく。
ハジメは『重合爆発』で花を焼き尽くし、ユエはニードルを車輪のように回転させたり敵を切り刻むように旋回させたりして花を刈り取っていく。
と、雑魚を殲滅し終えたところでハジメとユエの足元から本体が強襲。二人は『超速演算』を使って回避した。ラプンツェルは蔓でハジメを閉じ込めようとするが、朱樺の斬撃により破られ脱出を許してしまう。
そこへ香織の電流を伴った刺突攻撃『狂嵐ジュンフォニー』がラプンツェルに激突する。更に香織は自分の足音なども攻撃に使用しているため、雑魚が沸いてもそう遅くない内に殲滅される。
ならばとラプンツェルは自身の体内から、爆発する虫型機械『メルトビートル』を放出するが、香織の磁力と電流の渦『磁場のロンド』により集められて殲滅される。
再び蔓を伸ばそうにもハジメのガン=カタと香織の細剣技により防がれ、逆にユエの持続ダメージフィールド『サザンクロス』により反撃を許してしまう。
「高枝切り鋏でも持っていたらもう少し楽でしたかねえ」
「どうかな。私の演奏やユエの技の方が使えるよ。コンダクター」
「これは失敬」
そんな皮肉を飛ばしながらラプンツェルを追い詰めていく。ラプンツェルは自己修復機能も持ち合わせていたが、3人の猛攻の前に再生は追いつかなくなっていった。そして、
「撃殺する」
ハジメのアストレイアの銃撃によってこの戦闘は終結した。
身体に生えた花、自由意思を奪われた魔物、そして挙句の果てには機械化という末路。ハジメ達の不吉な未来を暗示するかのような敵であった。
香織が鎮魂曲を演奏する中で、ハジメは未来を憂う。しかしユエはそんなハジメに言葉を投げかける。
「…大丈夫。カオリもハジメも…人間」
「ほう?」
「…カオリの演奏は綺麗…ハジメの絵も綺麗…それに、私達はお互いに詩や冗談を言い合うことも出来る…それは、紛れもなく人間の行動。心を失った機械や魔物には出来ない」
ハジメはユエの言葉に笑顔を浮かべる。奈落に落ちてから色々と達観した気分でいたが、自分はまだティーンエイジャーである事を再認識した。そして、人生の先輩である吸血鬼に感謝を告げるのであった。
一気にパニグレのネタが増えた話でした(笑)。セレーナの技名って中二病チックではあるけど何処か上品で好きです。そして何気にハジメ君が独力で神代魔法の領域に至っていることが判明。いや、この場合『演算』と言った方が適当か。
備忘録
オズマ:パニグレのルナの推奨武器。一応童話の登場人物でもあるが、この先同名の敵が現れるのかは不明。
バイオサラマンダー:パニグレの敵。やたらと持続時間が長いレーザー攻撃のせいでプレイヤーからは嫌われている。
サザンクロス/パニッシュメント/アルマゲスト:パニグレのルナの技。詳細はググってください。
狂嵐ジュンフォニー/雷跳のフーゲ/磁場のロンド:パニグレのセレーナ嵐音の技。詳細は(ry
メルトビートル:パニグレの敵。小型の虫型爆弾。結構シャレにならないダメージを喰らうそうな。なお、ビートルという名前だが外見はテントウムシに近い。
ラプンツェル:強化アルラウネ。名前の元ネタは確かグリム童話である。(ちゃんと調べろや作者定期)
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する