「僕が『数学者』の技能で演算して導き出した最適解。それが神代魔法の一つ、『生成魔法』だったとは。事実は小説よりも奇なりとはこの事ですかね」
オルクス大迷宮を攻略し、生成魔法を手に入れたハジメは意気揚々と武器の製作を行っていた。タブリス戦での過剰使用が祟ったのか『セイン』は壊れてしまい、修理するのも良いがここまで来たら新しく作るのもいいだろう。という事である。
独力で生成魔法の領域に達していたハジメだが、それは例えるならばインテグラル無しで無理矢理面積を求めようとしているような物だった。どれだけ最適化しても何処かに無駄が生じてしまうのである。しかし今は『生成魔法』という演算子を手に入れたため、以前よりも効率的に、精密に武器の製作を行う事が出来る。
「さて、こんなモノですかね」
ハジメは膨大な計算と試行錯誤のもと作り上げた新たな二丁拳銃を持ち上げる。名を『ゼロスケール』と言い、セインとリーブラの機能を同時に満たすほか、挿入するカートリッジによって銃身が合わせて変形するようになっている。イメージとしてはPSYCH○-PASSのドミネー○ーが近い。まさにあんな感じで変形するのである。無論ハジメ(と作者)の趣味だ。戦術性?ねぇよそんなもん。
「お、完成したか」
「ええ、何とかね。ご助力感謝しますよ。デボルさん」
「ああ、また用があったら言ってくれ」
ゼロスケールはハジメ一人で作ったものではなく、デボルやターミナルの助力を得て完成させた物だ。ターミナル曰く、デボルとポポルは自身の内在データに存在したアンドロイドを再現した結果らしいのだが、二人は現在のトータスから失われたのか、それとも外部の技術なのかは不明だが、ハジメ達召喚組にとっても知らない技術を有していた。それによって今現在のハジメでは少々無理がある技術でも武器に使う(場合によっては習得する)ことが出来た。
そして例の如く香織達を放置してしまい、拗ねられてハジメが平謝りする事態も起きている。睡眠が不可欠ではない機械の身体故に、時間を忘れてしまう悪癖は改善する必要がありそうである。因みにポポルには香織やユエの武器のアップデートを手伝ってもらった。そして彼女の治療によって身体状態は安定し、戦闘訓練の許可が下りると、ハジメ、香織、ユエの三人は訓練に明け暮れた。これから始まるのは反逆の旅である。やりすぎるという事は無いだろう。
「なんか途中から2対1の勝負になってませんでした?」
「…ハジメ、あなた疲れてるのよ」
「残念ながら肉体的な疲労は存在しないんですよ、この身体。なんでXファ○ルのネタを知っているのか分かりませんが、誤魔化されませんからね」
ハジメとユエのやり取りを見ていた香織が苦笑しながら言う。
「真面目な話、ハジメくんが強すぎて2対1になっちゃうんだよ」
「ええ、そうでしょうね。途中から攻撃が殺意高いのばかりでしたから。音響弾とかいう新兵器を作る羽目になりましたし」
二人の攻撃が容赦なかったのはハジメが強いからである。断じて放置された腹いせではない…と思いたいハジメであった。少々項垂れたハジメはふと足を止める。
「…?」
「…ハジメ、どうしたの?」
「この奥、まだ僕達の知らない部屋がありますね」
「本当だ。この壁の向こう側に部屋があるね」
香織も『反響定位』により隠し部屋の存在を看破した。ハジメはオスカーの遺体(推定)から回収したマスターキーに相当する指輪を翳してみる。すると壁が動き、奥の空間が現れた。
「ほう…?」
「
その中は様々な道具やそれを使って創作したと思われる作品が数多ある空間だった。ハジメにとっては貴重すぎるサンプルなので色々と見て回る。墓荒らしと大差ない事をやっているが、状況が状況なので大目に見て欲しい所である。因みにオスカーの遺体(推定)は埋葬してある。なおその時の会話だが、
「とりあえずこの遺体を埋葬しなければ」
「…ん。畑の肥料」
「やめて差し上げろ」
「ターミナルの言う通りだよ、ユエ。タブリスなんて配置する酷い人だけど、それじゃただの死体遺棄だよ」
「違う、そうじゃない」
「概念人格にツッコミ入れられるってある意味才能ですね。ちゃんと墓石作って弔いますよ」
という物だった。タブリスは配置されたヒュドラが天使化したものなので厳密にはオスカーの意志ではないのだが、それを現代の人間は知る由もない。
とにもかくにも使えるものは何でも使うハジメ達。オスカーの工房を物しょk探索していると、時々変な物も見つけた。例えば『ドラゴン殺せる剣』なる武器とか。しかし最たるものは部屋の一角に安置されていたどう見ても『メイドロボ』としか形容しようのない人型だった。
「これ、メイドさん…?」
「…ん。メイドのゴーレム」
「作りかけみたいですね。しかしなんだってこんなモノを…」
オマケにこのメイド、無駄に作り込まれている。それこそハジメ達の試行錯誤の集大成『ゼロスケール』と同じ波動を感じるのだ。
「オスカーさんって…」
「…ん。重度のメイドスキー」
若干呆れている女性陣を他所に、ハジメは無言でメイドを見つめていた。
「コンダクター…?」
「ハジメも…メイド、好き?」
やや不穏な反応をする女性陣にハジメは答える。
「まあメイドが好きなのは否定しませんが、僕が着目したのは…」
ハジメはメイドロボの目を指差す。最初は怪訝な顔をしていた女性陣だが、メイドロボの目が微かに瞬いている事に気付く。そして彼女達はハジメが反応した理由に納得する。ハジメは『死んでいるように見えて微かに生きている』存在や『嘗ての息吹を残す廃墟』が好きなのだ。以前の自分に重ね合わせているのか、それとも元からそういう感性なのか、それは本人にしか分からないが。
「とりあえずデボルさんとポポルさんに助力を頼みますかね…大丈夫ですよ。ほったらかしにはしませんから。多分」
前科二犯が言っても説得力が無いが放置するのも違う気がしたので、二人はハジメの傍を離れない事を条件にメイドロボの修理を許すのだった。
結論から言うと、ハジメの判断は正解だった。このメイドロボはパニシングの侵蝕を受けており、放置していればいずれ侵蝕体として暴れ出す可能性もあったようだ。
「見つけてくれて助かったわ。寝込みを襲われたら大変だもの」
とはポポルの言である。とにもかくにもメイドロボの修理が終わり、後は起動させるだけとなった。ハジメがパニシングのエネルギーを注ぎ込むと、機械のメイドが起き上がる。メイドは無表情に周りを見回すと、無機質な声で口を開く。
「おはようございます」
「おはよう。今の状況は分かる?できれば貴方についても教えて欲しいのだけど」
ポポルが話しかける。メイドは少し首を傾げて口を開く。
「回答:私を修理したのはあなた方であると推測。感謝します」
そしてそのまま少し静止し、また話始める。
「私は、何者かによって開発された人型随行支援ユニットであると推定。しかし、私のログに、製作者らしき存在はいません。推測:何らかのアクシデントによる、製造計画の凍結」
どうやら彼女の意識が覚醒したのはこの部屋に放置された後らしい。その時オスカーが生存していたのか、それとも死亡していたのかは不明だ。
「…あなたの名前は、何?」
今度はユエが問いかける。メイドは再び首を傾げた。その様子は可愛らしくもあるが、やはりどこか機械的だ。
「私に名称は存在しません。推奨:本随行支援ユニットを識別するコードネームの考案」
名付けを要求されるのは二度目である。しかし今度はハジメではなく香織が思いついたようだ。
「ミュオソティス…というのはどうかな」
「みゅおそてぃす…?」
「私達の世界の言語で、勿忘草っていう意味。こうやってお話しできるようになったなら、もう忘れたくないし、私達の事を忘れて欲しくないから…」
忘却は神の慈悲であるという。しかし誰にだって忘れたくない物も存在する。特に香織はセイレーンとなってから『自分』を忘れかけた。彼女にはそうなってほしくない、もしくは『忘れたくない物を作ってほしい』という願いが込められていた。
「いいんじゃないですかね」
「…ん。私も異存はない」
それを受けて再びメイドが口を開く。
「受諾:本随行支援ユニットの名称は、ミュオソティスです。要請:私の管理者の情報、及び行動目的の開示」
ハジメ達は自己紹介とこの世界の現状、そして自分達の目的が元の世界への帰還である事を話す。ミュオソティスはその間ずっと静止していたが、聞いていないというわけではないようだ。
「個体名南雲ハジメ、白崎香織、ユエの行動目的を把握しました。提案:本随行支援ユニットが使う武具の製作」
「え…?もしかして、ついてくるつもりですか?」
「肯定:私の素材は金属です。多少どつかれた程度では張っ倒されませんし、多少フルボッコにされても問題なく動けます」
なんか急に饒舌になったミュオソティス。機械的ではあるが、最初と比べると人間臭い。おそらく起動直後は警戒していたのだろう。しかしハジメ達が味方だと分かると「自分役に立ちますよ」アピールを始めた。この手のロボット物の話では感情が皆無というのが定石だが、オスカーの同居人として作られたのなら、ある程度土台となる設定はされているのかもしれない。一人称が「本随行支援ユニット」と「私」で安定しないのも、人間性が皆無という事ではない表れかもしれない。
「…とりあえずいくつか武器を作ってみますから、それを使ってみてからの判断ということで」
ハジメは目の前の無機質なメイドロボの迫力に気圧されながら武器の製作を承認した。『無言の圧力』という言葉が存在するように、無機質の気迫という物も存在するのである。そしてその間ミュオソティスは香織やユエ、デボルとポポルとの会話を望んだ。
「なるほど、先程も聞きましたが、あなた方は異世界から誘拐され、奈落に落とされ、そして帰還を望んでいる」
ミュオソティスは香織達の話を聞いていた。しかしそれは同情も侮蔑も無い、ただの『情報』を処理する機械のようだった。
ミュオソティスは感情に左右されない。夢などという不確かなものに揺さぶられる事も無く、平常心を失う事も無い。その本質は『道具』であり、そこに感情は不要なのだ。彼女の存在意義は主の利となる事、害を排除する事である。先の『随行支援』の提案も「戦力を増強した方が効率がいいから」という一点のみで採用された。
しかしミュオソティスはその性質に反して寡黙というわけではなく、寧ろ饒舌でさえあると言える。オスカーがそのように設定したのか、それとも眠っている間に芽生えた性質なのかは不明だが、時に非常に人間臭い行動を取る事もある。例えば、香織の演奏に対しても全くの無反応というわけではなく、メロディーに合わせて軽く揺れたりもしていた。
寧ろ寡黙なのはユエの方であり、なぜか完全な人工物であるミュオソティスの方が口数が多いという現象が起きている。感情があるのか無いのか、いまいちよく分からないゴーレムだ。
「とりあえず色々な武器を持ってきましたけど、アイスブレイクは終わりましたか?」
と、そこにハジメが銃や刀剣などの武器を持って入って来る。香織は演奏を中止し、ユエはミュオソティスから逃げるように離れた。どうやらユエの苦手なタイプらしい。
「私の提案に対する行動を感謝します。早速、試験運転へと移行します」
「ちょっと待ちなさい。この狭い部屋で振り回そうとするんじゃありません」
ここに持ってきたのはハジメだが、まさか即座に振り回そうとするとは思わなかったのである。ここである程度選別し、試運転はタブリスとの戦闘があった部屋でやるつもりだったのだ。しかしこのメイドロボは首を傾げるだけなので、ハジメは種々の武具と一緒にミュオソティスを引きずっていった。
その様子を見ていた香織とユエは「案外アホの子なのかしらん?」と思いながらついていった。
結論から言うと、ミュオソティスに不得手な武器は存在しなかった。もう少し正確に言うならば、多少の差異は有れど全ての武器をそつなく使いこなすのだ。オマケに戦闘力も高い。三人の内一人とタイマン勝負すれば互角どころか善戦する事もある。
製作者と思しきオスカーがどんな用途を考えていたのか不明だが、このメイドは戦闘メイドの類らしい。
「マスター、私に最も適した武器はこの大砲のようです。これとアームに取り付けた銃を所望します」
そしてこの戦闘で自分に最も適した武器を選択し、更に自分の身体を改造するつもりなのか、「腕にブレードを仕込んでもいいかもしれませんね」などと言っている。パニシングに侵蝕されていたミュオソティスに昇格者になる事を勧めたハジメ達だったが、彼女は即座に承諾した。因みに紆余曲折あってハジメ達に対する呼び方は「マスター」に落ち着いている。
そこからはミュオソティスが旅に同行するのは確定事項となり、後は本人の要望もあって武器のアップデートやら身体の改造やら、ハジメとデボルとポポルは大胆かつ繊細な作業をこなしていった。何というか、起動直後に比べて大分図々しくなったミュオソティスであった。しかし彼女の要望は全てハジメ達の旅の効率を上げるための物だった。そのため香織もユエも嫌な顔はしなかったし、ハジメは芸術家魂に火がついて嬉々として作業をしていた。
その後、全ての工程を終えたハジメが香織に食べられ(意味深)、ユエにも食べられてしまった。「まだ考えていたのですが…」と落ち込むハジメに対し、「…香織の許可はもらった。ヘタレなハジメが悪い」と一蹴するユエ。それから毎晩夜戦を仕掛けてくるユエに対し、根負けしたハジメが、
「分かりました。最低な成り行きで言っているのを承知で言いますが、お付き合いさせていただきます!」
と音を上げた。作戦が成功したユエがしてやったりな顔をしている。香織は止めるどころか推奨する側だったので、正真正銘ハジメの孤軍奮闘だったわけである。やや強引ではあるが、こうでもされなければなんやかんや理由を付けて『二股』という選択肢を遠ざけ続けただろうことは本人も自覚していたため、結果的には良かったのかもしれない、と思う事にした。因みにターミナルはミュオソティスの改造が始まった辺りから「用事がある」と言って隠れ家から外出していた。本当に用事があったのか、それとも隠れ家で起こる騒動を察知して逃げたのか、真実は本人のみぞ知る…
そして二カ月後、ハジメ達は地上へと出る。
「では、準備はいいですね?」
ハジメが少しだけ前に出て2人と1体の方を振り返る。今のハジメの服装は黒のインナーに黒のロングコート、下には黒のズボンというある意味ではシンプルさの極致とも言えるものだ。機能性と外見の流麗さを合わせた結果『シンプル・イズ・ザ・ベスト』に落ち着いたらしい。何処か退廃的にも見えるが本人は気に入っている。
武器の方も改良と製作を重ね、様々な
「私はいつでも大丈夫だよ、コンダクター」
香織の服装も奈落に落ちる前とは変わっており、ハジメとのペアルックを意識したのか黒い服に黒のスカートというこれまた退廃的な外見である。
武器は『ワルドマイスター』と『オディリア』で、チェロとヴァイオリン、それから楽器の弓による細剣技を使いこなす。更には音波による広域殲滅も得意としており、ハジメが武器庫なら香織は歩く音響兵器だ。
「…ん。私も大丈夫」
ユエは出会った時と同じ白い衣装に身を包んでいる。SF作品のパイロットが着ているような服なので体のラインが出てしまっているが、部分的に布のような物で覆われているため問題は無いだろう。
武器は金属粒子を流動エネルギーに乗せて攻撃する『オズマ』で、多種多様に変形し、ユエをサポートする。それこそ敵を穿つ刃にも、自身を守る盾にも出来るのだ。
「機体状態、異常なし。いつでも出撃可能です、マスター」
最後の一人、ミュオソティスはスタンダードなメイド服だが、最も目立つのはその手に持つ大砲だろう。『ガラティア』という名を持つその武器はガトリングガンにも強力な一撃を放つ大砲にも、敵を薙ぎ払う大剣にも変形する。更にスカートの中には『セイン』と同一の銃を取り付けたアームや大量の手榴弾を隠しており、攻守にわたって隙が無いメイドだ。
デボルとポポルは治療やメンテナンス専門であり戦闘力は低いため、旅には同行しない。有事の際にはターミナルが開発した転移装置で隠れ家に戻ってこれるようになっている。
ハジメは香織、ユエ、ミュオソティスを見る。これから始まるのは危険な反撃の旅だ。昇格者の武器や力は地上では異端であり、地上の人間達が黙っているという事は無いだろう。兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性もある。更には人間だけでなく神すらも敵に回しかねない。
しかしハジメ達には目的を諦めるつもりは無い。立ちはだかる物は全て排除し、地球へと帰還する。
「では行きましょうか。思い知らされる
昇格者達の反撃が開始された。
というわけで新キャラ、感情があるようで無いようで少しある(?)メイドロボ『ミュオソティス』です。名前の由来は本文の通りです。基本的な戦闘スタイルはパニグレのカレニーナを思い浮かべてくれれば。
備忘録
ゼロスケール:パニグレのリー乱数の武器。だが今作ではドミ○ーターのように変形する。
ガラティア:パニグレのハカマの武器。本来は大鎌だが、諸事情により大砲へ変更。元ネタはピグマリオンの妻で、彫像から人間になった女性と思われる。
服装:香織はセレーナ嵐音とほぼ同じだが、右目に花が咲いている事と、青の部分が白となっているという差異がある。ユエはルナ銀冠とほぼ同じ。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する