※この作品は『人形タチハ世界最強』本編をある程度読了している事が前提の話です。
開始早々脈絡が無くて大変申し訳ないが、ハジメはハイリヒ王国の王都にいた。
「はい……?」
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何度見渡しても何も変わらない。風景は奈落に落ちる前に見たハイリヒの王都そのものだ。だが、現状を夜と仮定しても不自然に静かで、一言「暗い」とだけでは表現しようが無い違和感に満ちていた。見る限り住人が存在せず、機械と化しても存在する本能が「この世ではない」と告げている。
「なんか悪くないですね。こう言うところ。居心地が良い」
デストルドーに支配されるハジメには大変過ごしやすい場所だが、喜んでばかりもいられない。仮に自分が死んだとしたら香織達が悲しむし、感情とは矛盾するがハジメも現世にやり残したことがある。
「変わった奴だね。こんな陰気な場所を気に入るなんて」
何処からともなく声がした。ハジメは反射的に聞こえた方向に銃を構える。やや声が低い女性のような声は、少なくとも自分には聞き覚えの無いモノだ。
「悪いけど、殺意を向けられて喜ぶ性癖はしてないんだよね。まあ、遠慮なくぶち殺せるっていうのは、喜んでもいいのかもしれないけれど」
銃口を向けた屋根の上にいたのは、セミロング程の白髪を暗闇に輝かせる女……女?
「失礼を承知で聞きますけど、貴方、男ですか?」
「あ、凄い。初見で僕の性別分かるんだ。珍しいね」
「勘です。強いて言うなら、同類の匂いがしたからでしょうか?」
「匂いで判断してんの? 気持ち悪」
「比喩表現に決まってるでしょう」
「冗談だよ」
……何だろうか。発言からして危ない奴である上に、胡散臭さが天元突破した人物と会話をしているというのに妙な小気味の良さを感じるハジメ。警戒を怠るわけにはいかないが、とりあえず話が通じる人物であることは間違いない。相手の服装もいやに現代的であるし、ハジメ達と同じく召喚された地球人かもしれない。
「とりあえず名前だけ聞いておきましょうか」
「銃口は向けたままなんだね。まあいいけど。僕の名前は
「ご丁寧にどうも。僕は南雲ハジメです。南の雲に、後はカタカナです」
「そっちこそご丁寧に」
お互いに名前の紹介が終わったところで、内心で二人してこう思った。
((コイツ絶対人間じゃない))
性格が、という意味ではない。霊長類ホモサピエンスではなかろうという事だ。ハジメは機械特有の美を持っており、時雨とやら名乗る人物はこの世のものでは無い空気を醸し出している。特に後者。フゥーっと息を吹けば、冬のような冷気が漂ってくる。
「貴方は一体何者なんです?」
「聞くのは止めた方がいいんじゃないかな。仮令未来から来た殺人ロボットでも、僕の正体を知って生きている者はいないからね」
「本当ですか?」
「嘘」
時雨はペロッと舌を出して答える。無表情だが、前髪で隠れていないその左眼には揶揄うような雰囲気があった。時雨自体線が細い上に舌も小さい。髪の長さと顔面偏差値も相まって本当に女性にしか見えないだろうなあ、と思っている同じ穴の狢ことハジメだった。
「本当はスプリットタンにでもしたかったんだけどね。周りに止められた」
「なんだかんだ似合いそうではありますけどね。て、貴方の舌事情はどうでも良いんですよ。正体教えてくれません? 無理にとは言いませんが」
「はん。アンタさては良い奴だね? ただまあ、一つ言わせてもらうなら、教えるのは吝かじゃないんだ。怪異というのは得てして知られたがりだからね。秘密は探求に飢えている」
……どうやら遠回しに教えてくれたらしい。要するに、時雨という人物は怪異や物の怪の類という事だろう。しかし、時雨の話はここで終わらない。
「だけど気を付けなよ? 僕達は強い『呪い』によって生まれた者だ。さっきは嘘と言ったけれど、その内に本当になるかもしれない」
「………」
「好奇心がものの見事に猫を殺したのだとしたら、気を付けないとね。仮令、禁忌が快感に変わろうとも」
時雨の表情は変わらない。しかし、何処か笑っているようにも見える。やはり、人間にはできない表情だ。ハジメはややあって答えた。
「なるほど、人ながらにして猫のように生きるには、決死の覚悟でなければならないようですね……肝に銘じておきますよ」
それを見た時雨は鼻で嗤って呟く。
「良い笑顔で何言ってんだか……」
時雨はハジメが浮かべているのが自殺志願者特有の表情であることを見抜いていた。何故なら彼の恋人が同類だから。ハジメは彼女よりはマシとは言え、同じ波動を感じるのである。
「じゃあこっちも一応聞いておこうかな? アンタの正体は何」
「人間の形をした機械ですよ。とある病でこうなってしまいましてね」
「ああ、やっぱり。病ってのは予想してなかったけど」
「へえ。驚かないんですね」
「似たような奴を一人知ってるからね」
「なるほど」
やはり小気味の良い会話が続く。本質的に相性がいいのだろう。
「そして、これからどうするつもりです? 僕は仲間の元に帰りたいのですが」
「まあ、この空間からの脱出は前提条件だろうからね」
「一応聞きますけど、貴方がこの空間の主とかいうことはないですよね?」
「違うよ。でも良い着眼点だ。可能性は潰しておかないとね」
疑ったのに褒められてしまった。やはりこの人物とは付き合いやすいと感じるハジメ。
「それで、貴方は?」
「とりあえず僕は恋人を捜したいな。家デートしてたらここにいてね。知らない内に自殺に走らないか心配だし」
「急に親近感が湧いてきました」
「では親近感が湧いたところで、アンタは僕を手伝ってくれるの? それともくれないの? もし仲間とのしがらみがあるなら言ってよ。人に信念を裏切らせるのは得意なんだ」
「親近感が恐怖感に変わっていきますね……まあいいです。今の言葉で気が付いたのですが、僕の仲間が巻き込まれていないという保証はない。貴方を手伝うついでに僕の仲間を捜すのも手伝ってくれませんか?」
「ふーん。別に良いよ」
実にあっさりと交渉が成立する。まずはお互いの捜し人の特徴を伝えることにした。
「貴方の愛する人はどのような方なのですか?」
「別にジェンダーレスに配慮しなくていいよ。普通に女の子だから」
「そうですか」
「特徴はそうだね。重くて面倒くさくて可愛い女かな」
「魅力的ですね」
「外見的特徴は……そうだね。赤髪赤目で、結構小柄って事かな。名前は
「僕がデ○ノートとか持ってたらどうするんです?」
「それはそれでアイツ喜びそうなんだよな」
「なるほど。分かりました」
「そっちは?」
「現状可能性が高いのは僕の恋人である白崎香織という少女です。宿で近くに居ましたから」
「どんな子?」
「強く、美しく、文学的で音楽的な女性です」
「良い女だね」
「黒髪ロングに黒い衣装。右眼に花が咲いています。あとは楽器の類を持っている可能性が高いです」
「見つけたら殺そうか?」
「残念ながら彼女は自殺志願者ではないので」
「了解」
二人が実にスムーズに、間に地の文を入れる隙が無い程に情報交換をしていると、妙に金属的な足音の群が近づいてくる。二人(二体?)が目を向けると、球体型の頭部を持つ金属の集団が侵攻してきていた。
「何あの鉄屑」
「アレは機械生命体。『花』が生み出した自動人形です」
「お友達?」
「友好的な個体もいますが、あれらは敵です」
「じゃあ、殺さなきゃね」
時雨はいつの間にか出現させていた大太刀で居合の体制を取る。そして一瞬で薙ぎ払ったかと思えば燕返しの要領で蛇行する斬撃を飛ばした。そして、滑るような斬撃に乗り、敵の懐に入り込んだと思えばこれまた一瞬で敵の群れを切り裂く。
時雨の剣術の一つ。〝黒夜行〟であった。
「お見事」
「全部一人でやっちゃっていいかな?」
「そうしてもらえれば楽ですが、僕の立つ瀬が無くなりそうなので加勢します」
ハジメはそう言うと二丁のゼロスケールを構え、数発の弾丸を発射する。放たれた弾丸は貫通と跳弾を繰り返し、敵の悉くを殲滅していった。
「へえ、やるね」
「貴方もかなりの腕ですね。相手を殲滅し殺す事に特化した剣技に、尋常ではない殺意……顔に似合わずかなり物騒な方ですね。本当に何者です?」
「あんまり人を喰ったような言い回しはしないほうが良いよ? 気付いたら自分が喰われてる……なんてことになりかねないから」
どの口が言うのだろう……とハジメは思ったが、口には出さなかった。結局自分に返って来そうであったし。微妙に気が合う二人はハジメが敵の残骸から物資を回収した後に仲間を捜しに歩いた。
ツッコミ不在の恐怖。この二人って会話させたら面白そうだなって思ってたら案の常でした。
私のオリジナル作品である『東京災禍』のURLは下記です。
https://syosetu.org/novel/316736/
備忘録
時雨:『東京災禍』の主人公。文字通りの意味での殺人鬼。暗い女が好きらしい。作者からしても何考えてんだかよく分からないヤツ。武器は大太刀(時々小太刀)
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する