人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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今回は字数的には短めです。しかし情報量は中々ですよ。


死神ヲ纏ウ悪魔ノ勧誘

「やれやれ、この大陸に足を運ぶだけで一苦労じゃのう」

 

 『部分竜化』による黒い翼をはためかせ、人気のない山中にて独り言ちる黒装束の女性がいた。彼女の名は(ティオ)、竜人族を纏め上げる『九龍衆』の一柱だ。『勇者』の調査のために人間族の国を訪れたはいいが、九龍夜航船からは距離が離れており、かなりの長時間を飛行するはめになるのだ。完全に竜化すれば効率がいいのかもしれないが、パニシングとの相互作用で制御が難しいのである。意思を持たぬ殺戮兵器になる趣味は彼女には無かった。

 

(しかし、今は機械の身体であることに感謝するぞえ。以前であれば到着先で眠らねば疲労は回復せぬじゃろうからな)

 

 多少の不便はあったとしても、それを補う程の利益がある。だからこそ、彼女は昇格者となったのだ。しかし眠る必要は無いにせよ、流石に疲れたので休憩していく事にした廷。煙管を取り出し、一服している。

 煙を三回ほど吐き出した時、何の前触れもなく背後から攻撃が飛んでくる。攻撃自体は少し動いただけで躱したが、折角の一服を邪魔された廷は不愉快そうに後ろを向く。

 

「……無粋者めが」

 

 攻撃者は銀髪碧眼の女だ。白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っており、ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。オマケに白い翼を生やして重さを感じさせずに飛んでいる。

 

「〝神の使徒〟として、主の盤上より不要な駒を排除します」

「そんなことじゃろうと思うたわ。真、不本意じゃが、お主らの顔は親の顔より見たからのう」

 

 不愉快そうな表情を崩さずに返答する廷。美しいが無感情な〝神の使徒〟は廷の不快指数を上げるだけであったらしい。

 

「減らず口もそこまでです。貴方の無駄な足掻きはここで終わる」

「やってみるがよい。やれるものならのう」

 

 神の使徒は無言で双大剣を構え、常人には捉えられない『神速』で迫り、振り下ろす。しかし廷は焦りもせずに煙管でその攻撃を受け止めた。その結果に神の使徒は訝しむ。

 

(何故斬れない……)

 

 神の使徒が使う大剣には魔力や物質を問答無用で分解する魔法が付与されている。本来であれば少しの抵抗も許さずに目の前の女を両断しているはずであるのに、自分の攻撃は武器ですらない煙管によって防がれている。

 

「お得意の分解魔法じゃろう? とうの昔に対策しておるわ」

「っ!?」

 

 廷の言葉と共に横薙ぎの斬撃が神の使徒を襲う。咄嗟に離れると、煙管を持っていたはずの廷は柄の両端に刃のついた槍を装備していた。

 

「どうした。種が尽きたかえ?」

「……あまり調子に乗らない事です。貴方の武器が如何に高性能であれ、真の神の使徒である私の敵ではない」

 

 神の使徒は銀翼から分離した羽で魔法陣を形成し、

 

「〝劫火浪〟」

 

 発動された魔法は天空を焦がす津波の如き大火。どうやら、属性魔法も使えたようだ。うねりを上げて頭上より覆い尽くすように迫る熱量、展開規模共に桁外れの大火。超広範囲魔法であり、辺り一帯を昼と見紛うほどに照らす大規模なもの。神の使徒は勝利を確信しながらも、油断はしない。この事は主に報告しなければならない。自分達の分解魔法を正面から防ぐ方法を開発したなど由々しき事態だ。

 しかし、そんな神の使徒の腹部を刃が貫く。正面には槍を持つ廷の姿があった。

 

「な…ぜ…」

「あの程度の魔法を防げぬとでも思うたか。木偶よ」

 

 廷は自分の槍に足を振り下ろし、梃の原理で神の使徒を打ち上げて横薙ぎの一閃で両断する。上半身と下半身を分断され、相手の死亡を確認する廷。すると彼女の槍が発光し、煙管へと戻った。

 

「やはり量産型か。華胥(カショ)の肉体にはなり得ぬ」

「ならば貰っていいですか? それ」

 

 自身の独り言に答える声に顔を向ける廷。そこには先程屠った使徒と同じ顔をした女が浮いていた。しかしさっきの相手と違うのは持つ武器が廷とは違うタイプの槍という事だ。

 

「何じゃジュダか。別に構わぬよ。使う充ても無いしの」

 

 この使徒はドライツェントという名も持つが、廷はこの名を呼ぼうとはしない。分解魔法の対策を提供した事に感謝はしているが、やはり神の使徒の名を呼ぶのは嫌なのだ。

 しかし廷はこれ幸いと質問をする。

 

「お主、確か王城勤務じゃっただろう。召喚されたという勇者について教えてくれぬかえ?」

「それを調べるためにわざわざこんな所まで来たのですか? まあ、質問に答えるなら、貴方の脅威にはなり得ない、というのが最適ですね。そこの量産型にも及びませんよ」

 

 ジュダは量産型の死体を回収しながら会話をする。イヴは勇者についてはそれ程評価していない。無論、人間の中では強い方だし、昇格者とすれば更なる力を得る事が出来るだろう。だが精神性が未熟すぎる。アレに力を与える気にはならない。

 

「なるほどのう。しかし局面が動くのは事実じゃ。人間、魔人、そして我ら竜人と深人の同盟。この三者が鼎立する可能性がある以上、調べるに越したことは無かろうて」

「そんなこと言って……本当は物見遊山の口実が欲しかっただけでは?」

 

 廷は否定も肯定もしない。ただ煙を吐いただけである。ジュダはやや呆れながら会話を再開した。

 

「……こちらに充てはあるのですか?」

「まずはブルックという名の街に行こうと思うておる。加百列(ガブリエラ)の知り合いがおるそうじゃからの」

「加百列の? ああ、クリスタベルですか」

「あ奴らの珍妙な集まりも、存外役に立つ」

 

 そこまで会話した所で、死体の回収が終わったイヴが出発の準備をする。

 

「では、私は仕事に戻ります。また機会があれば会いましょう」

 

ジュダはそう言って飛び立つ。残された廷はもう少し煙を吐いてから出発することにした。

 

 

 

「……!」

 

 その兎人族が目を覚ましたのはベッドの上であった。周りに目を向ければ赤髪の二人の女が病室を動き回り、医療器具らしきものの手入れをしていた。そして自分が目覚めた事を認識すると誰かを呼びに行った。

 暫くすると病室に一人の男が入ってきた。えらく中性的で顔だけを見れば女性にも見える。間違いなく『未来視』で見た人物だった。だとしたらもう少女に迷いはない。

 

「お願いです! 私の家族を助けて下さい!」

 

 

 

 ポポルから知らせを聞き、ダルタニアンに取り込まれていた少女の病室を訪れたハジメは、いきなりの要請に少々面食らった。とりあえず敵対の意志が無い事は分かったが、それ以外が全く分からない。

 

「あー……とりあえず落ち着いてください。無理かも知れませんけれど。とりあえず名前でも教えてくれません?」

「ごめんなさい……私はシア・ハウリアと言います。実は……」

 

 椅子を取り出して少女のベッドの隣に座るハジメ。「家族を助けてくれ」などと言われても事情が分からない限り判断がつかない。説明を促すと、シアと名乗る少女は泣きながら事情を説明した。

 

彼女の話を要約するとこうだ。

 

シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

ハジメとしては「折角生まれた希少種なんだから、殺すんじゃなくて有効活用すればいいのに」などと考えていたが、口には出さなかった。

 

故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、とうとう彼女の存在がばれてしまった。普通なら樹海を出るしか選択肢は無い。しかし、彼らを保護する者達が樹海内に存在したのだ。

それは平和的な機械生命体のコロニーで、『パスカル』という機械が中心となって村を作っていた。一族はその村に逃げ込み、機械達に匿われていた。しかしシア達を狙う亜人族達は機械生命体の村までたどり着いてしまった。

 

パスカルは亜人達と交渉するが、決裂。しかし、これは亜人達が血に飢えているわけではなく、単純にパスカル達が信用ならなかったのである。何故なら機械生命体とは基本的に魔物と同じ『外敵』であり、寧ろパスカル達が特異的に過ぎるだけだからだ。シア達を引き渡せば見逃す、という内容ではなく、ハウリアもパスカルの村も殲滅するという考えであった。

和解は不可能と判断したパスカル達は亜人達と闘う判断を下す。平和主義を掲げてはいるが、攻撃に対して抵抗しないわけではない。緊急時の為に存在した武装で亜人達を一度は退けた。

しかし亜人達とパスカルの村は決定的に対立してしまい、樹海内に存在する敵性機械生命体など、予断を許さぬ状況が続いている。

 

そして彼女の固有魔法である『未来視』を使ったところ、ハジメ達の姿を見た。そして助けを求めて単身動いたところ、パニシングに感染したのである。

 

「お願いです。助けて下さい。私達には他に頼るすべはなく、パスカルさん達は本来何の関係も無いはずなのに、私達のせいで危険に晒してしまいました。助けてくれるならなんだってします。奴隷にだってなります。だから、お願いします!」

 

 ハジメとしては答えは決まっている。目の前にいる昇格者候補、樹海の案内人の確保、そして初めての友好的な機械生命体。動かない理由が無い。

 

「いいでしょう。僕は貴女達を助けます」

「……っ! 本当ですか!」

「ただし、貴女が僕達の戦力に加わる事。これが条件です」

「私はその条件を呑みます。本当に……ありがとうございます……」

 

 シアは泣きながらお礼を言った。

 

 

 

 話を終えたハジメはシアの病室から出ると、香織が微笑みを携えて待っていた。

 

「良かった……君が優しさを失っていなくて」

 

 ハジメは怪訝な表情を浮かべる。

 

「他人の弱みに付け込んで自らの利とするように誘導する。世間一般ではこれを悪魔か詐欺師というのですがね」

「頭ごなしに見捨てるような事はしなかったでしょう? 暴走していたとはいえ、敵対したのに」

「……」

 

 ハジメは少し間を置いて発言する。

 

「動く価値はある。そう判断しただけですよ」

「そうだね。そういう事にしておこうか」

 

 ハジメは複雑そうな表情をして「武器の修復をしてきます」と言って去っていった。

 その様子を見ていた香織は彼に聞こえないように独り言ちる。

 

「シア……だったかな。あの子には、恋人ではないにせよ、コンダクターの生きる理由になって欲しいな」

 

 そして香織は俯く。

 

「コンダクターはまだ、タナトスの誘惑を振り切れていないのだから」

 




何かサラッと原作ハジメの行動に対してアンチが入った気がする(笑)。まあ今作の味という事で。
全ての二次を見たわけではないけど、原作と真逆で『死の欲動』に取りつかれるハジメ君は今作だけではなかろうか。
あと強キャラ感が半端ないティオさんですが、個人的にこの小説を書き始めたきっかけとして「ティオをマジの強キャラにしたらどうなるんだろう」という好奇心もありました。

備忘録

深人族:竜人族と同盟を結んでいるらしいが、現時点では詳細不明。

ガブリエラ:パニグレではなくDOD3より参戦。

パスカル:NieR: Automataより参戦。原作でも外敵に対しては攻撃している。

シア:ヒロインになるかは未定(ならないような気がする)。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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