人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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昨夜に深夜テンションで書いたから破綻していないか心配である。一応確認はしたが……

あと、多少の設定変更をしました。詳しくは活動報告にて

ついでにタグをちょっと変えました。


公共ノ敵

 そこには金属の直方体があった。魔法の使えない処刑場であるライセン大峡谷、360°自然の風景に囲まれたこの場所にポツンと佇む人工物。随分とシュールな光景である。古代文明の遺したオーパーツか、はたまた一枚岩(モノリス)の親戚か。

 

「ちゃんと赤潮は無くなってますね」

 

 直方体の側面が開いて人が出てきた。黒コートに中性的な顔、この物語の主人公、南雲ハジメである。

 

「便利だね。どこ○もドアみたいで」

「あくまで拠点とつなぐだけなので、あちらほど汎用性はありませんがね」

 

 続いて出てきたのは喪服と見紛う黒装束で、右眼に白い花が咲いている少女、ハジメの恋人の白崎香織だ。

 ここまで書けばもうお分かりかも知れないが、この金属の直方体はハジメ達の転移装置である。オルクスの隠れ家での治療やメンテナンスのためにターミナルが開発したものだ。

 

「……でも、すぐに戻ってこれるのは便利」

「肯定」

「ほえぇ……どこに私を運んだのかちょっと疑問でしたが、転移装置なんてものが……」

 

 続いてハジメの二人目の恋人であるユエ、戦闘メイドロボのミュオソティス、そして今回のキーパーソンであるシアが出てくる。

 

「全員揃いましたね。では行きましょうか」

 

 ハジメは全員が出てきたことを確認すると『宝物庫』に装置をしまい、パニシングのエネルギーで動く四輪車を出した。エネルギー源はここに広がっていた赤潮である。

赤潮は、謂わばパニシングウイルスの一つの進化形だ。液体のような形質ではあるが、本体はウイルスである。すなわち、『餌』を用意すればおびき寄せる事も可能であり、然るべき『入れ物』を用意すれば勝手に住み着く。そうしてハジメはこの辺りの赤潮を除去し、エネルギーに転用したのだ。因みに餌は魔物の魔石から作った異重合核であり、入れ物は浸食された鉱石の容器である。

 

「? どうしました? シアさん」

 

 四人が乗り込む中、シアは心配そうな表情で佇んでいた。

 

「あの、先程皆さんにお伝えしていなかったことがあって……ここに向かう途中で帝国兵達に出会ったんです。一度捕まりそうになって、身体が変異するのも構わずに無我夢中で逃げたのですが……」

「まだ残っているかもしれない、と」

 

 帝国人のような人間族にとってシアのような亜人は奴隷にする対象だ。この辺りにいた理由は訓練なのか巡回なのか不明だが、シアを格好の的と見たのは間違いない。とはいえシアの話が本当であれば、目の前で異合生物に変異したようだし、余程の馬鹿でもなければ撤退しているのでは? と思いかけたが、ハジメは異常現象に対する調査という事で帝国兵が再び赴いている可能性もあると考えた。

 

「まあ、いたらとりあえず文明的に話してみましょうか。決裂したら……それはそれで方法はあります」

「でも、そうしたらハジメさん達は帝国兵達と、人間族と敵対することになってしまいます。その時、敵対できますか?」

 

 シアの心配は尤もだろう。『未来視』の結果とは言え、やはり不安ではあるのだ。おまけにシア達にとってはパスカルという本来であれば何の関係も無い機械を巻き込んでしまった前科もある。徒に闘争が拡大してしまう事は避けたいという心理も働いていた。

 しかしハジメは特に表情も変えずに口を開く。

 

「問題ありません。貴女がいようがいなかろうが、いずれは敵対する可能性もありますし」

「え……?」

「エーリッヒ・フロムの著作『革命的人間』の一節でしたか……『楽園を追放された人間は、歴史への道に出ていく事を強いられたのである。神話の用語でいえば、人間は帰ることを許されない。実際は人間は帰る事が出来ないのである』。僕達の状況を端的に説明すればこうなりますね」

「え……? え……?」

 

 ハジメは「詳細を知りたければ行きながら話します。なのでとりあえず乗ってください」と促し、彼女が乗ったところで四輪車は発進した。

 

 

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんも香織さんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

 上記のセリフを口にしながら滂沱の涙を流して号泣しているのはシアである。「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ハジメ達が自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

 そして一頻り泣いた後、冷静になって気付いたことを言う。

 

「あれ? 私、『助ける条件は僕達の戦力に加わる事』と言われた記憶があるんですが……」

「言いましたね」

「つまり、世界を敵に回すかもしれない反撃の旅についていくという……」

「そういうことですね。つまり貴女は僕の口車に乗せられたわけです」

「なんってことしてんですかぁ! こんな、いたいけな美少女を騙すなんて! 今更拒む気はありませんけど! でもやってることが詐欺師ですぅ!」

 

 しかしながら自分達のような境遇の者を助ける人間など、やはりハジメ達のような稀有な集団しかいないだろうことは分かっているため、口では詐欺師だ何だと言いながらも内心では途轍もなく感謝している。しかしそうなると新たな懸念事項がシアの中で生まれていた。

 

「でも、私戦闘能力は殆ど無いですよ? なんなら『役立たずシアです!』って名乗れるくらいには弱いんですが……」

 

 どこぞのミーハーな三級呪術師のようなセリフを言うシア。しかしハジメは予想済みだったのか、とある物を宝物庫から取り出す。

 

「これは?」

「貴女が暴走している間にへし折ってくれた僕の武器です。修復するより新しいの作った方が早かったですね」

「え、えぇ……私そんなことを」

「……ん、シアは力が無いわけじゃない。後は制御が出来るようになれば大丈夫」

「その話を進めるためにも、早く依頼の方を済ませねば」

 

 ハジメはアクセルを踏み込んだ。因みにこの四輪車、色合い等はサイバーパンクのそれだが、全体的なデザインは19世紀辺りを連想する、謂わばスチームパンクな物だった。ハジメの趣味が全面的に出たものであり、香織が少し苦笑いしたのは別の話である。

 

 

 

そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。香織が〝反響定位〟で視る限り、中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 

「ここからは歩きですね」

 

 ハジメはそう言って四輪車を宝物庫にしまう。階段を上る最中、シアは終始不安そうな表情をしていたが、香織が鼻歌という形で精神鎮静化の音を聞かせていたため、いくらかは落ち着いている。

 そして、遂に階段を上りきり、ハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。登り切った崖の上には……

 

「おいおいマジかよ。異変の調査って事で仕方なく来ただけなんだがなぁ~。こりゃ良い土産が出来そうだ」

 

 三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。

 だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするようにシアを見る。

 

「小隊長! 件の兎人族ってアレじゃねえすか?」

「確かに特徴と一致するな。味見出来ないのは残念だが、まあ連れて帰ってからたっぷり可愛がってやるかねえ。殺された仲間の分も、な」

 

 帝国兵は、兎人族を完全に獲物としてしか見ていないのか、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線をシアに向けている。シアの怯えたような表情なのが原因か、戦闘態勢を取る事も無い。

 シアの盾になるように立ち、「不愉快な物を見た」と言わんばかりに溜息を吐くハジメ。

 

「あぁ? お前ら誰だ? 兎人族……じゃあねえよな?」

「人間ですね」

 

 素通りは無理か、と思い会話に応じるハジメ。厳密には人間ではないが、訂正の必要もないので人間を名乗る。

 

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

「申し訳ありませんが、それは不可能です。彼女にはこれから僕の監視下で働いてもらわなければ。奴隷の所有権は最初に見つけた者ではなく、最初に手にした者が得る。人間の法をお守りくださいな」

 

 ハジメ達の立場を勝手に結論付けて、上から目線で命令してくる帝国兵。粗野な国とは聞いていたがここまで横暴とは、本当に文明人か? と割かし失礼な事を考えたハジメ。だがまあ、彼らは現時点では合法の範囲内で話しているに過ぎない。こちらから攻撃する必要は無いと判断していた。

 一方、思ってもみなかった発言と正論に顔を顰めた帝国兵達は……

 

「……小僧、口の利き方には気を付けろ。痛い目に遭いたくねぇならさっさと兎人族と他の女共を渡せ」

「……それは法から外れた脅迫と解釈してよろしいですか?」

「ああ? 全く、話の通じねぇ餓鬼だな! 良いから黙って俺等の言う事を聞けや!」

 

 最早苛立ちを隠そうともせずに武器を取る。ハジメを殺し、シアと香織達を奪うつもりらしい。

 

 しかし……

 

「〝零度〟」

 

 ハジメに斬りかかった瞬間、身体に力が入らなくなり倒れ伏す男。一瞬にして体温を奪われたのである。

 何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達だが、すぐに構えを取る。前衛組が剣を持ち、後衛が呪文を唱える。人格面は褒められたものでは無いが、実力は本物らしい。

 だが、それはあくまで人間達の間の話だ。

 

「香織、少々『演奏』を聞かせてあげて下さいな。ユエとミュオソティスでは彼らの首がもげる」

 

 ハジメの言葉と共に、香織がチェロを弾き始める。『演奏』という名の暴力が帝国兵を襲う。

 

「な、なんだ……」

「あ、頭が……痛え!」

「おぇぇぇぇぇ!」

 

 この音自体に殺傷性は無い。しかし香織のチェロから発生し、〝演奏者〟の技能で何倍にも増幅された絶対不快音は兵士達の体調を壊していく。数刻後には頭痛に悶え苦しむ者、眩暈で立つことすら出来ない者、胃の内容物を吐き出す者が量産された。

 もう兵士達に用は無い。そもそも最初から無かったが。

 

「もう、もうやめてくれ! 頭がおかしくなっちまう!」

「では僕達を付け狙わず、存在を秘匿することを約束してくださいな。それとも第二楽章の演奏を依頼しましょうか?」

 

 交渉という名の脅迫である。字面だけ見ればこの上なく優雅だが……

 

「わ、分かった! 約束する! もう付け狙わないしお前らの事を誰にも言わねえ! だからこの演奏を止めてくれ! さっきから、胸まで……」

 

 どうやら不整脈まで引き起こしているらしい。この地獄から一刻も早く抜け出したい帝国兵達はハジメの要求を呑む事を約束し、苦しみの演奏会から解放されたのだった。

 

「ご清聴ありがとうございました」

 

 演奏を止め、優雅にお辞儀をする香織。マナー違反という罪状で不快音を聞かされた帝国兵にとってはこの上ない皮肉であったという。ついでにシアも震えていた。暴走中の記憶は無いが、大音量で一時的に封殺されたことを身体は覚えていたらしい。

 また、ハジメもここまでひどい惨状になるとは思っていなかったため、内心では冷や汗をかいていた。

 

(香織を怒らせるのはやめよう……)

 

 と全員が思ったとか。

 

 その後、今回遭遇した帝国兵達は揃って奴隷や楽器を見る度に動悸と眩暈と吐き気が止まらなくなり、生活にかなり苦労する羽目になったのは余談である……

 

 

 

 帝国兵とのいざこざを無事死者を出さずに(死にかけた者は何人かいたが)乗り越えたハジメ達は引き続き樹海に向かっていた。その中でハジメは溜息を吐く。

 

「どこに行っても公共の敵(パブリックエネミー)か……」

 

 最初は病気による差別だった。それを逆手にとって合法的なテロリストを気取った。香織と恋人になってクラスメート達から嫌われた。トータスに来てからはステータス面で差別を受けた、更には帝国兵とも……思えば周りから好かれたことはあまりない。おまけにこの後は亜人族と対立する羽目になる。『忌み子』であるシアを連れている以上、避ける事は出来ないだろう。

 花に嵐の喩えもある。さよならだけが人生か……

 

「僕ら人間について、大地が万巻の書より多くを教える。理由は大地が人間に抵抗するがためだ……この場合は大地ではなく他人か……」

「サン・テグジュペリの『人間の土地』かな? コンダクターが読んでいた本の中でも、テグジュペリの著作は読んでることが多かったよね」

 

 ユエは二人の会話に聞き耳を立てる。トータスの人間であるユエにはその本の内容は知らず、また転移前のハジメの生活についても知らない事が多かった。今の関係も、トータスに存在する1システムに則ってゴリ押したに過ぎない。ハジメや香織の事をもっと知らなければならないと感じていた。

 そんな中で、香織がハジメの肩に頭を乗せる。

 

「公共の敵、ね。相も変わらず少し偽悪的だね、君は。私は君のそういうところも好き。飾らない言葉に私自身が救われた事もあるし、救いになった人もいる。でも、同時に少し嫌いでもあるの。君が一歩、死に近づいているような気がして」

「……」

 

 ハジメは何も答えず、肩を貸し続けた。一体何を答えられるというのだろう。〝セイレーン〟の一件以降、香織が死を恐れているのは間違いない。しかし人間は勿論、昇格者においても死が存在しない事は有り得ない。だから香織は怯え続けるしかない。

 だが、そんな恐怖から解放したのはハジメの内に巣食う死神(タナトス)だった。死に怯えながら旋律を奏でる少女に、許容という名の安らぎを与えたのは事実なのだ。だから香織は死の欲動を警戒しながらも、それが完全に消える事を望まない。

 

 希死念慮に蝕まれる少年と、生を()き、死を(はじ)く少女。一種の共依存とも言えるだろう。動脈と静脈のように、斬っても切り離せぬ関係だ。

 

 ユエはその様子を見て、もし叶うなら、自分が二人の緩衝材になりたいと思っていた。この二人は危険すぎる。どちらに傾いても、いい結果を出すとは考えにくい。だから、自分が二人を生かすのだと、改めて決意した。

 




「あれ? なんか私忘れられてません?」
「肯定:私もです」

最後の会話に置いて行かれたシアとミュオソティスであった。


 今回はシアや帝国兵とのやり取り、ハジメと香織の共依存、ユエの決意の三本でした。一応香織とハジメを書くに当たってモチーフにしたものの一つに『動脈と静脈』があります。生かそうと酸素を運ぶ赤い動脈が香織で、死に惹かれて二酸化炭素を内包する黒い静脈がハジメです。ユエは心臓の役割ですね。
 社会有機体説の延長みたいな考え方ですが、個人的にこれがしっくりきました。シアもこの集団におけるなにかしらの役割を得る事になりますし、ミュオソティスは『人間の定義』みたいなところに絡んで来る予定です。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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