あと、Twitterにも書きましたが、ヘーゲルとキルケゴールの思想がマジで難解です。ダレカタスケテ
「クソッ! なんだこれは!」
現在、【ハルツィナ樹海】に住む亜人達は、同じく樹海内にある機械生命体の村を襲撃していた。目的は忌み子とその一族の排除と外敵の討伐だ。この村の村長を筆頭とする機械生命体達は平和主義者であり、話せば分かるタイプの相手なのだが、機械は外敵であると認識する亜人達にとっては関係ない。忌み子も機械もこの手で討ち滅ぼさなければならないと、彼らはそう思っている。
一度目の攻撃は機械達の武器によって阻まれた。しかし元は平和主義の機械達。武器は手入れこそしていたものの、度重なる襲撃に対して十分な装備があるかと聞かれれば、答えは否だ。亜人達の消耗が回復し、再び攻め込まれれば、今度こそ村は滅ぼされてしまう。そして二度目の亜人達の襲撃が開始され、機械達が決死の覚悟で武器を取った時、異変は突如として起こった。
「これは、一体……」
樹海の木々が根や枝を伸ばし、亜人達と村を分断するように壁を作る。そしてそのまま村を囲むように防御網が展開された。有り得べからざる光景に、村長のパスカルは声を上げる。敵か味方か分からないその現象に機械達が警戒する中、彼らの目の前に赤い服の少女と赤髪の女二人が現れた。
「パニシングは使い方さえ間違えなければ便利だな、ターミナル。植物までこうも改造出来てしまうなんて」
「調子に乗らないの、デボル」
ターミナルと呼ばれた少女は二人の女を見ながら声を出す。
「この防壁の性能はどうなってる?」
「少なくとも亜人達の攻撃じゃ壊れない。掠り傷が関の山だ。オマケに傷ついた所からどんどん再生していくぞ?」
「ほう?」
「最終手段、焼かれたって大丈夫だ。機械化した木はそう簡単に燃えないし、あっちが強行手段に出るならこっちだって赤潮でもばら撒けばいい」
それを聞いた少女は中年の男の声で愉快そうに笑う。
「パーフェクトだ、デボル」
「そうだろそうだろ痛!」
「何がパーフェクトなのよ……こんなもの作って。管理はちゃんとしなさいよ、デボル」
ポポルがデボルの頭をはたく。不法侵入してきた赤い三人が漫才のような会話をしていると、パスカルが話しかけてくる。
「貴方達は一体……?」
その問いに赤髪の女が答える。
「ちょっとした援軍だよ。私達の後に、もう何人か来るけどな」
「貴方達は外から? ではシアの、私達の娘の行方は、ご存じありませんか!」
「うわっと! 落ち着けって、ちゃんと話すから」
デボル達が樹海の外からの来訪者であると分かると、濃紺の短髪の兎人族の男が切羽詰まった様子で話しかけてきた。『娘』という単語から自分達が治療した少女の親と分かり、ポポルが事情を話す。
「シアさんは無事なので安心してください。私達は、彼女の依頼で駆け付けました」
ポポルがそう言うと、兎人族の男はあからさまに安堵した表情になる。シアの話を聞く限り、未来視で見えた瞬間にここを抜け出したようだから、家族はひどく心配していたのだろう。男も、娘を探しに無計画に外に飛び出せば事態を悪化させるだけだという事は分かっていたために何もできず、歯がゆい思いをしていた。
ターミナル達がハジメ達よりも先に樹海に来ることが出来たのは、偏にこの三人がデータの集合体であるからだ。物質世界への干渉は多少制限され、パニシングが無ければ高度な行動は出来ないが、その分自由が利く事も多い。ハジメ達と違って、転移装置無しでも任意の場所にテレポートする事は十分に可能なのである。
「シアに感謝しろよ? あの子がいなかったら、今頃全員お陀仏だったんだからな」
「はい、それはもう……しかし、何故貴方達は私達に手を貸してくれるのでしょう? 私達を助けるメリットが分からないのですが……」
「心配は要らない。こちらも打算があっての事だ」
ターミナルとて、トータスの全ての機械生命体の動向を把握しているわけではない。ターミナルは機械の一ネットワークから形成された概念人格に過ぎず、他のネットワークの事は知りようが無いし、誕生した後も機械達のコミュニティは分裂、進化している。我々人類に世界政府が存在しないように、ターミナルもまた機械生命体の全てを掌握しているわけではないのである。
それ故に意思疎通の取れる機械生命体の発見と保護は優先される。戦闘にせよ物資生産にせよ、味方が多いに越した事は無い。
「さてと、後は亀の到着を待つとするか」
ターミナルは武具の製作等をデボルとポポルに依頼し、パスカルと対話をする傍ら、ハジメ達の到着を待つ。
・・・・ ・- ・ーーー ・・ -- ・
「ターミナルから通達が来ました。ハウリア族と機械生命体の村を保護したそうです」
「よ、よかったですぅ……」
ハジメがターミナル側の事情を説明すると、シアは安堵した表情になった。家族の無事が確認された事は勿論だが、シアはパスカル達機会生命体の事も心配だった。機械達が魔物と同じような『外敵』と認識されている事は亜人だろうと人間だろうと変わらないのである。『意思を持つ機械生命体がいる』などという話は信じてもらえないかもしれない、という懸念があった。
しかしハジメ達は意思を持つ機械達の存在にはあまり驚いていない。何故ならターミナルという概念人格が存在する以上、機械が意思を持ち得ることは自明だからである。
「そうであれば、こちらも早く樹海へ向かわねば」
ハジメはアクセルを踏み、スピードを上げる。道中襲ってくる魔物や敵は香織やユエ、ミュオソティスが対処している。だがハジメがスピードを上げ過ぎると、すかさず香織とユエから注意が入る。追われているならともかく、ターミナルのおかげで猶予ができた今の状況で無闇にスピードを出す必要は無いからだ。
「ほえ~、道中で話してくれましたけど、本当に香織さんとユエさんと付き合ってるんですねえ」
「……ええ、そうですね」
「え、あの、もしかして聞いちゃいけない事でした?」
ハジメの反応が芳しくなかったのに気が付いたシアは、地雷を踏んでしまったのだろうかとあたふたする。しかし、ハジメは「個人的な事情です」とシアに笑いかける。
ハジメは忘れられないのだ。自分の欲の為に傷つけてしまった一人のピアニストの少女を。ユエを恋人にするのを躊躇っていたのもこれが大きな理由であり、いくら地球ではないとはいえ、感情的に納得できない部分があったのだ。
香織がユエの行動を許したのは、奈落の底で過ごした中でユエが自分達に必要だと感じ、同じ女としてユエの気持ちも理解できるから。そして地球人の倫理観を異世界人であるユエに押し付けないためである。
(非情になりきれれば楽なのでしょうがね……どこまでも、中途半端だ。無闇に他人を傷つけるような真似を香織に窘められたのも大きいですが)
ハジメが優花に残酷な宣告をした翌日、病室に来た香織にこの事を話したら、ハジメの行動を窘められ、ついでに泣かれた。ハジメの目的は自分の死を以て多くの人々に爪痕を残す事だったが、香織にとってそんなことはどうでも良かった。この世の誰もがハジメの事を忘れても香織だけは忘れない。
ハジメの目的も哲学もある程度は理解しているが、そのためだけに徒に他人を傷つけるような真似はしてほしくなかった。香織はそう言って泣いた。ハジメにとって香織に涙を流されることほど応える事は無い。
そんなハジメの内心の自嘲が聞こえたようにユエが口を開く。
「……ここは地球じゃなくてトータス。ハジメへの恋を諦めた子には同情するけど、顔も知らない誰かのために遠慮はしない」
「…………」
「……罪と呼ぶなら呼べばいい。恥と言うなら言えばいい。否定はしない。でも、私はハジメの恋人になった事を後悔はしていない」
「……ええ、そうですね。僕は、貴女個人を見るべきだ」
ハジメは改めて決意した表情で前方を見据える。『生きて』いるのは自分だけではない。恋人と言う関係になった以上、彼女達の生を肩代わりするという事でもある。自分の行動を善だと言う気は毛頭無いが、ユエの覚悟を蔑ろにする事だけは許してはならない。ハジメはそう自分に言い聞かせた。
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それから暫く車を走らせて、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。
「それでは皆さん、中に入ったら決して私から離れないでください。万一はぐれたら大変ですから。行先はひとまずパスカルさん達の村で宜しいですね?」
「ええ、異存はありません」
シアが、ハジメ達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。ひとまずはターミナル達やシアの家族、パスカル達と合流しない事には話が進まない。
シアは続いて言葉を発する。
「それと、出来る限り気配は消してほしいです。他の亜人族の方々に見つかると厄介なので……」
シアはお尋ね者だ。見つかった時点で面倒は避けられない。
「ええ、承知しています。全員、ある程度は隠密行動できますから」
「敵ならば排除すれば良いのでは」
「……無駄に血を流す道理も無い」
「そうだよ、ミュオソティス。闘うのは最終手段」
ミュオソティスが機械特有の合理的な思考回路で物騒な事を言うが、ユエと香織に窘められる。このあたりも後で教えなければ、と思うハジメ。
そんなやり取りの後で、香織の技能で音と気配を消す。
「!?」
シアが少し驚いた表情をするが、これには訳がある。元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。この技能だけであれば地上にいながら奈落の魔物達に匹敵すると言えば優秀さが伝わるだろうか。
しかし香織が弓を振った瞬間に、ハジメ達の気配を認識できなくなった。兎人族の索敵能力をもってしても見失いかねないのである。ハジメ達は人間でありながら自分達の強みを凌駕されたのだ。自分は本当にハジメ達に並び立てるのか、と一抹の不安を抱えながらも提言する。
「あの、すみません、もう少し気配を濃くしていただけると……ここまで薄いと私でも見失っちゃいます」
「あ、ごめんね。よいしょ……こんな感じかな?」
「はい、結構です。それではいきましょう」
シアの号令と共に準備を整えた一行は、シアを先頭に樹海へと踏み込んだ。しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、シアの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。
順調に進んでいると、突然シアが立ち止まり、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。無論、ハジメ達も気付いている。シアは緊張の表情を浮かべるが、ハジメは無造作にゼロスケールを取り出して何発か発砲する。当然、音は無い。
ドサッ、ドサッ、ドサッ
「「「キィイイイ!?」」」
直後に三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊りかかってきた。
しかしユエが手を翳すと、三匹の猿は刃に貫かれる。オズマを変形させた刃が敵を刺殺したのだ。
「あ、ありがとうございます」
「まあ、思ったよりは弱かったです」
「凄いですね……」
その後も、時々魔物に襲われたが、ハジメとユエとミュオソティスが静かに片付けていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかった。余談だが、ミュオソティスのスカートの中からナイフやら銃やら色々取り付けたアームが出てくるのにシアが驚き、ハジメ達に質問したが、ハジメ達もよく分かっていないので答えに困った。なお、香織は気配と音を操作するのに専念してもらったため、戦闘には参加していない。
しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、ハジメ達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。シアはせわしなく耳を動かし索敵する。そして何かを掴んだのか、顔を青ざめさせた。
ハジメ達も相手の正体に気が付き、特にハジメは面倒そうな表情をしている。「人生を支配するのは幸運であり、英知にあらざるなり、か」となにやら悟りを開いているが、そんな悠長な事を言っているハジメにシアは正気を疑うような顔をするが、指摘する前に接敵した。
その相手の正体は、
「お前……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。
いつにも増して短いですが、一回ここで切ります。
ハジメと香織とユエの関係ですが、今作は「傍から見たらハーレム状態でも、本人達からすればそれほど単純な問題ではない」というのをしっかり描きたいと思っています。私自身ハーレム作品は書くのが苦手で、ありふれのヒロインの扱いは哲学書の解読以上に悩んでいたりします。
昨今の小説ではハーレム展開も一般的になりつつあり、ヒロインが主人公に好意を抱いて割とすぐに侍るという展開も多く見受けられます。それが悪いとは言いませんし、それはそれで気分がいいのでしょうが、書いてる側からすると単純につまらないし、繰り返すとマンネリ化します(個人の感想)。なのでハーレム展開に見えて、実は本人達それぞれと他人から見た視点が違っていたり、ヒロインも主人公も苦悩したりする、というのが今作の恋愛模様です。
因みにターミナルの「パーフェクトだ」は中の人ネタです。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する