人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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話が細切れですみません。原作よりキャラも話し合う事も多いから整理しながら書くと此処で切らざるを得ないのです……


利用スル者/サレル者―乙

 濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む。行き先はフェアベルゲンだ。ハジメと香織、ユエ、シア、ミュオソティス、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いている。どうやら、先の伝令は相当な駿足だったようだ。亜人族の身体能力が高いというのは本当らしい。

 

 しばらく歩いていると、突如、霧が晴れた場所に出た。晴れたといっても全ての霧が無くなったのではなく、一本真っ直ぐな道が出来ているだけで、まるで霧のトンネルのような場所だ。よく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。

 

 ハジメが、青い結晶に注目していることに気が付いたのかアルフレリックが解説を買って出てくれた。

 

「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は〝比較的〟という程度だが」

「なるほど。四六時中雨や霧が続くと鬱病の発症率が上昇するというデータもありますし、納得ですね」

 

 どうやら樹海の中であっても街の中は霧がないようだ。暫くは樹海の中にいなければならなかったので朗報である。他の面々も、霧が鬱陶しそうだったので、二人の会話を聞いてどことなく嬉しそうだ。

 

 そうこうしている内に、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも三十メートルはありそうだ。亜人の〝国〟というに相応しい威容を感じる。

 

 ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。周囲の樹の上から、ハジメ達に視線が突き刺さっているのがわかる。人間が招かれているという事実に動揺を隠せないようだ。アルフレリックがいなければ、ギルがいても一悶着あったかもしれない。おそらく、その辺りも予測して長老自ら出てきたのだろう。

 

 この世界では亜人は人間に差別されているが、亜人から見た人間というのもベクトルは違えど、そう大差は無いのかも知れない。別にそれの善悪について論じる気はハジメには無いが、面倒な事だと溜息を吐く。

 

 門をくぐると、そこは別世界だった。直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。

 

 ハジメ達がポカンと口を開け、その美しい街並みに見蕩れている。ハジメに至っては絵を描くために位置取りをしようとしている。すると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしくアルフレリックが正気に戻してくれたようだ。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やシアも、どこか得意げな表情だ。ハジメは、そんな彼等の様子を見つつ、素直に称賛した。

 

「センス・オブ・ワンダーという奴ですね。レイチェル・カーソンの言っていた事が初めて理解できた気がしましたよ。美しい街だ」

「空気も美味しいし、私は此処に住みたいな」

「ん……綺麗」

「マスター、センス・オブ・ワンダーとは何ですか?」

「言語化するのは困難ですね。敢えて言うなら、『神秘や不思議さに目を見張る感性』でしょうか。ミュオソティスにも、そのうち分かる時が来ますよ」

「そうですか……」

 

 掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよく振っている。

 

 ハジメ達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

―・-・ --- -- -- --- -・ ・・・ ・ -・ ・・・ ・

 

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 現在、ハジメ達は、アルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、ハジメがオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

 アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。

 

 日本の神道の八百万信仰のようなものだろうか、とハジメは思った。『一神教と違って自然発生した宗教という印象があり、不自然さによる悪寒は感じないな』などと、地球やトータス全域を敵に回すような思考を弄ぶハジメ。

 

 ハジメ達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。まあ、口伝などだいたい抽象的なものなのかもしれないが。

 

 【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、僕は資格を持っているというわけだ」

 

 アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、機械生命体の件も合わせて今後の話をする必要がある。

 

 ハジメとアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシアとミュオソティスが待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、シアを睨みつけていた。

 シアは部屋の隅で縮こまり、ミュオソティスがシアを護るようにガラティアとスカートの中から生えた銃を握ったサブアームを展開している。ミュオソティスには余程の事が無い限り武器を展開しないように言ってあるため、これだけでただ事ではないという事が分かる。

一応、虎人族の者達はハジメの死神のような目と強さを覚えていたために、周りを止めようとはしたが振り切られてしまったようだ。

 

 ミュオソティスはハジメ達に気付くと、非常に端的に情報を提供してくれた。

 

「報告:亜人達の敵対行動を確認。要請:対処方法の指示」

 

 ミュオソティスは既に戦術回路を起動させようとしている。一言殲滅の指示を出せば、昇格者としての戦闘能力を発揮し、この場を蹂躙するだろう。

 ハジメは周囲を見渡して彼女に指示を出す。

 

「現時点では攻撃の必要はありません。しかし、武器の展開は継続したままでお願いします。指示を出した時に即時戦闘に移行できるように」

「受諾:了承しました」

 

 言われた通りに武器を持って警戒するミュオソティス。

 周囲の亜人達はハジメ達に気付くと一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? 兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

 あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメを睨む。

 

 フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

 アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

 ……というより、忌み子を排除するというのも掟の一つなのだろうが、リューティリスという神代魔法の使い手の存在がありながら、何故このような掟が制定されたのか地味に疑問である。

 オマケに亜人族達は忌み子の排除という掟には従っておきながら、口伝の方は軽視しているらしい。無論、亜人とて感情はあるし、この状況だけを見てとやかく言えるほどハジメは亜人族については知らないが。

 だが、この状況だけを切り取るなら、掟とは絶対的な法律のようなシステムではなく、長老達の匙加減で決まる恣意的な物であるかのようにハジメの目には映っていた。

 

(醜いな……)

 

 基本的に冷静沈着な愉快犯であるハジメにしては珍しく、この状況を明確に不快だと思っていた。パニシング関連の被害者という仲間意識もあるだろうが、彼はシアを気に入っていたし、仲間として受け入れたいと思っている。

 そのような人間に対し、自身の感情の胸先三寸で扱いを決められるというのは、ハジメを以てしても不愉快極まりないのである。

 

 とにもかくにも、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。最早理屈など有って無いような物なのかもしれない。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 ミュオソティスだけは戦闘態勢を取ったが、ハジメが手で「介入の必要無し」と合図を送る。その様子を香織とユエだけは目視していた。

 

 そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。

 

 亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シアと傍らの香織達以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となったハジメを幻視した。

 

 しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

―――ドパンッ

 

 ハジメが指でコインを弾き、それを銃撃すると、熊人族の男の前に煙幕が張られ、距離感を見失った男の拳はハジメには当たらずに空を切る。

 コインの正体は遠藤も使っていたアーティファクト『ザミエル』だ。当初は雑談の種でしかなかったのだが、作ってみたら意外にも使い勝手が良かったので自分用にも作ったのである。改良の結果、魔力ではなく衝撃によって作動するようになっている。

 

「くっ! 何だ、これは!?」

 

 煙を払いながらハジメを探す熊人族。しかし、彼が見つける前にハジメが背後に回り込む。

 

「Q.E.D」

 

 そんな声が聞こえた瞬間に、熊人族の男の身体に力が入らなくなる。ハジメが『零度』によって相手の体温を急速に奪ったのだ。

 『これは証明されるべき事であった』そう言ってハジメは熊人族の男を無傷で制圧した。とりあえず実力者であることは証明できましたね、そんなメッセージが聞こえてきそうな雰囲気に誰も何も言えなくなる。

 

 その中でハジメは一人呟いた。

 

「やはりこの手(零度)に限るな」

 




次回からいよいよ話し合いですね。アルフレリックが何を考えているのかとか、この辺で書きたいと思ってます。
そして前回から学習して自分を傷つけない方法で制圧したハジメ君であった。

備忘録

ザミエル:遠藤やハジメが使ったコイン型アーティファクト。実は優花も使える。魔力や衝撃で起動し、種類によって爆破、煙幕、光線などの多彩な攻撃や妨害を実行できる。予備動作が少ない、一度に大量に持ち運べるなど利点が多く、ネタ武器のつもりがそこそこ活躍してしまった。

そしてこれは宣伝なのですが、ハーメルンに新作を投稿しました。良かったら読んでいただけると有難いです。そして感想も……

https://syosetu.org/novel/294974/

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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