人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 百話記念にかこつけて、こちらの続きも投稿する三文小説家。もはや需要があるのか分からない、完全なる自己満足ですが、よろしければご拝読なさってください。

 そして、どうか元作品の方にご感想を……お願いします……


東京災禍クロスー乙 私ノ彼ハ殺人鬼

 現実で同年代の少女に会う事が難破だとするならば、異空間で同年代の少女に出会う事が有ればそれは上陸だ。

 

「彼女は……誰?」

 

 白い蝶を纏うコンダクターを追いかけて不思議の異空間に迷い込んだ香織は、ハートの女王と見紛う緋い少女を見つけた。しかし、一見して彼女にはハートの女王のような独裁的な空気は感じられない。むしろ、迷い込んだアリスは彼女ではないかと錯覚した。

 

 だが、このゴーストタウンのような異空間にて初の変化である。あの少女がどのような存在であれ、一度は接触してみなければなるまい。香織は遭難した航海士が陸地を見つけたかのように話しかける。

 

「あの、すみません」

「はい?」

 

 香織が話しかけると、緋い少女はやや警戒しながら振り向いた。当然ではある。異空間で突如話しかけられたら、まず疑うのは敵の存在だろう。香織だってそうだ。

 

「信じろとは言いませんが、敵ではありませんよ。敵ならこんな風に声なんてかけません」

 

 その言葉に、相手は少し警戒を解いたようだ。

 

「ふふ、確かに。でも、油断させてさっくり……でも良かったのになぁ。と、ちょっと残念でもあります」

 

 外見年齢は中学生か高校生くらいだろうか。とはいえユエの前例があるのであまり当てにならないかもしれないな、と香織は思った。そんな少女が朗らかに上記のような発言をする辺り、ハジメやユエのような死にたがりは珍しくもないのか? と、遠い眼もしたが。

 

「え……と、貴方のお名前は?」

「白崎香織です。年は17」

「あ、年上さんですね。私は五月雨(さみだれ)小夜花(さやか)です。年齢は16です」

「敬語……じゃなくてもいいかな? 私が怪しいのは分かるんだけど、違和感凄くて」

 

 相手が同年代であることが判明したため、敬語ではなくする香織。ハジメのようにはいかないらしい。ただ、知らない人に話しかける時は基本的に敬語になってしまうのは現代人の性だろうか。

 

「ふふ、大丈夫ですよー。白崎さんの方が年上なんですし」

「あ、それとなんだけど、五月雨さんもタメ口で良いよ。この静寂の舞台の中で、コンチェルト・グロッソを奏でられる存在がいるのは私も嬉しいから」

 

 まだ互いに信用しきってはいない。しかし、最終的に裏切られるにせよ、それまでは二重奏(デュエット)を演奏する関係でも良いと香織は思う。だから香織は多くを求めない。不変の人間関係など有り得ないと、幼馴染との関わりで知ってしまったから。

 

「別にいいよ。信用してくれなくても。白崎さんからすれば、私がアリスかハートの女王かなんて分からないもの。私だって、白崎さんがプレイヤーかゲームマスターかなんて分からないし」

 

 楽で良いと香織は思った。初対面で信頼を強制されるよりは余程。この世界はルール有りきのデスゲームではない。プレイヤーの中にゲームマスターがいるかもしれないし、重要アイテムの傍に必ずしも罠が有るとも限らない。過半数が生き残るようにエンターテインメントとして調整されているわけでもない。

 

 そんな中で初対面でいきなり信用する事を強制してくる相手よりは余程やりやすい。処世術として信用しているフリはするべきかもしれないが、バレているのなら意味もないだろう。

 

「そう、じゃあ、そうさせてもらうね」

「人は誰もが嘘を吐く。それは私だって言い訳出来ない」

 

 或いはただ真実を話していないだけかもしれない。しかし、小夜花にとって、人間とは信用ならない者という前提は覆らないようだ。普通なら辟易するところなのだろうが、香織の感性が人間離れしてきていることの証左かもしれない。

 

「そんな人を喰ったような私から質問なんだけど、いい?」

「ああ、うん、良いよ?」

「その……私の恋人を見なかった?」

 

 その言葉に、香織は頭を殴られたような衝撃を覚えた。思えば、この異空間に迷い込んだのは自分一人だと思い込んでいたが、目の前に例が存在する以上他の人間が巻き込まれている可能性もある。具体的には直前に宿で一緒にいたハジメなど。

 

「どんな人なのか、特徴を教えてもらっても良いかな?」

「あ、はい。背が高くて、ちょっと長めの白い髪の人で、服装はパンツスタイルで全身黒。大太刀か小太刀を持ってると思う。名前は時雨」

 

 それだけ特徴が揃っているなら見れば分かりそうだと思った香織。ついでとばかりにコンダクターことハジメの特徴を教える。

 

「白い長髪に蝶の髪飾り。蝶の翅脈のような模様が入った黒いコート。武器は銃……それが貴女の恋人、南雲ハジメさんの特徴なんだね?」

「うん、五月雨さんのことを考えると、コンダクターも巻き込まれてるかもしれないって」

「確かに。私と時雨くんはお家デートしてたら此処にいたから、多分いるだろうなっていうか、いて欲しいという願いだけど」

 

 頬を赤らめて時雨の事を想う小夜花。異常事態に呑気な事だと思うかもしれないが、むしろそんな状況だからこそ拠り所を求めるのだろう。

 

「もしコンダクターが巻き込まれているなら早く見つけないと。知らない所で自殺しようとしてるかもしれないし」

「南雲さんは死にたいの?」

「死にたいというより、生きるという行為を追求するために死を観測してる感じ」

 

 香織は説明しながら相手に伝わっているだろうかと心配した。哲学でも嗜んでいない限り一般的には受け入れがたい思想であると彼女自身ですら思う。

 

「ふーん。死にたがりにも流派があるんだね」

 

 だが、小夜花は驚きも関心もせずに返事をした。そして、「死を見つめて生きる……いいかもね」と独り言ちた。香織はその様子にある種の同情を禁じえなかった。

 

「もしかして……五月雨さんの周りにも?」

「私の周りというか、私自身かな?」

 

 あまりに屈託のない笑顔で発された言葉に、香織は少しフリーズした。目の前の緋い少女は、明るく活発な印象を与える。とても自殺を考えるような人物には見えなかった。

 

「人間の世界に未練なんて無い。やり残した事も無い。何故なら私がやるべきだった事はただ一つ。生まれない事だけだもん」

 

 この少女の過去に何が有ったのかは分からない。無理に聞き出そうとも思わない。だが、香織は小夜花に、死について語るハジメと同じ美と狂気を見ていた。

 

「……私は人を喰ったような女だよ」

 

 一瞬だけ、小夜花の胸が裂けたように見えた。香織のように機械ではないが、既に人間的な感性は殆ど失われているのかもしれない。そう思わせるだけの狂気が、小夜花にはある。

 

 香織と小夜花が歩きながら話していると、機械生命体の群れが襲い掛かってきた。しかし、香織がトータスで戦った相手のような金属質な実体は感じられず、まるでデータで構成されているだけであるかのような感覚を覚えた。

 

 よく聞いてみれば、「タスケテ……」や「コワイ……」お云いながら襲い掛かってきている。記録した単語をランダムに発しているだけなのか、或いは……

 

「五月蠅いよ」

 

 しかし、小夜花は空中に跳び、飛行タイプの機械生命体を手刀で撃ち落とす。そして、その場に緋い花で足場を作り、留まった。

 

(あの花の鉄の(にお)い……もしかして血液?)

 

 敵をいなしながら小夜花の技について考察する香織。そんな演奏者を横目に、小夜花は敵に語り掛けるように話す。

 

「助けてって言うのはね? 逃げながら言う言葉なの。間違っても私達に刃物や銃を向けながら言う言葉じゃないんだよ」

 

 機械から奪った銃を、自分の(おとがい)やこめかみに向けて引き金を引く小夜花。しかし、その銃は機械に接続されていなければ意味を成さないらしく、小夜花は興味を失って投げ捨てた。

 

 そして、彼女の身体から滲み出た血液が花弁のような形を作り出す。そして、それらが小夜花の周りを舞い踊ったあと、敵は一体も残ってはいなかった。

 

「念の為聞くけれど、貴女に言葉を話す相手を殺す罪悪感は有る?」

 

 香織から向けられた問いに、小夜花は悲し気な表情で答える。

 

「そうだね。普通は罪悪感があるのが正解なんだろうね」

「ということは……」

「無いよ。正確には多少は有るけど、もう慣れちゃった」

 

 元は人間であった人外を殺す事に少しの躊躇いは有った。自分を害した同級生に反撃して食らいついた時は嫌悪もあった。だが、きっと小夜花の心は既に壊れているのだろう。足場を消して地面に降り立つ少女は、さながら死神だ。

 

「もしも未来が十億本の花を求めるなら、私は刈り取る者になる。嫌いたければ嫌えばいいよ。大半の人にはどうしても理解できない事だろうから」

 

 小夜花は凛冽とした表情を浮かべながら香織に向き合う。小夜花が身に纏う服は、全てが黒と緋で構成されていた。もしかしたら、その衣服や手袋すらも血で作っているのかもしれない。比喩でも直喩でも、きっと彼女の手は深紅に染まっているのだろう。

 

 殺人。普通なら忌避すべき事。しかし、香織は小夜花の事を嫌いにはなれなかった。

 

「ならないよ。嫌いになんて。私とコンダクターの演奏会を妨害するノイズは排除する。それは私だって同じだもの」

「そっか」

 

 二人は笑い合い、共に恋人を捜すために歩き出した。

 

「でも、五月雨さんの事は嫌いじゃないけれど、彼氏の時雨さんには少し同情するかな。同じ自殺志願者の恋人を持つ身として」

 

 その中で、香織は半分はハジメに向けた愚痴のように小夜花に内心を話す。ハジメの事は愛しているが、それはそれとして気苦労も多い。彼との演奏会ならば受難曲(パッション)喜遊曲(ディベルティメント)も奏でるつもりだが、川を見て「入水自殺にちょうどいい」とか言い始めるのはやめてほしい。

 

「それは時雨くんに言ってあげて。彼は殺人鬼で、私を殺そうとして愛してしまった」

 

 香織は手で顔を覆った。陰鬱な恋愛関係という点では香織も他人の事は言えないが、もはや青春を想起させる恋愛など物語の中にしか存在しないのか? とも思った。

 

(ユエと話が合いそうだなぁ、五月雨さん)

 

 未来を殺されて絶望し、その復讐から身を護るためにハジメを愛し、さもなくば自分を処刑するように言った吸血鬼。それに似た気配を小夜花から感じる香織。ユエ自身、純粋な恋愛感情かは分からないと零していたが、目の前の少女はどう認識しているのだろう。

 

 そんな視線を無意識に向けてしまったのか、小夜花は答える。

 

「彼が殺してくれるなら、自殺なんかしたらきっと、私は樹にされてハルピュイアに啄まれちゃうね」

「うん、仮にコンダクターが自殺したら、私はハルピュイアになって彼の肉を啄みに行くよ」

 

 小夜花もハジメも、死の甘い声に誘われ乞う。しかし、その先に存在するのは暗澹(あんたん)に映える羽を垂らして、枯れ木となった脈動を嬉々として貪る人面鳥。香織は五臓六腑、骨や皮までも食い尽くす。そんな決意を新たに定める。

 

 自分の恋人が啄みに来てくれた様を想像したのか、小夜花は頬を染めながら語る。

 

「時雨くんの事は好き。大好き。冷たい体温で私を抱きしめてくれる所も、料理したらいつも失敗しちゃうところも、幻覚に苛まれて泣いちゃうところも、全部好き……」

 

 そこまで語ったところで、小夜花は傍に雪の蝶が飛んでいる事に気付いた。

 

「え……?」

「蛍雪の功……いや、蝶雪の功、かな?」

 

 小夜花が声がした方向に振り向くと、笑っているのかいないのか、そんな表情で時雨が立っていた。

 

「迎えに来たよ。小夜花」

 

 時雨が言い終わる前に、小夜花は駆け出した。そして、時雨の冷たい身体に身をゆだねる。

 

「僕の存在、忘れられてませんよね……?」

 

 そんな熱い二人を気にかけながら、香織に近づく。しかし、こちらはハジメが香織に話しかける前に口を塞がれた。他ならぬ、香織の口づけによって。

 




 クロスした私のオリジナル作品、『東京災禍~哲学的雪女と死にたがりJKの怪異譚~』はこちらから。↓

https://syosetu.org/novel/316736/

 備忘録

人を喰ったような女:この発言の真意は元作品を読めば分かります。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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