人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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クラスメイトsideというよりハイリヒ王国side、今回で終わるかと思ったら終わりませんでした。いや、マジで何話使う気だよと。いつになったらハジメsideに移行できるのか……とはいえ今後の伏線にもなる部分なので手も抜けないジレンマ。


狂人ノ祭典

「ミゲル・ワーグナー……死亡」

 

 或る一人の女騎士が、オルニス戦における資料を読んでいた。この騎士はリリアーナの近衛騎士で、それなりの資料を閲覧できる権限を持つ。ただ、今回はそんなものが無くとも閲覧できる『戦死者リスト』であった。ではなぜ図書館の司書に業務終了を延期させてまでこの資料を読んでいるのか。それは自身の過去の教官であったミゲルの末路を確認する為であった。

 

「くっ……」

 

 女性騎士が声を漏らす。悲しんでいるのだろうか。有り得ない話ではない。ミゲルは人によっては良い教官であったのだから。

 

「くふっ……ふふふふっ」

 

 悲しんでいるわけではないようだ。彼女は資料を見て、笑い声を零していた。

 

「あの厳しかった教官が……あっさり死んだ、フフッ、しかも、こんな惨めったらしい死に方するなんて……フフフフッ」

 

 資料には、発見時の遺体はうつ伏せに倒れていたと書かれてあった。経緯については書かれていないのだが、女騎士は敵前逃亡に失敗して背中から撃たれるミゲルの姿を思い浮かべていた。

 実際には暗殺を実行した遠藤が不自然ではない位置に死体を動かした結果であり、うつ伏せであった事は偶然なのだが、女騎士はそれを知りようはずもない。

 

「散々私をいびったバツが下ったんだ……フフフッ……フフッフフフフフフッ」

 

 静かな図書室に調子はずれの笑い声が響く。陰影の加減で骸骨のようにも見える彼女の顔が、物寂しく動いていた。それはまるで、撥条(ゼンマイ)が壊れてしまった仕掛け人形のようだった。

 

「ステータスがちょっと低いからって見下しやがって……」

 

 思い出されるのは過去の日々。女騎士は初期ステータスが同級生よりも低く、そこをステータス至上主義のミゲルに目をつけられたのだ。ミゲルにとって、低ステータスの人間など神に見捨てられた存在だ。この世界の人間が亜人を差別するように、ミゲルがこの女騎士のような人間を差別することは当たり前のことだった。

 

 そして女騎士にとっての地獄が始まった。ミゲルは『修行』と称して過剰な訓練内容を施すか、あるいは雑用に徹させて活躍の場を奪った。おまけに、ミゲルに触発された高ステータスの持ち主、つまり特別扱い組が女騎士を蔑み、罵倒し、暴力を加えた。牛の膀胱で作った血糊入りの水風船を投げられた時など、本気で殺意を覚えた。

 

「ミゲルも、イジメてた奴らも、皆死んで、アハッ、重傷を負って、あははっ、私はこんなに元気なのに、どんな気持ちなんだろー? ふふふっ、アハッ、だめ、もう笑いが抑えられない。アハッあははっフフフフッフフッあははははっフフフッ」

 

 女騎士は奇怪極まる笑い声をあげていた。幾分か血走った、白目がちの狂人のような瞳で夜の闇を見回した。本来であれば、酒にでも酔ったように服を脱ぎ散らかして踊りたい気分であったが、そうする前に理性が働いたようである。

 

「この盾も出番が減ってしまいますね。もう身を護る必要など無いのですから」

 

 『味方対策』で持ち歩いていた盾。殆どの下手人が再起不能なので、大幅に出番が減ってしまった。

 

 女騎士は自分が持つ盾が、戯曲に登場する銀盆のように思えていた。劇の古井戸の中から奴隷がつき出すところの、預言者の生首が乗せられた銀盆であるかのように幻想せしめるのだ。もしミゲルや加害者の生首が乗せられていたらどうであろうか。預言者に恋心を抱く姫は恋を語りながら口づけをしたが、自分なら狂喜しながら蹴り飛ばすだろう。

 

「雫お姉様にプレゼントしましょうか……いえ、お姉様の戦闘スタイル的に邪魔にしかなりませんね。やはり自分で持っていましょう」

 

 地味に雫を慕うストーカー集団、義妹結社(ソウルシスターズ)であることが判明したが、どうやらこの女騎士の中では雫<ミゲル達の戦死であるようで、他のメンバーと比べると冷静な判断を下せている。狂っている時の方が冷静とはこれ如何に。

 

 あれこれ考えている女騎士のもとへ、一人の足音が響く。とはいえそれは彼女のよく知る人物の物だったのでさして驚いたりはしなかった。

 

「……発情期の猫でも入り込んだかと思いましたが、あなたでしたか」

「これはリリアーナ殿下、今日も麗しゅうございます」

「気持ちは分からないではありませんが、通りがかったメイドと待機している司書が怯えています。程々に」

 

 どうやら図書室の外まで声が響いていたようだ。半分呆れた視線を向けるリリアーナに、女騎士は咳払いをして姿勢を正した。

 

「それで、ご用件は何でありましょう」

「メイドや司書を怯えさせるほど元気なあなたに仕事を与えます」

「ほう、なんなりとお申し付けください。この後ベッドに入っても興奮して眠れないでしょうし。それこそ、戯曲に登場する半裸の奴隷のような格好で満足いくまで踊っても構いません」

「喧嘩売ってるなら買いますよ。王女ですから、権力はそれなりにあります」

「それとも恋する殿方の生首をご所望ですか?」

「そんな特殊性癖は持ち合わせておりません」

「では一体何を……」

「そんな品性と精神状態を疑うような命令はしませんよ。あなたにしてほしいのはとある人物の監視です」

 

 

 

「で、あなたが来たわけですか」

「ええ、私は今頗る気分が良いので、雫お姉様から意図的に離されるような命令でも喜んで従うのです」

 

 ドライツェントは目の前の女騎士を見て急速に目が死んでいた。自分達昇格者の計画のために利用しているハイリヒ王国の王女リリアーナ。対価としてハイリヒ王国の安寧を約束した協力関係である。主に、お互いに都合の悪い情報をお互いに揉み消したりしている。ちなみにエヒトの真実はドライツェント経由で知らされている。その時のリリアーナの反応は、

 

「そうですか。ついでに教会も潰してくれません? 邪魔なので」

 

 だった。ドライツェントも薄々分かっていた事だが、リリアーナに信仰心の類は希薄らしい。あの王女は基本的に国のために動いており、そのためなら何でも利用する。稀に雫などの友人も判断基準に入る事があるが、これに関しては特例と考えた方が良いだろう。

 

 とはいえ、リリアーナとドライツェントの間に親愛の感情は無い。あくまでお互いに利益があるから協力関係を結んでいるだけで、それが崩れれば裏切る可能性がある。別にそれに問題があるわけではないし、監視をつけたいと思うのも理解できるが、

 

(どうしてよりによってコイツなんですか)

 

 この女騎士から見れば5歳以上年下である雫を狂信的に慕う義妹結社(ソウルシスターズ)の一人であり、その上、発見時には戦死者リストを見てケタケタ笑っていたらしい。監視を寄越すにしても人選くらいマトモであって欲しいというのは贅沢だろうか。とドライツェントは思った。

 

「たしか今回の任務は王城を襲撃したオルニスの発生源の調査でしたよね、ふふっ、何処へ行くんです?」

「少し神山の方へ。しかし行くのは二人だけではありませんよ」

「ほう? しかしあれだけの襲撃があったのですから、動かせる人間は少ないのでは?」

「あなたと同じく暇を持て余している人間がいるようです」

 

 ドライツェントがそう言った時、二人の元に二つの小さい人影がやってきた。

 

「まさかリリィがオルニスの出処調査に僕達を寄越すとはね。それなりに信用されてるのかな?」

「利用価値があるって思われてるんじゃないの? 同じか」

 

 それは恵里と鈴だった。戦闘の可能性を考えて『神の使徒』である二人を送り出したのかと思ったが、リリアーナの

 

「この国の実態を知る事ができますよ。あなた達には教えて差し上げます。きっと、良く使ってくれるでしょうから」

 

 という言葉を聞くと、「絶対なんか企んでる」という感情になってしまうのだ。彼女は友人という存在を致命的にはき違えている部分がある気がするが、まあ恵里達も人の事は言えないので黙っておくことにした。

 

「お、いたいた。教会のシスターさんと……うわ、雫のストーカーじゃん」

「シズシズに近づく男に嫌がらせしてんでしょ? なんでこんなところにいるのさ」

 

 恵里と鈴は干上がったミミズを見るかのような視線を女騎士に向ける。曲がりなりにも親しくしている雫を悩ませる要因の一つである彼女を快く思ってはいなかった。

 

「ストーカーとは人聞きの悪い。私達は彼女の守護者なのです」

「はぁ?」

「有象無象の男共は、私達に隠れて雫お姉様を穢す。だから私達は改心の機会を与えているだけなのです」

 

 女騎士の姿勢は猫背となっていき、口だけが裂けるように笑いを作る。手は闇の中で蠢くように祈りの形になった。それはまるで、糸によって貼り付けられた蜘蛛のように思えた。

 

「神秘を暴くことは何より罪深い。価値を知る者にこそ守られるべきなのですよ」

 

 女騎士の首が徐々に傾げられる。もう少しで直角に曲がりそうだ。雫の神秘よりも先に、人体構造の神秘に触れられそうである。

 

「いや、そうやって秘密に成り切ってしまえば、それは存在しないのと同義じゃないか。結局のところ、雫本人には関心がないって事だね」

「何とでもお云いなさい。私達は雫お姉様への愛で溢れているのは変わらないのですから」

「こっちは理解のキャパシティが溢れそうだよ。で、名前はなんて言うの? 名無し女じゃ格好がつかないだろう?」

「マクリナ、と申します。良き隣人となれることを、望んでいますよ」

 

 

 

 完全に色物集団な四人だが、こうしていても仕方が無いので調査に赴くことにした。とはいえ王都はそれなりに広く、また道も複雑だ。闇雲に探しても効率が悪い。しかし、ドライツェントには心当たりがあるのだと云う。そして、彼女の案内で恵里達が辿り着いたのは聖教教会の総本部『神山』であった。

 

「え? なに? あのチキン野郎(オルニス)の出処って神山なの?」

「教皇のお爺さん、魔物と機械生命体は不俱戴天の仇みたいな感じで話してたけど、足元から湧いてるんだとしたら皮肉だね」

「これ私は見てしまって良かったのでありますか? 後で消されません?」

「大丈夫ですよ。この情報は一般には公開されていませんから、言っても誰も信じませんしなんなら教会が勝手に異端者認定して始末します」

「世知辛い世の中なのです……」

「それに、あなたの場合は同行者という名目の監視という名目の厄介払いですから何の問題もありません」

「言葉の刃やめて」

 

 現場を見た時の反応は三者三様であったが、全員に等しく驚きの感情が乗せられていた。ドライツェントが機密エリアを仕切っているであろうフェンス扉の鍵を開き、全員に入るように促す。

 

「……もしかしてドライツェントさんって結構なお偉いさん?」

「少なくとも機密エリアの一つにアクセスできる権限は持ち合わせています」

 

 恵里達視点でドライツェントがそれなりの地位を持っている事が判明した後、鈴が溜息を吐いた。

 

「斬り合いでしょ? どうせ斬り合いがやって来るんでしょ? 嫌だなあ」

「笑顔でチェーンソー振り回してるサイコパスがなんか言ってるよ」

「言わなきゃバレない事を言うんじゃないよ。元々鈴はインドア派なの。ハッキングの仕込み以外でそんなに動き回らないの」

「斬り合いになれば御の字ですよ。そうすれば私は痛みを……自己の存在を感じる事が出来る!」

「頭のおかしな奴らの博覧会じゃん! ドライツェントさんだけはマトモだと思ってたのに、あんまりだ」

 

 鈴の嘆きは礼儀正しく無視された。

 




ぶっちゃけ書いてて楽しかった。後悔はしていない。マクリナみたいなキャラって不思議と筆が進むんですよね。因みにミゲルを登場させたのはこの展開のためです。元ネタのイベント知ってる人ならニヤリとできるかも。お疲れ様、教官。

次回は多分戦闘ラッシュかな。

備忘録

マクリナ:前半の戦死者リストを見て笑っている展開は、NieR: Automataの16Dというキャラクターのサブイベントが元になっている。本作では脚色されているが、だいたいこんな感じだった。因みに選択肢でセリフが変わるタイプのイベントであり、これは一つの結末に過ぎない。あと、この女騎士の名前、地味に哲学者の名前である。

マクリナが言っていた戯曲:トータスの住人のセリフなので具体名は出さなかったが、オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』が元ネタである。

義妹結社:だいぶ作者の独自解釈が入っている。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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