人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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今回からハジメsideです。まだ序盤なのに長い長い戦いになります。マジでいつになったら完結するんだ……そして、個人的に好きなキャラであるデボルとポポルのパートが長くなっております。あの二人の悲哀や絆の形を表現できたかは分かりませんが、かなり難産でした。


依存スル弱者ー甲

 機械生命体の村にて一つの部屋で二人の人間、いや、二体の機械が目を覚ます。一体は中性的な顔をした白髪の男の機械、もう一体は右眼に花を咲かせた黒髪の女の機械。正確には女の機械は一足先に夢の世界から目覚めていた。そして、男の機械も目を開く。

 

「おはよう、コンダクター」

 

 女の機械、香織は眼を覚ました男の機械、ハジメに挨拶をする。因みに服は着ている。

 

「もう少し君の寝顔を眺めていたかったけれど、起きちゃったね」

「どんな顔をしているのでしょうね、僕は」

「夜に溶け込む顔かな。拒絶せずに、受け入れてる」

 

 香織はそう言ってハジメに口づけをする。

 

「たとえ君が夜に連れ去られても、私は君を離さないから。コンダクターが、私を引き留めたように」

 

 ハジメは香織の瞳に何も言えなくなる。変わりゆくハムレットに狂死したオフィーリアのようになることも辞さない目だ。

 

「ええ、肝に銘じておきます」

 

 

 

 部屋から出たハジメと香織を出迎えたのは仲間であり恋人であるユエ、機械生命体の村に滞在し、防衛と備品の整備を行っていたデボルとポポルとミュオソティス、そしてハジメ達に助けられたシア達ハウリア族だった。

 

「カオリ! 身体は? それに、心も……」

「大丈夫だよ、ユエ。身体は問題なく動くし、心の方も一応は整理をつけたから」

「良かった……」

 

 ユエに拒絶の気配は見られず、ひとまず安心する香織。ユエとしても香織が怖くないと言えば嘘になるが、拒絶だけはしないと決めていた。機械と化す以前に『自動再生』という特殊な技能を持っていたこともあるが、香織の再生はそれとは全く違う性質のものだ。だが、ユエは異常であるがために良くも悪くも見方が変わることの悲しみは知っていた。だから、自分だけは香織に対していつも通り接すると決めたのだ。

 

 ミュオソティスも無表情ではあるが、二人を気遣うような仕草を見せる。出会った時よりも少し人間らしくなっていた。

 

「とりあえず身体機能に異常は無い。だが、かなり特異的な状態である事は間違いない」

「少しでも違和感を感じたら、すぐに言ってね」

 

 デボルとポポルは香織の診断結果を告げ、手遅れになる前に自分達を頼るように言った。ターミナルがいないのは廷やドライツェントのところにいるからだろう。分身できないのは『花』の方の対処にリソースを割かれているからだ。

 

 そして、デボルとポポルは悲しそうに俯く。

 

「あたし達に魂は無い。涙は流せても、心を直す事はできないんだ」

「だから、もし心が悲鳴を上げたら、少し立ち止まって、寄りかかってみて」

「「一人で死のうとだけは、しないでね(くれ)」」

 

 最後の言葉は、ハジメに向けられたものか、香織に向けられたものか。それともこの場にいる全員に向けられたものか。おそらくどれも答えだろう。データの集合体である双子に、生と死の境界線は存在しないと言ってもいい。一人で死ぬとは、一人で生きる事だ。

 

「それは、孤独を避けろという事ですか?」

「違うわ。孤独だと認識できるなら、それは一人とは言わないの」

「本当の一人きりってのは、孤独も痛みも感じないからな。人間に耐えられるもんじゃない。仮に耐えられたとしたら、その時点でどこか壊れてる」

「信用できる仲間が数人いるだけでいいの。全員と仲良く……出来ればいいけれど、無理にはしなくていいわ」

「数人で、いいんですか? その、なんか矛盾しているような……」

 

 最後の言葉にハジメが意外そうな顔をする。香織達も、矛盾しているのではないかと問いかけた。すると、双子の姉妹は少し沈んだ声を出した。

 

「あたし達は複数のデータを基に作られた概念人格だ。そのデータの中に、人間達を管理する者の情報があった」

「その管理者は管理対象全てと仲良くなろうとした。最初は上手くいっていたわ。でも、時が進むにつれ無理が生じてきて、結局、表面上でしかその関係は成り立たなかった」

「それで上手くいけばよかったんだが、そうはいかなかったみたいだな。お互いの不信に繋がって、結局は破綻してしまった」

 

 ハジメと香織はその話が理解できた。『小公子』を書いたバーネットは「批評家が不幸な結末の話を重く捉えるのは知っている。しかし、それでも私は幸福な結末を選ぶ」という旨の発言をしている。だが、これは裏を返せば「創作物の中でしか成り立たない」と悟っているようにも聞こえる。トータスに転移する前、二人はこれについてよく話し合っていた。

 

「それが原因かは分からないけど、私達はお互いしか愛せないようにプログラムされてるみたい」

「お前達に情が無いわけじゃないぞ。でも、一定の境界線は存在するんだ」

「私達は或る意味では孤独なのかもしれない。でも、だからこそこうして役に立てるのかもしれない」

 

 孤独は繋がりの中にしか生まれない。孤独すらなくなった時には、人は壊れてしまう。デボルとポポルはお互いしか愛せないが故に、ハジメ達を気遣えるのかもしれない。愛が完結しているから、余計な確執を生まずに済んでいる面も確かに存在した。

 

「でも、どうしても一人になりたいときは、私達を呼んでちょうだい」

「まあ、あたし達を参考にするかはお前達が決めればいい。だが、こんな命の無い人形で良ければ、愚痴くらいは聞いてやれる」

 

 愛子の考え方と似ているが、一つだけ違う部分がある。それは、『孤独』を許容していることだ。デボルとポポルは基本的に二人で行動する。しかし、互いの思考を完全に理解しているわけではない。そして、二人で行動する事が常に最善とは限らない。時には一人で考える事が近道の時もある。デボルは時々、一人で楽器を持ち出して歌を歌う。ポポルは時々、奈落の隠れ家の図書室で一人で作業を行う。しかし、それでいいのだ。二人は確かにお互いを愛しているのだから。

 

 ハジメは少し考えた後、了承の旨を伝える。

 

「分かりました。その時はお願いします」

「おっと、長々と話してしまったな」

「私達はこれで失礼するわ」

 

 デボルとポポルはそう言って去っていった。植物を改造して作った防壁のメンテナンスだったり、亜人達との戦いで破損した武具の整備など、仕事は山のようにあるのだ。

 ハジメ達がデボルとポポルを見送ると、続いて声を掛けてきたのは濃紺の短髪にウサミミが生えた初老の男性だった。

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。父として、族長として深く感謝致します」

 

そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「……ひとまず礼は受け取っておきます。どういたしまして」

 

 するとハジメの反応にカムは意外そうな表情を見せる。

 

「我々がお礼を言うのが、それほど意外ですかな?」

「そうですね。あなた方を助けたのはこちらにも利があっての話です。むしろ僕は娘さんを利用しようとしています。本質的にはあなた方を迫害した人間と変わりませんよ」

 

 抑揚の無い声で応えるハジメに、カムは納得した表情を見せる。

 

「なるほど、確かにそういう考え方も出来るでしょうな。しかし、我々がハジメ殿に救われたのは事実。それに……情けない話ですが、〝パニシング〟とやらいうものに感染したシアを救う事は我々には不可能でしょう。結果的に、我々は最も幸運な結末を迎えたという結論になります」

「そうですか……」

「シアを、娘を利用するというのも捉え方の問題でしょう。聞けばお互い合意の上とのことですし、シアはむしろあなた方と一緒にいた方が安全かもしれませぬな」

「確かに……そうかもしれませんね」

 

 パニシングに感染して機械と化してしまったシアはハウリア族では救う事が出来ない。ならば救う手段を持つハジメ達に任せてしまうというのは合理的な判断だ。一人の少女のために一族全員で故郷を捨てるくらいだから、かなり情が深いのは誰でもわかる。それゆえに、娘を連れ去るハジメには弾劾の言葉が叩きつけられるものと思っていたが……どうやら予測を外したようである。

 

 ハジメが凪いだ海のような表情をしていると、カムがまた話し出す。

 

「僭越ながら、我々にお手伝いできることはありませんかな? 多少なりとも恩返しをしたいのですが……」

 

 その言葉にハジメは少し考える。そして、結論を出した。

 

「あなた方にはこの後やってもらう事があります。しかし、その前に僕はこの村の村長に挨拶に行かなければなりません。終わったらまた声をかけます」

 

 そう言ってハジメは立ち去ろうとする。しかし、カムを筆頭にシアや他のハウリア族は浮かない顔をしていた。そして、彼らの視線は一様にハジメの顔へ向けられる。なんとなく居心地が悪くなったハジメは彼らに問いかける。

 

「……僕の顔に何か付いているでしょうか」

「いえ、話している間、ずっと無表情だったので……我々が何か失礼をしてしまったのではないかと」

 

 ハジメはハウリア族と話している間、ずっと無表情であった。デボルとポポルと話していた時は最後に笑顔を見せたが、カム達にはそれすらも無かった。機嫌を損ねたと思うのも仕方の無い事だろう。

 

「別に大した理由ではありませんよ。この手の真面目な話で笑うべきではないと思ったから笑わなかっただけです。それに―――」

 

 そして、ハジメは少しだけ笑って続ける。

 

「個人的な見解ですけれど、今の状態で僕が笑顔を見せても威嚇にしかならないでしょう?」

 

 ハジメはハウリア族の人間に対する怯えを感じ取っていた。現に、少し笑って見せると一部は恐怖の反応を見せる。亜人と人間の確執は、一朝一夕で変わる程根の浅い関係ではないのだ。

 

「まあ、これから暫くは樹海に留まりますから、笑顔を見る機会くらいはあるでしょう」

 

 そう言って、今度こそハジメは立ち去った。

 

 

 

「……カオリ、どう思う?」

 

 ハジメが村長の所に向かった後、ユエは香織に問いかけた。議題は勿論ハジメについてだ。

 

「ちょっと問題かもね。私は無理してまで矯正すべきだとは思わないけど。シアはどう思う?」

「えっ、そ、そうですね……私から見たハジメさんは恩人であることは間違いないですけど、なんというか……つい触れたくなるほどの美しさと、絶対に触れてはならないと思わせる恐ろしさを併せ持ってる感じがしますぅ」

 

 本人がいたら「過大評価です」と、それこそ笑ったかもしれないがシアの意見を否定する者はいなかった。デボルとポポルの話を踏まえると、あくまでカム達は『情がある』程度の相手なのだろうし、ビジネスライクに話すのはおかしなことではない。

 

「……ん。私もだいたい同じ。私はハジメよりもかなり年上だけど、ハジメの底は見えない。ミュオソティスはどう思う?」

「回答:実害が出たなら矯正すべきですが、出ていないなら現状維持で良いと考えます」

「やっぱりそうだよね。今は様子見かな……」

 

 言ってしまえばただ第一印象が怖いだけなのでそこまで気にする必要は無いのかもしれない。むしろ、抱えている過去を考えればこれで済んでいること自体奇跡だろう。いずれにせよ、今は様子見という結論に帰着した。

 実は、香織はなんとなくハジメの真相には気付いているが、確信は持っていない。だが、仮にその仮説が間違っていたとしたら、ハジメは香織にすら理解できないだろう。

 

「自己犠牲の大義名分に、私達以外の〝他人〟を使わないと良いんだけど……」

 

 

 

 ハジメは村を歩き、一本の樹に巻き付くように作られた足場を進む。足場には小さな建物が備え付けられており、機械達が住んでいるようだった。地上や奈落で散々襲ってきた機械生命体だが、ここで暮らす様は理性的な文明人そのものだ。

 

「やあ、君ハ人間のようだけド、新顔かな?」

 

 上から声が聞こえた。その方向に顔を向けると、樹に異合探査ユニットが貼り付いていた。

 

「大丈夫だよ。キミに話しかけているのは樹に貼り付いた蜘蛛ミタイナ機械さ」

「こんにちは。村長のパスカルさんに挨拶をしたいのですが、こちらの方で合ってますか?」

「ナルホド、それならこの樹で合っているよ。パスカルさんは他ノ機械と比べて変わった見た目ヲしているから、すぐに分かるんじゃないかな」

「そうですか。教えていただき、ありがとうございます」

「気ニしないで。前にサルトルを村長と勘違いして、小一時間程ジツゾンシュギ? とやらの講義を聞かされた人がいたからね」

 

 『サルトル』『実存主義』という言葉に「偶然か?」と思いつつも、少しだけ興味がある旨を伝えると、探査ユニットは乗り気ではない声を出した。

 

「……あまりオススメは出来ないな。得る物よりも無駄にナル時間の方が多イと思うよ」

「そうですか」

「不思議だね。キミは彼と同類ナ気もするけど、どこか違う空気を纏ってイルな」

「別人ですから」

「それもソウか……」

「教えて下さりありがとうございます。では、また機会があれば」

 

 ハジメは機械生命体に礼を言って村長の元へ向かった。

 

「おお、ご快復なされましたか。私が村長のパスカルです。お伺い出来ず、申し訳ございません」

 

 ハジメは村長のパスカルを発見する事ができた。確かに他の機械とは違った見た目をしており、E.T.とドラム缶を足して2で割ったような姿をしている。今は戦いで損傷した村の整備をしていたようだ。どんな性格なのかと思ったら、とても物腰の柔らかい人物のようだ。

 

「いえいえ、こちらは匿ってもらっている身ですから、僕から赴くのが筋でしょう」

「ありがとうございます。こう言っては何ですが、この村に人間が来るとは思っていませんでした。外の世界の情報はあまり入ってきませんが、我々は魔物と同じ扱いをされているようですので……」

「そうですね……僕からしても基本的に機械生命体は襲ってくる存在でしたから、ターミナルの存在が無ければ、疑心暗鬼になっていたかもしれません。とはいえ、会話が成立するなら話してみる価値はあると思っています」

「ターミナル……あの赤い服を着た少女のような方の事ですね。我々とは違うネットワークから生まれた存在という話でしたが」

 

 その後、ハジメとパスカルはお互いの情報を交換した。特に、亜人達の状況や敵性機械生命体などの内容は綿密に。最後にハジメは気になっていたことを聞いた。すなわち、なぜパスカルの村の機械達は戦うのをやめたのかを。ハジメはターミナルから、「機械生命体とは『花』によって創り出された兵器だ」と聞いていた。無論、イレギュラーが存在する事など有り得ない話ではないが、個人的に興味が湧いたのである。

 

「……私達、機械生命体は何百年も生きています。そして闘いに殉ずる中、何度も仲間を失ってきました。しかし、私が恐れたのは暴力や死ではなく、仲間を失う事に慣れてしまっている自分だったのです」

「……」

「だから、私達は決めたのです。もう、戦わない、と。外の状況を見ている限り、そうも言っていられないようですが……」

 

 パスカルは視線を村の方へ向け、ハジメも同じ方へ目を向ける。そこには、平和に暮らす機械達と、彼らと遊ぶハウリア族がいた。

 

「……嘆かわしい事ですね。貴方達のような存在が、闘いを強いられるとは。僕達は或る意味では疫病神のような物でしょう。何故、匿う選択を?」

「ここ最近、排他的な機械生命体のグループが現れたのです。亜人族の方達も、以前からこの村の存在は知っているようでしたし、貴方達が来なくても、遅かれ早かれこうなっていたでしょう」

「……」

「我々は平和主義を掲げていますが、暴力の波の前ではあまりにも無力です。それなら、出来る限り味方を増やした方がいいでしょう。特にハジメさんのような強いお方がこちらに理解を示してくれるのは、ありがたいです」

「なるほど……なんだか自分が嫌になってきましたね。必要な事とはいえ、僕はこれからハウリア族に戦いを強要するのですから。無表情にもなるってもんです」

「私も似たようなものですよ。平和主義と口にしながらも、戦わざるを得ない状況に嫌になります」

 

 二体の機械はお互いに理解しあったかのように話していた。

 




まず愛子先生ファンの方に謝罪を。関係ない所で刺されまくる先生……ごめんなさい。
言い訳させてもらうと、私個人としては先生の思想には共感できません。私の個人的な事情も無くは無いのですが、出来る限りフラットな状態で考えても彼女の論理は穴だらけであると思ってしまうのです。
さらに、クロス先のNieR: Replicantのコンセプトが『一人のために全てを滅ぼす』なので、先生の思想と真っ向から対立してしまっています。
しかし、彼女の思想にも正しい部分はあると思うので、(今の所ほぼ全面否定に近いですが)違う角度から『寂しい生き方』について考察していくつもりです。クロス先に関わる命題でもあるので、この辺の話はかなり多くなると思います。

備忘録

パスカル:NieR: Automataのキャラクター。平和主義の機械生命体を纏める村の村長。ゲーム本編ではどうなったのかはご自身の目でお確かめください。

デボル・ポポル:今回の話ではNieR: Replicantに登場した彼女達を基にしている。管理者というのはゲーム本編に登場した彼女達を暗示しており(今作では構成するデータの一つという扱い)、孤独について考察した。この考え方はある種の排他主義にもつながる為あまり良い結末にはならないが、全く希望が無いわけでもないはずである。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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