人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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ハウリアの訓練回。原作そのままでは瀟洒に欠けるのと、今作のハジメのキャラ性に合わないのでかなり変更されている。


依存スル弱者―乙

「さて、これから貴方達には戦闘訓練を受けてもらいます」

 

 パスカルの村の一角、目についた岩に足を組んで腰掛けたハジメは、まるでデスゲームの支配人のような口調でカム達ハウリア族に話しかける。その中で、ハウリア族はポカンとした表情を浮かべた。なお、ここにはシアはいない。ユエ達に連れられてパニシングの制御のための別の訓練を受けている。無論、カム達も了承済みだ。

 

「え、えっと……ハジメ殿。戦闘訓練というのは……」

 

 困惑する一族を代表してカムが訪ねる。

 

「無論、そのままの意味ですよ。貴方達は自分自身という賽を人生に投げ込み、そして平穏な日々は帰ってこない。ならば、環境に適応して強くなるというのが合理的でしょう」

「な、なぜ……」

「他に方法を思いつかなかったんです」

 

 ハジメの笑顔にハウリア達は怯えた表情を見せる。嘲笑でも敵意でもないその表情に彼等は遭遇したことが無かった。

 

「しかし、この村は堅牢な壁によって守られているではありませんか。他ならぬあなた方の手によって作られた植物の防壁が」

「だから、自分達が強くなる必要は無い、過去を殺してまで闘う必要は無い。そう言いたいわけですか」

「は、はい……」

 

 ハジメはその表情を見て、少し考えるように天を仰ぐ。そして、解を得たというようにハウリア達を見た。

 

「そうですね……『エリコの壁』の話でもしましょうか」

「何ですかな? それは」

「聖人モーセの後継者ヨシュアはエリコの街を占領しようとしたが、エリコの人々は城門を堅く閉ざし、誰も出入りすることができなかった。しかし、主の言葉に従い、イスラエルの民が契約の箱を担いで7日間城壁の周りを廻り、角笛を吹くと、その巨大なエリコの城壁が崩れた」

「……」

 

 ハウリア族は皆一様に訝しむ表情を作った。今の話と自分達の現状に何の関係があるのかと。

 

「要するに、何者も通さない強固な城壁であってもたかが儀式一つで簡単に崩れ去るんですよ。理不尽でしょう? そして、それはこの村も例外ではないんですよ」

「それは……」

「仮に僕が鋼鉄の壁と杭を作り、敵を足止めして引き裂くような城塞を作ったとしても、それは完全では有り得ない。何故か? 全ての存在は滅びるようにデザインされているからです」

 

 この世に存在する全ての物は不損不滅では有り得ない。人工物はおろか、大気、大地、時間でさえも、いつかは滅びる。自分達だけは安全だ、などという幻想はこの世界では通じない。だから少しでも生き残れるように、『家族を助けるために』強くなってもらう。それがシアと、利用するために助けた少女と交わした契約だ。

 

「……ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……とても、そのような……」

 

 兎人族は弱いという常識がハジメの言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦うことなどできない。どんなに足掻いてもハジメの言う様に強くなど成れるものか、と。

 そして、ハウリアの女性が恐怖に満ちた表情でハジメを糾弾する。

 

「あなたには分からないんです……人間族のあなたには、機械となって上位の存在となったあなたには分かりません!」

「お、おい、ラナ!」

「シアから聞きました。あの子は力に翻弄され、常人とは一線を画す存在になってしまったと……あなた達はずっと以前からその力を振るってきたのでしょう!? そんな人に、弱い私達の苦悩なんて分からないんです!」

 

 カムを始め、周りの兎人族がとめようとするが感情が爆発した女性の叫びは止まらない。ハジメとて何の苦労も無しに昇格者となったわけではないし、なってからもそこそこの頻度で争いに巻き込まれているのだが……ハジメの機嫌を損ねる事を恐れたカム達が叫びを止めようとするのを、ハジメは特に何のリアクションも見せずにただ静観していた。

 

 別にパニシングに対する偏見や差別は地球でも受けていたし、この程度でキレていては身が持たない。女性が叫ぶ間、ハジメは脚を組み直したり欠伸をしたり、肘をついて寝そべったりしながらその叫びを聞いていた。半分寝に入っているが気にしてはいけない。そもそも、女性の言う事は何も間違っていない。ハジメは事態に介入した部外者に過ぎず、ハウリア族の気持ちなど分かるわけがないのだ。

 

 数分後、叫び終えた女性を見て、ハジメは口を開いた。

 

「あ、終わりました? 別にもっと叫んでいてもいいですよ。最後まで僕が起きていられるかは……分かりませんけれど」

「ハジメ殿……それはあまりにも……」

 

 こちらに非があるとはいえ、そのあまりの態度にカムが抗議しようとしたところ、ハジメは手を挙げて言葉を制した。

 

「まあ、色々言いたいこともあるんでしょうね。正直それだけ叫ぶ元気があるなら大丈夫そうですけど……そうですね、では僕の過去の話をしましょう。僕が機械になる前の、人間だった時の話を」

 

 そう言って、ハジメは『病棟の惨劇』の話を始めた。一人の少年が巻き込まれた、狂的で陰惨な虐殺劇。この状況で話すと不幸自慢大会をしているような気分になり、自分で不快感がこみあげてくるが、現状最善の手なので話した。

 

「病魔に侵された非力な少年が、生きる為だけに同じ人間を撲殺し、刺殺し、結果生き延びた。そういう話なんですよ。今や僕は機械だが、肉の身体を持ち、赤い血液を宿す貴方達が同じ事が出来ないと? 過去の僕よりも体力も膂力も持っている貴方達が……」

「……」

「僕だってね……昇格者だって万能じゃないんですよ。ゆりかごから墓場まで見守っている事などできやしない。だから現状最善と思われる手で、貴方達を護ろうとしているんです。しかしそれを拒むというなら……仕方ありません。シアさんには依頼は一部完了できないと伝えるしかありませんね」

 

 ハジメの言葉にカム達はハッとした。彼の言葉の意味は、「自分達がシアを見捨てる。もしくはシアに自分達を見捨てさせることになるぞ」という物だからだ。それは、それだけはあってはならない。それは戦う事よりも恐怖すべきものだ。と、彼らは思った。

 

「ハジメ殿……宜しく頼みます」

 

 言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。

 

「賢明な判断、感謝いたします」

 

 ハジメの言葉に、ハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。

 

 

 

 ハジメは訓練にあたって村の外に出て、ナイフや小太刀などの武具を渡し、武術の心得は無いが今までの戦闘経験及び自身の演算から算出した合理的な動きを教えた。そして適当に魔物をけしかけて実戦経験を積ませる。ハウリア族の強みは、その索敵能力と隠密能力だ。いずれは、奇襲と連携に特化した集団戦法を身につければいいと思っていた。

 

しかし、流石のハジメも予測できない事態というのは存在する物である。確かに、ハウリア族達は、自分達の性質に逆らいながら、言われた通り真面目に訓練に励んでいる。魔物だって、幾つもの傷を負いながらも何とか倒している。

 

しかしながら、だ。

 

グサッ!

 

 魔物の一体に、ハジメ特製の小太刀が突き刺さり絶命させる。

 

「ああ、どうか罪深い私を許してくれぇ~」

 

 それをなしたハウリア族の男が魔物に縋り付く。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男のようだ。

 

ブシュ!

 

 また一体魔物が切り裂かれて倒れ伏す。

 

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」

 

 首を裂いた小太刀を両手で握り、わなわな震えるハウリア族の女。まるで狂愛の果て、愛した人をその手で殺めた女のようだ。

 

バキッ!

 

 瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く。

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

 その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫ぶ。

 

(これ香織の方が適任だったかな。いや、更に別の方向におかしくなるだけか)

 

「族長! そんなこと言わないで下さい! 罪深いのは皆一緒です!」

「そうです! いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない! 立って下さい! 族長!」

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

 いい雰囲気のカム達。ハジメはやる気の無い拍手をする。

 

「とても良いお遊戯会ですね。生きるか死ぬかのこの状況でなければ手放しで称賛したいくらいだ。マハトマ・ガンジーあたりの名言録にでも載せたいくらいです。そして? その大げさな動きの間に受けた傷は誰が治療するのでしょう、どれだけの医療資源を消費すればいいのでしょう。デボルさんとポポルさんに余計な手間を掛けさせたくないんですけど?」

 

 そう、ハウリア族達が頑張っているのは分かるのだが、その性質故か、魔物を殺すたびに訳のわからないドラマが生まれるのだ。この二日、何度も見られた光景であり、ハジメもまた何度も指摘しているのだが一向に直らない事から、いい加減、堪忍袋の緒が切れそうなのである。

 

 ハジメの絶対零度の声色にビクッと体を震わせながらも、「そうは言っても……」とか「だっていくら魔物でも可哀想で……」とかブツブツと呟くハウリア族達。大声で恫喝するのでも、暴力で屈服させるのでもない圧倒的な冷気を放つ言葉の数々。それを無表情かつ瞳孔の収縮した眼で垂れ流すのである。凍る背筋がオーバーキルされている。

 

見かねたハウリア族の少年が、ハジメを宥めようと近づく。しかし、進み出た少年はハジメに何か言おうとして、突如、その場を飛び退いた。訝しんだハジメは首も視線も動かさずに行動の理由を問う。少年は、そっと足元のそれに手を這わせながらハジメに答えた。

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

「お花さん」

「うん! ハジメ姉ちゃん! 僕、お花さんが大好きなんだ! この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さないようにするのが大変なんだ~」

 

 ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている。あと地味に間違えているが、ハジメは男だ。しかし、そんな事を一々訂正する気も起きずに死んだ目でハウリア達に問いかける。

 

「……時々、あなた方が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは……その〝お花さん〟とやらが原因ですか?」

 

 ハジメの言う通り、訓練中、ハウリア族は妙なタイミングで歩幅を変えたり、移動したりするのだ。気にはなっていたのだが、次の動作に繋がっていたので、それが殺りやすい位置取りなのかと様子を見ていたのだが。(存外と才能はあるのかもしれない、と思いもした)

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

 

 流石に思い違いか、と考えるハジメ。しかし、カムの次の一言に戦慄する事になる。

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね」

「………………」

 

 長い沈黙の後、ハジメは幽鬼のように立ち上がり、近くの花を摘み取り、飛んでいた虫を掴み取った。そして、カム達の前に足を組んで座る。

 

「は、ハジメ殿……?」

「あなた方に聞きます。僕が両手に持っている物、これは何でしょう?」

「い、一体何を―――」

 

 ハジメの意図が読めず、反射的に質問を返そうとするカム。しかし、ハジメはカムの目の前を蹴るように足を組み直し、

 

「これは、何でしょう?」

 

 と質問しなおす。「いいからさっさと質問に答えろ」。そんな意思を感じ取ったカムは見たままを答える。

 

「花と、虫です」

 

 それを聞いたハジメは無表情なまま、カム達にとっては衝撃的な答えを口にする。

 

「違います。これは『物』ですよ。極限まで意味を還元していけば、残るのはそれだけ。『物』という言葉だけ」

 

 ハウリア達に動揺が走る。自分達を助け、村を守る人物はここまで酷薄な人物であったとは、と。

 

「は、ハジメ殿……それはあまりにも……」

「無慈悲、冷酷、薄情……まあこんな所でしょうか? 貴方達が僕に思っている事は。僕とて容認したくは無いが、どうやらこれがこの世界に蔓延する真実のようだ」

「し、しかし……」

「この世界に存在する神が限りなく善良であれ、果てしなく悪逆であれ、我々に非情な運命ばかりを強制してくるという事実は変わらない。神に魅せられた聖者は弱い貴方達でさえ()()()連れ去ってしまう。彼らの目的は破壊でも救済でもない。ただ理想郷を創るだけ。そんなものは在りもしないのに」

 

 ハジメが話す酷薄にして狂気の世界に誰もが戦慄する。そして、フェアベルゲンを追い出された自分達はその世界に足を踏み入れてしまったのだという事実にも。

 

「楽園を追い出された者達は、歴史の道に出る事を強制される。選びなさい、そして、この世界で生き抜く意志を持った者だけが僕の前に立ちなさい」

 

 ハジメの本心としては、彼らの信条を否定したくはない。しかし、それではこの鮮血の見世物小屋(グランギニョル)は生き残る事が出来ないのである。シアからの「家族を救ってほしい」という依頼のために、ハジメは彼らに戦闘を強制する。

 

 その後、訓練は段階的に苛烈となっていったが、脱落した者は誰一人としていなかった。

 




ちょっと冷たく書きすぎたかなあ、と思いつつも『ウチの作風はこうだ』と割り切って出しました。ハート○ン式とやらをやるよかいいでしょう。まあ、ネタバレすると中二病は避けられないんですけど(笑)。いや、あれはあれで面白いから。ごめんね、シアさん。

Q、何でハジメは急に性別間違われた?

A、実はシアも最初は顔だけ見て女性だと誤認していた。その後、香織達と話して男性だと判明する、という流れ。初対面でハジメの性別については話題に上がらなかったので、分かりにくいが。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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