人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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前も言った気がするけど、話が細切れですみません。トータス編終わる頃には何百話になっているのか……でも完全に作者のエゴですが、今回の最後に出てくる魔物に関してはやっつけ作業になりたくないんですよ……


命無キ秩序ー甲

「貴方の命を頂きに参りました」

 

 兎人族の女の表情が抜け落ち、無感情にハジメにナイフを振るう。完全な不意打ちだと思った女。しかし、現実は違っていた。

 

「警戒していて正解でしたね……」

 

 女のナイフをハジメがゼロスケールの銃口で受け止めていたのだ。何を隠そう、目の前の女はミュオソティスから報告のあった警戒対象だ。言われてみれば、本来動きに合わせて揺れるはずの耳があまりにも不動すぎる。

 攻撃を止めた銃口から弾丸を射出させるハジメ。女は自分の右手に伝わった衝撃で一瞬だけ体勢を崩すが、すぐにリカバリーしようとする。しかし、普通の人間ならばともかく、昇格者相手にそれは甘かった。

 

「―――!」

 

 ハジメの傍にいた香織がワルドマイスターで強烈な刺突攻撃を加えたのだ。兎人族の女は吹っ飛び、離れた位置にある樹に衝突する。

 

「も、申し訳ございません! 我々が迂闊でした!」

 

 襲撃者を連れてきてしまったカムがハジメに平謝りするが、ハジメは彼を咎めるような真似はしなかった。

 

「結構。どうやらアレは僕達の上客のようだ。貴方達は他の敵への警戒を」

 

 ハジメが女への警戒を行いながらカム達に指示を飛ばす。指示通り彼らが行動する間、女、ネメシアは痛みを感じる様子も無く腕も使わずに起き上がり、不自然な姿勢でハジメ達を見据える。

 

「何者です? 亜人ではなさそうですが」

 

 そもそも生物ですらなさそうだ。ここまでに見せた動きはあまりにも非生物的すぎる。ミュオソティスの言う通り、『そう行動させる』プログラムを打ち込まれた機械と言われた方が余程しっくりくる。敵が情報を明かすかは不明だが、敵について何も分からないままというのも危険である。故にハジメは問いかけた。

 

「私はオーダー。『法王』の命により貴方達を破壊するため、地上にプリントアウトされました」

 

 躊躇いも無く話す女に、ハジメは少々面食らった。

 

「随分とあっさりと話すのですね」

「情報の公開は禁止されておりません」

「では質問です。何故僕達を狙う?」

「狙っているのは貴方達だけではありません。この世界に存在する全ての生命体が殲滅対象です」

「なるほど。『法王』とは何です? イシュタルの事ですか?」

「イシュタルが誰かは知りませんが、私は『法王』の命令によって動いています。貴方達生命体は、この世界を壊し過ぎてしまいました。よって、然るべき者達によって修復されなければなりません。我々の公務にご協力ください」

「無理ですね。結局死ぬのでしょう? 僕らは」

 

 ハジメの言葉を最後に、ネメシアは景色に滲むように消える。そしてその動作を三回繰り返し、ハジメに肉薄しナイフを振るう。間一髪で見切ったハジメは後ろに仰け反り回避し、蹴りを入れるとゼロスケールで銃撃。そしてアストレイアでも追撃する。

 

 香織も細剣による攻撃を加えようとするが、ネメシアはまた滲むように消失し、攻撃は当たらない。そして、香織の背後に回りこんだネメシアは彼女をナイフで切ろうとするも、今度はユエの妨害に会う。そしてネメシアが攻撃を回避すると、地面から生えてきた香織の分身体が攻撃してくる。

 

 ネメシアは頭部に損傷を負い、電子脳と思しき部分が剥き出しになる。少なくとも生物ではない事が視覚的にも確認できた。

 

「オーダーは私だけではありません。他に九体の機体が、この世界にプリントアウトされています。いずれも、貴方達よりもハイスペックな機体です」

 

 分が悪いと悟ったのか、ネメシアは姿勢も直さずにオーダーについての情報を話した。絶望的な状況を説明し、ハジメ達に遠回しな降伏を勧めるつもりだろう。だが、こんなことで動じるハジメ達ではなかった。昇格者を代表して、瞳孔の収縮した眼でハジメが答える。

 

「問題ありません。それら全てを倒しますから」

 

 その答えにハジメの表情にネメシアは一瞬だけロジックエラーを起こした。

 

「倒す? どうやって」

「さあ? 死んだら愛する人に怒られるので」

 

 その答えに、ネメシアはいよいよ理解不能だと悟った。対象を抹殺するべく複数のナイフをハジメ達に投擲する。普通の人間や並の機械体であれば回避する事など不可能な攻撃。結界でも張れば別かもしれないが、データベースに存在する結界魔法はそれなりに長い詠唱を必要とする。マッハ速で飛来するナイフは防げない。

 

「―――っ!」

 

 だが、ハジメは攻撃の全てを掻い潜り、ネメシアの頭部を掴んでいた。そして、『錬成』で電脳部を破壊する。ネメシアの瞳は機械が電源を落とされたように消失し、白目を剥いた残骸が残った。

 

「ちゃんと機能停止してますよね?」

 

 散々I’ll be backをされたハジメは警戒を怠らず、自分達の勝利を確認する。そして、唐突に現れた刺客との闘いはハジメ達の勝利に終わった。

 

「オーダー……」

「ミュオソティス?」

 

 だが、こちらへの影響が何も無いとは言えないようだ。なにやらミュオソティスが悩むようなそぶりを見せている。どうやら敵の発した『オーダー』という単語に引っかかりを覚えているらしい。オスカー・オルクスが作ったと思われる人形である彼女が何故、処刑人気取りの敵に対して引っかかりを覚えるのか。

 

 ハジメには心当たりが無いでもない。オスカーの日記と思しき物には、確かにミュオソティスの機体を作ったという記述は存在した。しかし、閲覧できた情報の範囲内では彼女の人格や魂、別作品風に言うならゴーストの記述は存在しなかったのである。忘れられた後に後天的に芽生えた人格なのか、それとも……

 

「何か、思い出せましたか?」

 

 ハジメがミュオソティスに声を掛けると、彼女は心なしか怯えたような反応を見せた。

 

「いえ、オーダーという単語に、何か既視感を感じました。しかし、それが何に起因するものなのか、私には分かりません。私が何処でその単語を聞いたのか、何故マスター達へ仇為すような予感がするのか。何故、こんなにも『恐怖』を感じるのか」

 

 普段は感情が希薄な彼女にしては、かなり珍しい状態だ。実際、本人も感じたことが無いであろう感情に戸惑っている。未来への不安、それは『現在』を分析し、最適解を導き出す機械には珍しい感覚だろう。データを解析し未来を予測するAIに、将来への不安など有り得ないのだから。

 

「質問です……人間達は、この異常な感情を、何と呼んでいるのですか?」

「………」

 

 簡単に答えてしまうなら、『不安』という答えになる。論理的、統計学的な根拠が必ずしもあるわけではないが、漠然と恐怖感を抱いている状態。下手に答えれば助長する事となるため、慎重な判断が求められる。ハジメが少し考え、彼女に答えを言おうとすると、その前に香織がミュオソティスを抱きしめた。

 

「ますたー……?」

「ミュオソティスは、『不安』なんだね。きっと初めて感じた感覚に、処理が追い付いてないんだと思う」

「『不安』……それが、この異常の正体……」

「敵の言葉に既視感を覚えて、私達を裏切るかもしれない。それに対して怖くなるくらい私達と一緒にいる事が当たり前になっているのは嬉しいけど、それなら今度は不安への対処の仕方を学ばないと」

 

 ミュオソティスは香織の腕の中で首を傾げる。この恐怖に打ち勝つ方法があるのかと半信半疑だ。それに対し、香織は「打ち勝つ必要は無い」と告げる。

 

「そうだね。まず落ち着こうか。悪い事ばかり考えると、そこから抜け出せなくなるからね」

 

 香織は自身の経験を基にミュオソティスに教える。亜人との闘いで自分の肉体が再生した時、香織はかつてないない程に恐怖し、狼狽し、不安に駆られた。ハジメや雫に拒絶される事、未知のものに変貌した自分自身、それらが果てしない恐怖の対象だった。だが、ハジメに受け入れられ、一頻り泣き、夜に溶け込めば、恐怖と共に生きる事が出来た。

 

「恐怖に打ち勝つ場合もあるけれど、まずはそれを観測しないとね。落ち着いて考えてみよう? ミュオソティスは、何を感じたの?」

 

 いまだ感情が不明瞭なミュオソティスは、落ち着くという感覚を論理的に説明する事は出来ない。だが、今の状況を逆算して、先程よりはいくらか冷静に考えられるようだと気付いた。

 

「オーダーという単語について、詳細な事柄は分かりません。しかし、無限に連なるデータの中、その単語を聞いた記憶だけはあります。私の造物主が誰なのか……それは思い出せません」

 

 結局、落ち着いても彼女の記憶が戻る事は無かった。だが、ミュオソティスの出自に関するヒントが一つでも見つかった事は喜ぶべきだろう。

 香織はミュオソティスを撫でながら囁く。

 

「もしまた不安になったら、私達に言ってね。私なら歌を歌えるし、コンダクターなら絵を描いてくれるかも」

「……歌に、絵画ですか?」

「芸術は創造を超えて、命無き者に命を与えるの。例えば景色、例えば音、例えば、迷子のお人形さん」

「……私は、迷子の人形ですか?」

「ミュオソティスだけじゃないよ。私達もいまだ彷徨う機械だもの。でも、それは簡単に見つかる物じゃない。探すだけでも沢山の事を知ってないといけない。だから、君はこれから、沢山の物を観測しないとね」

 

 香織がミュオソティスを慰めている間、ハジメは「こういう部分は敵わないな」と最愛の恋人を見る。『病棟の惨劇』以来、閉ざされていたハジメの心を開いたのは香織なのだ。偶然と時の運だけではなく、彼女の特性なのだろう、とハジメは思っている。一度夢を見始めると実用主義的な側面が欠落するため『突撃娘』などと評される事もある香織だが、逆を言えば『突撃娘』でなければ成し得ない事なのだから。

 

 ハジメが感慨に浸り、「私何もできてません……」と落ち込むシアをユエが慰めたりしていると、瞬間移動してきたターミナルがオーダーの残骸を拾う。ハジメは彼(?) なら何か知っているかもしれないと思い、問いかける。

 

「ターミナル、オーダーという集団について何かご存じありませんか?」

「残念ながら知らん。私とて全ての機械の動向を把握しているわけではない事は依然言った通りだが、どうやら勢力単位で把握できていない敵がいるようだ」

 

 ターミナルが溜息を吐きたいような仕草を一瞬見せた、ように思える。昇格ネットワークの事実上のトップであるはずだが、それに付随して気苦労が多いのだろう。物理的な攻撃には絶対とも言える耐性を持つが、彼とて万能ではないのだ。

 

「私が色々と調べておこう。念の為、他の昇格者にも伝えておかねばな」

「他の、と言うと、竜人族の(ティオ)加百列(ガブリエラ)という人物と、深人族のラングランスという人物、それから元エヒトの使徒、ドライツェントでしたっけ? ああ、後、カイネさんもか。今後関わってきそうなのは」

 

 構成員は昇格ネットワークで検索できるため、ハジメ達も誰が入っているか程度は知っている。一応知人であるカイネがこの世界にいたのは驚きだが、ハジメを憂鬱にさせたのはドライツェントから報告された内容だった。どうやら優花が荒れているらしい、と。ハジメは人生最大級とも言える失態を思い出し、自己嫌悪に陥る。過去に遡る術がない以上タラレバにしかならないが、当時の自分の軽薄さと傲慢さには吐き気を催していた。

 

「まあ、今も大して変わってやしないか……」

 

 ターミナルが消えた後、ハジメが独り言を呟いていると、何やらハウリア達の方が騒がしい。「手に余る敵でも出てきたか?」と正解に近そうな予想をするハジメ。自衛できるようになったとはいえ、彼らの強さは昇格者やオーダーには及ばない。それらと同格の強さの敵が登場すれば抑えられなくなるだろう。

 

「シア! 主! お気を付けください! 敵に突破されました!」

 

 カムの警告が飛び、シアに一つの獣のような影が襲い掛かる。だが、訓練された彼女が致命傷を易々と受けるわけもなく、ハジメの渡した大太刀『白ノ約定』で防いでいた。

 だが獣の方も防がれて終わりというわけではなく、自身の身体に内蔵された機銃からハジメを狙撃してくる。無論、ハジメは弾丸を見切って回避し、逆にゼロスケールによる銃撃を撃ち込んだ。

 

「今度はどちらからのお客でしょう?」

 

 そもそも言葉が通じるかどうか分からなかったが、銃撃によってシアから引き剥がされた狼のような機械は律義にハジメの質問に答えた。

 

「我はこの森に住む獣……お前達の言葉でいうならば、『魔物』という存在だ」

 

 その答えはハジメ達やハウリア達を心底驚かせた。魔物とは意思など持たぬ自然災害である。それが人間にせよ魔人にせよ、そして亜人に至るまで共通認識であるはずだ。それが意思を持ち、そして明瞭な会話をするなど、予想だにしない事であった。

 

 だが、その中でシアの表情だけが別の驚きに満ちていた。

 

「まさか……そんな……」

「? どうしたのですか?」

 

 ハジメやカムの疑問に気付いた様子も無く、シアは目の前の光景が信じられないという声色で、目の前の魔物を見つめる。

 

「あなたなんですか……?」

 

 これは祝福すべき再会か、それとも忌まわしき悲劇か。

 

「ロック……」

 

 その狼は、かつてシアと友達だった魔物だった。

 




はい、次々と敵が出てきます。多分ずっとこんな感じ。

備忘録

オーダー/ネメシア:『法王』なる存在が操っているらしい事が判明。トータスに存在する生命体全てが殲滅対象であるため、残念ながら交渉の余地は無い。パニグレユーザーの方なら所属組織の名前は分かるかも。

ロック:どうやらシアと友達だったらしい。ヒントはNieR Replicantである。一応言っておくが、音楽のジャンルではなく千夜一夜物語に登場する巨大な鳥の名前である。今作においてもクロス先でも狼だが……

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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