それからどうでも良いですが、スマホでパニシングと打つと高確率で出てくる『パニ寝具』。どういう演算の結果これが予測変換に上がるのか真剣に教えて欲しい。アイネクライネナハトムジークなどもそうだが、全部カタカナというのは中々辿り着かない結論なのでしょうか。
「なるほど。貴方の考える実存主義とはそう言うものですか」
「ああ、実存は本質に先立つものだ。人は、自分があろうとする姿以外には有り得ず、また、夢とは閉ざされた想像界においての完璧な実現であり―――」
ハジメは治療が終わった後、ミュオソティスとともにパスカルの村に住むサルトルという機械生命体と話していた。きっかけはハジメが『サルトル』という名前に興味を持ったことである。パスカルもそうなのだが、地球に実在する哲学者と同じ名前なのである。さらに、機械生命体のサルトルが主張している『実存主義』とは哲学者のサルトルが主張している物と同じなのである。
偶然の一致か、はたまた何か意味があるのか、現時点では分からない。しかし、どちらかと言えば無神論的な思想であるにも関わらず、宗教が広く伝わるこの世界で主張する存在がいるとあっては興味を触発されないはずも無い。従って、ハジメはサルトルという機械生命体に話を聞くことにしたのだ。
なお、優花、ユエ、ロックは最初から興味を示さず、シアは「あの人? という表現が適切かは知りませんが、苦手です」と来たがらなかった。そして香織は話の途中で気分を害して立ち去ってしまった。
その理由と言うのが、サルトルが女性の機械生命体からもらったプレゼントを「ただのガラス玉」「役に立たないガラクタ」と発言し、それに対して香織は形容しがたい形相をして去っていった。扱いに困るプレゼントを貰ってもどうすればいいのか分からないという理屈自体は理解できないわけではない(地球においても切った髪や爪をプレゼントとして与えるなどの度が過ぎる行為もあるので一概に悪とは言えない)が、一生懸命プレゼントを考えて渡した女性達に対して酷薄すぎるのではないか、という気持ちなのだろう。
そして、それなりに長い時間がかかったサルトルの実存主義についての講義は終わった。
「どうもありがとうございます」
「私の講義は参考になったかね?」
「ええ、非常に」
ハジメは短く礼を伝えると、話の最中ずっと首を傾げていたミュオソティスとともにサルトルの元から立ち去る。
「ミュオソティス、彼の話を聞いてどう思いました?」
「……そうですね。論理の正しさを否定する事はできません。しかし、当たり前に存在する物をわざと難解な言葉を使って説明しているような印象も受けました。質問です。このような事を、『機械的』というのでしょうか?」
ハジメは少し驚いてミュオソティスを見た。昇格者の中では元々人間ではない事も相まって最も機械に近い印象を受けるミュオソティスだが、オーダーの一件以来少しずつ感情が表出するようになった。そして、そんな彼女からすればサルトルの言動は『機械的』に映っていたという感想になるのだろう。
正に人形のようだったミュオソティスにおいては驚くべき進化だ。
「まあ、哲学なんぞそんなものだ、と結論付けてしまうのは簡単なのですがね。それでは味気ないので少し話しましょうか。学問である以上、対象の本質を深く穿つ必要があります。難解な言葉とは、基本的にその過程で生まれる物であり、それによって定義された物と別の物を区別することが目的です。多少の例外はあれどそんなもんでしょう」
「はい、オルクスの隠れ家にて保管されている書物にもそのような分類が為されている物は存在しました」
「そして、難解な言葉を定義したからと言ってそこが終着点ではないのです。それを使って更なる理論を生み出したり、抽象概念を現実に適用したりするのです」
「はい、マスターは神代魔法を様々な分野に使用しています」
「分かりやすい所ではそれですね。そして、サルトルは実存主義という学問を自らの生で実行しようとしているのでしょう」
ミュオソティスはそこで首を傾げた。
「疑問:その行動に、意味はあるのでしょうか」
「そればかりは何とも……我々の世界の古代の哲学者の生き方は自身の思想そのものであり、現代では狂人とすら呼ばれる人生でした。ではそれに意味があったかというのは、人生の終着点を迎えるまでは分かり得ない。更に言えば、本人以外には理解できない物かもしれませんね」
哲学者や偉人の名は後世まで語り継がれているが、彼らにとって意味のある事であるかは分からない。あのサルトルという機械生命体が、その生の果てに何を見出すのかは不明だ。最も論理的に見えて、実は感情に任せて動いているのかもしれない。
「おっと、香織達の元へと着きましたね。お話はこれくらいに致しましょう」
ハジメは不機嫌そうな顔をして座っている香織のところへ歩いていく。ハジメの接近に気付いた香織は立ち上がり、そっと彼の手を握った。何やら平時と違う反応をする香織に少し訝しみながら手を恋人繋ぎにする。
「恋愛って、なんだろうね……」
「どうしたんです?」
「さっきのサルトルという機械生命体のファンだっていう女性達に会ったんだけどね……」
香織の話によると、サルトルの家を出た所で彼の事を好いている機械生命体達に会ったのだという。彼女らはサルトルの事を「ミステリアス」「クール」「物知りで頼りになる」と評しており、サルトルの辛辣な発言さえも好意的に受け取ってしまう。サルトルは彼女達の事を見もしないにも関わらず。
「彼女達を批判するのは簡単だけれど、結局、私も似たようなものなのかも知れないと思って。雫ちゃんを筆頭に『突撃娘』なんて呼ばれたりするけれど、恋に盲目という意味では間違ってないんだよね……」
ハジメは少し溜息を吐くと、
「こ、コンダクター……?」
「少なくとも僕は貴女に愛を返しているつもりなのですけれどね、コンサート・ミストレス」
「そ、それは……」
「僕としては盲目であって欲しいですね。僕も貴女の事となると感情的になりますし。それでも足りないというのならば、一体どうすれば良いでしょう。ねえ、ミランダ?」
ミランダとは、シェイクスピアの戯曲『テンペスト』の登場人物だ。彼女の住む島に訪れたファーディナンドに恋をし、ファーディナンドはミランダの父親であるプロスペローの試練を乗り越えて結ばれる。
ハジメの愛が足りないと香織が言うなら、ハジメはどんな試練でも受けるつもりだ。自分の発案ではないとはいえ、複数の女性を愛している身で盲言を吐いているというならば、彼女の不安を消すつもりでもある。とはいえ、香織の不安はそのような物質的な思考のみに囚われた物ではないのだという確信も同時に持っており、このようなアプローチしかできない自分をハジメは少々情けなく思っていた。
だが、それに対する香織の答えは
「充分だよ」
お返しの接吻であった。
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ハジメ、香織、ミュオソティスの三人が仲間との待ち合わせ場所に着くと、ユエ、シア、優花、ロックが退屈そうに待っていた。
「遅かったわね。バカップル」
「集合時間には余裕で間に合っているはずなのですけれど」
「これからいよいよ敵地に乗り込もうってのに、暢気な物ね」
「ユウカから聞いた。闘いの前に恋人とイチャつくのは特大の死亡フラグだって。今まで考えた事も無かったけど、封印される前はそんな光景を見たような気もする。もしかして緩やかな自殺?」
ハジメのもう一人の恋人である優花が口火を切り、また同じく恋人であるユエがそれに便乗する。死亡フラグなどという地球特有の語彙をユエが知っている理由は優花に教わったからであるらしい。仲良くできているようで何よりだが、余計な知識を教えないで欲しいと思うハジメであった。
「闘いの前に逢瀬を嗜んだところで何が変わるものですか。神は天にいまし、世はこともなし。それだけでしょう」
「ハジメさんって悲観主義者なのか楽観主義者なのかよく分からないですぅ……」
「突き抜けた悲観は楽観です」
「煙に巻こうとしてません……?」
「失敬な。れっきとした哲学者の言葉ですし、僕も同意しています」
「少し、よろしいですかな?」
ハジメとシアがある程度気心の知れた会話をしていると、昇格者達にシアの父親であるカムが話しかけてきた。
「まずは我が主の快復を祝福いたします。そして、娘であるシアの門出も。我々ハウリアはパスカル殿の村を守護する役割を全うする所存でございます」
カムを始めとするハウリア達はパスカルの村を守る任に着いた。完璧な弱者ではなくなったとはいえ、昇格者と比べればどうしても戦力としては劣る。故に大樹への案内人はシアとロックに任せ、他は残留する事になったのである。尤も、外には敵性機械生命体が跋扈し、亜人族による襲撃の可能性もゼロではない以上、ある程度の戦力は残しておく必要があった。
「樹海の情勢は平時とは異なっております。道筋そのものはシアやロックの案内があれば迷う事は無いでしょう。しかし、道中に何もなく通してくれると考えるのは楽観に過ぎると愚考致します。主の強さについては今更疑ってはおりませんが……どうかシアを、宜しくお願いします」
それは父親として当然の感情。娘を戦場に送り出すという行為において、心配するなという方が無理な事である。
「はい、任されました」
故にハジメはその態度を正面から受け止める。逃げも隠れもしない声色であった。それに対してカムは頭を下げ、「ご武運を」といってハジメ達の視界から消えた。
「良いお父さんだね」
「はい……!」
香織の言葉に、シアはハジメから渡された大太刀『白の約定』を背負って答えた。
「では、出発しましょうか。聖者の凱旋か、あるいは、亡者の怨嗟に満ちる旅路を」
パスカルには既に出発の旨を伝えてある。少しだけ長くとどまったこの村に、一時の別れを告げる時が来た。
深い霧の中、ハジメ達は大樹に向かって歩みを進めていた。中性ヨーロッパのような文明のトータスの街中では目立つ集団だが、霧の中で行動していると不思議と水墨画のような景色に溶け込んでいる。
ロックはデボルに修理された後は黒い大型の狼のような見た目となった。パニシングとの親和性を高める黒色の物質を使っているために以前とは色が変わってしまっており、「塗料で直すか?」と聞かれたが、本人は色にこだわりは無いようで「別にこのままで構わん」と答えていた。武器は爪や投げナイフなどの他にチェーンソーが追加され、戦闘力も上がっている。
シアはキャミソールのような衣服に脚部がほぼ露出するような短さのショートパンツ、鉤爪を使うために四肢の半分から先は再現された皮膚ではなく機械部分が露出しているという、戦闘スタイルもそうだが、二重の意味で防御面を犠牲にしている服装である。そのような服装でありながら卑猥さを感じさせないのは、持っている武器やモノクロの色彩で統一された流麗さや、数日とは言え修行によって引き締まった表情によるものだろう。
最後に、優花はヘソ出しの服を着て脇腹の片側を隠す大きくスリットの入ったタイトスカートのような物を身に着け、ニーハイブーツ……のように見える機械的な脚を片側だけ露出させている。シアほど露出が多いわけではないが、脇腹や脚部が片側だけいわゆるチラ見せ状態となっており、動きやすくはあるが控えめに煽情的な服装となっている。
だが、優花を見た時に一際目を引くのは彼女の上半身程の大きさを持つ戦輪だろう。中心点に交点が来るように挿入されている十字により、磔にされた罪人のような印象さえもうける。
「改めて見てみると女の子ばかりですねえ……」
「言い方! 僕が集めてるみたいに言わないでくれません?」
「俺は雄だが?」
「ロックは人型じゃないのでノーカンですぅ。しかもこの中の三人と恋人関係にある以上、言い逃れは出来ない気がするんですけど」
「あなた僕に対してだけ図々しくありません?」
家族を変貌させた元凶であるハジメにはやや棘のある対応をするシア。とはいえ、ハジメとしても不思議なのである。特段自分の事は人格者だとは思っていないハジメは三人から向けられる好意に気付きこそすれど、理由については完全に納得できてはいない。簡単に言えば、計算の結果は判明しているが、そこに至る数式、或いは証明が判然としないのである。
「というか、ユエ関しては旧知の仲というわけでもなく、直前に殺害予告までしてたんですけどね」
「「うわぁ……」」
「優花にシアさん、引かないで。以前話したような状況ですぐに信用しろって方が無理です」
「確かに、怪しすぎるのは私も認めるよ。でも、あの言い方はないんじゃない? サスペンスな言葉選びはコンダクターの美徳でもあるけれど、欠点だね」
一応、ユエの事情――殺された未来が復讐に来る。それから自分を守るためにハジメと恋仲になった、という話はハジメも聞いている。しかし、一種のボディーガードを目的とするなら恋仲にまでなる必要は無い。むしろ依存に近い関係になる事は悪手ではないか? とすらハジメは思っていた。だが、そんなハジメの様子を見たユエは疑問を察して答える。
「ハジメを好きになった一番の理由は、私をちゃんと殺してくれそうだったから」
「え……?」
シアはその言葉に吃驚し、ユエをまじまじと見つめた。普段の振る舞いからして、殺されそうになって喜ぶ性癖の持ち主には見えなかったからだ。
「私は生きたまま封印され、孤独と業苦を味わった。仮にハジメから信用されなくなったら、きっと彼は危険因子を生かしはしない。どんな手段を使っても殺してくれる。利用する価値を失った私を中途半端に生かすほど甘い人間じゃない。きっとこの業苦を、終わらせてくれる……! そう確信したから、好きになった」
シアは自分の愚かさを恨んだ。ユエの不死性や封印の話は自分も聞いていた。にもかかわらず、ユエの苦しみには気付くことが出来なかった。だが、ユエはシアを励ます。
「無理に理解しろとは言わない。きっとそれが正常だから。でも、それで嫌いになったりしないから安心して」
「ユエさん……」
シアは改めてハジメ達を見つめる。香織や優花からも話を聞いたが、これは恋愛関係などで総括できる程、単純な関係ではないということを思い知った。光と見紛う程の闇、人間性を超越した感情、生物学的な定義に依らない生と死……あまりにも複雑すぎる関係だ。
「黒死病時代の饗宴」
「はい……?」
「僕達の世界の戯曲です。ささやかな死への抵抗を描いた」
アレクサンドル・プーシキンの戯曲『黒死病時代の饗宴』。地球人でその名を知らぬ者はいない疫病、ペスト。黒死病とも呼ばれるその病は猛威を振るい、パンデミック当時の世界人口の22%が死亡したと推計されている。この戯曲は親しい人をこの病気に奪われた人間達がその悲しみを癒すために開いた宴を描いたものだ。
宴を止めに来た神官の倫理では人は救えず、壮烈な言い争いと『ペストを讃える歌』の悲壮感が目立つ。ハジメはたとえ倫理に反していようと、彼女達を愛すると決めていた。
「罰の
静かであるが厳然たる決意を込めた声。業苦を生き抜き、理不尽に与えられた罰に抵抗するその姿勢は、恋愛感情を抱いていないシアにも美しく映った。今一度、シアはハジメに付き従うのだと決意をした。
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やや哲学的な会話をしながら進む事十五分後、心配されていたような戦闘は起きず、一行は大樹の元に辿り着いていた。
大樹を見たハジメの第一声は、
「これはなんとも退廃的……いえ、或る意味神秘的、とも言えますが」
ハジメ達が目の前にした大樹は枯れていた。大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
シアが大樹についての解説を入れる。地球、もとい日本でも枯れている大樹を御神体として祀る事はある。後世では観光名所になっているという点も同様だ。ハジメは大樹の根元に歩みより、一つの石板を見つけた。アルフレリックから概要は聞いていたが、今の所相違点は無い。
「オルクスの扉と同じものですかね……」
「……ん、同じ紋様」
「オルクスにも同じものがあったの?」
「最深部の隠れ家にね。同じメカニズムだとしたら同じような方法で開く可能性は高いけど」
しかし、石板の表面に指輪を近づけてみても反応は無い。パニシングによってどこかしらおかしくなっている可能性もあるが、とりあえず『手順を間違えている』と仮定して方法を模索することにした。
「皆……これを見て」
石板の裏に回ったユエが何かを見つけた。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。ハジメが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。すると、石板が淡く光り出した。
ツキヨタケを彷彿とさせる光は次第に収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「感想:もったいぶった文章」
「それを言ったらおしまいですよミュオソティス。それにしてもどういう意味なのやら」
「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」
「紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
シアの発言に全員がなるほどと思った。確かに、ここまでそれなりに面倒な手順を踏んできたが故にその意見には説得力があった。また、『再生の力』とはユエの『自動再生』や昇格者の『自動修復』の事かと予想したが、空振りであった。
「枯れ木に……再生の力……最低四つの証……もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことでしょうかねえ」
「確かに、目の前の枯れ木を再生させる必要があるのかも。さながら御伽噺のように、枯れ木に花を咲かせる必要があるのかな?」
ハジメと香織の意見に全員がなるほどと思った。
「ここまできて入れない事は残念ですが、他を当たるしかないでしょう。何やらけったいな鍵が必要なようですし」
「……最初から簡潔に書けばいいものを。何故このような回りくどい書き方をする」
ロックが人間の考える事は理解できないと溜息を吐く。ミュオソティスも同意見であり、魔物や機械にはやや理解しがたいものであった。
「まあ、人間とはこういう物であると思う事ですね。後は、微量ながら悪意を持つ人間に対するカモフラージュの役割を果たします。我々の世界でも、暗号という形で情報を隠蔽したりもしますからね」
ロックは「そんなものか」と吐き捨てたが、ミュオソティスは『暗号化』というプロセスを例えに使われた事により理解したようだ。文学的か数学的かはともかく、これも軽い暗号の例である。
いずれにせよ、ドレスコードを多々違反しているためにこの迷宮には挑戦する事ができないのは明白である。現時点では他を当たるしかないだろう。
「何だかRPGやってる気分ね……」
「「「「あーる・ぴー・じー……?」」」」
「ロシアの対戦車擲弾ですか?」
「違うわよアホタレ」
「冗談です。南雲ジョークですよ」
「……馬鹿はほっといて、RPGっていうのは参加者が各自に割り当てられたキャラクターを操作して、架空の状況下において与えられる試練を乗り越えて目的を達成する目的の遊びよ」
「へぇ~、ユウカさん達の世界にはそんなものがあるんですね」
優花の何気ない一言に異世界出身の四人が疑問を持ち、ハジメの微妙なジョークをスルーして優花が説明する。オルクスの隠れ家にあった娯楽用のゲームは殆どがストラテジー型のゲームであり、トータスにおいてRPGはあまり見かけない。
閑話休題
シアがウサミミを立てて周囲を見渡しながらポツリと呟く。
「しかし、道中何も遭遇しませんでしたねぇ。村にいた時や向かう時は結構な頻度で何かが襲い掛かってきたモノですが」
「安心するのはまだ早いですよ、シアさん。僕達の世界にはこういう言葉がある。『行きは良い良い、帰りは怖い』」
ハジメがそう言った瞬間、霧の中から機械生命体の集団が襲い掛かってきた。
「そういうことですか……」
シアが零した言葉と共に、昇格者達は戦闘態勢に入った。
人数も増えてきて書くことが増えたため、割と簡単に5000字を突破するようになってきた件。16進数で稼いでいる気がしなくも無いが、NieRっぽさは多少出ているのではないだろうか。そして、ハジメを巡る人間関係だが、本編中でも書いたように単なるラブコメやラブストーリーというよりは思考実験の領域に片足を突っ込んでいる。なろうアレルギーの方にはハジメが殆ど努力せずにハーレム関係を築いているように見えるかもしれないが、寧ろ付き合う女性の数が増えるという事はこの作品においてはそれそのものが『業』なのである。
備忘録
サルトル:NieR: Automataに登場する、パスカルの村に住む機械生命体。ゲーム内において『サルトルの憂鬱』というサブイベントで関わる事になる。元ネタは実在するフランスの哲学者であるサルトルと思われ、女性達との不可思議な関係はボーヴォワールとの契約結婚が元ネタと思われる。
シア:NieR: AutomataのA2のような見た目だと思ってほしい。A2は塗装が剥げてあの見た目になっているというアンドロイドならではの設定となっており、衣服の類は殆ど身に着けていない。逆説的にシアの方が露出度は控えめだったりする。
優花:見た目についてはドールズフロントラインというゲームのアルケミストという登場人物を元ネタとしている。当初は武器と同じくDOD3のキャラクターから取ってこようと思ったのだが、違和感が半端なかったために没となった。パニグレの方でも似合う服装が見つからない中、偶然見つけたこのキャラを元ネタとした。
黒死病時代の饗宴:本編中でも書いたが、ハジメ達の関係は死や理不尽への抵抗である。ハジメは死を愛するが、それは死へと抵抗する為であり、死を通して生を見ている。ペストを讃える歌を歌いながら病魔に抵抗する登場人物たちと重なる部分が多い。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する