人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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注意:急遽ストーリーを変更したので、つなぎ方がやや雑です。


停戦シタ人形タチ

「どうして止めるんだ! 今攻撃すりゃアイツ等を滅ぼせるってのに!」

 

 森の古城にて、香織に致命の一撃を与えた亜人の昇格者が叫ぶ。相手は彼女らが『刑死者』と呼ぶ存在。機械教会の幹部であった。

 

「兵力が足りないからです。フェアベルゲンはともかく、護衛たる昇格者の一団は脅威。現在の戦力で相対すれば敗北するのはこちらです」

 

 昇格者はその言葉に唇を噛む。香織への一撃はたまたま奇襲が成功したから善戦できただけで、正面から挑めば敗北する事は自分でも分かっているのだ。おまけにロックは自分達の手を離れ、機械教会から送り込まれた援軍であるオーダー・ネメシアは機能停止に追い込まれている。

 

 更に言えば、外部の魔物や機械生命体の脅威に曝されている事は『刑死者』の一団とて変わらないのだ。仮にフェアベルゲンやハジメ達との戦いに勝利したとしても、間髪入れずに自分達の滅亡が確定してしまう。

 

「私とて、闘う事を諦めたわけではありません。今は……待つのです」

 

 『刑死者』は静かに、そう発した。

 

 

 

 

 

 

 ハジメ達は樹海を抜け、他の大迷宮を目指す前に色々と準備をしようと街を目指していた。

 

「何だったのかしらね。アレ」

 

 と呟くのは優花だ。神の使徒の残骸と思われる物と闘った後、ハジメ達は霧に誘導され城のような場所に辿り着いた。しかし、遠目にその姿を確認した瞬間に再び霧によって弾き出されてしまったのだ。

 

「敵も一枚岩ではないという事でしょうか? あそこまで好戦的な態度を取っていたことを考えると、自発的に停戦したとは考えづらい……より上位の権限を持つ者による強制操作と考えるのが自然でしょう」

 

 ハジメ達としても後顧の憂いは断っておきたいため再びアクセスを試みたのだが、それは失敗に終わった。

 

「私達がいなくなった後に侵攻するつもりだったのかな?」

 

 勿論香織の言う可能性も考えなかったわけではない。故にパスカルやアルフレリックに話を通し、守りをより強固にしてから出てきたわけだが。なお、機械生命体の村に施したのと同じような防壁をフェアベルゲンにも作ったのだが、反対する長老達をアルフレリックがなんとか説得した結果である。

 

「我が奴らに囚われていた時、それほど強大な戦力を有していたようには思えなかった。無論、あの機械でない亜人共にとっては脅威だろうがな」

「つまり、兵力が底をついたために停戦したと?」

「そういうことだ。我を失い、オーダーとやらも機能停止状態。更にはドンナーとシュラークとやらいう奴らも半殺しにしたのだろう? お前達の攻撃に対抗できる戦力は他に思いつかんな」

 

 ロックの意見に全員が頷く。それならばいきなり攻撃を止めた理由も頷ける。しかし、ハジメの顔はより険しくなった。

 

「だとしたらより危険ですね。次はより強力な戦力を率いて強襲してくる可能性が高い」

 

 そういう事だ。準備にどれ程の時間がかかるか不明だが、それが出来るとなるとかなり危険である。ただ、現状手出しができないのも事実。故に放置するしかなかった。

 

「一応可能な限りの防御策は講じましたので、今すぐどうこうなるとは思いませんがね……我々もまた、困難な戦局に立たされているようだ」

「………」

 

 ハジメの表情が険しくなり、誰もが黙る。まるで美しき死神の冷酷さを体現したかのような表情であった。

 

「最適解が必要ですね。敵対者は徹底的に潰し、殺す。仮令僕が、冬の魔女となり果てようとも」

 

 高校生になったばかりの頃に香織と話した思い出を交えながらハジメは話す。当時は優花の件もあって、冬の魔女のようにはならないように生きようとしていたが、この世界ではそれは通じない。

 

 そしてシアを一瞬見て、言葉を続けた。

 

「次に会敵したら、逃がしはしませんよ。ゲーム理論において、攻撃してきた相手に対しては徹底反撃する事が理論最適解とされています。このケースでの譲歩は愚策中の愚策と言っていい」

 

 在りし日のラングランスのような事を言うハジメ。代行者となった者同士、思考回路に通ずる部分があるようだ。

 

 シアの方を見たのは、この闘いがシアにとって辛いものになる事を予見したからだろう。亜人を取り巻く闇に向き合う事になるだろうから。しかし、シアは毅然とした態度で返した。

 

「侮らないでください。優花さんに聞きましたが、ハジメさんは『悪魔』なのでしょう? ならば、私の願いと引き換えに私の魂を手に入れたはずです。貴方を裏切る事など、あり得ません」

 

 シアの言葉を皮切りに、仲間達は口々に決意を顕にする。

 

「……私はハジメから離れない。貴方が私を殺すまで」

「私もシアと同じよ。貴方に魂を捧げたわ」

「飯と寝床さえ用意してくれれば文句は無い。だが、同じ条件ならお前の元へ駆けつけるだろう」

「私は、マスターの随行支援ユニット。離反する事は、あり得ない」

 

 五人の後、香織がその遺志を継ぐように話す。

 

「正直、コンダクターがこの世界に来てから冷酷になったのは、少し私の中で引っかかってはいたの。お婆さんと子供を助けた君の優しさも好きだったから」

 

 だが、香織は悲しそうな表情から凛とした表情に変える。それはハムレットの変貌に絶望せず、狂死しなかったオフィーリアのように。

 

「でも、神の国に憧れた自己犠牲で君が殺されるのは、何を差し置いても許し難いの。君のためなら、君のコンサート・ミストレスとなれるなら、私は嵐にもなる」

 

 仮にハジメが己の生命以上に優しさを優先するなら、それは自殺だ。いつかの樹海で、自分の頭を銃撃した時と変わらない。香織にとって、それは裏切りだ。大罪だ。

 

 彼女らの言葉にハジメは深く頷き、目的地へと身体を向けた。

 

「まずは焦らず、しかし確実に戦力を増やしていきましょう。我々が、自らの意思で呼吸が出来るように」

 

 

 

 

 

 

 遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。

 

「あれがブルックの町かな? ターミナルが言ってた」

「天人五衰の代行者の一角である(ティオ)さんの傘下に入ったそうで、我々の話は既に通してあるそうです」

「裏から支配してるって感じなんですかねえ……て、それならこの首輪は要らないでしょう! 外してください!」

 

 シアが自分の首を指差しながら憤慨した様子でハジメに詰め寄る。それもそのはず、シアの首には明らかに奴隷用と分かる首輪がはめられていたのだ。

 

「残念ながら無理です。鍵は捨てましたから」

「はあ!?」

「解毒剤も」

「毒まで盛られてるんですか!?」

「まあ、両方嘘なんですけど」

「なるほど、戦争がお望みのようですね」

 

 シアが白ノ約定を片手に殴りかかろうとした所をユエ、ロック、ミュオソティスが必死に止めている。「止めないでくださいお三方! コイツは一回間伐材と同じ目に合わせてやらなきゃいけません!」と猛るシアは既に三人がかりで止めなければならない程に成長している。

 

「まあ、首輪を外す事に関しては考えなかったわけでもないのですがね……」

 

 流石にシアが不憫すぎると思ったのか、香織と優花にしっかりと窘められた後にハジメが口を開く。耳鳴りが酷いのか頭を傾けていたが。

 

 話の流れが変わった事を感知したのかシアの動きが止まったところで話を続ける。実は首輪をつける理由は事前に説明されていた。奴隷がらみのトラブル除けのためと。

 シアは白髪の兎人族であり、それだけで稀少価値が高い。更には優れた容姿に戦闘力、未来視という固有魔法まで持っている。奴隷としての価値は驚くほど高い。

 

「ブルックの町は九龍衆が一枚かんでいるのはその通りなのでしょう。しかし、公的にハイリヒ王国から独立したわけではないのです」

「あ……」

「そういう事ですよ。いくら味方が運営に関わっているからと言って、ハイリヒ王国の法は適用されます。誰かの所有物という証をつけておかないと……」

「人攫いの雨霰ですね……」

「しなかはりたるうきわざに、をとづれとては小夜嵐ってわけです。勧進帳でも持っていれば良かったのですが」

 

 井原西鶴の浄瑠璃『凱陣八島』を例えに締めくくるハジメ。言うなれば頼朝から逃げる義経の立場なので間違ってはいない。トータス出身であるシアにはよく分からない例えだったが、香織が説明すると合点がいったようであった。

 

「はあ……まあ、魂を捧げると言った手前、これ以上は言いませんよ。ハジメさん達もステータスプレートを偽装しているようですし」

 

 ブルックの町が味方の傘下に入っているとはいえ、クラスメイトその他に対する情報漏洩は別問題だ。そのため、ステータスプレートは適度に偽造してある。具体的には名前と数値を多少弄ってあるのだ。

 

 今表示されている名前はハジメがゲーテ、香織がシャルル、優花がマーガレットとなっている。なお、原典と違い支援体制が充実しているため、ユエ、シア、ミュオソティスのステータスプレートは既に用意してある。ロックはペット扱いとなり、普通の生き物に見えるよう偽装が為されている。

 

「面倒だけれど他にやりようも無いのよね。繁華街這うレッドアイ共の莫迦な行動力は侮れないわ」

「歌舞伎町にでも通ってたの? 優花ちゃん」

 

 優花がわざわざレッドアイと言ったのは羽目を外すのが酔っ払いに限らないからだろう。

 

 と、色々と準備をした後で遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメ達は、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

 

「主目的は食料の補給です。王国内を浪々としておりまして」

 

 ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男がハジメ達のステータスプレートをチェックする。その際、香織の顔を一瞬凝視したが、右眼の花は偽装してあるので単純に美貌に見惚れただけだろう。

 

「まあ、問題は無いな。通っていいぞ。にしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? アンタって意外に金持ち?」

「それほどでも。六人と一匹の旅費程度はありますが……ところで、素材の換金は何処で出来るか聞いても? 手に入れたは良いのですが、使い道が無くて」

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「ご親切にどうも」

 

 門番から情報を得て、ハジメ達は門をくぐり町へと入っていく。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

「とても不本意ながら、効果はあったようですね……」

 

 シアが街の喧騒などどうでも良いと言うように不満顔をする。やはり対等な仲間として扱われた後に、奴隷と思われるのは心情的に嫌だったらしい。しかし、ステータスプレートを偽装していたとはいえ、門番はハジメ達に対して特別思う事は無いようだった。やはり、九龍衆の息がかかっているとは言っても末端の職員までは話が伝わっていないのだろう。

 

 と、不満顔のシアにユエが声を掛ける。

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

「ユエさん?」

「……大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。……違う?」

「………………そう、そうですね。そうですよね」

 

 嘗て政治に関わっていたユエだからこその言葉。デボルとポポルも言っていたように、万人からの評価を無理に得ようとした政治家が上手くいった試しはない。その昔、大衆の声を聞き、大衆のために力を振るった吸血姫。裏切りの果てに至った新たな答えは、例え言葉少なでも確かな重みがあった。

 

 そして、香織もその言葉に続ける。

 

「うん、シアの気持ちも分かるけど、やっぱり今はどうしようもないよ。泥黎(ないり)に落ちてしまったら、嘆き歌(ラメント)すら聞こえなくなってしまうもの。私がセイレーンとなった時のように……」

「か……シャルルさん……」

 

 重ねて香織からも説得され、シアは納得した。蒼い月や青藍の空すら見えなくなるのは、耐えがたい。

 

「まあ、いざとなっても見捨てはしませんよ。敵対者には徹底反撃。それが理論最適解ですから」

「他に言う事無かったのアンタ」

 

 街に入る前にも言っていた理論をこの場でも言うハジメに優花が呆れた視線を送る。しかし、シアにとっては充分だったようで顔を綻ばせていた。

 




原作と違って天人五衰が色々と動いているので辻褄合わせが大変です。楽しいですけど。過去話と見比べながら書いています。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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