人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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なんか書きあがったので投稿します。


演奏スル人形タチ

 冒険者ギルド。もしくは単にギルドとも呼ばれるそれは、西洋モチーフのファンタジー世界なら必ずと言っていいほど定番の施設だ。それはこのトータスでも例外ではないようである。

 

 昨今出回る小説において、ギルドとは荒くれ者の集まりというイメージがある程度横行しているのだが、ブルックのギルドは想像よりも小綺麗な施設であった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。

 

 ハジメ達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ珍しい集団という事で注目されていたが、徐々にハジメの周りの女性陣に視線が向く。そして、女性冒険者の拳からと思われる殴打音が聞こえてきた。香織や優花が歌でも歌おうものなら元ネタ通りのセイレーンとなれそうである。

 

 こういう時はちょっかいを掛けてくるのも定番だが、そう言う事も無い。足止めされないのは幸いである。

 

「おや、珍しいね。大抵の男は美人の受付じゃなくてガッカリするんだけど」

「既に愛も哀も余さず注がれてますからね。双眸(そうぼう)(もと)れば待ち受けるは、頭蓋に咲き散る少女地獄……」

「若いのに随分と渋い言い回しをするねえ……」

 

 受付には恰幅の良い中年女性が出迎えた。彼女の話によれば、美人な受付を期待して落胆する男が多いらしい。どうやらそれは本当のようで、「珍しく説教されてない」という空気が流れてきた。中には「え!? アイツ男だったの!?」という困惑も混じっているようだが。

 

「というか、初見で僕の事を男だって分かるんですね」

「年の功ってヤツさ。随分と苦労してるみたいだけど」

「まあ、向けられるやっかみは多少減るかもしれませんが」

 

 ハジメの冗談に中年女性は笑って返した。実際、このギルドにはアウトローな連中もいるのだが、治安が保たれているのは偏に目の前の女性の手腕に依るものだった。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルドブルック支部へようこそ。ご用件はなんだい?」

「素材の買取りを」

「素材の買取りだね。じゃあ、まずはステータスプレートを出してくれるかい?」

「ほう?」

 

 怪しい筋からの品を買い取らないための措置だろうか? そんな疑問を持ちながらハジメが問い返すと、女性も「おや?」という表情になった。

 

「アンタ等冒険者じゃなかったのかい? まあ、楽器持ってるし楽団みたいだけれど。確かに買取りにステータスプレートは不要だけどね。冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ。全く戦えないってわけじゃなさそうだし、どうだい?」

「なるほど」

 

 ついでに、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

 ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じだ。

 

「そうですね……では登録しておきましょう。千ルタでしたっけ?」

「そうだよ」

 

 戻って来た六人分のステータスプレートには新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 

 青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。……お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ……というのはやや穿ち過ぎであろうか。

 

 いずれにせよ、如何な籌策(ちゅうさく)があったかは知らぬが、かなり捻くれたシステムであることは間違いない。因みに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だそうだ。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」

 

 ついでに女性がハジメに一枚の紙を差し出してきた。書かれている内容は、

 

(アンタ達の事は上層部から聞いてるよ。何か困った事が有ったら私に相談しな)

 

 であった。九龍衆の手が入っているというのは本当らしい。筆談にしたのは、ここに集う冒険者には外部の者も混じっているからだろう。どうやら天職欄にあった〝数学者〟の表記が判別の決め手であったらしい。やはり数学者は自分の他にはいないのか、と思いながらハジメは言葉と筆談の両方に答える。

 

「ええ、そうさせていただきましょう。下人の行方は誰も知らない、などという事にならないように……」

「何かのフレーズなのかい? それは」

「まあ、無鉄砲な若者の末路と言った所です。それで、買取りは此処で宜しいのでしょうか?」

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

 人里に来ても通常営業なハジメに、ハイスペックな女性が動じずに話を進めた。一ルタ程度の価値しかないらしい下人一歩手前のハジメは、あらかじめ〝宝物庫〟から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

「やはり珍しいのですか?」

「珍しいし良質なものが多いね。樹海は人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

 女性はチラリとシアを見る。おそらく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。それから女性は、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」

「いえ、十分ですよ」

 

 ハジメは五十一枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。もっとも、例え邪魔でも、ハジメには〝宝物庫〟があるので問題はない。渡る世間は鬼ばかりと思っていたが、ブルックの入り口を羅生門にせずに済んだようである。

 

「所で、門番の彼からこの町の簡易的な地図を貰えると聞いたのですが」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。ハジメは数学者であるために、有効的に配置された要素を演算して更に驚いている。

 

「凄まじいですね……これだけで一生食べていけそうだ」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

「NP問題の考証に使えるかも……」

「変な計算始めないでコンダクター」

 

 思わずハジメが意識を明後日の方向に飛ばすくらいに女性の優秀さが半端ではない。何故辺境で受付などやっているのだろう。

 

「そうですか。助かります」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その面子ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

 最後まで女性は良い人で気配り上手であった。ハジメはそれにお礼を言う。

 

「何から何までありがとうございます。そのついでと言っては何ですが……」

「ん? どうしたんだい?」

「そこに置いてある楽器は演奏しても構わないのでしょうか? 先程から仲間が気になっているようでして」

 

 ハジメが指したのはギルドの一角に安置されているオルガンのような物だった。無論、気になっているのは優花である。

 

「ああ、クラヴィーアの事かい? あたしが来る前からそこにずっとあるんだけど、中々弾ける人間がいなくてね。別に弾けるなら弾いても構わないよ」

「ですって。折角ですから弾いていけばいいのでは?」

 

 クラヴィーアとは地球におけるピアノのような楽器である。どうやらチェンバロのような機構ではなく、現代の地球でよく知られた打弦楽器の物のようだ。そんなものが壊されもせずに配置されているあたり、かなり治安がいい事が伺える。

 

 女性の言葉を聞いた優花は少し何かを考えたが、結局弾くことにしたらしい。おそらく目立つリスクと天秤にかけたのだろうが、音楽の一つも奏でられないというのでは悲惨で無常に過ぎる旅路という物だろう。

 

「私もベースで参加しようかな。ワルドマイスター持ってるし」

 

 香織も優花の近くで楽器を取り出す。あまり特殊なアーティファクトは衆目に晒さない事にしているが、弦楽器自体はトータスにもあるので問題ないだろう。

 

 ピアニストとチェリストは息を合わせて演奏を始める。最初のグリッサンド奏法で場の空気を掌握した優花は、ジャズ特有のリズム感で聴衆を乗せる事に成功する。アップテンポで跳ねるようなリズム、さらには適度なアクセントで刺激を加える事も忘れない。

 

「何と言うか……凄い子達を連れてるねえ。一瞬でギルドが演奏に飲み込まれちゃったよ」

 

 受付の女性も流石に驚いたようだ。中世ヨーロッパに近いトータスで、ジャズなど存在しないのも要員であろう。だが、ハジメはいくら目立とうとも彼女達の演奏を止める気は無かった。音楽はハジメ達を人間たらしめる重要なピースなのだから。

 

「格好いいでしょう? 耳は勿論、目も離しちゃ駄目ですよ」

 

 ハジメはカウンターに寄りかかりながら彼女達の演奏を聞く。

 

 今演奏している曲は『アイ・オープナー』。「運命の出会い」という言葉が添えられたカクテルの名を冠する、優花が作曲したオリジナルだ。目覚めの一杯を意味する、パンチの効いたカクテル。目の覚めるような曲調にぴったりの名前だ。

 

 一曲目が終わり、演奏が止んだことで「今回はお開きか?」と不安になる観客たち。しかし、演奏者達のテロ行為はまだ続く。たとえ地球人の異世界に対する反抗心が生み出した音楽であれ、人を魅了するには充分すぎるものだった。

 

 二曲目は香織の優しいピチカートから始まった。指で弦を弾き、その短い音はしかし空気を揺らしていく。余韻すらもコントロールされた、天上の音であった。

 

 曲の名前は『ブルーラグーン』。比較的手軽なレシピであるためにポピュラーなカクテルでもある。青の湖という名前の通り、見た目も美しい。『アイ・オープナー』とは打って変わってスローテンポの曲だが、綿密にコントロールされたピチカートと、湖のさざ波のようなゆったりとしたピアノのアルペジオが観客の耳を飽きさせない。

 

 さて、名残惜しいが最後の曲だ。いつまでも油を売っているわけにはいかないし、冗長に過ぎる演奏会は敬遠される。このくらいの長さがちょうどいい。

 

 最後の曲は『スコーピオン』。ハワイ生まれの「サソリ」の名を持つカクテルの由来は、飲みやすいためについ飲み過ぎてしまうから。この曲だけはジャズというよりもタンゴに近いリズム感で構成されている。それもそのはず、優花は『リベルタンゴ』から着想を得てこの曲を作ったらしい。やや激しめの曲調は直前のゆったりとした空気を破壊し、興味を失いつつあった一部の観客の目を強制的に覚ますに至った。

 カクテル言葉は『瞳で酔わせて』。非意図的ではあるが、類稀なる容姿で魅了し、実力も充分に示した演奏者達に相応しい選曲であろう。

 

「アンタ……結構鉄面皮だと思ってたけど、意外と表情豊かだよね」

「そりゃあね。こういう時くらいは素直に楽しみますよ」

 

 ネガティブにポジティブなハジメではあるが、恋人と芸術を愛する心は本物であった。

 

 

 

 

「ご清聴ありがとうございました」

 

 そう言って冒険者ギルドから出てきたハジメ達。万雷の拍手と、演奏に酔わされた観客たちの視線を背後に、地図を見ながら宿を吟味していた。

 

「今更だけど、演奏会を許可するとは思ってなかったわ。目立つのは得策ではないでしょうに」

「別に……大した考えがあるわけではありませんよ。こういうことくらいしておかないと、我々が此処に集ったという事象が、消えてなくなる気がしたんです」

 

 親しい人を殺さなければならなかった少年の、優花の問いに対する答えは学者らしからぬ抽象的な言葉であった。だが、黒の時代を経験したハジメの言葉は盲言とは片付けられない真に迫ったものがあった。

 




他の作者様が仰っていたのですが、主人公だからって常に正しい行動がとれるわけではありません。今回なら演奏会。「ジャズみたいな曲を弾いてた」とクラスメイトに伝わったら情報漏洩になります。しかし、これは必要な数値です。

備忘録

下人の行方は誰も知らない:いわずもがな、羅生門。

クラヴィーア:名前の由来はピアノのドイツ語をカタカナ表記したもの。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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