人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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なんかタイトルの方向性変わりましたが、NieRのサントラでも英語の曲は有るので大丈夫でしょう。なお、このタイトルの元ネタはヨルムンガンドというアニメのサブタイトルです。


Musica ex machina/ phase-1

「ご存じでしょうか?」

 

 場所はマサカの宿の食堂。一足先に朝風呂を終えたハジメは湯上り姿を晒しており、食事目的の客と思われる男二人がハジメと相対している。

 

「砂糖も塩も、コーヒーですら、一定量を超えると毒になるって」

 

 なにやら話の流れが不穏だ。目の前の男二人は嫌な予感がしていた。

 

「一緒に遊ぼうというなら、致死量チキンレースなんて、どうでしょう?」

「……」

「ああ、我ながらいい案ですね。幸い、この食事処には様々な飲み物があります。言い出しっぺですから、ハンデとして僕は酒類を選びましょうか。ほら、突然死の原因の約一割は酒類が原因であると、何処かの資料で読みましたし?」

「……………」

 

 幽かな笑顔と共にハジメが遊びの内容を提案すると、目の前の男二人は完全に引き攣った顔でハジメを見ている。その後、ハジメは自分達には合わないと判断したのか、その顔のまま男達は去っていった。

 

「ハ……ゲーテさん、あなた一体何をやっているんですか?」

「むしろ、何かされたのは僕の方なんですよね」

 

 話しかけてきたシアにハジメは答える。他の女性陣と同じように朝風呂に向かう途中だったのだろう彼女は、穏やかなのか物騒なのかよく分からない会話を不審に思ったに違いない。

 

 まあ、簡単に状況を説明すると、ハジメがナンパされたのだ。おまけに相手はハジメが女性と勘違いした上で。

 

「それ、ゲーテさんが自分の性別を明かせば直ぐに終わった事なのでは? あんな回りくどい方便を使わずとも」

「明かしましたよ。いの一番に。しかし、先方は僕が男避けに男装していると思われたようで……」

「あー、そういう解釈になるんですね……」

 

 シアもハジメも呆れたように溜息を吐いた。

 

 しかし、湯上りで湿った髪と、困ったように頬に手を添えて首を傾げるハジメはシアから見ても女性にしか見えない。中性的な容姿と、無駄に線が細い身体がそれを助長してしまっているのだ。更には、夜戦(意味深)の影響もあるだろう。

 

「とりあえずその仕草はやめた方が良いと思います。勘違いする人が増えますから」

「おっと……」

 

 ハジメは頬から手を外す。しかし、首は未だに傾いたままなので、髪が顔や首に程よく張り付き無駄に色っぽい。容姿については異世界に来た後に変わったという事をシアは聞いていたが、仕草については筋金入りに見える。こういう手段であの三人は落とされたのだろうかと邪推してしまった。

 

「……なんで首傾げてるんですか?」

「昨夜マーガレットに首の後ろを噛まれまして」

 

 行為の最中に「今夜は消えないわね、歯形」と言っていた優花の顔は、暗闇だと言うのにハジメにはやけに鮮明に見えた。「位置的に首輪に見えるというのは言わないでおこう……」とシアは思ったとか。

 

「とはいえ、ナンパされた時の対処法は確立できましたね」

「へえ……」

「ヤバい奴アピールで向こうから離れたくするんです」

「アピールっていうか完全に殺りに行ってましたけどね」

 

 或る意味暴力を振るうよりも質が悪い解決法に思えるシア。法に触れない範囲で相手を抹殺する方法とか、いくらでも知ってそうである。フェアベルゲンでの冷凍技といい、兎人族程ではないにしろ温厚なのに恐ろしい。帝国兵よりも敵に回したくない相手だ。

 

 なんにせよ、今日はライセン大峡谷を探索する予定である。ハジメは準備をする為に部屋に戻った。

 

「ウチでは致死量超えるほど出しませんよー!」

 

 ……宿屋の娘の抗議を背中に受けながら。

 

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

 優雅な音色がライセン大峡谷に響き渡る。言うまでもなく香織が奏でる物だ。とはいえ、この場所はエネルギー分解作用があるため、武器を兼ねた楽器ではなく鼻歌だが。

 

 とはいえ、まるっきり無意味な行為というわけではなく、迷宮を探すための反響定位を目的としたものである。

 

 このライセン大峡谷を探索するうえでハジメ達は(偽名を使わない事以外に)一つのルールを決めていた。

 

 それは魔法を極力使わない事である。パニシングと魔力は全く別のエネルギーであるため、多少は妨害されるが魔力ほど使えないわけではない。だが、敵の使う妨害手段としてパニシングを無効化してくると言うのはあり得る話だ。故に、ゴリ押しで使えない事も無いが、それができない時のシミュレーションのために色々試行錯誤しようという魂胆である。なお、香織の反響定位は昇格者となってからはデフォルトで使えるため、探査目的なら十分である。

 

「案外どうにかなるものね……」

 

 峡谷の壁を跳び回りながらハイベリアを斬殺していくシアやロックを見ながら優花が呟く。そういう優花も切断性能のあるヨーヨーで敵を屠り続けている。直接触れている場合はエネルギーが分解されない性質を利用して、紐で繋がった状態で彼女の天職である『投術師』を生かせるようにしたのである。

 

「それにしても、お祭りの景品みたいなものを異世界で振り回すとは思ってもみなかったわ」

「たかが玩具と馬鹿にしない方が良いですよ。引力、遠心力、位置エネルギー……ヨーヨーは物理学の集大成ですから」

「ごめんなさいね。ハジメの芸術作品を馬鹿にしたわけじゃないわ。実際、有用だし」

 

 紐で繋がっているという性質を利用して、優花は敵を捕らえる罠や強制的に引き寄せる道具としてもヨーヨーを活用していた。おかげで他の面々が戦いやすくて助かっている。ハジメは「科学の勝利です」と呟いていた。

 

「まあ、紐の殺傷力なら香織の方が勝ってるけどね」

 

 優花とハジメが香織の方を見ると、鼻歌から弦楽器での演奏にシフトチェンジし、ワルドマイスターから伸びる無数の弦に絡めとられた魔物達が次々に切断されていた。

 

 香織の天職である『演奏者』は音に干渉する力を持つ。そこから発展して、例えば弦楽器の場合は弦の振動によって音を出している事に着目する。ここまで言えばお分かりだろう。つまり香織は弦に微細な振動を加える事で糸ノコギリのように使う事が出来るのである。

 

「ミュオソティスは今まで通り大砲ぶっ放してるからいいとして……ユエは何処に行ったのかしら。彼女の性質からしてこの場所と相性悪そうだけど」

 

 此処に来る前に、自分はどう戦おうかと悩んでいたユエを見た優花が呟く。と、上空に黒い影が見えた。それは巨大な鳥のような機械、王都にも出現した機械生命体であるオルニスだった。

 

「あれ? 確かオルニスって北の山脈地帯にいるんだよね? 優花ちゃんの話だと王都にも現れたっていうけど……」

「もはや何処にでも現れるわね……」

 

 だが、オルニスが得意の電撃で攻撃しようとした所、それは直上からの打撃によって遮られた。見れば、戦斧に変形させたオズマをユエが振り下ろしている。

 

「ユエさんナイスですぅ~!」

 

 どうやらシアに怪力によって投げられた後に、落下の勢いを利用して斧の一撃を加えたようだ。ロックを除けばメンバー内で最も質量が軽いからこそできた事でもある。

 

「やっぱりこう言う環境下であると、位置エネルギーは強いですねえ」

 

 ハジメが感心していると、ユエが香織の弦を足場にして斧を担ぎ直す。香織の方もユエが乗っている弦だけは振動を停止させているため、彼女が切断される事は無かった。更に、ユエはそこから飛び上がると同時に、斧の重さによる遠心力を利用して回転し、オルニスに連続攻撃を加える。

 

「死ね」

 

 更に、ブルックでのお仕置きに使った血液を炎上させる魔法〝月映(つきばえ)〟により手刀を加える事でトドメを刺した。なお、月映とはユエの命名であり、封印される前は使っていなかったとの事。

 

「お見事です。分解作用をうまく避けて攻撃していましたね」

 

 地面に降り立ったユエはその言葉に得意そうにする。ライセン大峡谷ではゴリ押しで魔法を使う事も考えたそうだが、それすらも封じられた場合は何もできなくなってしまう事に気付いた。だが、今はハジメ作のアーティファクトであるオズマがある為、それを使って近接攻撃をするという発想に至ったらしい。

 

「封印前はしなかった闘い方だけど、これはこれで爽快」

 

 ……やや戦闘狂めいたセリフが気になるが、まあ前向きなら良いだろう。

 

 と、オルニスを撃破した直後、何かがハジメ達を目掛けて飛び降りてきた。それは三メートルはある二足歩行の機械生命体で、攻防一体の豪腕にシールドの付いた脚が特徴だ。普通の冒険者が出会えば大惨事だろうが、ハジメ達からすればそれ程でもない。

 

「どう料理します? コイツ。暇でしたし攻撃されましたし僕がやってしまっていいですかね?」

 

 振り下ろされる腕を躱しながらハジメは仲間に問いかける。ついでにアストレイアによる銃撃をお見舞いした所で、ミュオソティスがガラティアで攻撃した。聞けば、ガラティアの新機能を試してみたいとの事。

 

「そういえばまだ使っていませんでしたね。では見せてもらいましょうか。ガラティアの新たな性能とやらを」

「アンタが改造したんでしょうが」

「それを言うのは普通は敵に対してだからね」

 

 横から恋人たちのツッコミが飛んでくるが馬耳東風と聞き流す。そんな漫才の横でミュオソティスはガラティアからブレードを引き抜く。

 

「第六形態:アクティベート」

 

 多機能砲ガラティアの第六形態……とは言っても、内蔵されているブレード機構を分離しただけと言えばそれまでなのだが。この形態を作った目的としては、ミュオソティスの敏捷性の向上である。ガラティアは大砲という都合上、一撃の威力は大きいが動作は他の面々と比べると遅くなってしまう。その弱点を補うのがこの砲刃分離形態というわけだ。また、ミュオソティスが仲間からラーニングした動きを試したいという意志も絡んでいる。

 

 敵機械生命体がミュオソティスを踏み潰そうと脚を叩きつける。しかし、ミュオソティスは瞬間移動のような動きを連続で繰り返して回避しながら連続で脚を斬り、更に跳び上がって再び一体化させたガラティアのブレードを振り下ろす。

 

「私の『蝶舞のセレナーデ』が元かな? 今の動きは」

 

 もしくは優花の立体機動が元だろう。

 

 機械生命体は手足を高速で動かし、ミュオソティスを轢殺しようとするが、ミュオソティスは敵を飛び越えるように跳躍し、ガラティアを連射しながら回避した。更に、着地した先で実弾の発射を行いダメージを与える。

 

 機械生命体は動きを止めるが、ミュオソティスはそのまま動き続ける。分離したブレードで二度斬りつけ、大砲を一発撃つ。更に蹴りで相手を怯ませ、一体化させたガラティアで刺突攻撃を往復して加え、再び分離させた大砲を片手で連射し、最後にまた一体化させて特大の斬撃を放って戦闘を終了させた。

 

「戦闘終了、機体状態:異常無し」

「お見事です。かなり使いこなしていますね」

 

 ハジメが言った通り、ミュオソティスは新機能を遜色なく使いこなしていた。ライセン大峡谷での戦い方が確立し、再び迷宮の捜索に移ろうとしたとき、偵察に出ていたロックから通達が入る。

 

「気になるものを見つけた」

 

 との事で、ハジメ達は早速その場に向かった。しかし、そこにあったのは予想だにしないものであった。

 

〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟

 

 其処には、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。

 

「こういうのなんて言うんでしたっけ。オジサン構文?」

「せめてギャルって言ってあげなさいよ……」

「ギャルってアレですか? チョベリバだし~とか、フロリダだし~とか」

「認識が雑なんてもんじゃないわね……まあ、私もよく知らないけど」

「これ本物なのかな?」

 

 本筋から脱線しつつあるハジメと優花を横目に、香織が問いかける。とはいえ、偽物という線は限りなく薄いだろうというのがハジメ達の見解だった。

 

 ミレディ〟その名は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるがファーストネームの方は知られていない。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。

 

「あ、でも、微かに聞こえてくる。何かの仕掛けが動く音……まるで巨大なオルゴールみたい」

「オルゴール? 自鳴琴(じめいきん)のこと?」

「独特な感性をお持ちでいらっしゃる」

 

 トータスにも似たような物は存在する。貴族の娯楽として少数ながら製造されているのだ。地球では17世紀に入って登場したが、完全に中世の時代に沿っているという訳ではないらしい。

 

「こっちに来てみろ。不自然な匂いがするぞ」

 

 ロックが言う場所に行くと、なるほど、不自然に壁が窪んでいる。ちょうど人一人が通れそうな大きさだ。香織も反響定位を使って確信した。この奥に空間がある、と。

 

「とりあえず入ってみましょうか」

「未だに何かが動いてる音がする。慎重にね? コンダクター」

 

 試しに壁を押してみると、忍者屋敷のどんでん返しの要領で扉が回転した。

 

「なるほど、押しても引いても駄目なら回してみると」

 

 ハジメとロックが入ったその中は真っ暗だった。扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、

 

ヒュヒュヒュ!

 

 無数の風切り音が響いたかと思うと暗闇の中をハジメ達目掛けて何かが飛来した。ハジメの視覚モジュールはその正体を直ぐさま暴く。それは矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛んできているのだ。

 

 ハジメは〝超速演算〟を発動すると、ゼロスケールの銃撃で悉くを撃ち落とした。なお、アニマル系の攻略者は想定していなかったのか、ロックに攻撃は飛んでこなかった。

 

 と、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

「……もしかしてミレディさんって快楽殺人鬼なんでしょうか?」

「何だそれは」

「殺すために殺す人間とでも言いましょうか。盗みや怨恨などの目的ではなく、殺人という行為そのものを楽しむ人種です」

 

 撃たれた人間の鼓動はデクレッシェンドするだろうが、生き残りがこの文章を見つけたら感情のダイナミクスはクレッシェンドどころか、終着点でスフォルツァンドとなるだろう。

 

「なるほど、だいたいのコンセプトは分かりました。折角ですから楽しむといたしましょう? ダンサー、サーカス、シンガー、ストリッパー……この巨大なオルゴールを伴奏に、機械仕掛けの音楽会(Musica ex machina)を!」

「……快楽殺人鬼は貴様ではないのか、南雲ハジメ」

 

 ただの自殺志願者である。

 




ようやくライセン大迷宮攻略開始です。魔法使えないとはいえ、『演奏者』にとってはボーナスステージかも。完全な物理トラップって事は大なり小なり音がしますし、仮にしなくても反響定位で看破できますから。

備忘録

致死量チキンレース:墜落JKと廃人教師という漫画のネタです。

ミュオソティスの動き:大陸版パニグレとコラボしていたブラックロックシューターの動きを参考にしています。タグいじった方が良いのだろうか。

ユエの動き:今作のユエ、近接戦もいけます。個人的に斧振り回すユエがツボです。

月映:ブルックの与太郎に披露した、血液を炎上させる魔法。言うまでもなくオリジナル技能です。せっかくユエという名前ですし、元ネタの方もルナという名前なので、オリジナル技能は月要素多めにしていきたいところ。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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