人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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今回は作者が少しふざけました。全体的にギャグ回になりそうだなライセン大迷宮。まあ、ウル編が構想考えてる段階でもう辛いんでね……


Musica ex machina/ phase-3

 ハジメ達が順調に迷宮を攻略している間、この迷宮の主はその様子を見て頬杖をついていた。

 

「なるほどなるほど……反響定位か。確かに魔法が使えない中でトラップを事前に把握して回避するには手が限られる。にしてもこれは盲点だったな~。この発想は流石に思いつかなかったよ」

 

 魔力を使わずに純粋な音波で探知し、トラップを事前に回避する。その発想は神代魔法の使い手である彼女の思考の外にあった。しかし、ただではへこたれないのがこの人物。むしろ嬉しそうに手を考えていた。

 

「お嬢様、我々が迎撃いたしましょうか?」

 

 思考する主に、機械の執事から申し出が入る。しかし、彼女はその申し出を断った。

 

「いんや、ロシュっちは予定通り『薔薇の荘園』に来たら戦闘に入って。彼等への攻撃の第一波はあの子達に頼むとするよ」

「御意」

 

 そう答えて執事は『荘園』と呼ばれるエリアにテレポートした。ターミナル様様だと彼女は思う。欲を言えば解放者の生き残りが自分一人になる前に、もっと言えば自分達が神に挑むときに誕生してほしかったが、無い物ねだりをしても仕方が無い。迷宮のシステムの一部に援助を貰い、この時代となっても自分が生きていけるように色々と手配してくれた。先程の執事もその一つである。

 

「さてさて、あの子達の本来の運用方法とは違うけど、むしろ活躍の機会を拡げてくれた事にお礼を言うべきかな? さあ、攻略者達よ! キミタチの試練はここからだ!」

 

 退屈な日々に倦んでいた迷宮の主、ミレディ・ライセンは久しぶりの刺激に喜びの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 一方、迷宮を攻略しているハジメ達だが異変は突然訪れる。

 

「? どうしました? 香織」

 

 香織が耳を押さえて突然立ち止まった。そして、何度か目を閉じて何かを試した後に諦めたのか、頭を振ってハジメに話しかけた。

 

「良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、とりあえず良いニュースから話すね?」

「なんか遠藤君みたいな喋り方ですね」

「いいから。とりあえず良いニュースなのだけど、とても綺麗な音楽が聞こえてきたの」

「そう……で、悪いニュースは?」

「私の反響定位が妨害されてる」

 

 全員の口が閉じる。今までスムーズに攻略が出来ていたのは香織の反響定位によって事前に罠を看破できたからだ。そのアドヴァンテージが今失われた。

 

 と、その時、入り口でも見た石板が突然ハジメ達の前に出された。

 

〝キミタチ中々やるねぇ~。解放者であるワタシの想定を上回った事は素直に褒めてあげるよ。で・も? そんなことで攻略できる程この迷宮は甘くな~い! のである! せっかくだから難易度を一段階上げてしまおう。さ~てさて蝙蝠ちゃん達。お得意の探知を封じられた場合、キミタチはどう動くのかな? 無い知恵を振り絞って頑張り給え!〟

 

 と、過去最長の文章が書かれていた。どうやら流石に反則だと思われたのか、手を打たれたらしい。さながら運営から調整が入ったソシャゲのように。

 

 なお、ハジメ達は知らない事だがこの迷宮の主は一応の救済措置を考えている。これは試練を与える『迷宮』であって、侵入を拒む『要塞』ではない。本来課す必要の無い試練を課している以上、詰まってしまったら緩和処置を取るつもりだ。

 

 しかし、ただではへこたれないのは昇格者も同じだ。大迷宮を一つ攻略し、異形と化した仲間を何度も倒した少年少女は、しぶとい。

 

「ふーん、そういうことするんだ……じゃあいいよ。潔く対処法を変えるから」

 

 香織はユエ並みの半眼となってワルドマイスターから弦を伸ばす。そして、それを周囲に伸ばしていった。

 

「カオリさん、一体何を―――」

「シー」

 

 シアが香織の意図を汲み取れずに質問をするが、ハジメが指を唇に当て「静かに」と合図する。そして暫くすると、香織は糸を自分の元へ引き戻した。

 

「うん、やっぱり罠だらけ。今から場所を言っていくから、しっかり避けてね」

「え? 今ので周囲の状況が分かったんですか!?」

 

 シアが驚いているが、種が分かればシンプルで、弦から伝わる振動を介して索敵を行っただけだ。

 

「だけど精度も範囲も今までには劣るから、慎重に行動してね。特にコンダクター」

「肝に銘じておきます……」

 

 香織の声が少し冷たい。勝手にはしゃいで突っ走って掛かったらもう助けないよ、というメッセージだろう。どちらが指揮者(コンダクター)なのやら。

 

 その後は香織の探知情報の基、ペースを落としながらも攻略していく。

一度『振り出しに戻る』というようなノリで入り口の部屋に戻された事が有った。どうやら一定時間ごとに迷宮の構造が変わるという仕掛けらしいが、ハジメが道を全て記憶した上で構造変化の規則性を見抜き、それほど問題にならずに攻略する。

 

 そうして暫く進むと、今までとは全く違う場所に出るハジメ達。これまでは特異的な構造もあったとはいえ、基本的に石造りでモチーフも西洋的な物が多かった。

 

 だが、

 

「何これ……日本……?」

「少なくとも、東洋風のモチーフである事は疑いようがありません」

 

 ハジメ達が見ている光景は、紅葉した木々に、浮世絵に登場するような和風の橋、瓦屋根の東屋と、中性ヨーロッパのような文明を持つトータスでは異質としか言えない景色だった。

 

「これは……竜人族の……?」

「やはりそうですか」

 

 しかし、このような文明を築いている国が無いわけではない。代行者の一人である廷が属する九龍、ひいてはユエが言う通り、竜人族が住む国である。解放者は古の竜人族と交流があったのか、或いは……

 

(いえ、今はやめておきましょう。しかし、帰ったらターミナルに聞いておかなくては)

 

 ハジメが頭を振って思考を追い出すと、平安時代を彷彿とさせる風景を見渡す。すると、それを見越しているかのように配置された石碑が視界に止まった。

 

〝ちょっと休憩ポイント。これはミレディちゃんが個人的に楽しむために作った『荘園』という空間の一つだぞ♪ どうせだから少しまったりしていきたまえよ。休めるかどうかは知らないし、なんなら永眠するかもしれないけどー〟

 

 数千年前に敗れたという解放者にそんな意図はないかもしれないが、神敵認定された竜人族の文明を再現した空間など、仮にエヒトの信者が到達したら神経を逆撫でする事間違いない。

 

 因みにだが、この空間はターミナルから九龍の話を聞いたミレディが、七割くらいは自分の楽しみとして、三割は煽り目的で作っている。

 

「皆、景色もそうだけど、さっきから妨害音波が聞こえなくなった。この空間は完全に独立してるみたい」

 

 香織がその旨を伝え、これ幸いと反響定位を使うが敵の気配は無い。それどころか、魔法も迷宮の外の谷底と同じくらいには使えるようだ。

もしかしたら本当に安全エリアなのか? ハジメ達が訝しみながらも橋を渡ろうとすると、それを遮るように傘を被った剣客のような機械が現れた。

 

「……さながら五条大橋ですね」

「牛若丸と弁慶ってことかしら。なんで解放者はこの話を知ってるのかしらね」

 

 別に知らないだろう。たまたまこうなっただけで。

 

 シアは「やっぱり休憩なんて無いじゃないですか。ばっきゃろー!」と言いながら武器を構えている。いよいよ目の前の剣客に挑もうとした時、優花が覚えのある嫌な気配がして周囲を見渡す。

 

「皆、周囲にも敵がいる! 気を付けて!」

 

 言われた通りに周囲を見ると、王城を強襲した隠密型の機械生命体『吊人参型』が五体でハジメ達を取り囲んでいた。そして、目の前の剣客『驍衛(ぎょうえい)壱型』が刀を構える。奇しくもハジメ達の故郷の歴史や文化を再現した闘いが始まった。

 

 

 

 

 

 手始めにと驍衛が斬撃を飛ばし、その回避先を読んだように吊人達が頭上から強襲してくる。香織がその攻撃を逆手にとり、跳び上がってワルドマイスターで斬撃を加えるというカウンター攻撃を喰らわすと、更にそれを別の吊人が狙う。しかし、ハジメが銃撃によってそれを阻止する。

 

「さながら鵯越(ひよどりごえ)逆落(さかおと)としだよ……なんにせよ、ありがとう」

「義経の闘いを再現するなら、那須与一は必要でしょう」

 

 香織が背後からの強襲に冷や汗を流していると、攻撃をしていなかった二体の吊人が橋の欄干の上で攻撃の構えをする。その直後、今度はさながら義経のように欄干を飛び渡りながら強襲を仕掛ける。

 

 その狙いは、

 

「ユエさん!」

「くるくる~」

 

 ユエであった。ユエは瞬時に対応し、斧の回転攻撃で吊人を迎撃する。そしてその隙をシアとロックが攻撃する事で連携した。

 

「全く……吊人なんて一体でも厄介なのに」

 

 突然目の前に現れた吊人の回し蹴りを躱しながらそうぼやくのは優花だ。昇格者となる前の王城での戦いを思い出していたのだ。あの時は志願したリリアーナを囮にして魔法で行動を封じて倒したのだが、ここでは同じ手は使えない。おまけに数も段違いだ。

 

「っ!」

 

 これまた不意打ちのように背後から攻撃が来る。下手人は吊人達を束ねていると思われる驍衛だ。吊人よりはいくらか存在感があるが、それでも厄介な事に変わりはない。

 

 優花はヨーヨーで迎撃し、更に迫る吊人の攻撃を背面跳びで避ける。そして、その吊人を砲刃分離形態にしたミュオソティスが攻撃していた。

 

「……何かやる気のようだぞ」

 

 戦場の合間を縫ってハジメ達の正面に戻っていた驍衛が刀を地面に突き立てると、吊人達はそれぞれが欄干の上に立つ。そして、ハジメ達の中心に瞬間移動した驍衛が四方に旋回する斬撃を飛ばすと、吊人達がハジメ達の逃げ道を塞ぐように空中で舞った。無論、見世物などではなく全てが必殺の威力を持つ斬撃である。

 

「味な真似を……」

 

 ハジメはそう言いながら銃撃で一体を攻撃し、逃げ道を作って攻撃を回避する。香織も弦を複数交差させる事により吊人の攻撃を防ぎきり、他の面々も各々の方法で窮地を脱した。

 

「香織のそれ、良いわね。飛び回る虫は網に掛かってもらおうかしら」

 

 優花が香織の操る弦を見て作戦を決める。簡単な話である。動き回るなら捕えてしまえばいい。王城での発想と同じだ。幸い、地上程魔法を使えずとも方法はある。

 

 優花が『通達』にて作戦を共有すると、全員から承諾の返事があった。橋の中央では驍衛が再び連携技の構えをしている。むしろ好都合だ。吊人に限って言うなら、バラバラに動かれるよりもかえって戦いやすい。

 

 香織が橋に弦を張り巡らせた時、敵の攻撃が始まった。

 

 驍衛は今度は刀を大きく縦振りし、斬撃を飛ばす。そして、目論見通りに吊人達も一斉に攻撃を仕掛けた。だが、吊人達は攻撃を繰り広げる前にその動きを止められる。原因は言わずもがな、香織が張り巡らせた弦に捕らえられているのだ。

 

「貴方達に終局(コーダ)を捧げてあげる」

 

 そう言った香織は弦を勢いよく引っ張る。すると、吊人達は皆身体を切り刻まれて崩れ落ちた。それを認識した驍衛は一瞬だけ演算に時間を要し、動きを止める。だが、

 

「油断大敵です」

 

 ハジメがその一瞬の隙をついて銃撃する。しかし、腐っても迷宮の機械。銃弾一発で倒れるほど甘くはない。ミュオソティスが大砲で追撃を与えようとするが、最初の砲弾は刀で切られ、二発目以降は瞬間移動で躱されてしまった。

 

 更に、驍衛は移動した先で吊人を二体召喚した。

 

「だんだんウザくなってきたですぅ……」

「所詮最後の悪あがき。私達の勝利は揺らがない」

 

 そして再び橋上の闘いは繰り広げられる。吊人は舞い、驍衛は刀光波を飛ばし、周囲を切り刻んだが、最後は弁慶を打ち倒した義経のように、ハジメ達の勝利によって幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「全く、休憩ポイントだなんて言いながらこんな厄介な敵を配置するだなんて! それに香織さんの技能を見てわざわざテコ入れするなんて! 本当にウザい奴ですぅ!」

「まあまあ落ち着きなさいな。無い語彙力を必死にこねくり回してこちらを揶揄おうとするのも、なんだか構ってほしい幼児のようでお可愛らしいことではありませんか」

 

 穏やかな顔で鋭利に過ぎる毒舌を披露するハジメ。なんだか一時期流行った悪役令嬢ものの主人公のよう。

 

「ハジメさん、油性塗料持ってたら貸してくれません? ちょっとそこの壁に悪口を落書きしてやりますぅ!」

「やめなさいシア! それはあまりにもしょうもなさすぎるわ!」

「そうですよ。どうせやるなら壁中に能面を掘るとかね? ホロウマスク錯視ですよ」

「アンタも手が込んでるだけで大概よ! それから香織は一体何を弾いてるの?」

「腹が立ったからLet’s Rockしようかと」

「呼んだか?」

「まあ、アンタはいいわ別に……」

 

 シアが煽りへの仕返しで血迷った行動を画策し、それを優花が止め、ハジメは悪ノリするというカオスな状況を香織が奏でるゴリゴリのヘヴィメタルが彩っている。流石に後出しでギミックを変えられるのは香織とて腹が立ったのだろう。いつもはパッヘルベルのカノンだのヴィヴァルディの四季だのが奏でられるチェロからは激しいロックサウンドが鳴り響く。

 

 結局、ハジメ達が荘園を出たのはそれから十分が経過した後だった。

 




 はい、まさかのライセン大迷宮で東洋モチーフのエリア。闘いのモチーフは源義経VS弁慶です。欄干を跳び回っていたのは義経の行動。鵯越の逆落としも一ノ谷の戦いでの義経の兵法ですね(実際にはやってないという説もあるようですが)。

 個人的な話をすると、好きな武将は源義経と雑賀孫一なので、その辺をネタに色々考えたりすることも多いです。孫一はオリジナル作品の『東京災禍』に登場していますし。

備忘録

音響対策:流石に反則、という事で対策されました。それでも(精度が落ちるとはいえ)事前に探知して躱すんですけどね。

吊人参型:一体いるだけで王城の住人を振り回した機械生命体。パニグレにこの数が来たら超難関ステージである。

驍衛壱型:パニグレの敵。傘を被った剣客のような姿をしており、見た目通り刀を使った攻撃をしてくる。吊人の試作機らしく、実際、吊人のような動きをする事もある。が、ゲーム内で戦うと吊人の方が強い。今作では大幅に強化されており、吊人を召喚するという凶悪な能力や刀のモーションが増えている。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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