人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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今回でハジメを嫌いになる人もいるかもしれません。


Musica ex machina/ phase-4

 驍衛壱型を撃破したハジメ達は、再び罠だらけの道を邁進していた。荘園に入る前とは一応違うエリアなのか、新規のトラップも存在した。例えば偽装回転刃トラップ。一見するとただのドアノブだが、実は小型の刃が高速回転しているだけで、触れただけで手を切り刻まれるという物だ。幸い、香織が弦で事前に看破していたために餌食となる事は無かったが。

 

 他にはガラスケーストラップというのも存在している。目の前のドアを開けるための鍵がしまわれているガラスケースがあり、喜んで手を突っ込んだら最期。穴には返しの付いた刃があり、引き抜くと腕がズタズタになる。しかも、光学的仕掛けで中に鍵が存在するように見えているだけであり、目当ての物は偽物であったというオチまでついている。

 

 これに関しては技能を使うまでもなく素で見破っていた。地球組からすればこの状況で罠を疑うな、という方が不可能である。檜山を筆頭とするクラスメイトなら引っかかっていたかもしれないが……

 

「なんか罠の完成度上がりましたねー」

 

 ハジメは実に楽しそうにそれらを評価している。正直、今までの罠は見掛け倒しで飽きてきていたのだ。おそらく、道中の煽り文から見ても、この迷宮は魔法の使えない状況下での対応力をテストする以外にも、悪意への対応という観点も僅かながら存在するのだろう。そして、罠の方向性が後者のコンセプトに合致してきたのだ。

 

 そして、ハジメは目の前の扉を蹴破る。別にイラついているからとかいう理由ではない。偽装回転刃トラップとガラスケーストラップのせいでそうした方が安全という結論に辿り着いたからだ。少なくとも、後者の扉は蹴破るのが正解だったようだし。鍵が無いと開かないように見せかけていただけで、本来は扉でも何でもないハリボテだった。石で出来ているので普通に押しても開かないが。

 

 だが、今回は蹴破っても安全では無かった。ドアを開けて中に入り、暫くすると鉄球が背後に落とされたのである。香織の弦による探知外からの攻撃だ。通路は坂になっているので勝手に転がって来る。しかも、鉄球に開いた穴からは溶解液が流れていた。

 

「推奨:退避」

「言われなくても逃げるわよ!」

 

 無論、一目散に逃げた。要は前回の大玉トラップと変わらない。まあ、特筆すべき点があるとすれば、香織やミュオソティスは持っている武器の都合上で脚だけを動かしているためにダチョウのような走り方になっているくらいだ。上半身の姿勢を崩さずに脚だけで走る美少女……中々にシュールである。

 

 そして、ハジメ達は前回と同じように終着点の穴を飛び越える。だが、今回の罠は二重に仕掛けられていた。なんと、正面から見たら通路が続いているように見えるだけで、実際は間隙だらけの道が続いていたのだ。結局、着地の様相は前回の罠と同じように咄嗟に糸や弦を張って難を逃れた。

 

「I can not fly!」

「そこは嘘でも飛べるって言っとこう?」

 

 ハジメの失笑ものの宣言を聞きながら、香織は呆れた顔でツッコミを入れる。「あの罠死ねる? よし、かかってこよう!」とか言い出さないだけマシであるが……いや、ハジメの今までの言動を見ているとそのような狂行に及ばないとも言い切れないのだ。

 

 その場にいなかった優花やロック以外の記憶に残っている、ハジメが亜人族の前で自分の頭を銃撃した『ハジメ自傷事件』だが、どう考えても空砲を撃った段階で充分すぎる効果を相手に与えていた。すなわち、あの行動は完全にデストルドーに支配されたハジメ自身の意志によって行われたものである。

 

「……?」

 

 香織は足場に乗ったハジメに背後から抱き着いた。迷宮内で空気が読めていないのは百も承知だが、少し不安になってしまったのである。ハジメを死なせたくない。失いたくない。たとえ彼にとって生きる事が業苦そのものであり、死が唯一の幸福だとしても。

 

 そんな香織の心情を読み取ったように、ハジメは背後に腕を伸ばし香織の頭を撫でる。

 

「大丈夫ですよ。少なくとも、この状況で自ら罠にかかる程愚かではありません」

「本当?」

「ええ。あまりに度が過ぎれば、貴女から愛想を尽かされそうですし。僕にとってはそれが最も恐れるべき事態ですね」

 

 今更香織の愛を疑う程にハジメは馬鹿でも鈍感でもない。しかし、ヘラクレイトスの川が示す通り、万物は流転する。全ての存在は滅びるようにデザインされている。それは愛とて変わらない。

 

 たとえ異世界召喚など起きなくても、愛が永続的に続くと思うのは楽観的に過ぎるとハジメは思う。情緒が発達していない少年期や、精神状態が不安定な思春期、そして、様々な経験を積み、老いや死の恐怖が付き纏う老年期では愛の定義すら違うだろう。

 

 おそらく、多くの創作物で『幼馴染は負けフラグ』などと揶揄されるのはこれが原因の一端だ。状況も感情構造も変化する中、幼馴染の関係だけが不変であるなど余程のレアケースだろう。異世界転生もので地球で仲が良かったヒロインを差し置いて、異世界で出会った少女がメインヒロインになるのも同じような理由である。

 

「全く、『愛』ほど甘美で、難解な人生の試練もそうそう無い……」

 

 香織を正面から抱きしめる形にして、ハジメは思う。上記のような現実を前にして『愛』を確立するのは困難だ。とはいえ、それは不可能を意味するものでは無い。

ハジメにとって、愛とは少女小説のような妄想の産物ではなく、自分自身で創り上げてゆく物だ。運命など介入する余地は無く、見返りも無しに成立する高尚な物でもない。

 

 一方、香織はハジメに抱きしめられながら顔を赤くしていた。一見ニヒリスティックな意見だが、その実、この上ない程にロマンチックな意見だ。愛とは失う事を恐れると同時に、演奏における音色やダイナミクスのように自分で創り上げていく事も出来る。音楽や戯曲を愛する香織にとって、これ以上ない程のプロポーズだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、いちゃつくのも程々に、迷宮の攻略を進めなければならない。しかしながら、おそらくオルクス大迷宮よりは簡単な難易度に設定されているのだろうなとハジメは思う。当時と違って人数が多いというのもあるが、トラップにそれほどの殺意を感じないのである。少なくとも、低層の鉱石に触れたら深部のボスモンスターの目の前に転移するとか、そういうのは無い。

 

 それに、精神面で最大の障害となる様々な場面での煽り文だが……

 

〝や~い、轢かれてやんの~、プギャー!〟

 

「なんか同じような文言を過去に二回は見たような……」

「いえ、勘違いではないかと。既に煽りの使いまわしが三周はしてます」

「案外悪口デッキ少ないのね」

「少ない方が良いと思うのですが……いや、まあ、解放者が善良な精神を持ってることの証明にはなりますけども」

 

 シアの言う通り、神に操られた人民に刃を向けられずに敗北した善良な集団が解放者である。煽り文の語彙力が少ないのは攻略者に情けを掛けたというより、ただ単にそれ以上の罵倒が思いつかなかったが故なのだろう、というのが地球組の共通見解だった。

 

 因みに、少し変わり種として「上見て→下見て→大まぬけ~」というのも存在した。優花は「発想が公衆トイレの落書きね……」と呆れていたが。

 

「正直、口から出まかせ大運動会繰り広げてももう少し色々言えますね。僕なら」

「なんか既に片鱗が見えてますね……聞きたいような聞きたくないような」

「大丈夫。ハジメの性格が悪いのは皆知ってる」

「信用度がゼロどころかマイナスですねー……」

 

 ハジメはユエの評価に苦笑する。そして、その中で即興で考えた悪口は、

 

「雁首揃えて御機嫌よう。経験値のお味はどうですか? 犠牲の切れ味はいかがでしょう? 喪失に気付き震えますか? (むせ)び泣くのは構いませんが、何も進歩しませんよね、何も。はは」

 

 とか、

 

「麻痺毒で何もできない? 元からでしょう? 暫くのたうち回っててくださいな。大丈夫です。死にはしません。まあ、目とかに刺さったら、死ぬほど痛いでしょうけど」

 

 とか、

 

「僕って貴方達を見てるのが好きなんです。何も出来ずに喚くだけで一人また一人と死んでゆく。そんな貴方達を見ていると劣等感とか感じずに済みますから。良かったですね。貴方達のおかげで、幸せですよ、僕」

 

とか、

 

「貴方は今どんな言い訳が欲しいですか? 能力が無い理由ですか? 仲間を助けられなかった理由ですか? 努力が実を結ばなかった理由ですか? その理由に僕がなってあげます。だから、一生この迷宮から出られないまま死んでください」

 

 とか、出るわ出るわ碌でもない文言が。やたらと豊富な語彙力で的確に他人の精神を抉って来るその言葉は仲間達全員を石化させた。シアが瀕死で「もう……もうその辺にしてください。関係ないはずの私ですらダメージを負いました」とハジメに言う。尤も、ハジメもこれ以上続けるつもりは無かったが。

 

 優花なんかは、出会った頃に世間に毒を吐いていたハジメの様子を思い出していた。アレ、結構手加減してたんだな、と。今回言っている対象は架空の攻略者であり、怨みなどないはずだが、それでこの毒舌だ。

 

「まあ、これに比べたらこの迷宮の煽り文なんて可愛い物ですよ」

「エエソウデスネ……」

「コイツ、クラスメイトと再会したら絶対碌な事にならないわ……まあ、私もだけど」

「同感……」

「後で美しい韻律の戯曲を聞かせてあげるね……」

「なんかごめんなさい……」

 

 無駄に精神的ダメージを負ってしまった仲間達を見て、流石にハジメも罪悪感を覚えたらしい。即効で謝った。しかし、更なる爆弾を投下してしまう。

 

「でもまあ、安心してくださいよ。僕が実際に言われた事よりはマイルドにしてますから。はは」

 

 ……一体どんな罵詈雑言を言われたのだろう。とは、聞けなかった。聞いたら戻ってこれない気がしたから。ただ、この中で最も付き合いの長い香織と優花は想像がついてしまった。パニシング症候群の罹患者に対する差別の事を言っているのだろう、と。

 

 ハジメは口元だけ嗤っているが、光を映さないその瞳の奥にどれほどの怒りと悲しみと失望が存在するのか、仲間達には分からない。だが、香織だけにはハジメの音が聞こえている。それは嵐のように激しく、花吹雪のように蠱惑的で、洪水のように重厚で……優しさ以外の一面を知っても愛が潰えなかった、一度聴いたら頭蓋に反響して止まない複合音楽。

 

「銃や魔法なんて使わなくても、簡単に人を殺せる」

 

 ハジメは迷宮の煽り文を見ながら、唇を舐めながら言葉を続けた。

 

「金属は脆い……人身も脆い……」

 

 自分達を観測する者に向けて、依然光を映さない眼と虧月のように裂けた口で問うた。

 

「貴女はどうだ? 解放者」

 




まあ、性格が悪いというか闇が深いというか。原典のハジメってマジで常識人だと思う。だんだん作者の中のハジメの顔がNieRのキャラよりも無期迷途のコンビクトになってきている。具体的にはシャロームみたいな顔してる。原典にて香織に好かれる理由となった『優しさ』も数ある仮面の一つに過ぎなくて、でも演じてるような仮面全てがハジメの本性なんですよね。嘘ついてるわけでもないから、香織みたいな特殊感覚でもなければ永遠に理解できない人種。

因みに途中の悪口披露は多分ミレディにもぶっ刺さってます。というか、この時点で既にハジメの攻撃が開始されてるんですよ。前回のピンポイント修正で「ああ、多分生きてるんだろうな」って推測出来ちゃいますし。ユエの前例ありますからね。人類の敵はハジメの方じゃないかな……

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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