人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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Musica ex machinaというタイトルは前回で終了しましたが、やはり音楽に絡めて話が進みます。私自身、物語や戦いを音楽と捉えているのでずっとこうだと思います。


薔薇ノ執事

 〝今となっては私以外誰も知らないけれど〟

 

 機械の執事は使える主の言葉を聞く。

 

 〝この場所には華やかで、愚かで、恐ろしい文明があったんだ〟

 

 その文明の中で生きて、その文明に欺かれ、そしてその文明が壊される瞬間を見ていたのだろう主が差し出すティーカップに紅茶を注ぐ。

 

 機械の執事は主から退屈しのぎに色々な話を聞いた。古の文明、嘗ての仲間達、そして世界に対する愛情。

 

 〝世界の事が好きになってしまったんだ〟

 

 残酷な解だ。拭えない緋色の手で惨めに朽ち果てる世界も執事の主も、全てが壊れた。それを主は年代記にしていた。ターミナルと名乗る少女から聞いた再建した文明の話を聞いた時に、年代記の量は加速度的に増えた。そしてそれを再現した。

 

 〝空白の一部始終を残しておきたいんだよ〟

 

 残酷な界だ。主の愛は、雪も積もらない血の色で惨めに朽ち果てる。これほどの仕打ちを受けても世界を嫌いになれない主の歪んだ愛が、形を持った姿で救われる事を機械の執事は祈る。迷宮という矛盾だらけの試練を課すしかなかった解放者達の皮肉的な優しさが、暗澹たる空虚を砕くことを祈る。

 

 薔薇の執事〝ロシュフォール〟は攻略者達を迎え撃った。

 

 

 

 WARNING   ロシュフォール

 

 

 

 ハジメ達の視界に飛び込んできたのは薔薇が咲き乱れる荘園に、細剣を構えた一人の執事、そして銃器を構える無数の騎士の形をした自動人形(オートマタ)

 

「姫を守る騎士でしょうか?」

 

 ハジメの揶揄うような言葉にも何も返さない。まあ、ハジメの罵言を聞いていたのであれば話したくないのかもしれないが。だが、執事は少しだけ口を開く。

 

「攻略者、何を望む?」

 

 ハジメはその問いの重みを理解し、冷たい声で真剣に答える。

 

「天人の世の終焉を」

 

 執事は再び問う。

 

「攻略者、何のためにそれを望む?」

 

 攻略中の会話に繋げるようにハジメは答える。

 

「ただ、己が獣性の成就のために」

 

 執事とハジメの間で言葉の応酬が交わされる。命の無い者同士の会話であるにも関わらず、その言葉には生命が宿っていた。

 

「征け」

 

 執事が一言命ずると、騎士の形をした自動人形達、『マスケティアーズ』はハジメ達に襲い掛かる。

 

 ジャキンッ―――

 

 だが、奥で狙撃しようとしていた騎士の心臓部をハジメが投擲した朱樺が貫く。近接武器としても使えるのだろうその銃をハジメに振り下ろした騎士は、あっさりと躱された上に至近距離からゼロスケールの銃撃を返され、同時に攻撃を仕掛けた騎士も攻撃を躱され壁を足場にしてハジメに蹴られる。

 

 更に流れるような回し蹴りを三体目の標的に喰らわし駄目押しに銃撃、正面から撃ってくる騎士たちは弾丸を見切って全て撃ち落としてついでに破壊した。後は投げた朱樺を拾い直し、更に襲ってくる騎士を銃で倒す。

 

 荘園は薔薇の香りに包まれているが、ハジメが通った後は吹雪が荒らしていったかのように騎士達が倒れていた。

 

「ハジメさん! 駄目です! 倒した傍から復活してますう!」

 

 シアに言われて振り返れば、騎士達が損傷を修復して復活していた。おそらく、統率している薔薇の執事、ロシュフォールを倒さない限り復活するのだろう。だが、ハジメの顔に焦りは無い。

 

「全く……そうならそうと早く言ってくださいよ。我々が奏でるヴィヴァルディの『冬』を聞く前に壊れてしまうから少しがっかりしていたんです」

 

 穏やかな旋律の多いヴィヴァルディの協奏曲『四季』の中でも、『夏』の第三楽章と『冬』の第一楽章は激しい戦慄であることが知られている。数多の攻撃がハジメに向けられるが、ハジメは後者のその吹雪のような旋律を楽しむかのように躱し、同士討ちさせ、自分も銃撃と斬撃で合奏に参加していた。

 

「この曲はヴァイオリンのソロが光る。お願いしますよ、香織」

 

 ハジメ達が作ったスコアでは、ロシュフォールの相手をするのは香織だった。彼はおそらく下手に群がって掛かっても苦戦するだけの敵である。純粋な単騎の戦闘での立ち回りが求められるだろう。従って、香織以外の味方は周りの騎士達を相手にする事に決めていた。

 

「アダージョ、アンダンテ、演奏開始」

 

 細剣を向けてくる薔薇の執事に、同じく細剣を構えながら戦闘態勢を取る香織。だが、執事が取った攻撃は細剣による剣戟ではなく香織の足元に花を咲かせるような遠隔攻撃であった。

 

「っ!」

 

 それを見た香織は回避して後ろに下がるのではなく、あえて〝夜鳴のターゲリート〟で敵に急接近した。この敵は以前に闘ったダルタニアンのように、離れるとこちらが不利になる敵だと悟ったのだ。

 

 しかし、その攻撃は薔薇の執事には当たらない。相手もそれを見越したかのように細剣で攻撃を弾き返した。そしてそのまま香織に連撃を仕掛ける。

 だが、香織が使った〝夜鳴のターゲリート〟は相手の防御を使わせるための囮だった。香織は執事の背後に回りこむように連撃を躱し、そのまま無防備な背中を斬りつける。

 

 そして執事も負けじと距離を取り、間髪入れずにエネルギー体で作った分身を周囲に飛ばす。それは香織への攻撃だけでなくマスケティアーズ達と闘うハジメ達への妨害にもなっていた。

 

「舐めんなですう!」

「くるりん」

 

 シアが白ノ約定でマスケティアーズごと分身体を切り伏せ、ユエも斧を振り回して攻撃と防御を同時におこなっている。どうやらこの動作も気に入ったらしく、「くるくる~」とか「くるりん」とか擬音を発しながら攻撃している。

 

 ミュオソティスとロックは優花がヨーヨーを飛ばして張った糸に飛び乗って回避・攻撃しているし、ハジメに至っては無造作な銃撃で分身体を消している。オマケに朱樺を横に構えたと思ったら、半ば浮遊しているかと思うような動きでマスケティアーズと薔薇の執事を一撃で斬りつけた。どこの時計塔の○リアだろうか。清水と一緒にゲームもしていたのでそこから動きを模倣した可能性は高い。

 だが、香織の闘いを妨害するつもりはないようでそれ以降はマスケティアーズの相手に専念している。

 

「見事だ。人間」

「!」

 

 手短な称賛と共に執事は香織に刺突攻撃を仕掛ける。それは〝夜鳴のターゲリート〟と酷似していた。香織はなんとかいなすが執事はそれほど応えた様子は無い。

 

「私も少し本気を出そう」

 

 執事がそう言うと、彼の持つ細剣が炎を纏った。そしてそれを地面に突き刺すと香織の足元が発火する。それを避けたと思えば更に回避地点の足元が発火した。そして、更にもう一度発火したかと思えば、炎を纏った広範囲の斬撃を繰り出してくる。

 そして、執事が最後の全方位斬撃を繰り出したあと、香織のワルドマイスター本体の攻撃が執事を穿つ。

 

「貴様は紛れもなく強者だな……流石に全て躱されるとは思っていなかったぞ」

「称賛は受け取るけれど、私達だって遊んでいたわけではないもの」

「ふん……可愛げのない女よ」

 

 よりによってミレディには可愛げが有るのだろうか、と思う香織。まあ、悪口デッキが少ない事を考えれば根は善人なのかもしれないが。

 

「ところで演奏者よ。気付いているか? この空間ならば多少の魔法が使える事を」

「……何が言いたいの?」

「なに、同じ武器を使う者同士だ。少しばかり本気でやりあってみたいと思うのは道理であろう?」

 

 執事がそう言った瞬間、執事とマスケティアーズを雷撃が襲う。電子楽器でもあるワルドマイスターの電流を最大限に放った結果だ。それを無言の肯定と受け取った執事は機械でありながらほくそ笑む。

 

「それが貴様の真の姿か」

「本当はもっと悍ましい姿が私の本性だけど、貴方がそれを知る必要は無い」

「ほう……それはそれは」

 

 『四季』は冬から夏へ。人間にとっては脅威に、砂漠にとっては恵みとなる嵐になった演奏者は、燃える剣と二重奏(デュエット)を奏でる。

 

 今度は香織の先制攻撃だった。飛び掛かってワルドマイスターを地面に刺し、敵と周囲に落雷を落とす。奈落で多用していた技〝狂嵐ジュンフォニー〟だ。

 

「まるで嵐だな……実に美しい」

「ありがとう。最大級の誉め言葉だよ」

 

 周囲の惨劇とは裏腹に香織は無表情に答える。細剣とチェロは激しい戦慄を歌う。そこにいるのは恋を知ったばかりの少女ではなく、一人の指揮者に狂愛を向ける貴婦人であった。執事の炎は吹きすさぶ音の風に吹き消され、細剣から放たれる剣閃も姿を隠しての攻撃も雷に撃ち落とされる。

 

 それはもはや一方的な蹂躙にも見えた。だが、執事も負けずに香織に傷をつけてゆく。しかし、生ける嵐となった美しき演奏者は怯みもしない。

執事は再び高速移動し、姿を認識させずに香織に斬りかかる。だが、香織は降りしきる雷鳴の中でその斬撃を叩き落した。

 

(もう小細工は意味が無い)

 

 そう悟った執事は捨て身で刺突攻撃を仕掛ける。音も雷撃ももろともしない全身全霊の攻撃。香織もそれを正面から迎え撃つ。二つの細剣が交差したその直後、

 

「貴様の勝利だ……」

 

 相手の胸を貫いていたのは香織の細剣だった。その瞬間に全てが止まる。この空間は無音であり、香織の刃が相手を貫き、執事の細剣が相手の頬を掠めた光景しか目に入らない。

 

「さあ、私を殺すがいい。私を殺し、お嬢様と闘い、お前達の嵐で、ひと時の静けさを……」

 

 香織は一瞬躊躇った後、執事に刺した細剣を抜き放った。執事の循環液が、風に吹かれて散りゆく花弁のように舞い散った。香織は返り血を浴びながらその場に佇む。相手は機械ではあるが、意思を持った〝人〟でもあると誰もが思っていた。

 

 香織は初めて人を殺した。

 

 ロックの前例を考えれば、メインのCPUが生きていれば何事もなく蘇生する可能性もある。だが、それでも殺す気で攻撃を放った事には変わりがない。

 

 香織は意識海に渦巻く嵐と闘っていた。ともすれば飲み込まれそうな暴風の中、香織は歌っていた。もう戻れない。幻影のハジメを刺した時とは違う、実感を持った殺人の旋律。あの時も意識海は嵐が吹き荒れた。しかし、その時は別のショックがあったから考えずに来れてしまった。

 

 二度目の殺人で荒れる心に、それを止めるようで嵐と同化するような歌を響かせる。やがて、意識海の嵐と旋律が同調した時、香織の表情は落ち着いた。

 

「ごめんね。少し、眩暈がしちゃった……」

 

 純粋な笑顔と、戦い抜いた表情でそう発する香織に、やはり動いたのはハジメであった。ハジメは返り血に塗れた香織を抱きしめる。

 

「誇りなさい。貴女は美しい。誰が何と言おうとも」

 

 ハジメは香織を抱きしめながら賛美の言葉を口にする。香織は自慢の恋人だ。時に花のように優しく、そして時に嵐のように激しい。ハジメは彼女の優しさも獣性もその全てが愛おしく、そして美しかった。仮に軽薄な正義感と倫理観で彼女を否定するなら、ハジメとて怒りを抑えられない。

 ハジメはただコンサート・ミストレスを抱きしめ続けた。その光景は無音で無言でありながら、確かに協奏曲であった。

 

 誰もが静かに見守り、ミュオソティスの心に、一つの感情が追加された。

 




 正直、書いてて楽しかったです。ヴィヴァルディの四季をテーマにパニグレの序盤のボスである『薔薇の執事』と闘わせてみました。前半が『冬』の第一楽章、後半が『夏』の第三楽章です。多分今後も使うと思ふ……。

 そして嵐のような香織さんですが……正直NieRクロスにしてはかなり控えめだと思うんです。とはいえ、原典での設定は優しき少女ですし、二次創作でも優しく支える事が多い彼女。ですが、今作では時に嵐となって暴れていただきます(原作の行動を見る限りそこまで的外れなキャラ設定ではない気もします)。私の持論ですが、女性はこれくらい激しい方が美しいと思うんです。優花はまさに顕著ですが。
 そして、その激しさで今度は実体の殺人。「相手は機械だから殺人じゃない」とか野暮なツッコミはしないでください。本来ならもっと苦悩したり苦しんだりするべきなのでしょうが、嵐となった香織は受け入れてしまいました。「逃げ」というなら言えばいいですが、私もハジメもこう返します。「誰が何と言おうとも香織は美しい」と。

備忘録

ロシュフォール:パニグレの序盤のボス『薔薇の執事』だが、今作では部下の騎士を引き連れて登場。初心者の壁として名高く、炎を纏った第二形態はステータスをかなり盛っていないと即死級のダメージを喰らう。また、高難易度コンテンツの第三形態では姿を消しての攻撃も。タイミングが分かりづらいため、開き直って回避ボタンを二回押した方が無難。余談だが、同じく細剣が武器のセレーナ幻奏で戦うとちょっと楽しい思いが出来る。
 パニグレではレオンという名前だったが、今作では『三銃士』の登場人物から命名。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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