人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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ミレディが結構キャラ崩壊してるかも。ありふれ零は未読だから詳しくは分からないんですよねえ……


蛇ト処刑ノ後奏曲(ポストリュード)ー甲

 ハジメ達が入った場所は超巨大な球状の空間だった。確認できる数値で計算してみると、直径二キロメートル以上ありそうである。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。だが、不思議なことにハジメ達はしっかりと重力を感じている。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。

 

 実は、ここに来るまでも力学的法則を無視した動きで襲い掛かって来るマスケティアーズの集団を撃退してきたハジメ達。重力操作か何かの影響下に置かれている事は既に推測していた。おそらく、この部屋が大元だろうと当たりを付けるハジメ。

 

 この空間にもマスケティアーズ達の姿は存在する。しかし、ハジメ達の周囲を旋回するだけで襲っては来ない。

 

「どこぞの天空の城でしょうか?」

「確かに、もう少し近未来的にすれば近いかもね」

 

 適度な雑談を交わしながら反響定位で空間を探ろうとする香織。と、次の瞬間、シアの焦燥に満ちた声が響く。

 

「逃げてえ!」

 

 とりあえず各々の速度特化技で瞬時に飛び退く一行。

 

 直後、

 

ズゥガガガン!!

 

 隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が今の今までハジメ達がいたブロックを直撃し木っ端微塵に爆砕した。隕石というのはあながち間違った表現ではないだろう。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ。

 

「〝未来視〟ですか。ありがとうございます」

「……ん、お手柄」

「発動して良かったですぅ……代わりにエネルギーがごっそり持っていかれたので回復するまで待って欲しいですが」

 

 〝未来視〟は、シア自身が任意に発動する場合、シアが仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだが、もう一つ、自動発動する場合がある。今回のように死を伴うような大きな危険に対しては直接・間接を問わず見えるのだ。

 

 確かに、あれほどの大質量の物体が床を砕くほどの速度で接近すれば昇格者とて無事では済まない。死にきれなければそれはそれで地獄である。

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 

 ……どこからともなく声が聞こえた。ハジメ達がその方向に振り向くと、どことなく折り鶴を想起させる外観の椅子に座った金髪の少女がいた。ふざけた言葉の割に、声にはあまり元気がなさそうだったが。

 

 ハジメ達が訝し気に近寄ると、その椅子の異様さがよく分かる。全体的にシャープでシャビィシックな芸術美を感じさせるが、少女の手足を拘束するかのように様々な器具が取り付けられていた。まるで電気椅子のようである。

 

「っ!!」

 

 と、近づいたハジメ達に、椅子の背後に隠されていたのだろう尻尾のような部位が襲い掛かる。なんとか躱して少女を見ると、あからさまに不機嫌そうな顔で口を開いた。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。口が悪いにしても最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

 

 それもそうか……とハジメは思い、とりあえず自己紹介することにした。

 

「お初にお目にかかります、南雲ハジメです。まさか迷宮の主が拘束された状態で出現するとは思いもしなかった故、ご勘弁を」

「おおう、思ってたよりちゃんと返してくれたぜ……因みにこれは拘束じゃないよ。自分の意思で外せるしね」

「あ、因みに常識は或る意味学者の敵ですのであしからず」

「一言多いんだよな……」

 

 道中での悪口大会のせいでハジメの事を傲岸不遜な人物だと思っていたミレディは少し驚く。そして、右手を椅子から外し、ヒラヒラと振って見せた。そして、再び会った時の状態に戻すと口を開く。

 

「君達と問答はあまりしたくないから、サクッと本題に入ろう。結論から言ってしまえば、キミタチは試練をクリアした。問題なく神代魔法をあげてもいいと私は思ってる」

 

 その言葉にハジメ達は少し驚く。この部屋はオルクス大迷宮で言うところのタブリスのいた部屋、すなわち最終試練の部屋だと思っていたからだ。

 

「キミタチへの嫌がらせとして余計な試練も受けさせたんだけどさあ」

「嫌がらせだって事と余計な試練だって事は認めるんですね」

「ちょいちょい最後まで聞き給えよ。とりあえずその余計な試練でキミタチは私の想定以上の戦果を上げた。だから迷宮自体はクリア。拍手!」

 

 ミレディは両手を椅子から外し、拍手をする。彼女は道中の会話や攻略の様子も見ていたのだが、ハジメ達もハジメ達で事情があり、ただの嫌な奴ではないことは十分に分かった。しかし、だ。

 

「だけどさあ、流石にあの悪口はミレディさんもかな~り傷ついたんだよ」

「おや失礼。あまりにも楽しそうに話しかけられたので、話を合わせようと気を使ったつもりだったのですけれど」

「善意のサイコパスかな? 効いてないなら効いてないって口で言いなよ。嫌がらせに嫌がらせで返す必要は無いんだよ!」

「ふふ、僕は優しいですから。ちゃんと相手と同じ土俵で戦って差し上げなければと」

「正々堂々に見せかけて、テーブルの下で蹴り合ってるような陰険な闘いに巻き込まないでくれるかなぁ?」

 

 何を言っても悪役令嬢さながらに飄々と返すハジメに呆れ気味のミレディ。

 

「まあ、あの悪口がクソ野郎どもに向けられるかもしれないと思うと少し爽快ではあるけれどねえ……キミはいたいけな美少女の心をしたたかに傷つけたわけだ。その落とし前はつけさせないとねえ」

 

 ミレディの纏う雰囲気が不穏になる。それと同時に椅子も変形するような音を出し始めた。

 

「だから何? 私達を叩き潰そうとでも言うのかしら。お忘れみたいだけれど、先に煽って来たのはそっちよ。それなのにちょっと仕返しされたからって暴力に訴えるって言うの? 年喰ってる割に随分大人げないわね」

 

 優花が呆れたように口を開く。確かにハジメの性格が悪い事は認めるが、やったことは『仕掛けられた舌戦に舌戦で返した』それだけである。だとすれば先に手を出した方が幼稚と捉えられても仕方が無いという論理だ。

 

 因みに、ミレディが生きている事に全員驚いていないのはターミナルという前例が有るからだ。

 

「あッはッは。確かにそうだろうけれどねえ。そんな冷静な判断が出来なくなるほどにミレディさんの心は傷ついてしまったのだよ♪ この煩悶は理性では収まりがつかないのさあ……だから、この決着はキミタチが再三言っていた『獣性』で以てつけてやろうって心算さ!」

 

 ミレディがそう言うな否や、彼女の座る椅子はミレディを包み込む異形の蛇のように変形した。頭部にあたる部分にミレディが収まっているのだが、その頭部の模様が片目しか描かれていない不気味な笑顔のように見える。そしてその頭部から四本の脚(手?)が出ているという奇怪な姿である。

 

「そう……まあ、言ってみただけよ」

 

 優花ははなから説得する気は無かったのか、あっさり引き下がった。そして、おそらく此処にいるほぼ全員が同じ気持ちだった。普通ならミレディに同情するか、罵言を吐いたハジメを弾劾するかという事になるだろう。だが、セイレーンやルシフェルになった事もある彼女等はそこまで優しくなどなれない。

 

「キミタチって友達いなさそうだよねえ……もしかして居場所がなくなって力を求めてるのかなぁ~?」

「事実だから否定はしないわ。でも、お生憎様。聖人君子でも嫌われるわよ。周りが劣等感に耐えきれなくなって勝手に攻撃してくるの。人生って素敵ね!!」

 

 優花の怒りと皮肉と自虐が入り混じった声に、ユエやシア、そして密かにミレディといったトータス組は少し引いた。本当に過去に何があったんだ……と。

 

 正直、仕方が無いと思う香織。麗しき国に生まれ育ってしまったせいで、()()()()()()()()完璧な人間だけを追い求め、そうでない人間を非難し遠ざける人々。そして完璧であれば更なる悪意で以て攻撃する人々。「デッドエンド(袋小路)だ畜生!」と香織ですら思う。

 

「まあ、なんにせよ、やることは変わらないね。年寄りの八つ当たりに付き合いたまえ若人よ。どうせキミタチも昇格者なんだからちょっと強めに叩いたって死にやしないだろうけどね。そう言えば、ハジメだっけ? キミはずっと黙ってるけど、言い残すことはある?」

 

 ハジメはミレディを見上げる形で無表情に言葉を発する。

 

()が憎しみ、汝が失神、汝が絶望を、即ち嘗ていためられるかの獣性を、月々に流されるかの血液の過剰の如く、(なれ)は我らに返報(むく)ゆなり」

 

 それは闘いが開始される事を意味した。

 

 

 WARNING   ミレディ・ライセン

 

 

 ミレディが操る〝処刑椅子『アレクサンドル』〟は初対面の時もやってきた尻尾での薙ぎ払いを先制攻撃として行う。そして、なんと床を液状化させてその中に潜行してしまった。幸い、ハジメ達が足を取られる事は無かったが、攻撃のタイミングが読めない。

 

「皆気を付けて! 来るよ!」

 

 しかし、反響定位で探知した香織が攻撃のタイミングを予測した結果、頭部で食らいつくと言う不意打ちは失敗に終わった。

 

「本当に鬱陶しい能力だなあ」

 

 そんな声と共にアレクサンドルは身体をくねらせ、頭部の脚で攻撃してくる。香織は最初の二発を躱し、三発目を弾き返した。そして一瞬だけ怯んだ隙にミュオソティスの砲撃とハジメの狙撃が当たる。

 

 そして再びアレクサンドルは床下に身を隠した。そして、相も変わらずの予兆無しの下からの尻尾による攻撃と、液状化した地面を波立たせての攻撃をしてくる。タブリスやルシフェルのような理不尽さは感じないが、それでも脅威だ。

 

「Let’s モグラ叩き痛い!?」

「アンタ一回黙りなさい」

「失神するでしょうが戦闘中に」

「失言するからよ」

「何ですかその等価交換は」

「お前が叩かれてやんの~! や~い!」

 

 ハジメと優花のコントじみたやり取りにミレディが煽りを入れる。これまでの狂気とシリアスに満ちた攻略や、戦闘前のシリアスなやり取りとは違ってラスボスが最もユルい闘いになっている。

 

「私の暴力は、炭素20kg、石灰1.5kg、硝石100g、照れ隠し5gに歪な愛情97kgで錬成されてるわ」

「殆どが歪な愛情ですねえ……」

 

 某漫画では『錬金術は台所から生まれた』などと言われているし、料理人である優花が言うと説得力がある。ミレディが飛ばしてきたX字の斬撃を背面跳びで避けた優花はヨーヨーをミレディにぶつける。

 

 ミレディ、もとい処刑椅子アレクサンドルは蛇のように身体をくねらせながら高威力のレーザーを撃ち出してくる。射出部は頭部なのだが、その動きのせいでこれまた見えづらい。

 

「まあ、避けられないわけでは無いのだけれど」

 

 そう言って香織はなんなく避けた。見づらいとは言ってもその程度の攻撃であれば別に脅威でも何でもない。更に、ロックが尻尾のチェーンソーで怯ませた隙に香織が生み出した分身体が細剣で攻撃する。

 

 ミレディが尻尾で攻撃してくるが、それはハジメがアストレイアによる射撃で弾き返した。

 

「チッ」

 

 形勢不利と悟ったミレディはもう一度床下に逃げようとするが、今度はそれも阻止された。

 

「へ!? 何!?」

「一本釣り!」

 

 妨害者の正体は優花だった。ヨーヨーの糸をミレディに巻き付け、床に潜る前に釣り上げたのである。

 

「ちょっと! どんだけ力あるの!」

「天職特権って奴ね」

 

 優花の天職『投術師』の実質的な権能は『触れた物の操作』だ。騎士が使う大剣も、街路を塞ぐ大岩も、彼女が触れれば操作できてしまう。そう、ある程度であれば彼女の膂力や物理法則を無視して〝投げる〟事が出来てしまうのだ。

 

「ぐぬぬ……でもこんな事で倒されるようなミレディさんじゃ」

「足元にご注意を」

「ん?」

 

 ミレディに背を向けて見せつけるように振られる優花の手。そして艶やかに動くその指には幾つものリングが掛かっていた。否、トータス人であるミレディは分からなかったが、その正体は投げられた手榴弾のピンであった。

 そして、手榴弾の本体の方は転がされたミレディの側に。

 

「ひにゃあああ!!」

 

 ミレディを飲み込むように紅蓮の花々が咲いた。別に魔力など使わずとも、火薬を爆破するくらいは出来るのである。

 

 と、そんな中でなんとか体を起こしたミレディ。アレクサンドルの頭部が開き、その中からミレディが項垂れるように出てくる。やったか? 一瞬そう思ったハジメ達だが、こういう時は大抵やっていない。

 

「!?」

 

 ミレディが突然キラキラと輝く紫色の液体を垂れ流した。発生源は胸部だろうか。体勢的に嘔吐してるようにしか見えないが、そういう事にしておこう。

 

 そして、更に驚くべきことが起こる。なんと、液体の落下点から領域が展開され、周囲がモノクロの星空のような景色に様変わりしてしまった。

 

「さてさて~、躾の時間だよ」

 

 顔を上げたミレディが睨むように、しかし楽しそうに呟いた。

 




ミレディ、まさかの処刑椅子に座っての登場である。とても傷心だけどなんかやり取りがユルい二章ラスボス。因みに、シア変異体がダルタニアンという名前だったのはライセン大峡谷のボスがミレディだったので。

備忘録

汝が憎しみ、汝が失神~:アルチュール・ランボーの詩『やさしき姉妹』より引用。

処刑椅子アレクサンドル:パニグレのボス『惑砂』が操る処刑椅子『折鶴』が元。折鶴という名前は別の箇所で使いたかったため、名称変更。名前は『三銃士』の作者アレクサンドル・デュマ・ペールより。

嘔吐のような動作:惑砂が実際にしていた動き。いまだにどういう仕組みなのか分からず、そもそも嘔吐なのかすら不明。もしかしたらパニグレのストーリー上で言及されていたのかもしれないが、この時点の作者は知らないのである。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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