人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 今回は久々に王女と側近の話です。今思えばドライツェントの正体というか出処って、説明したとも説明してないとも取れる状態でしたね。もう察している方も多いかと思われますが、改めて何処かで説明するかもしれません。


王女ト云フ女

「はぁ……意外と強固ですねえ。教会という組織は」

 

 王城の執務室で代行者、リリアーナは溜息を吐いていた。理由は『賭け』に負けてしまったからである。一人の神殿騎士をカードにして、〝召喚された神の使徒〟というチップを上乗せしてみたのだが、結果はあまり芳しくなかった。

 

「ステータスや神殿騎士という物への不信感を植え付けたまでは良かったのですけれど。そこから先は鳴かず飛ばず……ミゲルというあの男も、存外役に立ちませんねぇ。虫けらが」

 

 リリアーナは侮蔑の表情や声色を隠そうともしない。世界の真実をドライツェントに知らされてから、聖教教会を『国を腐敗させる癌』としてしか認識できなくなっていた。

エヒトに対してだけは「話が合いそう」とか思ったのは内緒である。叶うならば賭博について談義してみたいとも思うが、先方は少々エレガントに欠けるのでやっぱり話は合わないかもしれない。とかも思っている。

 

「教会を内部から瓦解させるには、別の手を考えなければならないようですねえ」

「まーた碌でもない事考えてますよ。この姫」

 

 そんなリリアーナに話しかけたのはドライツェントだ。教会のシスターの服装をした謎の女。その正体はリリアーナを含む一部の人間しか知らない。

 

「ドライツェントには申し訳ない状態ですね。私のやり方がこんなんですから、痛みを求める貴女には生殺しでしょう」

「まあ、それはこの際諦めてますよ……実際、ここで油を売っている時間も悪くはありません」

「これ見よがしに酒瓶を放置するのをやめていただけるなら、どうぞご自由に」

 

 ドライツェント本人は王城にいる限りは最高級の住居と食料が手に入るので、これも悪くは無いと思っている。しかし、その生活はもうじき終わるとリリアーナは予測していた。

 

「もうじき終わる、となると、何かしらの襲撃があると? やってきそうなのは……『法王』や『星』あたりですか」

「ラングランスに次ぐ『死神』や、ヨルハ部隊を率いている『剛毅』などもいますからねえ」

 

 ドライツェントとリリアーナは機械教会の敵対者を挙げていく。魔人族襲撃を人類の危機だと聖教教会は声高々に叫んでいたが、実に今更だと二人は思っている。人間族の危機など無数に存在するし、今までハイリヒ王国が無事だったのは九龍衆やアトランティスの援助があったからだ。聖教教会さえいなくなれば、大手を振って力を借りられるというのに……九龍衆を率いる竜人族は聖教教会が『神敵』認定しているので、公的に盟約を結ぶ事は出来ない。アトランティスを造っている深人族もそうだ。

 

 だが、無い者をねだったところでどうしようもない。今は出来る事をするしかないだろう。

 

 この内、『法王』と『死神』は今は考えなくていい。『法王』の配下であるオーダーは対処可能であるし、『死神』も寄せ集めの軍隊に過ぎず、大した脅威ではない。将来的に強くなったらどうするとか言われてもどうしようもない。起こってもいない事について責任は取れないのだ。

 

 目下の問題は……

 

「『剛毅』と『星』ですねえ。前者はエヒトのテコ入れが入るでしょうし、後者は大元を叩くのが困難ですから」

 

 ただ、魔人族がどう出るかは粗方予想がついているのでまだ大丈夫だ。最も懸念すべきは『星』である。

 

 〝衛星型天使 サハクィエル〟

 

 大気圏外を飛行する機械の要塞。そこから送り込まれる軍勢〝白塩化レギオン〟はかなりの脅威だ。オマケに本体は存在地の関係で人間族には接近すら出来ず、サハクィエル自体も空中要塞のような防備だと言う。

 

 アトランティスの設備でそれを観測したデータが送られてきた時、リリアーナは珍しく卒倒するかと思った。あの黒星を失墜させるにはアトランティスと九龍衆の協力と、それを妨害する聖教教会の排除が必須である。

 

「やはり邪魔ですねえ。聖教教会」

「まあ、こう言う事情があるから、一部の召喚者を使ってステータスへの不信感を植え付け、あらゆる手を使って聖教教会、ひいてはエヒトへの信仰からの乖離を促しているのでしょう?」

「ええ、彼らさえいなくなれば、誰も文句は言わないでしょう? お金で平和を買っても」

 

 リリアーナは黒い笑みを浮かべる。実を言うと、リリアーナにとってハジメ達の召喚は全くの想定外であり、計画が頓挫する可能性すら秘めていた危険な物であった。だが、それも結果的にはプラスに働いている。

 

 優秀な人材の引き抜きも成功し、ミゲルという人材を使った教会の内部からの崩壊も実にいい形で遂行した。メルドや雫には苦労をかけてしまったが、アフターフォローは欠かさないつもりである。

 

 召喚された勇者達は……残念ながら戦力になりそうも無かった。確かに一般人に比べたら強いが、ベヒモス程度に手こずっているようではオーダーにすら敵わない。おまけに光輝の性格とそれに追従するだけの大多数。

 

 全員をリリアーナやハジメ達と同じ昇格者にするか、同党の戦力を持たせる案もあったのだが、彼らの精神性を考えるとそれは悪手だった。火薬庫に火種を持って、それも自分自身にも爆弾を巻きつけて突撃する事も無い。如何にクレイジーなギャンブラーといえども、自殺願望は無いのだ。言い方は悪いが、猿に火を持たせるわけにはいかない。

 

 そもそも、一部とは友人になれたとはいえ、リリアーナにとっては召喚された神の使徒達は敵なのである。下手をすれば国家を瓦解させかねない程の。たとえその過程において生じうる汚名や悪評を度外視してでも排除しなければならない存在だった。

 

「とはいえ、聖教教会の瓦解については次の手を打っています。今度は〝作農師〟というチップを賭けて」

 

 作農師である畑山愛子の護衛についているのは神殿騎士だ。重要人物につける護衛としては、まあ妥当だろう。しかし、この状況では教会の崩壊を助長するきっかけにしかならない。

 

「なるほど、貴女はどう動くつもりで?」

 

 ドライツェントの問いに、リリアーナは少しだけ笑い声を零した。

 

「動くまでもありません」

 

 王女は机に広げられたトランプの中から〝女王〟と〝道化師〟を取り出すと、その前にコインを置いた。

 

「穴だと分かっていても、彼女等は落ちずにはいられない。愛子さんにも、そろそろこちら側の考え方を身に着けてもらわなければなりません」

 

 君主や指導者にとって最大の悪徳は、憎しみを買う事と軽蔑される事である。

 

 前者はリリアーナに当てはまる事は本人とて承知している。だが、多少の憎しみや悪評を買う程度であれば君主としては掠り傷に等しい。古今東西、国民の持ち物——財産や名誉を奪わなければ指導者として憎悪を向けられることはそうそうないが、王族という立場はそれをやらざるを得ない時がある。

 

 だが、軽蔑は話が違う。これは愛子に当てはまってしまうものであるとリリアーナは分析している。軽蔑というのは、指導者の気が変わりやすく、軽薄で、女性的で、小心者で、決断力に欠ける時に生じるものである。

 

 リリアーナは愛子が軽薄であるかは知らないが、他の特徴が全て当てはまってしまうことを危険視していた。傷心の生徒を戦争から引き剥がす手腕には感心したが、逆に言えば指導者として〝尊敬〟に値する行動は殆ど無いと言っていい。おまけに、その行動も臣下としての忠言に近いものであり、彼女が指導者として適しているかは別問題だ。

 

「ふぅ……〝善人〟を利用する事にかけては、貴女の右に出る者はいませんね。エヒトすら上回りますよ」

「まるで〝利用〟を悪い事かのように言っちゃって……我々にとって、〝利用〟とは〝信頼〟を意味します。そうでなくとも彼等彼女等は破滅的な方向に向かいがちですもの。これでも雫と愛子さんは出来る限り救いたいとは思っているんですよ? 雫には分身体も送りましたし」

 

 とはいえ、送り込んだのは分身体だけだ。リリアーナ本人は王城から動いていない。分身体を出せるのは最大四体までなので、数に物を言わせた物量戦は出来ないが、使えるのが自分の身体だけではないというのは実に便利である。

 

 と、噂をすれば影というが、どうやら敵が襲来したようだ。

 

「おや、敵襲ですか?」

「今回は敵の隔離は完璧ですよ。ほら、貴女を罠に嵌めた時の応用です。オルニスの襲撃以降、急ピッチで作り上げた防衛システムですよ」

 

 毎度毎度王城を壊されてはたまったものでは無い。前回の襲撃は結果的にリリアーナにとって良い方向に持っていけたものの、壊された設備や人的被害、使われた武器等、財政面で圧迫をかけ続けるのだ。

 

「お金ばっかり出ていくんですから」

 

 それに、今サハクィエル等の存在が知れてしまっては困るのだ。オルニスが襲撃しただけであのパニックである。それよりも強い白塩化レギオンが襲来するなど知らせてしまえば、それだけで国が滅びかねない。聖教教会を排除し、頼れる戦力が存在する事を公開してからでなくては勝てるものも勝てない。

 

「今回は私本体が行きます。仕事の休憩時間で終わらせますよ」

「私もご一緒してよろしいでしょうか。敵に苦痛と死を与えるのが、楽しみですから」

 

 リリアーナはドライツェントの言葉に笑顔を返した。

 

「一体残らず玩具にして差し上げなさいな」

 

 

 

 

 

 二人が訪れたのは王城の上空。リリアーナのトランプを用いた偽装魔法で隔離した空間の内部だった。

 

「天気が荒れていますこと」

 

 リリアーナが襲来した刺客に対して皮肉を言う。現れたのは先程まで話していた白塩化レギオンだった。

 

 天から降って来たのは人間大の大きさをした剣のようなレギオン『シーラス』と、隻腕をブレードのように変形した浮遊する騎士のようなレギオン『ストラトス』の群れだった。

 最も基礎的なシーラスですら、嘗て王城を強襲したオルニスと同等か上回る強さを持っている。

 

(いや)ですねえ……頭上の敵を排除した所で私の成果は一の二乗。報われないったらありゃしません」

「厭ですねえ……貴族のお嬢様は無駄口が多くて」

 

 ドライツェントの言葉に、リリアーナは含み笑いを浮かべた後に青い舌を出した。シーラスが剣の身で刺突攻撃を繰り出してくるが、リリアーナは既にそこにはいない。狙った標的は日傘をさして浮遊するように降り立っていた。

 

 更に別のシーラスがリリアーナに斬りかかるが、リリアーナはその場でターンするようにブレードとなった脚部で撃ち返す。なお、服装も貴族のドレスではなくカジノのディーラーである。

 

「うふふ」

 

 リリアーナは更に日傘を旋回させるように飛ばし、複数のシーラスを巻き込むように斬りつけた後、予備動作無しでカードを飛ばし起爆。更に飛ばしたカードの元に瞬間移動し日傘で斬りつける。

 

「さて、私も痛みを享受するとしましょうか……」

 

 ドライツェントは背後から強襲してきたストラトスを回避するように跳び、長槍を空間の疑似的な地面に突き立ててポールダンスのように一回転した後に、槍を引き抜いて斬撃をお見舞いする。

 

 ストラトスは負けじと刃を振るい、ドライツェントを少しだけ傷つけるが、彼女は弱るどころか艶のある笑顔を浮かべる。

 

「嗚呼……良い……もっと私に痛みを与えなさい。そうでないなら、私が最上級の苦痛と死を与えましょう!」

「うわあ、変態」

 

 リリアーナがドライツェントの様子を見て軽く引いたような反応を見せる。だが、そんなブーメラン極まるリリアーナの反応などお構いなしにドライツェントは槍を振るう。

 

 ストラトスの三方向に飛ばしてくるエネルギー弾を軽く躱して槍で刺突攻撃をしたかと思えば、中央で槍を分離し二刀流で制圧する。付与されている分解魔法のおかげで相手の装甲を無視して攻撃できるので、それほど労せずして制圧できた。

 

「以前から思ってましたけど、どうして分解魔法を直接使わないんです?」

「え? そんなことしたら痛みを感じられないじゃないですか」

「…………」

 

 どうやら痛みを感じる為だけに攻撃の手を抜いていたらしい。頭がおかしい、実に。筋金入りの変態だったドライツェントに呆れるしかないリリアーナ。まあ、こんなんでも自分よりはマシなのかな、とも思っているが。

 

 と、ドライツェントは抗議するようにリリアーナに向けて話す。

 

「私は! 嘗て人形だった私は! 己の存在を確信できる痛みを味わいたいだけなのです!」

「側近の人選を間違えたかもしれません。君主失格ですねえ、私は」

「人間失格の間違いでは?」

「事実ですから否定はしませんよ」

 

 己の異常性など、リリアーナは重々承知している。その異常性故に、彼女はギャンブラーじみた性格にならざるを得なかったのだから。ただ、人の間に溶け込むために。何かを賭けている時だけが、リリアーナを人間たらしめるものだった。

 

 レギオンの残骸を片付けながら、リリアーナは思う。今ハジメ(代行者)と行動を共にしている香織や優花は、リリアーナの事を殺したいほどに恨むかもしれない。だが、指導者として最大の悪徳である『怨みを買う事』を考慮してでも、教会や召喚者を排除する必要があるのだ。

 

 大事業を成し遂げる場合は、人々の怨みや嫉妬心を抑えるために共同体が危機に瀕している事を伝える必要がある。だが、国が瓦解しない範囲の可能な限りで伝えても教会と王国は変わらなかった。

 

 であるならば、リリアーナは酷薄な指導者となるしかない。

 

 そして、リリアーナ個人として、曲がりなりにも友人と呼んでくれた香織や雫、優花を裏切り、利用する事に対する罪悪感は……

 

 

 

 

 

 

 欠片も感じる事が出来ないのだ。

 




 正直、顔の良さと正当な理由(現代日本の倫理観を持ち込んではいけない)で許されてるけど、やってることは腹黒いとか言うレベルではないリリアーナ。まあ、或る意味私の作品ではいつものことなのですが。因みに言ってることはマキャベリの言説を参考にしています。

 さて、いっそ清々しい程の悪役令嬢ムーブをしている王女様。どうやら召喚された光輝達(代行者になる前のハジメや、香織、雫といった曲がりなりにも友人として接していた者達も含む)を単なる外観誘致としか思っていなかったようです。敵とすら断言していますし。

 おまけにブルックでも見せたギャンブラーじみた性格は、更にヤバい本性を隠すためのヴェールという闇の深すぎる情報も明らかになりました。元ネタのキャラクターの情報がまだ少ないのもあって、作者によって様々に保管されてしまっています。

 また、今回の白塩化レギオンという敵、及び衛星型天使サハクィエルについてですが、前者はNieRに登場したレギオンという存在を元にしており、このレギオンは白塩化症候群という現象の成れの果てです(だったはず……)。後者はパニグレのメインストーリー九章『黒星の失墜』にて登場した、パニシングに侵蝕された国際宇宙ステーションが元となっています。

 セレーナファンである私にとっては、ある種悪夢の始まり的な章でもありましたが。

備忘録

シーラス:白塩化レギオンの中で最も基礎的な種。人間大の剣のような見た目をしている。これ一体でかつて王城を強襲したオルニスと同等の強さを持つ。名前は『巻雲』のラテン語学術名。

ストラトス:シーラスに次ぐ基礎的な種であるレギオンで、パニグレに登場した『聖堂守衛』という敵を元に設定した。名前は『層雲』のラテン語学術名で、正確な発音はストラ『タ』スなのだが、語呂が悪いので変更。

 日傘を武器とするリリアーナに雲の名を冠した敵が襲い掛かると言う状況。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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