人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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敵と皮肉をインフレさせ過ぎて残留組の耐久力がスペランカー並なのよね。


カイネ/軋轢

 街道を走る馬車があった。だが、どう見ても旅行という雰囲気には見えない。というか纏う空気が霊柩車のそれである。乗り込んだらあの世に連れていかれそうだ。

 

「園部さん……どうして……」

 

 その馬車は〝作農師〟、畑山愛子を乗せた馬車だった。護衛として派遣された神殿騎士も口を挟めない程に、愛子と生徒達の空気は重く沈んでいた。

 

 原因は園部優花の失踪だ。白崎香織の時と同じように数多の金属片を身に纏い、機械の堕天使となって愛子の元を離れてしまった。清水やカイネでも歯が立たず、全てを薙ぎ払って彼女は巣立った。

 

 愛子は生徒の訃報だけでもショックを受けていたのに、心に傷を負っていた優花や清水には避けられて更に気を病み、更には優花の失踪である。

 

「気に病むな……とは言わん。だが、これは避けようが無かった。遅かれ早かれ、あの子は巣立つ運命だった」

 

 カイネは愛子にそう言った。どれほどの慰めになるか、分からなかったが。

 

 カイネとて、昨日まで普通に話していた人物がこのような形でいなくなれば精神的にダメージを負う。だが、悪魔との闘いの中で戦死者が出る事は珍しくなかった。慣れと言ってしまっては語弊があるが、精神面での耐性はついている。

 

 そして、それは清水も同じだった。二十にも満たない身で、四度も親しい者の死を経験すれば気の持ちようも変わって来る。一度目は友達だった猫が子供に撃ち殺された時。二度目は妹をパニシング症候群で失った時、三度目はハジメと香織が奈落に落ちた時、そして四度目は優花の失踪。

 

 特に妹は……ヨナの死は立ち直れない程の精神的ダメージを与え、『壊れない友人』であるフィギュアや『理不尽な死が訪れない穏やかな小説』であるライトノベルなどの収集癖を加速させる事になった。

 

 そして、ハジメを恨んでいながら感謝している理由でもある。妹を殺したとも、助けたとも言える男だ。心中は複雑などという物ではない。

 

 だが、ハジメを恨むのは筋違いという物だろう。少なくとも清水は、「病院に行けば直るかもしれない」などというデタラメを言って手放した自分を恨むので精一杯だった。当時は年端も行かぬ子供で、後になってから明治、大正時代の結核のような不治の病を持つ人間が辿った末路を知ったとしても。

 

「もう遅えんだよ……何もかも」

 

 まさか自分が自分自身に、追放系ライトノベルの主人公みたいな事を言うとは思っていなかった。だが、恨む対象は、軽蔑する対象は自分だ。唯一仲良くしてくれた妹を手放したのは、他でもない自分だ。病気になった途端に露骨にヨナを嫌悪する兄を断罪する気力も無かった。

 

「大丈夫か? 幸利」

 

 過去を思い出しているとカイネから声を掛けられた。以前ならば考えられないが、彼女も多少は変わっているのだろう。

 

「大丈夫だ。というか意外だ。張り手の一つでも飛んでくるかと思ってたぜ」

「フン……流石に私もそこまで鬼ではない。これでも元聖職者なんだぞ」

「昔は容赦なく引き摺って引っぱたいてた癖に」

「お前……まるで私が血も涙もない女みたいじゃないか」

「実際そんな感じだったぞ」

「コイツ……」

 

 カイネは清水を軽く蹴った。とはいえ、本気で怒っているわけではなくじゃれ合いの範疇だが。事実、カイネは笑っている。

 

「懐かしいなと思ってね。アンタん家で世話になってた日々が」

「私の家というか、教会だがな。あそこの双子の管理人が慈悲深くて助かった。じゃなけりゃお前も私も、とうの昔に雨ざらしか土の下だよ」

 

 逆に、カイネが清水家にお邪魔した事もあった。幸利の兄は「底辺(幸利)とつるむのはやはり不良女か」「あんなのに構うのはやめるべきだ。ラノベやゲームなんかに現を抜かすようなヤツと一緒にいても人生を棒に振るぞ」などと開口一番に嫌味を言ってきたが。

 

「楽園を追い出されたアダムは生涯食べ物を得ようと苦しむ。塵に過ぎないお前は塵に還る、か。随分な事を言うな」

「な、何だよ……」

「こっちのセリフだ」

 

 幸利の兄は、カイネの言葉を理解できなかった。

 

「世間の代弁者を気取るなら、聖書の内容くらいは知っておけ。いまだに世界一のベストセラーだと言うじゃないか」

 

 世間一般で認められている物や学校の成績に繋がる物の価値はあっさりと認め、それ以外を排他する幸利の兄。その兄を〝聖書〟という同じく『世間一般に認められている物』で言い負かしたのだ。中々に痛快な出来事である。

 

 なお、この会話は日本語で行われているため、神殿騎士達には理解できていない。だが、理解できる人間からすれば癇に障るのも仕方の無い事で、

 

「なんで……なんでそんなに朗らかに会話できるの!?」

 

 清水とカイネの会話に喰ってかかったのは優花の親友であった宮崎奈々だった。元から前線組からの圧力で憔悴していた護衛隊。そこに最強戦力の一角である優花の失踪だ。しかも親友だった宮崎奈々と菅原妙子には耐えがたい出来事だ。

 

 そして傷心のままに、精神が回復している二人に攻撃するのは或る意味では仕方の無い事なのかもしれない。

 

 しかし、

 

「勘弁してくれ……こっちだって疲れてるんだ。談笑くらいさせてくれ」

 

 本気で疲れたようなカイネの言葉は、その場のクラスメイト達の逆鱗に触れるには充分だったようだ。

 

「疲れたって何!? 南雲やアンタ達と話してると人の心を知らない機械を相手にしてるみたいだよ! 人の友達がいなくなったことを『疲れた』の一言で切って捨てて! いくら強いからって、そう振舞う事が他人を傷つけるってどうして気付かないの!?」

 

 またか……とカイネは思った。トラウマを『武器』として使用し、他者をコントロールしようと目論む人間。教会で懺悔室にいると、この手の人間には時折遭遇する。

 

 『弱さ』を曝け出せば免罪されると勘違いし、剰え、強者を悪とし弱者を絶対的な善へと仕立て上げようとする。連中の論理に従うなら、自分達は強くなる事すらも許されない。

 

 カイネはこう言う人間が嫌いだ。弱者でいる事を否定はしない。だが、他人が救済される事をまるで悪魔に魂を売り渡す外法かのように言う人間が心底嫌いだ。

 

 思わず声を荒げようとするカイネ。しかし、それを清水が止めた。

 

「悪かったな。一緒に落ち込んでやれる人間じゃなくてよ」

 

 だが、止めた清水も声に怒りを滲ませていた。

 

「お前らと同じ反応をしていない人間が悲しんでいないと思ったか?」

「そんなの……じゃあ何で闘えるの!?」

「そうやって向き合ってるからだよ」

 

 清水の主張はシンプルだった。ただ『死』に対する向き合い方が違うだけだ。()いても嘆いてもヨナは帰ってこない。それを経験しているからというだけなのだ。

 

「白崎が言ってた……To be, or not to be.だったか? ハムレットのセリフらしいな。結局の所生きるか死ぬかだ。それが残された俺達にとっての、血塗れの使命」

 

 別に天之河光輝のように死者を忘れているわけではない。死者を哀しみ、追悼する心を忘れたわけでもない。だが、生きていかなければならないのだ。

 

 転移前から事あるごとに『死』を口にしていたハジメも、本来の目的は『生きる』事だ。『死』を以て、己の生を定義づけようとしていた。

 

 しかし、傷心の少年少女にそんな論理は届かない。

 

「何だよそれ! 結局お前らには血も涙も無いって事じゃないかよ!」

「アンタ達は悪魔に心を売り渡したんだ! 絶対そうだー!」

「お前らなんか人間じゃねえ! そんなに冷酷な人間なんかいるはずがねえ!」

 

 その言葉に暴れ出そうとするカイネを抱き留める形で必死に止める清水。『黒ノ手』まで使って彼女を抱きしめる。こうしてみると、カイネはとても華奢だった。とても悪魔との闘いを経験していたとは思えない程に。

 

 清水の胸に顔をうずめる彼女は、泣いていた。

 

「私達は……強くあることすら許されないのか? 過去に思いを馳せて談笑する事すら許されないのか!?」

 

 愛子に助けを求める事を清水は考えたが、肝心の愛子が傷心しており、止めようとはしているのだろうがそれはあまりにも弱々しかった。こんな場所にカイネを縛り付けている自分が、清水は心底憎かった。

 

 飛び交う野次の中、清水はカイネに耳打ちする。

 

「南雲と白崎の捜索と、園部への義理のために此処にいたが、もう終わりにしよう。折を見て二人で逃げようぜ」

「それは……でも、いいのか?」

「捜索だけなら二人でも出来る。カイネさんを苦しませてまで、こんな所にいる必要なんかねえ……!」

 

 確かに、言葉を選ばなかったカイネにも非は有るかもしれない。だが、彼女なりに死者や過去に向き合おうとしているのに、自分勝手な感情論で彼女を詰るクラスメイト達に憤りを感じているのは清水だって同じなのだ。

 

 脱走はウルの街に着いてから、皆が寝静まった夜に決行する。足手纏いがいない分、むしろ今よりも楽になるかもしれない。

 

「ありがとう……」

 

 カイネから暴れる気配が消え、ただ清水に抱き留められるだけになった。カイネだって人間なのだ。限界はある。強くあることすら許されないなど、地獄よりも劣悪な環境だ。

 

 カイネは自分より遥かに年下の男にもたれかかる。いつの間にかこんなにも成長していたパートナーに。だが、少しくらいは甘えても良いだろうか。力では圧倒的にカイネが勝っているが、精神面ではいつもそうとは限らないらしい。

 

(今だけは……甘えさせてくれ。その代わり、困難が降りかかったら、私はお前の刃となる)

 

 弱さを見せたら見せたでやはり飛んでくる野次を聞き流しながら、カイネは決意を新たにした。

 




 少し短めですが、詰め込みました。原作では愛子先生の説明回でしたが、カイネと清水の説明に。あと、原作と同じく失踪の下準備ができましたね。カイネさんにとってありふれ世界って地獄だと思う。人間性ってなんだ(哲学)。

 いや、この世界って弱者への当たりも強いけど強者への当たりも強いんですよね。クラスメイト達の反応がマジNieRシリーズ。AutomataよりはReplicantに近いかな。弱者に寄り添えないのは欠点かもしれないけど、人間、限界はあります。

 感想、高評価をよろしくお願いします。あんまりこう言う事は言わない方が良いのかと思ってましたが、言った方が良いようで……オリジナルの方でも言おう、うん。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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