人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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勢いのままに書いたらこうなった。反省も後悔もしていない。

とりあえず出番がめっきり減ってしまった優花を書きたくなってしまいましてね。で、原作の資料が少なくて自分の持ってる知識で補ったらこうなりました。


画家ト料理人ト無線放送

「ふわぁ……よく寝た」

 

 欠伸をしながら自室のベッドで起き上がったのは園部優花、洋食店『ウィステリア』を営む両親の一人娘である。

 現在の時刻は午前7時。普段は料理の仕込みの為にもっと早く起きるのだが、この日は実家のレストランは定休日であり、また現在は中学二年の夏休みの期間であるため学校も無ければ友人達と遊ぶ予定も無い。

 

「はぁ……」

 

 溜息という喫煙者の真似事をする優花。当然未成年なので吸ったことは無いが、まるで現物が手元にあるような錯覚に陥る。

 実のところ、夏休みの定休日というのは優花にとって微妙に憂鬱な日であった。別に何か嫌な事があるわけではない。寧ろ何もないからこその憂鬱と言えよう。何せ普段は学業に家の手伝いに友人達との交流と、一般的な学生に比べれば多忙な日々を送る優花だが、その反動なのかこのように何も予定が無い日に空白を持て余す傾向があるのだ。本人曰く「ただ息を吸って吐くだけの無用な時間」であり、無思考なストレスが停滞する。

 

「とりあえず朝ごはん食べよ……」

 

 いつまでもベッドに座っていても仕方が無いため、部屋を出てキッチンに向かう優花。到着すると、台所のラジオの周波数を合わせ、冷蔵庫の中を物色し、手頃な食材を見つけると料理を始める。

 

 優花が休日のモーニングルーティーンを淡々とこなしていると、母の優里(ゆうり)が起きてくる。

 

「おはよ、お母さん」

「おはよう、優花。あなたが一番のりだったのね」

 

 園部家は全員料理が出来るので、こういう日は最初に起きた人が朝食を作る事になっている。

 

「なんか、あんまり寝すぎると疲れるんだよね」

「若いっていいわねぇ……そのうち起きるのが苦痛になってくるわよ」

「あー……妙子が朝起きれないって言ってたわ、そういえば」

 

 「あんまり年は関係ないんじゃない?」と優花が言うと優里は「分かってないわねぇ」と言って老いる事の悲しさを娘に説く。そんなやり取りをしていると料理が完成し、父の博之(ひろゆき)も起きてくる。そして一家揃って朝食を食べる。その時、博之がふとラジオを見て言った。

 

「まさか優花がラジオにはまるとはな」

「一時期は部屋に持って行って占領してたわよね。誕生日に買ってあげたら収まったけれど」

 

 優花はある時を境にラジオを聴くのが趣味となり、今でも勉強中に流している。

 

「やっぱり去年の読書感想文がきっかけかしら」

「当時はひどく苦労していたが、無駄ではなかったようだな」

「本を表紙で読む事の愚かさを知ったわ……」

 

 当時の記憶が蘇り渋い顔をする優花。名前の響きだけで本を選び、解読に四苦八苦していた。思えば自分はあの時から可愛げが無くなった気がしていた……

 優花が遠い目をしていると、博之が思い出したように言葉を発する。

 

「あ、そうそう。今日は『ゼロ』さんが絵を納品しに来るから、部屋から出るならちゃんと着替えておけよ」

「了解。たしか『ゼロ』って私と同い年なのよね。ちょっと見てみたいかも」

 

優花はテレビで『ゼロ』を見たことがあったが、ゼロ自身は白い目隠しをしていたので素顔は知らなかった。知っているのはネットに投稿した絵が爆発的に流行り、天才中学生画家として名を馳せている事と、ゼロがパニシング症候群に罹患している事だけだ。

 このちょっとした野次馬根性が優花の日常を変える事になるのだが、本人はまだ知らない。

 

 

 

「この度はお買い上げいただき、ありがとうございました」

 

 『ゼロ』こと南雲ハジメがウィステリアに絵を納品し、オーナーの博之に礼を言う。そして店内に絵を飾り、ハジメが帰ろうとした時に博之が呼び止め、「折角だからコーヒーでも飲んでいかないか」と誘った。ハジメが了承の意を示すと、優花がコーヒーを入れる。

 そして、その間に飾った絵を見た博之がハジメに話しかける。

 

「綺麗な絵だね」

「お褒め頂き恐縮です」

「少し態度が固いね。もう少しフランクに接してくれてもいいのだけど」

「性分なんです。それに、僕としては活動を始めてこんなにも早く買い手が現れるとは思っていなかったので、少し驚いているというのもありますが」

 

 ハジメは『ゼロ』として活動を始めてから一年と経っていない。今後も流行が続くとは限らないのに何故出資してくれるのか……ハジメの疑問は要約すればこういう事だ。それを聞いた博之は優花を見て答える。

 

「私達には娘がいるからね。娘と同年代の君を応援したいと思ったのが一つ。そして……」

「?」

「純粋に私の趣味だ」

 

 それを聞いたハジメは間を置いて「なるほど」と返した。そのやり取りが終わった後、優花がコーヒーを運んでくる。

 

「では、後は若い二人で過ごしてくれ。出来れば、娘とも仲良くしてくれるとありがたい」

「え? ちょっと、お父さん!?」

 

 博之はそう言って場を離れる。一応家の中にはいるが、手近な空間に残されているのはハジメと優花だけだ。

 

(一体……何話せばいいのよ)

 

 優花は目の前で優雅にコーヒーを飲む同年代の少年を見ながらそう思った。少年はコーヒーを飲み終われば出て行ってしまうだろう。しかし画家と話すための話題など優花は持ち合わせていなかった。かろうじて知っている画家と言えばゴッホとピカソだけで、それほど詳しいわけでもない。

 そうしてしばらく時間が経つと、少年の方から話しかけてきた。

 

「そういえば、貴女は僕を怖がらないのですね」

「え?」

 

 優花は何を聞かれてるか分からないと言った顔だ。

 

「パニシング症候群に対する恐怖心ですよ。時として、残虐性の生みの親たり得る、ね」

「ああ、そういうことね……パニシングって伝染はしないんでしょ? だったら怖がったって仕方ないもの。それに、病気にかかったら死んじゃうのは皆同じでしょ?」

 

 ハジメは少しだけ驚き、そして面白そうに優花を見る。一方優花は「敬語使うの忘れてた!」と失敗を恥じていたが、ハジメは気を悪くした様子も無い。「ええい、ままよ!」とこのままの調子で話し続ける事にした。

 

「ねえ、なんて呼べばいいの?」

「はい?」

「名前。『ゼロ』って呼べばいいの?」

「そうですね……今はプライベートですから、本名である南雲ハジメを名乗ります」

「そう、じゃあ南雲って呼ぶわ」

 

 「お好きにどうぞ」と言ってハジメはコーヒーを啜る。

 

(会話が続かない……コイツ、人と会話する気が無いのかしら)

 

 優花はハジメに適当にあしらわれているような感覚に陥り、こうなれば意地でも会話を続けてやる! と決意する。そこで優花は純粋な疑問をぶつける事にした。

 

「ねえ、なんで『ゼロ』なんて名前にしたの? 正直言って中二病拗らせてるようにしか思えないんだけど」

「中二病拗らせてるのはその通りですね」

「認めてんじゃないわよ……で、なんで?」

「有り体に言えば……全てに向けた皮肉です」

 

 雲を掴むような答えが返ってきた。現代文の心情問題を凶悪進化させたような、それでいてこちらを弄ぶような態度に少しムッとする優花。

 

「……その皮肉の内容を聞いてるんだけど」

「何も無いという事です」

「……?」

「僕の思念、僕の思想、そんなものは有り得ません。言葉や絵によって表現された物は、もう既に厳密には僕のものでは無い。その瞬間に他人とそれを共有しているのだから」

「つまり……表現以前のモノだけが南雲の持ち得るもの、とでも言いたいのかしら」

「それが堕落した世間でいうところの個性という奴ですよ。ここまで言えば分かるでしょう。つまり、僕は現代の画家として求められる素質を何も持ってやしないという事だ」

「はぁ……意外とちゃんと考えていたのね」

「まあ、全部三島由紀夫の『旅の墓碑銘』の受け売りですけどね」

「ねえ、殴っていいかしら」

「言ったでしょう? 僕には何も無いのだと」

 

 つまり一連のやり取りを通じて『ゼロ』という名の皮肉は完成されたわけである。いいように掌で踊らされた優花はハジメを睨む。

 

「そもそもパニシング症候群になってから世間からの評価値が0ですからねえ。掛ければ全てが無に帰す悪魔の数字の名がこの世間で響いたら、差別主義者はどんな吠え面を見せてくれるのか……そんなところです」

「アンタが心底性格悪いって事だけは分かったわ。まあでも、考え無しに綺麗事を撒き散らす奴よりは好感が持てるわね」

「それはどうも」

 

 案外、綺麗事マニアの方が差別発言を繰り返したりするのである。無論全員がそうというわけではないが、一定数そういう人間が生まれるのは確かだろう。

 

 ややあって優花が口を開く。

 

「私って絶対に幸せになれない気がするの」

「唐突ですね……理由を聞いても?」

「幸せになるコツが『無知で馬鹿のまま生きる事』だから」

「ほう……?」

 

 ハジメは興味深げに優花を見る。『幸福』の定義については考えたことがあったが、優花のように表現した事は無かった。

 

「去年の夏休みにね、読書感想文書いたのよ。で、その時の本をタイトルの響きだけで選んで、書くのに凄い苦労してね。その過程で色々調べたり考えたりしたのよ。世界恐慌とか、友達の定義とかね……そしたら、急に幸せってものが分からなくなっちゃった」

 

 ハジメは黙って聞いている。知の迷宮に足を踏み入れた少女の話を邪魔してはならないと思って。

 

「南雲の前でこういう事言うのって抵抗あるけど、私って結構恵まれてんのよ。何不自由なく学校に通えてさ、友達もそれなりにいてさ、オマケに実家っていう就職先があってさ……でも、恵まれてるって思うと、何もしないのがすごく怖いのよ。息を吸って吐くだけの無用な時間? 今日なんかも本当なら学校も無いし実家は定休日だし、友達との約束も無いし……そんな時間を過ごしてると、何もせずにいる事とか、悩んでる事が悪い事みたいに思えるの」

「悪い事……ですか?」

「うん、実際言われた事あるもの。『貴方は恵まれてるんだからくよくよ悩むんじゃない。恵まれてない子が可哀想だと思わないの?』って」

「何という横暴な……」

「私もそう思う。でも、変な事考え始めなければ幸せのままでいられたのかも知れないのも事実なのよ。それで思ったの。幸せでいるには、無知で馬鹿のまま生きるしかないのかなって」

 

 ハジメは話を聞き終えると思った。何故彼女が責められなければならないのだ、と。優花が抱いているのは人間として普遍的な悩みだ。それが規制されていいはずがない。

 

 ハジメはコーヒーを一口飲んで答える。

 

「僭越ながらその疑問にちょっとした答えを出そうと思います」

 

 優花は何も言わずに続きを促す。

 

「まず『幸せになるコツは無知で馬鹿のまま生きる事』という考え。これについては半分正解だと思います。嘗てジョン・スチュアート・ミルという哲学者はこう書きました。『幸せかどうか自問してみるといい。途端に幸せでなくなるから』」

「……」

「これには『幸せな人間はそもそも幸せについて問いただしたりしない』という意味も含まれているでしょうが、少なくとも知恵や思考力が発達すると幸せから遠のくというのは事実でしょうね」

「ふーん……」

 

 優花はハジメの話を聞きながら、さりげなく彼のカップにコーヒーを足した。彼に帰って欲しくなかったから。

 

「そして貴女に投げかけられた横暴な理論ですが……」

「『横暴』なのは同意してくれるのね」

「ハッキリ言って、それを主張した人物は稀代の阿呆だと思っています」

 

 優花は驚き、そして噴き出す。

 

「南雲って『アホ』とかいう言葉使うのね」

「使いますよ。話を戻しますが、物質的に恵まれているからと言って幸せであるとは限りません。2500年近くも前にギリシャの哲学者達が幸せについて論じ合いましたが、単なる物質的な喜びを支持した人間は殆どいませんでした」

「……」

「ですから、自信を持って悩んでください。この手の話題で他人に気を使うなど、無意味どころか愚かしいとさえ言える。他人の不幸まで背負わなきゃならないなら、人間皆不幸ですよ」

 

 優花は喉のつかえが取れたような気がしていた。博之は娘が思い悩んでいる事を薄々感づいていたのだろう。だからハジメを此処に残した。

 優花の悩みが根本的に解決したわけではない。人生論の迷宮に迷い込んでいる事実が変わったわけではない。でも、『悩む事』を肯定されたのは嬉しかった。

 

「ありがとう。なんだか楽になったわ」

「どういたしまして。それでは僕は帰ります。そろそろ夕飯の時間なので」

「食べていけばいいのに」

「病院なので融通効かないんです」

 

 なるほど、と優花は思った。それならばと携帯電話を取り出す。

 

「連絡先交換してよ。もっと話したい」

「いいですよ」

 

 二人は連絡先を交換し合った。その時、ハジメがおもむろに口を開く。

 

「そういえば、全ての始まりである読書感想文って何を題材に書いたんです?」

「アーネスト・ヘミングウェイの『賭博師と修道女とラジオ』」

「また難解なものを……まあ、世界恐慌とかいう単語が出てきた時点でなんとなく察してましたけど」

「南雲は?」

「梶井基次郎の『檸檬』です。絵を描き始めたのはこれがきっかけですね」

 

 簡単に言えば、得体のしれない憂鬱な心情や、ふと湧いたいたずらな感情を詩的に描いた作品だ。たしかレモンを爆弾に見立てていたな、と優花は思い出した。

 

「私ホームレスにはなりたくないんだけど」

「絵が爆発する事は無いので安心してくださいな」

 

 何かを企んでいそうな表情でハジメが言う。

でもそれすらも日常という名の既視感のパロディを破壊してくれるなら歓迎するかも。と考えた所で、自分はだいぶ末期かも知れない、と思った優花だった。

 

 

 

ハジメが帰った後、優花は自室にてラジオを垂れ流しながらダーツで遊ぶ。しかしいつもと違って命中率はひどいものだった。

優花は今日の会話を思い出す。悩みが解決したわけでもないのに、ひどく安らいだ。これほど会話が終わるのを惜しんだのは初めてかも知れなかった。

何が『ゼロ』だ。と優花は八つ当たり気味に思う。少なくとも自分は救われた。『悪魔の数字』だのなんだの知った事か。自分勝手な真実を押し付けてくる天使供よりも余程信用できる。他人に優しい世間に、この無為が分かるものか。もっと話したい。絵を見たい。これが夢って奴か。何もしなくても叶えよ。早く、私を満たしてくれ。

そして、逡巡したのち、自身の内に燻る感情を端的に口にする。

 

「どうしよう。惚れちゃった」

 




中学生にしては会話が難解か?→自分の持ってる本を読む→うん、割とこんな感じだな

原作だとほぼ一目惚れだったが、それだとつまらないな。ちょっと考えてみるか。

執筆後

何か原作よりスレてる?

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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