「ネズミが……! ここで潰す!」
竜人族再起の証である九龍の都市。その中枢である九龍環城の一角で相対する二体の機械。片方は龍の頭と筋骨隆々とした体躯を持つ機械『
「ほう……面白い。九龍衆の長の孫である妾を『ネズミ』呼ばわりしたのはお主が初めてじゃ」
もう一方は九龍を治める集団の幹部、竜人族の姫、
「姫様、加勢いたします」
廷の従者である
「良い。あの者は妾一人で相手をしよう」
その言葉に縁璃は驚く。そして少し哀しくもなった。本人にそんな意図は無いのだろうが、従者として必要無いと言われた気分だったのである。そんな縁璃に廷は困った顔をして言った。
「そんな顔をするでない。お主は妾の従者にして第二の母であることは変わらぬ。故にお主にはやってもらいたいことが有るのじゃ」
縁璃はその言葉に顔を上げる。目の前には笑顔。高貴にして時に苛烈、そして竜人族の中でも首位に近い戦闘力を誇る主の優しい笑み。
「お主には露払いを頼みたい。妾が強敵との戦闘を邪魔されぬよう、雑兵どもを片付けてもらいたいのじゃ。これも、妾が勝つ為、そして九龍の為よ」
それを聞いた縁璃は「承知いたしました」と了承して場を離れる。武器となる番傘と二刀を携え、主の命令を実行するべく敵の元へと向かった。
「さて、待たせたな。叛徒よ」
廷は両端に刃の付いた薙刀、『
「せっかくここまで来てもらったのじゃ。妾が直々に相手をしてやろう」
その言葉を挑発と受け取ったか、茯神は廷よりも早く攻撃を仕掛ける。廷はそれを易々と碧光で受け止めた。そして、
「フッ……」
槍の下を潜り、位置を変えて蹴り上げる。茯神の拳は簡単に弾かれた。だが、茯神は衝撃波を飛ばす回し蹴りを放って来る。
「簡単には倒れぬか」
廷はそれを躱すと、三度瞬間移動をして茯神に斬りかかる。逆に茯神はそれを豪腕で防ぐと、廷に掌底を喰らわせ、更に廷はそれを躱して碧光を二度叩きつける。
茯神は一度距離を取り、地面に落ちていた瓦礫を投げつけ、廷がそれを切り裂く。が、それ故に次の攻撃への対処が遅れ、茯神の尾に巻かれて飛ばされる。
壁に叩きつけられた廷に茯神は次々と瓦礫を投げつけた。
「弱し」
されるがままの廷に対し、茯神は侮蔑の言葉を吐く。だが、投げつけた瓦礫が切り裂かれ、突如として現れた極楽鳥のような物が茯神に竜巻を浴びせる。
「この程度で勝ったつもりかえ? 叛徒よ」
鳥の後に現れたのは無傷の廷。身体どころか、服さえ破れていない。それは茯神の攻撃が全く効いていない事を意味した。
〝鉄騎出征〟
直後、猛スピードで廷が走り出し、茯神に碧光の一撃を加える。あまりの重い一撃に茯神は分が悪いと悟り、一度離れる。そして跳躍して着地と同時に廷に拳をぶつけた。おまけにただの殴打ではなく衝撃波を水増ししている。通常ならば潰れるか、避けたとしても衝撃波に当たってしまうだろう。
だが、
「
いつの間にか屋根の上に退避していた廷は徽羽と呼ぶ極楽鳥に急襲させる。これは電脳空間に住まう情報知性体、廷達が霊獣と呼ぶ存在だった。
「小癪なぁ!」
吠えた茯神が廷を目掛けて飛び掛かる。その拳は屋根を破壊したが、廷には当たらない。
「何処を狙っておる」
そんな言葉と共に茯神に蹴りが降りかかる。その余裕な態度が癇に障った茯神は直ぐに復帰し、廷に殴打の雨を浴びせた。だが、廷は手に持つ扇で降り注ぐ拳の雨を悉くいなしていた。
そして、茯神を突如として雷撃が襲う。
「ぬぅ!?」
予想外の攻撃に蹈鞴を踏む茯神。その間に旋回する扇が茯神を切り裂き、いつの間にか真上に移動していた廷が碧光を振り下ろす。更に投げられた扇が極楽鳥、徽羽となって茯神に襲い掛かった。
「ほれほれ、ネズミ如きの攻撃、防いでみよ」
残心する廷の傍らで、エネルギーを収束させる徽羽。そして、その次の瞬間、
〝翠越天風〟
茯神の周囲を巻き込んで破壊する極大威力の竜巻が襲った。既に自分の周りに人がいない事を確認しているからこそ、遠慮なく出せる災害級の技。重量級の機械に数えられる茯神とて、吹き飛ばされないようにするのが精一杯であった。
「今ので塵と化さぬか。丈夫な事じゃ」
廷の言葉に茯神が周囲を見渡すと、周りの建物は塵と化していた。そんな中で無数の傷を負うだけで済んだ茯神は確かに丈夫であると言える。
「さて、降伏する気になったか?」
だが、茯神は廷の攻撃に負けず劣らずの衝撃波を周囲に飛ばすと、戦闘の続行を宣言した。
「所詮は……! 虫けらァ! 今日が貴様の最後だ!」
それを見て、廷は尚も愉しそうな表情を浮かべる。
「そうでなくては……! クックック……
そう言って廷は屋根の上で扇の舞を始める。その姿はまるで、茯神に見せつけるようであった。蹂躙の風を生み出した者が舞う姿は、たとえ心を持たぬ機械であろうと美しいと言わせるに違いない。
茯神が防御姿勢を取っていると、廷の頭上に巨大な龍が現れた。それは九龍の都市の何処にいても目に入るであろう巨体と、否が応でも気配を感じざるを得ない存在感を持つ、廷が従えるもう一体の霊獣。時に槍となって廷を助けるその龍の名は、碧光。
「っ!」
そして、龍の咆哮と共に神の審判と見紛う雷撃が落とされる。翠越天風の威力を目の当たりにした茯神に慢心は無い。人工筋肉を最大まで活性化させ、その攻撃を躱す。
「アレを潰すには、儂一人の力では無理か!」
茯神は先の衝撃波で崩れた建物から落下してきた鐘を担ぐ。この鐘は時を知らせると共に、敵襲時は武器として使う為の物であった。
「自らの家に備わる武器で! 沈むが良いわ!」
大砲のように担いだ鐘から、前方に拡散するように音響攻撃が放たれる。しかし、廷はそれを難なく躱すと、槍に戻した碧光で落下攻撃を仕掛ける。
「甘い!」
だが、今回は茯神の方が上手だったようだ。廷の攻撃を鐘で防ぐと、地面に下ろしたそれを拳で叩く。
「ぐはっ!」
全方位に撒き散らされる破壊音響に、流石の廷もダメージを負った。耳や眼から循環液が流れ、口からも吐血する。だが、そんな状態でも廷の顔に浮かぶのは焦りでも苦悶でもなく笑顔だった。
「面白い」
廷は碧光を再び龍の形に変化させ、先の物とは比べ物にならない咆哮をさせる。目には目を、歯には歯を、音波には音波を。それが廷の出した答えだった。
「これでも倒れぬか!」
茯神は音波攻撃を諦め、金を廷に投げつける。扇で弾き返す廷だったが、流れるように茯神の拳が迫っていた。
「ぬ!?」
だが、それでも廷は倒れない。扇を持つ方とは逆の手で茯神の拳を受け止めていた。流石にこれには驚愕を隠せない茯神。そしてその一瞬の隙に廷は蹴りを喰らわせた。
「…………」
茯神は咄嗟に腕を交差させる事で直撃を防ぐ。更に、わざと飛ばされる事で距離を取る事に成功した。
片や廷は追いかける様子も無く、優雅に扇を開いている。茯神は悟った。相手と自分にある絶望的なまでの力の差を。もはや尋常の技では意味が無い。目の前の女に勝つには全身全霊の技を繰り出すしかないのだと。
「ウグァァァァァァァ!!!」
茯神は目の前の女を殺すべく、今の自分が使役可能な全てのエネルギーを集中させる。それと共に、廷の周囲をマグマのような熱が取り囲む。
「ほう……」
それでも尚、廷に焦りの表情は見られない。むしろ感心するような表情すら浮かべている。
「焼かれて落ちろ! 炎帝―――――!!!」
茯神の言葉と共に廷をマグマが飲み込んだ。大迷宮の一つであるグリューエン活火山のそれに劣らない熱、噴火と見紛う程の災害級の威力。廷が起こした竜巻と同等の攻撃が彼女を襲う。
「…………」
これほどの攻撃をしておきながら、茯神に安心するという選択肢は無かった。むしろ、これで倒れてくれという祈りの言葉すら思い浮かべていた。
だが数秒後、
「……良いものを魅せてもらった」
茯神は自身の敗北を悟った。
「猛き、美しき力じゃ。気に入ったぞ」
炎の中から現れたのは、服に焦げ跡一つない、無傷の廷であった。
過去の回想から帰った茯神は夜航船を見渡す。戦いに負けた茯神は廷の配下となった。茯神が寝返った事により、最大の戦力を失った叛徒は驚くべき早さで敗北。首謀者達は極刑となった。
自身の創造主を喪った茯神だが、その仇に仕える事に抵抗は無い。創造主と言っても顔すら殆ど知らず、廷との闘い以上の記憶にはなり得なかった。
「大丈夫ですか?」
そんな茯神の目の前に現れたのは、着物を着た妖狐のような存在だった。外形は人型なのだが、腕が人間のそれよりも多い。地球人であれば阿修羅や千手観音と形容するだろう。更に、逆立つように生える髪のような部分は狐火を連想させた。
この存在こそが竜人族を繁栄に導いた人工知能『華胥』、そのアバターである。
茯神にとっては創造主たちが忌み嫌っていたものという意味でも記憶にある存在だ。
「大事無い。少し過去の事を思い出していただけだ」
茯神は短く答えると、華胥は嬉しそうな顔を見せた。どうやら、華胥の本質は優しく善良な存在であるらしく、茯神のような友達が出来た事を喜んですらいた。あの荒神のような女が従う存在と聞いて、どんな奴なのかと思っていた茯神だったが、或る意味拍子抜けであった。
それでいて、竜人族を繁栄に導いているのだから見上げたものである。汚れ仕事を廷や他の者が担っているからでもあるが。
「お前の部下は今頃大陸にいるらしい。鍛錬の相手がおらずつまらん」
「ふふ、茯神は廷と何度も手合わせしていましたものね」
今の所は敵襲も無い。茯神は華胥との談笑に余暇を費やす事にした。
こんなことしてるから話が進まないのである。
呪術廻戦の戦闘シーンを見て思わず書いてしまった。でも、今まで名前だけ出ていた華胥が初登場したので、無意味な回ではない……と思いたいです。
感想、高評価よろしくお願いします。
備忘録
茯神:パニグレのボスエネミー。格闘技全振りのサイバー龍人。原作では機械を人間の支配から切り離していたが、人間の罠にかかり記憶を失ってしまう。
華胥:竜人族を繁栄へと導いた人工知能。パニグレでも九龍が開発した人工知能として登場。一応コイツもボスとして登場するのだが、今作で見せ場は有るのか……
縁璃:ありふれアフターに登場したティオの従者兼乳母と同一人物。持っている武器はパニグレのキャラクターである『睚眦(ガイサイ)』を参考にしている。実は過去話にもひっそりと登場している。
霊獣:電脳空間に存在する情報知性体。ターミナルや華胥、デボル・ポポルと本質は近い。
碧光:パニグレの曲の武器。今作では霊獣が化けた姿であり、本来の姿は雷を操る龍。
徽羽:パニグレの曲のペット(?)。今作では扇に化ける。本来の姿は鳥。
鉄騎出征、翠越天風:パニグレの曲の技。
炎帝:今作オリジナルの茯神の技。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する