人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 なんか久しぶりに書く気がします。

 クロス先のパニグレには構造体という機械達が主に活躍するのですが、様々な理由で身体を変える事が有ります。そして、今回はそれを持ち込もうと言う魂胆です。

 あと、今作のハジメの刀と二丁拳銃+αというスタイル……完全に崩壊:スターレイルのカフカですね。



灰鴉

「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

 

 上弦の月が時折雲に隠れながらも健気に夜の闇を照らす。今もまた、風にさらわれた雲の上から顔を覗かせその輝きを魅せていた。その光は、地上のとある建物を照らし出す。もっと具体的に言えば、その建物の屋根からロープを垂らし、それにしがみつきながら何処かの特殊部隊員のように華麗な下降を見せる一人の少女を照らし出していた。

 

 スルスルと三階にある角部屋の窓まで降りると、そこで反転し、逆さまになりながら窓の上部よりそっと顔を覗かせる。

 

「ふむ、首吊り死体は無いですね。嫌ですよお、実家が事故物件だなんて。売り上げも下がりますし良い事なしです。て、それも重要ですが、今回はあの男女比偏りまくりな人達がどんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげる!」

 

 ハァハァと興奮したような気持ちの悪い荒い呼吸をしながら室内に目を凝らすこの少女、何を隠そう、ブルックの町〝マサカの宿〟の看板娘ソーナである。明るく元気で、ハキハキしたしゃべりに、くるくると動き回る働き者、美人というわけではないが野に咲く一輪の花のように素朴な可愛さがある看板娘だ。町の中にも彼女を狙っている独身男は結構いる。

 

 そんな彼女は、現在、持てる技術の全てを駆使して、とある客室の〝覗き〟に全力を費やしていた。その表情は、彼女に惚れている男連中が見れば一瞬で幻滅するであろう……エロオヤジのそれだった。

 

「くっ、やはり暗い。よく見えないわ。もう少し角度をずらして……」

「瞼にバターは塗った?」

「この角度なら……それにしても静かね? もう少し嬌声が聞こえるかと思ったのに……」

「ジグ、ジグ、ジグ、墓石の上」

「もしかして遮音魔法? 一人は演奏者だったし……」

「真夜中に死神が奏でるは舞踏の調べ」

「くぅう、小賢しい! でも私は諦めない! その痴態だけでもこの眼に焼き付け………………」

 

 繰り返すが、ここは三階の窓の外。ソーナのようにアホなことでもしない限り、間近に声が聞こえることなど有り得ない。ソーナは一瞬で滝のような汗を流すと、ギギギという油を差し忘れた機械の様にぎこちない動きで振り返った。そこには……

 

 黒い衣装を纏った、何故か右眼に花が咲いている香織が薄ら寒い笑みを浮かべて立っていた。

 

 足元には花のような折り紙を象った金属の何かがあり、香織はそれに乗って浮いている。それが尚更この事態の現実感を狂わせていた。

 

「あ、これ? コンダクターが作ったアーティファクトでね。『折鶴』って言うの。紙を折るように色々な形に出来るんだって」

「は、はは、凄いですねえ……」

「凄いでしょう? 他にも、コンダクターはこの世界の旋律を利用して、様々な器楽曲(インストルメンタル)を作っている」

「あ、あはは……そうなんですかあ」

 

 香織とソーナは顔を見合わせると「ははは」「ふふふ」とお互いに笑い始めた。但し、香織は眼が笑っておらず、ソーナは小刻みに震えながら汗をポタポタ垂らしているという何とも対照的な笑いだったが。

 

「だからこそ、静かな夜の雑音は排除しないとね」

「ひぃーー、ごめんなざぁ~い」

 

 ソーナは速攻で謝った。言葉の数々が不気味であるし、見た目も不気味であるし、何をされるか分かったものでは無い。好奇心の赴くままにあの手この手で覗きをしようとしていたソーナだが、流石に何度もやられるとハジメ達とて対処せねばならない。

 

 なお、ハジメは王都にいた時にも使っていた『精密錬成』『理論最適関数』などの技能を総動員して新兵器の開発に勤しんでいる。転移装置でオルクスの地下やパスカルの村に戻る事もあるが、飯が美味いため、優花が技術を見習おうとしているのもあって宿を利用している。あと、何気に転移装置を動かすのもそれなりにエネルギーを使う為に、迂闊に乱用できないのもある。

 

 香織は下を見る。そして釣られて下を見たソーナは鬼を見た。満面の笑みを浮かべた母親という鬼を。

 

「ひぃっ!!」

 

 ソーナが気がついたことに気がついたのだろう。ゆっくり手を掲げると、おいでおいでをする母親。まるで地獄への誘いだった。

 

「いやぁああーー!!」

 

 今までのお仕置きを思い出して悲鳴を上げるソーナだった。

 

 

 

 

 

 香織はソーナを母親に引渡し、宿の部屋に戻った。香織が乗っていた『折鶴』は分解され、花の形から香織達が良く知る折鶴の形に戻る。そして、その鶴たちは香織の最愛の人の元へと飛んでいった。

 

「お疲れ様です、香織」

 

 振り向いたのは右目がやや隠れる前髪の少し上に蝶の髪飾りを付けた女性……に見える男性だった。夜に生える白く長い髪はシアと同じだが、ウサミミが無い事と前述した髪飾りで判別がつく。

 

「そちらこそお疲れ様、コンダクター。身体は大丈夫?」

 

 香織は身体に触れながらその人物、ハジメを労わる。今では新兵器の開発に精を出しているハジメだが、ライセン大迷宮から帰った後に機体を換装していたのだ。

 

 実を言うと、換装の案自体はルシフェル戦の後から存在はしていた。原因はタブリス戦における、所謂『限界突破』に身体と演算能力が付いていけなかった事である。乖離していく身体と意識が摩擦反応を起こし、ハジメに様々な負荷を与えている事が精密検査で判明したのだ。

 

 例を挙げると、必要以上に増幅された希死念慮である。ハジメにとって希死念慮とは生きるために切っても切り離せない道しるべのような物だ。何故なら死とは生の対極ではなく、生に組み込まれた機能の一部だからである。

 

しかし、ハジメの中で制御できない程の希死念慮に襲われる事が度々存在した。簡単に言ってしまえば、適合しない身体への拒絶反応である。その対象は自己を超えて他者へ、具体的には地上へ旅立つ前のオルクス大迷宮の魔物に向けられた事が有る。

 

「その傷では死ぬまでに数分はかかります。きっと地獄の苦しみでしょう。その業苦から解き放って差し上げます」

 

 そして、ハジメは魔物を射殺した。だが、ハジメの行為はそれでは終わらない。「なんて贅沢なんだ」と憎悪と愉悦を滲ませながら死体を執拗に銃撃していたのだ。その時はその場にいた香織が細剣で銃を撥ね飛ばして止めた。

 

「死体を無駄に撃っちゃ駄目」

 

 そして、これがハジメの機体換装の案のきっかけとなった。以来、ハジメはデボルとポポルに設計を頼んだ後、自分は希死念慮を抑える訓練をしていたりする。シアやミレディをドン引きさせ、自分の頭を銃で撃ち抜くという凶行に及ばせた希死念慮はアレでも抑えられていたのだ。

 

 そして、その事実が判明してからハジメの機体換装は優先的に行われるようになった。戦闘訓練以外はハジメの意識海の安定を図る方法を模索した。とはいえ、いつまでも油を売っているわけにもいかない。

 

 ただスペックを向上させるだけの換装ならまだしも、意識海に直接関わる換装となるとより慎重になって時間がかかる。推し進めるにはデータも不足しており、やや危険ではあるが、半ば見切り発車のような形で地上へ旅立つことに決まった。

 

 そして、ルシフェル戦、ミレディ戦などのデータを経て完成されたのが現在のハジメの機体である。演算能力を引き上げ、それに身体がついて来られるように機体エネルギーの配分や演算能力転送調整パーツの機能が強化されている。

 

 更に、身体の急速な変化に意識海が変異しないように細心を払って換装された。ハジメ自身は身体が変わっていく事に抵抗は無いものの、やはり大小問わず医学的な拒絶反応は起きてしまうのである。

 

 機体の名称は『蝶葬』。意識海の嵐を終息させ、物質世界にハリケーンを呼び起こす機械である。

 

「ええ、身体は大丈夫ですよ。むしろ、以前よりも調子がいい。あ、そうそう、貴女が動いてくれた甲斐あって、『折鶴』が完成しそうです。重力魔法を付与する事で空を飛ぶことは勿論。電磁気力を利用する事で折り紙のように形を変え、周囲の気体や液体に干渉する事も――――」

 

 子供のような目で新兵器の事を語り出すハジメに、香織はその言葉を止めるように口づけをする。全ての音が消える。水音すらしない辺り、本当に言葉を止める事だけが目的のようだ。

 

 ややあって、香織はハジメから唇を離す。

 

「ごめんね。今は、新兵器の話とか、どうでもいいの」

 

 むしろ、今は最も聞きたくない話かもしれない。殺戮兵器の話など。ハジメを狂気へと誘う芸術品の話など。

 

 ハジメはその意図を汲み取って、香織の頭を撫でる。

 

「問題ありませんよ。少なくとも、以前ほどの死への欲動は無い」

「それなら良いのだけれど……もし、自分でも制御できないほどの衝動に見舞われたら、その時は、絶対に止めるから。君の、コンサート・ミストレスとして」

 

 相手が魔物だったとはいえ、見過ごすにはあまりにも凄惨な出来事だった。心理学に関わらない一般人が思い浮かべる反社会的サイコパスの行動として、鳥獣を毇傷するという物が存在する。

 

 魔物を殺すこと自体はトータスでは珍しくも無い。が、魔石や素材を採取するでもなく、銃弾という資源を投げ打ってまで、死体を棄損した。これがサイコパスのように遺伝で決定した、先天性の素質だと言うのなら話は変わって来るが、少なくともハジメの場合はそうではない。

 

 誰の目に見ても、何らかの精神的異常が生じているのは間違いなかった。

 

 だが、ハジメはライセン大迷宮にて「適者生存」を提唱していた。その『異常』が、恒常的になり、正常とすることがトータスへの適応である可能性は捨てきれない。ならば、あの場で止めた事は、今後の立ち回りにおいて、いや、ハジメの意識海において多大なる損失である。

 

 などという机上の空論を、香織は是とするつもりは無い。そのような撥条を刺された機械のような生き方をするには、ハジメは自我が強すぎる。そこまで至れば、あらゆる存在にとって、ハジメは脅威だろう。しかし、その完璧な生には創造の余地は無く、また進化の余地も無い。代行者となれるほどに進化できるハジメにとって、それは自滅である。

 

 よって、これは総てが香織のエゴというわけではない。人生という名の組曲における今楽章の拍子を見誤った、指揮者を正したに過ぎない。

 

「ええ、オーケストラは指揮者がいなくても成立します。しかし、コンサート・ミストレスまでいなくなれば、それは一気に瓦解する」

「邪魔者、とは思わないんだね」

「そこまで心が狭くはありませんよ。赤い糸を固結びにして、首を締め合った仲ではありませんか」

 

 一度殺し合ったくらいでは解けない愛。延命のために枷をつける恋人を、身体が変わっても愛してくれる恋人を捨てるわけがない。ハジメと香織は、相手の首に手を当てて、機械が作り出す偽りの鼓動を感じていた。

 

 

 

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「…………」

 

 冒険者ギルド:ブルック支部の扉が開いたとき、扉の開閉音と来客を告げるベル以外の音が消え失せた。入口に立つのは六人と一匹の人影。滞在中にすっかり有名人となってしまったハジメ一行である。

 

 そして、ギルドの喫茶店で思い思いの時を過ごしていた冒険者達はハジメ達、主にハジメを見て言葉を失う。

 

 ここでハジメの容姿を改めて解説しておこう。機体の換装によって、冒険者たちが良く知るハジメではなくなっているのだ。

 

 まず、長くても肩までだった髪が背中まで伸びている。髪が伸びたにしてもこの短期間でどうやって? という疑問が生まれるが、冒険者たちにとっては完全に女性にしか見えなくなったことの方が重要なのだろう。

 更に、蝶の髪飾りが更に女性らしさを増している。

 

 次に服装だが、こちらは以前と同じ黒のロングコート、と思いきやプリーツ部分に蝶の羽のような白い模様が装飾されている。……なお、ハジメの体格に合わせて作った結果、完全にレディースのデザインとなっている。

 

 因みに、今は出していないが二丁拳銃であるゼロスケールにも蝶のような装飾が施され、片方が白に塗装されている。

 

 因みに、この外見はささやかながらトラブルの抑制につながっている。

 

 というのも、香織達を手に入れる目的で決闘騒ぎを起こす住民が換装前にも何人も存在したのだ。倫理観が中世レベルなだけあって、かのエヴァリスト・ガロアのように恋の相手を巡っての決闘という物は普通に存在するらしい。また、この頃になるとハジメが男であるという事実はそれなりに広まっているのもある。

 

 尤も、恋人を景品扱いされるのは嫌だし、そもそも面倒というのもあって、ハジメは相手の唇に指を当てて〝零度〟で急速冷凍する事で対処していた。

 だが、ハジメが蝶葬機体に換装してからは、決闘という話になる前に「えっ、はっ、えっ……?」と盛大に思考をバグらせてくれるため、諍いが起きなくなった。今後も『女性だけのパーティー』と認識され、この手の諍いは減るだろう。ナンパされる回数は増えるかもしれないが……

 

「おや、今日は全員揃ってるね」

 

  ハジメ達がカウンターに近づくと、いつも通りキャサリンがおり、先に声をかけた。キャサリンの声音に意外さが含まれているのは、この一週間でギルドにやって来たのは大抵、香織と優花の二人か、ハジメ一人だからである。

 

「ええ、明日には街を出るもので。別れの挨拶を、と。部屋も貸していただきましたし。後は、道すがら可能な依頼があれば受けようかと」

 

 ハジメは宿だけでなくギルドでも部屋を借りていた。ゼロスケールや折鶴のような小型の物ならともかく、流石にアストレイアなどの大型武器の実験は宿でやるわけにはいかない。それをキャサリンに話した所、ギルドの部屋を無償で貸してくれたのだ。

 

 因みに、優花と香織はギルドで演奏を披露していた。キャサリン曰く、このおかげで平常時よりも活気があったそうな。無償で部屋を貸してくれたのは九龍の影響以外にもこう言う面もあったのだろう。

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

「いくら数学者だからって決闘を挑まれるのはね……計算勝負ならともかく」

 

 因みに、原典と違いハジメはクリスタベルに情欲の視線は向けられていない。どちらかと言うと心配の視線は向けられていたが。やはり、ハジメが纏う気配はある程度以上の経験を積んだ者からは相当異質に映るらしい。

 

 また、ハジメ達の来訪をきっかけにブルックの町にはいくつか派閥が出来ているらしい。原典と同じような集団もいれば、違うのもいる。

 例を挙げると、『お姉様方と姉妹になり隊』は原典通り存在するのだが、これがハジメを排除しようとする人間もいる問題集団なのである。ナイフを持って突っ込んで来たりした者もいた。だが、それに競うように『ゲーテ(ハジメの偽名)は女性だから問題無い』と主張する派閥が現れしのぎを削っている。機体換装してからは後者が増えたようだ。

 

「悪いけど、私はお姉様とやらになるつもりは無いわ」

 

 特に妹になりたがる少女達が多かったのは優花だった。ジャズを響かせるその姿は、なるほど、少女達の憧れの的になるのだろう。同級生や教師からは敬遠される、女子高生の身の上で纏う荒んだOLのような気だるげな雰囲気も、情熱を加速させる材料にしかならなかったらしい。

 

「前も言ったけど、活気が有ったのは事実さね。アンタはもう少し羽目を外す方法を知った方が良さそうだしね」

「ゲーテさんはもうだいぶ外しているような気が……」

「まあ、ちったあ明るくなれって事さね。で、何処に行くんだい」

「フューレンです」

 

 そんな風に雑談しながらも、仕事はきっちりこなすキャサリン。早速、フューレン関連の依頼がないかを探し始める。

 

 フューレンとは、中立商業都市のことだ。ハジメ達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。なお、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後一人分あるよ……とはいえ、アンタ達全員が受けても文句は言われないだろうが。どうだい? 受けるかい?」

 

 キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認するハジメ。確かに、依頼内容は、商隊の護衛依頼のようだ。中規模な商隊のようで、十五人程の護衛を求めているらしい。

 

「ふむ……どうします?」

 

 荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるため、料金は増えないがハジメ一行全員がついていっても問題は無いとキャサリンは言う。

ハジメは仲間達に意見を求めた。ハジメ達だけなら車を持ち出せばいいため、馬車に合わせる必要は無いと言えば無い。

 

「……急ぐ旅じゃない」

「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

「たまにはラグタイムっていうのも一興じゃない?」

「そうだね。曲にはリタルダンドも必要だよ、コンダクター」

 

 ロックはマイペースに欠伸をし、ミュオソティスは動作で了承の意を伝えた。

 

「との事なので受けましょう」

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

 

 ハジメが依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンが香織達に目を向け、「泣かされたらハジメをぶん殴ってやる」というような激励をし、ハジメにも「泣かすんじゃない」と釘を刺していた。……既にミュオソティスを除くそれぞれと最低一度は殺し合っているのは言わないで置いた。

 

 キャサリンの人情味あふれる言葉に特にシアは嬉しそうだ。この町に来てからというもの自分が亜人族であるということを忘れそうになる。もちろん全員が全員、シアに対して友好的というわけではないが、それでもキャサリンを筆頭にソーナやクリスタベル、ちょっと引いてしまうがファンだという人達はシアを亜人族という点で差別的扱いをしない。土地柄かそれともそう言う人達が自然と流れ着く町なのか、それはわからないが、いずれにしろシアにとっては故郷の樹海に近いくらい温かい場所であった。

 

 そんなハジメ達に、キャサリンは一通の手紙を差し出す。

 

「あんた達、色々厄介なものに取り巻かれてるからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

 キャサリンが何者なのか不明だが、手紙一つでギルドの上層部を動かせるらしい。

 

「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」

「そうですか……ではありがたく頂いておきましょう。蝶が嵐を起こせば、鳩が収めてくれると信じて」

「よく分からんが、素直でよろしい! 死ぬんじゃないよ! 特に蝶の坊や」

 

 更に、ハジメは正式にパーティー名を登録しておくことにした。〝楽団死期〟などという不穏な名前が囁かれているようなので、たとえ事実だとしても名前は変えておかなければならない。世間を渡るには多少の嘘は必要だ。

 

 ハジメ達は自らを〝灰鴉〟と名乗った。白でも黒でもない世界に、鴉たちは飛び立つ。

 




 或る意味タイトル回収の回でした。クロス先の。そして、ハジメの意識海を安定させるために機体を換装したら女に磨きがかかりました(?)。念の為言っておきますが、ハジメは男です。

備忘録

希死念慮:衝撃なのは、今までの言動で『抑えられていた結果』という事である。

折鶴:ありふれ原作で言うクロスビットに対応。オールレンジ兵器だが、折り紙のように形を変え、組み合わせることも出来る。ハジメが数学者である故に生まれた兵器。元ネタはパニグレの惑砂の武器である、〝処刑椅子:折鶴〟。

蝶葬:ハジメの新たな機体。既に名前から察している方もいるかもしれないが、元ネタはLobotomy Corporationに登場する幻想体(アブノーマリティ)『死んだ蝶の葬儀』、の力を纏ったアンジェラ。何の事か分からない人は『死んだ蝶の葬儀、アンジェラ』で検索してみてほしい。だいたいそんな姿である。

灰鴉:クロス先であるパニグレの正式名称『パニシング:グレイレイヴン』と、作中に登場する軍の執行部隊〝灰鴉小隊〟より。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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