人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 えー、今回は愛子先生とリリアーナのファンに怒られそうです。そして、ありふれ二次でたまに見る『人として~』みたいな言説にトータス人の視点から解釈してみた展開も入っています。


翅無キ身ノ悲シキ哉ー乙

「えー、つまり、畑山教諭の主張を纏めると、我々は同じクラスなのだから一緒に行動する義務があり、我々は彼らの元に戻るべきであると……」

「「なるほど。つまり死は救済ってことね」」

「僕が言うのもアレですけど、とりあえず彼らを避ける方向で考えましょうね? 死なずに済む方法を」

「今世紀最大の〝おまいう〟だけど同意するよ。コンダクター」

 

 ハジメが現状を分析すると、雫と優花は死んだ目でいつものハジメのような事を口走り、ハジメがツッコみに回るという珍事が起きていた。

 

 そして、ハジメが出した結論は、

 

「えー、歯に衣着せず言葉を選ばずに言うと……〝邪魔〟という事になるのでしょうね。彼女は」

「邪魔……ですか」

「ええ。力は無くとも目障りで、出来る事なら消してしまいたい」

 

 シアはハジメのその声色に少し怯える。ロックの時と同じように、ハジメは冷酷に他者を選別した。『代行者』。昇格者を選別する上位存在。神殿騎士の侮蔑など足元にも及ばない在り方。

 

「とはいえ、排除するには理由が足りず、デメリットも大きい。かといって此方に取り込むことも困難……」

 

 仮にも重要人物である愛子。現時点で排除するにはリスクが大きい。かといって天人五衰に勧誘するにしても、あの精神性では三日と持たないだろう。それに、愛子を取り込んで実質的に無力化しようにも、護衛隊だけでなく前線に立つクラスメイトや引きこもっているクラスメイト、王国や教会など障害が大きい。王国だけであればリリアーナの強権発動で何とかなるかもしれないが、他は望み薄だ。

 

「だとすれば、もはや興味を失わせる以外にないだろう」

「それが出来たら苦労しないんだよなあ。なぐを」

「他者への没頭は、それが支援にせよ妨害にせよ、愛情にせよ憎悪にせよ、つまるところ、自分から逃げる為の手段である」

「ホッファーの言葉ですか」

「自分の精神状態を維持できない、クラスメイトの安寧も図れない……そうなるとクラスメイトかつ異分子である私達に興味を向けざるを得ない。教室という秩序を復活させるには強力過ぎるカードだもの。逃すはずが無いわ」

「何やら皆様、苦労されているようですね~」

 

 ハジメ達が今後の計画を話し合っていると、突如として空間から現れた人物がいた。

 

「リリアーナ殿下……」

「え!? リリィなの!?」

「一応お忍びなので本名は言わないでくださいな。ここはリリスと呼んでください」

 

 それはカジノのディーラーのような服装にトランプのあしらわれたシルクハット、ブレードとなっている脚部に洒落た日傘。代行者としてのリリアーナであった。

 

「こんな所にいらっしゃったとは」

「ええ、雫が苦難に立ち会ったとお聞きしまして、友人として一助になれればと……」

「詐欺師の顔ですぅ……出会った時のハジメさんと同じ顔してますぅ」

「あそこまで酷くないでしょう。僕は」

『紅……私、怖いわ』

 

 もはやギャンブラー気質を隠す気も無いリリアーナに、シアや雫が怯えている。それを庇うように、紅がリリアーナに質問を投げかけた。

 

「貴方は信用できるのかしら」

「信用はしない方が良いですねえ。私だけでなく、誰の言葉も。とはいえ、一応南雲さんと同じ陣営に属す者です。存分に利用してくださいな」

 

 彼女にとって利用は信頼だ。その範囲にはリリアーナ自身も含まれている。仲間や友人の定義を思いっきり履き違えている王女に、全員が諦観の表情を浮かべる。

 

「それに何やら、天人五衰にとっての不安分子が現れたとか。でしたら、幹部たる私が動くのも不自然ではないでしょう? 私は知っているのです。彼女を排除せずに、無力化する方法を」

 

 胡散臭さ全開の表情でそう宣うリリアーナ、改めリリス。右眼の下に入れられたハートのタトゥーが怪しく自己主張をしている。とにもかくにも、話が進むというなら是非もない。ハジメ達は彼女に従うことにした。

 

 

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 夜中。深夜を周り、一日の活動とその後の予想外の展開に精神的にも肉体的にも疲れ果て、誰もが眠りついた頃、しかし、愛子は未だ寝付けずにいた。愛子の部屋は一人部屋で、それほど大きくはない。木製の猫脚ベッドとテーブルセット、それに小さな暖炉があり、その前には革張りのソファーが置かれている。冬場には、きっと揺らめく炎が部屋を照らし、視覚的にも体感的にも宿泊客を暖めてくれるのだろう。

 

 愛子は、今日の出来事に思いを馳せ、ソファーに深く身を預けながら火の入っていない暖炉を何となしに見つめる。愛子の頭の中は整理されていない本棚のように、あらゆる情報が無秩序に並んでいた。

 

 考えねばならないこと、考えたいこと、これからのこと、ぐるぐると回る頭は一向に建設的な意見を出してはくれない。

 教え子が生きていたと知った時の嬉しさは確かであるものの、あの冷酷な態度に眉を八の字にする。愛子にはハジメが明日無き逃避行をしているようにしか思えなかった。そして、奈落に落ちる前に見た時から変わり果てたハジメの姿もまた、愛子に動揺を与えた。何があったのか、何をするつもりなのか、聞き出さねばならないと思い直す。

 

 叶うならば、ハジメという生徒に自分を教師として自分を頼って欲しいとも思っていた。

 

 と、そこへ、部屋に来客が現れる。

 

「先生! 宮崎です! 襲撃が起きたみたいで……無事ですか!」

 

 生徒の声に、愛子は迷わずにドアを開ける。目の前には見知った生徒の姿があった。愛子はそれに安心を覚えながら状況確認をしつつ、彼女を部屋に入れて、落ち着かせようとする。

 

「私は平気です。宮崎さん、襲撃って……負傷者は……」

「いませんよ。強いて言うなら……」

 

 そこで、宮崎奈々の様子がおかしい事に愛子は気付いた。

 

「貴女が被害者でしょうか」

 

 目の前の生徒の怪しい笑みと、敷き詰められたトランプが裏返るように部屋の様子が変わっていく状況に、愛子はひどく動揺した。目の前の超常現象に目を白黒させる愛子に、生徒の姿をした何かは愉快に話しかける。

 

「ふふふ、あはははは! さて、それでは問題です。私は誰でしょーーーうか?」

 

 宮崎奈々の姿がハート、ダイヤ、クラブ、スペードと敷き詰められたステンドグラスのように揺らぐ。現れたのは、道化師のような服装の少女だった。抑えきれない狂気と愉悦の表情……だが、彼女の双眸は何も、愛子も映していない。

 

「あ、貴女は誰ですか!? 生徒の皆さんは!? 宮崎さんは!?」

「質問しているのはこちらです。でもまあ、事前情報なしというのはゲームの公平性を欠きますね。因みに貴女の大事な生徒達は無事ですよ。髪の毛一本、傷つけてません。ミヤザキさんも、今は旧友と話している頃でしょう。万一にも疑われることの無いように、アリバイが存在する人物に変装しました。私って優しいですね」

 

 声だけは楽しそうに話す少女に、愛子は二の句が次げなかった。相手の正体も、目的も分からない。ただ一つ、自分は絶対に相手には敵わない事だけが分かった。

 

「さて、私の正体に気付くヒントを与えましょう。貴女が此処に来る前に話した離反者達。私はその一隅です」

「一隅……彼らは組織として動いているということですか」

 

 シアに対する部下という発言に合点がいく愛子。彼女はハジメが率いる部隊の一員なのだろう。

 

「勘違いしてほしくはありませんが、私は金目的でも、ましてや貴方達の殲滅が目的でもありません。この段階で捨てるには惜しいカードですからね」

 

 躊躇いも無く、人をカードと呼び、殲滅をちらつかせる少女。会話の最中、彼女は手でトランプをドリブルしている。むせ返るほどの少女趣味が散りばめられた部屋が、今は不気味に見えて仕方が無い。

 

「我々が求めているのは、沈黙と無関心だけです。今後、南雲ハジメとその一団に関わろうとする行為はお勧めできませんね」

 

 その言葉に、愛子は反射的に反発する。謎の異空間に閉じ込められている事や、正体不明の相手に謎の問答を強いられていることなど頭から抜けていた。

 

「そんな……! 生徒に何が起きたか知る事も許されないんですか!?」

「世の中には知るべきでない事も多いという事です。しかし! 今夜、私達『代行者』の権限によって特別に! 一部の情報を開示する事が叶いました! この情報を貴女がどうしようと、我々が咎める事はありません。正に大出血サービス! 教会に通達するも、市民に言いふらすも思いのまま! 種と仕掛けだらけの暴露大会、どうぞお楽しみくださいな! あ、因みに、私が遊んでいたダイスの目は幾つでしょう?」

 

 愛子は終始楽しそうに語る少女に言いようのない恐怖を感じていた。なお、少女の方は踊りながらダイスでジャグリングをしていたようで、愛子はようやくそれに気付いて唖然とした。

 

「因みに、六つ全部6ですねー。駄目ですよぉ、相手から目を離しちゃ」

(もう訳が分からない……)

 

 愛子は見ている物が真実なのか虚構なのか分からなくなっていった。しかし、少女の演説は続く。

 

「そして、今回、貴女が最も会いたがっている人物も連れてきました。はい、助手ー、拍手と共にご登場をー」

「本当に良い趣味してますね……貴方」

 

 突如、壁の一部が再度裏返り、ハジメがやる気のない拍手をしながら登場した。ハジメは主催者の少女、リリアーナ改めリリスに呆れたような目を向けるが、ライセン大迷宮での所業を聞いたら、誰でもリリスとハジメが同類としか思えないだろう。

 

「な、南雲君……? 先生達のことはどうでもよかったんじゃ……」

「一応言っておきますが、戻る気はありませんよ? ただ、放置しておいても厄介な事になりそうですからね……」

 

 生徒のはずなのに、相手に攻撃の意志は無いはずなのに、愛子は目の前の二人が怖くてたまらない。ハジメは実像なのか、それともリリスが作り出した虚像なのか、判断がつかない。

 

「秘密は甘いものです。義侠心に駆られて暴くそれは特に。故に、我々は貴女に恐怖を与える事にしました。愚かな好奇を、忘れるような」

「愚かな……好奇……? 先生は……先生は、貴方達がただ心配で……!」

「たとえ一騎当千の機械人形(オートマタ)であっても、我々の行動を妨害した者は救済されました。このままでは畑山教諭にも、大いなる沈黙を与えなければなりません」

「…………」

 

 救済、大いなる沈黙、これらの言葉の意味が分からない程に愛子は愚かでは無かった。そして、生徒を残して死ぬわけにはいかない彼女は、二人の要求を呑むしかない。

 

「そして、突然ですが先程の問題の答えを発表します!」

 

 ハジメに続き、リリスがハイテンションで話し始める。突然の大声に驚く愛子。どこから取り出したのか、日傘でバトントワリングのような事をしながら、空いた手で帽子を押さえポーズを決めている。

 

「我々の正体は叛神結社〝天人五衰〟! 昇格ネットワークに連なる葬送の機械にして、天人の世の終焉を告げる五指」

 

 この世界で神と言えばエヒトの事を指す。それに歯向かうという事。そして話されるこの世界と神の真実。

 

「なんか神様って言っても、行動原理は人間的ですよね。この盤面を維持しようと思える執念は評価したいです。私なんてこのお部屋で可愛いリリムと遊ぶだけで手いっぱいですもの」

 

 リリスが目を向けた先には、ギョロギョロと人間には出来ない瞳の動かし方をする頭が少しだけ覗いている。不思議の国のアリス症候群を発症しそうな部屋だが、輪をかけて訳の分からない存在が住み着いているらしい。

 

「な、南雲君は、もしかして、その〝狂った神〟をどうにかしようと……旅を?」

「まあ、そうなりますかね。ついでに言えば組織として動いている以上、目的の為に生じる犠牲は許容せねばなりません」

 

 ハジメが孤独ではないという事は分かったが、平然と他者を犠牲にする旨の発言は教師として許容できない。もっとも、自分もこの世界の事情より生徒達を優先しているので、人のことは言えず。

 

「さて、これで種明かしはおしまいです!」

「僕達は僕達で目的がありますので。先生の熱意は認めますが、やはりこの件には首を突っ込まない方がよろしいかと。一人の大人として賢明な判断をお願いします」

 

 だが、愛子は納得しない。「何が不満なんだ」という不可解な顔をするリリスを差し置いて、愛子が話す。

 

「南雲君、これだけの情報では先生は安心できません。むしろ、反社会勢力に取り込まれたとしか思えないんです」

「まあ間違ってはおりませんが……」

「リリス、ここは僕にお任せを。正直、反社会勢力も仲良し社会勢力も関係ありませんよ。そちらに属するよりも天人五衰に身を置いた方が有利だと判断したまでです」

 

 それでも何かを言い募ろうとする愛子に、ハジメは根本的な問いを投げかける。

 

「貴女が我々に行おうとしているのは……〝庇護〟ですか? それとも、〝支配〟ですか?」

 

 確かに組織の制約もあって情報をあまり開示できないとはいえ、愛子の〝生徒〟への執着は異常であるかのようにハジメには思えた。

もはやハジメ達がクラスメイトの元へ戻る事は双方にデメリットしか生み出さない。これまでの話でそれが嫌という程分かったはずなのに何故。

 ハジメが導き出した結論は、愛子が無意識に自分達を〝支配〟しようとしているのではないかという物だ。相手に『こうあるべき』という理想を押し付ける事は、ある種の支配と言える。

 

 愛子にとって、ハジメを含む生徒達は明るい進路に向けて生きる者であり、そうでないならば更正しなければならない。そしてそれは生徒達のためである。

 

 一見おかしなことを言っているようには思えない。むしろ、教師としては模範的だ。否、模範的に過ぎると言うべきか。しかし、それも行き過ぎれば他人の人生を縛る事になってしまう。

 

 愛子の行動の裏に有るのは、明るい未来への導きか、それとも他人を型に嵌める支配か。

 

 ハジメは思考の渦に捕らわれた愛子を一瞥し、リリスに言ってここを離れることにした。

 

「今一度、賢明な判断をお願いします」

 

 そう言って異空間は解除され、ハジメとリリスは空間の一点に吸い込まれるように消えていった。

 

 

 

 

 

 愛子との問答が終わった後、ハジメとリリスは話し合っていた。リリスにとって、愛子の言動は不可解であるという。

 

「何故あそこまで生徒という存在に執着できるのでしょう? 生徒のためという割には望んで巣立った者を引き留めようとする。何がしたいんでしょう?」

「正にその質問を僕もしたわけですが、推し量るに、人間は自分の視野の限界を世界の視野の限界だと思っている……という事でしょうね」

 

 ショーペンハウアーの思想を引用して暫定的な解を導き出すハジメ。しかし、リリスの疑問は終わらない。

 

「いやぁ、正直、南雲さんの世界の住人って不思議なんですよねぇ。天上の戯曲と錯覚するような言説がまかり通っている割には人が死んでも何とも思わなかったり、自立を妨害したりするじゃないですか。生きるために行動を促したかと思えば、生きるために他者を排除する事を否定したりする。〝信念〟や〝人間性〟というお題目まで持ち出して。なんか……何でしょう? お人形さんでも育てたいのでしょうか? 我々トータスの人間からするとあまりにも非人間的なんですよ」

 

 リリスもトータスの中ではかなり異質な人間ではあるが、確かに、トータスの人間から見れば地球人は不合理で非人間的に見えるのかもしれない。

 実際、ハジメにとっても『死や終焉を否定する』現代の文化は不自然であり不健康であり歪んでいると言わざるを得ない。愛子のような『自立恐怖症(無論公式の病名ではない)』はその現代文化が生み出した茫洋たる病の一症状に過ぎないのか。

 

 いずれにせよ、ハジメの考える事では無い。今は宮崎や菅原と話している優花も含め、ハジメ達は教室という名の場所から巣立ったのだから。

 




 今回のリリアーナ、元ネタが芋づる式にバレそう。空間接続、口調、少女趣味の異空間……因みに、これはバレるだろってワードが一つあるんですが、それはまだ言わないでおきます。まあ、途中の16進数を解読すれば分かるかもしれませんが。因みにリリアーナのヤバい所は、今回は悪意とか殆ど無く(有っても力を見せつける牽制程度)て、純粋に楽しませようとしてこうなった所(善意のサイコパス)。
 あと、〝リリム〟の元ネタももしかしたら分かるかも(ギョロギョロという擬音がヒント)。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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