人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 久しぶりにブルーバード聞きました。良い曲ですね。キラキラしたメロディながら哀愁も感じるというか。


蒼キ空ヘト名残鳥

 ハジメ達や愛子が泊まる〝水妖精の宿〟の食事処で、一人の少女が酒を飲んでいる。いや、纏う気配と色気からして大人の女性、それも疲れ切ったOLのそれなのだが。その人物は、来客の訪れを察知すると、グラスを置いてそちらへと目を向ける。

 

「来たわね、奈々、妙子」

 

 それは優花の親友である宮崎奈々と菅原妙子であった。事前に手紙で呼び出し、改めて別れを告げる為に、優花は一人で飲んでいた。一応、再度明記しておくが、17歳における飲酒はトータスでは合法である。

 因みに、この場所を選んだ理由は無い。強いて言うなら酒を飲まずにやってられる自信がなかったからだろうか。

 

「優花っち……本当に……生きてた」

「良かった……良かったよぉ」

 

 優花の前で親友二人は泣き崩れてしまった。最大戦力を追い出してまで嘆いていた親友の死が覆ったのだから、当然ではあるが。優花は暫く好きなようにさせることにした。

 

 そして、二人が泣き終わった後に改めて用件を伝えることにした。

 

「私の生還を喜んでくれることは嬉しいわ。でも、私は貴方達の元に戻る事は出来ない」

 

 その言葉に奈々と妙子は暗い顔をする。理由は分かっている。自分達が清水達を感情に任せて追い出したからだ。強い者は排斥されると、他ならぬ自分達が行動で示してしまった。だが、護衛隊達が清水やカイネと共存する事は不可能なのだろう。

 

 死生観も生き方も違う。強者と弱者……純粋に生きる世界が違うのだ。深海魚が浅瀬に行ったら衰弱するように、生存域が相容れない人間。

 

「少なくとも、私の心情は完全に清水寄りね。死への向き合い方なんて人それぞれだわ。滂沱の如く涙を流す人間もいれば、私のように荒れる人間もいる。清水やカイネさんのように粛々と生きる事で向き合う人間だっている。それに善も悪も、冷酷も残酷も無いわ」

「…………」

「自分が持ってる感覚を他人も当然持ってるって考え方はやめた方が良いわね」

「それは……分かってるけど……でも……」

 

 それはこの場にいない愛子にも言いたい優花だった。あの教師は自分が共感できない話題になると極端に役に立たなくなる。おそらく論理ではなく感情で考えているからなのだろうが。

 

「若者の会話は『共感』ばかりで疲れる」

 

 というセリフが登場したのは何の作品だったろうか。優花やハジメは大いに頷きたいものだった。論理を置き去りにして感情だけで話が進む場は、苦手だ。愛子は生徒の味方であることが信条らしいが、どちらかと言えば精神年齢が女子高生と大差無いだけでは? と優花は思っていた。だからこそ、生徒の味方でいようと思えるのかもしれないが。

 

「私の態度が冷たいと感じたなら、やっぱり私は戻るべきでは無いわね。きっと、貴方達が優しさや感情と定義する物は、一生理解できないでしょうし」

「そんな……優花っちは虚しくないの!?」

「ハジメの時は明確に檜山が殺したって知ってるから怒りがそっちに行くけど、飛び立った私の時みたいなケースだったら、葬送のジャズを奏でて、それを死者への鎮魂とするわ。少なくとも、ハジメが病気で死んでいたらそうするつもりだった」

 

 転移前、ハジメの病死が確定していた時に弾くと決めていた曲は幾つかある。香織と二人で、セットリストを話し合っていたものだ。優花は彼をイメージした料理を作り、鎮魂のジャズを奏でて死と向き合うのだろう。

 

 一方、奈々と妙子は信じられないものを見たかのような、理解できない存在に遭遇したかのような顔をしている。離れていった友人達から言われた言葉を思い出す優花。

 

「こんな時でも、君は顔色を変えないんだね。やっぱり、君には友情も感傷も分からないのか」

 

 まあ、その人物が定義する友情や協調は分からないのは確かだ。単純に友情やら協調やらで優花が出力する行動や感情が違うだけなのだが。あまりにも違い過ぎると、他人には鉄面皮や冷徹な女に見えるらしい。

 ハジメの前での反応など、我ながら分かりやすいと思うのだが。

 

「今更虚しくなんてないわね……少なくとも周りの人間とは相容れなかった。それは間違いないもの。ビジネス以外で失敗した人間関係を続ける意味って……ある?」

 

 地球には70億人の人間がおり、トータスにも幾百万、幾千万の人間がいる。その中で失敗した人間関係を続ける意味が、優花には分からない。そういう意味では、優花は集団に混じるのに何処までも向かない人間なのだろう。特に、ビジネスが絡まない学生の友人関係というものは。

 

「そっ……か……ごめん、優花っち……私……優花っちのこと理解できない……」

「私も……理屈は分かるけど……そこまで割り切れないよ……」

 

 優花はそれに対して、黙って酒を飲むだけだった。話こそ聞いているが、否定も肯定もしない。そしてややあって、優花は口を開いた。

 

「私は、自由でいたいのよ、きっと。嫌われても、友達を失っても、飛ばずにはいられない。そういう鳥なの。空の蒼さを、雲の白さを知ってしまったら……もう鳥籠には戻れない」

 

 無責任と言うなら言えばいい。だが、蒼い蒼いあの空を、自らの翼で、そして大空を吹く風に乗って飛ぶ感覚を知ってしまった鳥は、二度と巣には戻れない。優花はそう確信していた。

 

 

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 夜明け。

 

「…………」

 

 朝靄が立ち込める中、ハジメ達はウルの町の北門に向かう。そこから北の山脈地帯に続く街道が伸びているのだ。馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう。因みにリリスは他にも用事があり、別で動いている。

 

 そんな具合に生きようようと行方不明者の捜索に行こうとしている、ハジメ達の前に立ちはだかる複数の人影。その正体に気が付いた雫と優花は急速に眼が死に、ハジメとは作戦失敗を悟り名状しがたい表情で首を傾げた。

 

「あは、あは、あは、まあ……まずは話を聞きましょうか。何ヲシニ来タ」

「コンダクター? 落ち着こう? ダガーみたいな顔になってるから」

 

 ハジメが漫画家と共作していそうな殺人鬼も斯くやという仕草で問いかける相手は愛子と護衛隊達。一瞬、気圧されたようにビクッとする愛子だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。

 見れば、奈々と妙子は此方に謝り倒している。一応理屈としては優花の言に納得していた二人。愛子を止めようとしたが振り切られてしまったという事か。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「とりあえず大脳いじくりまわされるか遭難で厄介払いされるか好きな方を選んでください」

「ハジメが壊れた……」

「普段のハジメさんの理性ってだいぶ頑張ってたんですね……」

 

 香織がとんでも無い事を口走るハジメを宥めている間、優花が代表して愛子に答える。

 

「却下です。単純に足の速さが違いますし、第一、これ以上関わったら命の危険が及ぶと警告されたんですよね? どういう神経してたらその行動が取れるんですか?」

 

 表面上は理性的に会話を試みる優花だが、背後では戦輪が回転している。もはや決裂した場合は実力行使に及ぶしかないと悟っているのだろう。

 

「皆さん、先生は先生として、どうしても皆さんからもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君にとって、それは面倒なことではないですか? 移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか? そうすれば、皆さんの言う通り、この町でお別れできますよ……一先ずは」

 

 これ以上何を聞こうというのか、ハジメ達には本気で理解できなかった。昨夜散々、ハジメの独断ではなく組織の都合上説明できないと言ったにも関わらず、この体たらくである。

 

「先生の中には生徒が自分の足で立つという発想は無いんですか?」

「え……」

「私達は巣立ちました。教室という名の鳥籠から。今はこの世界で生きていくために様々な存在に頼りながら活動しています。教師というのは生徒の自立を支援する存在であり、間違っても妨害する存在では無いという認識でしたが」

 

 優花の言葉に愛子は一瞬、痛い所をつかれたように顔を歪める。しかし、それでも意見を曲げる事は無かった。

 

「確かに、生徒が自立するならそれは喜ぶべき事です。でも、皆さんが先生にすら話せないような活動をしていると知ったら、それは容認できません」

 

 教師にだって守秘義務はあるだろうに、何を言っているんだコイツは、とハジメ、香織、優花、雫(紅)の全員が思った。

 

 色々と言葉を尽くしてはいるが、結局、小さな愛子にとっては空はあまりに広く、恐ろしいものなのだ。だから飛び立つという発想が理解できない。飛んだうえで突き抜けるという行為など、もはや狂気である。小さな籠の中でずっと、囀っていることを疑わない。

 

 籠に入れられた鳥は、野生の厳しさを知らずに長く生きる事が出来るかもしれない。だが一方で、飛ぶことも出来ずに人に閉じ込められた鳥は精神的負荷により弱り、病に侵され早死にする事もある。

 

 鳥と人の生活環境は違う。人にとっては適切な温度でも、鳥にとっては猛暑かもしれない。或いは極寒かもしれない。人にとって最適な光量は鳥にとっては眩しすぎるのかもしれない。

 

 そして、ハジメや香織、雫や優花は檻を開き飛び立った。四人にとって、檻はただの拷問器具だ。クラスメイト達は、教室は、昇格者達の美しさを損なうだけの出来の悪い牢屋だ。

 

 だが、そのような理屈を懇切丁寧に説明した所で愛子は理解しない。彼女は何処までも善意と感情で動く人間だ。というか、優花と雫が壊れ行く実例を目の前にしてこれなのだからもはや何を言っても納得はしないだろう。

 

 いっそ、教会やらから追われる事を覚悟で強行突破するか? という考えになるハジメ。確かに面倒だが、逆を言えばそれだけだ。逃げ切る自信はある。何より、ハジメ達には教会に属するドライツェントや、それ以上の規模を誇る九龍やアトランティスが存在する。現在教会が放置されているのは、確実を期すために後回しにされているに過ぎない。それに、九龍やアトランティスの協力が得られずとも、最悪ハジメ達の外見自体を変えてしまえばいい。

 

 と、ハジメが色々と考えていると、香織がハジメの袖を引っ張る。

 

『コンダクター、ちょっと私に考えが有るんだ。否応なしに先生に目を背けさせる方法。運便りだけど、北の山脈地帯では絶対に何かしらのインシデントが起きる。それを見せれば……』

 

 そう言って、昇格者全員に情報を共有する香織。それは、自分達が経験している戦闘を敢えて見せ、愛子達の手に負えるものでは無いと納得させるという物。確かに、実際にその目で見せれば認識も変わるかもしれない。

ただ、危険度は否応なしに上昇するだろう。それだけ危険な出来事であれば、愛子を守るのも容易ではない。しかし、百聞は一見に如かず。やる価値は有るかもしれない。

 

まあ、ウィル・クデタの二の舞になるかもしれないが、それならそれでいいや、みたいな思考が既にハジメ達に漂っている。

 

 そして、ハジメ達は愛子と護衛隊の同行を許した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、愛子達はそれを見る事になる。

 

 巨大な蜥蜴のような魔物と相対している一行。その魔物の攻撃から愛子達を庇った香織が身体を歪に屈折させて愛子達の前に投げ出される。彼女の顔には死者にしか存在しない特徴がありありと浮かんでいた。

 

 だが、地獄はこれで終わりではない。香織の右眼から生える白い花。偽装が剥がれて初めて愛子達の目に触れる『花』。そこから鮮血が噴き出す。そして、そのまま血に塗れた香織が這い出してきた。

 




 実は、ウル編を書くに当たって、『籠から、巣から飛び立つ鳥』という構図は確定していました。空は広すぎると脚を掴んで引きずりおろそうとする愛子+護衛隊、翼で飛翔し風に乗って飛び立つハジメ達。風というのは天人五衰を指します。
 私が愛子先生に対して何が疑問って、教師として動いていると言いながら、教師として最もやってはいけない事をやっている点です。ああ、一応言っておくと生徒との恋愛の事じゃ無いですよ? 恋愛関係になろうが最終的に一人の人間として自立すりゃいいんですけどね。生徒の自立を妨害するのは地球でも駄目よ。

>大空を吹く風に乗って

 優花は別に自分一人で何でもできると思い上がってるわけではない。風を利用する事も知っている。

>目から誕生Season-2

 この辺は次回詳しく書きます。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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