手で小突き
足で嬲り
口で貶してみた
無色透明の水銀は、なおも数多の命を喰らいつくす
私が私となってから、どれほどの月日が流れただろう。
名前は
そして、私を苦しめる三つの記憶。
一つは、いわゆる世間一般でいう前世と呼ばれる記憶だ。
少々早すぎる死は、かつての人々を悲しませたと思う。
二つ目は、この世界における新たな人生の記憶。
この見滝原という特殊な事情で見知った都市での、新生活。
変わらない。暖かい人もいれば、冷たい人もいる。
どこもかしこも混沌。誰もがそうだ。
世間とは、まさしくそのような人たちが積極的、あるいは消極的に。
まあ、手を取り合って構成されていくのだ。
その手の繋ぎあいで私は今日まで新生活を満喫してきた。
一歳年上の姉のようなまどかとさやかにずいぶんと可愛がられてきたものだ。
されども、その裏で私を内面から苦しめてきたのが第三の記憶。
第三の記憶は、実のところ二種類あるのだ。
一方は白色テロによる政府の暴虐と粛清の嵐が吹き荒れた時代の学生の記憶。
その記憶の中で私は男子学生だったり女学生だったりした。
そして、女学生である時の記憶は最終的に壇上の死を持って罪が贖われる。
もう一方は、病的に対する誤解と偏見と、新興宗教とが跋扈した時代の記憶。
私は三人家族の父親で、もはや時代遅れの脚本家であった。
そして、それぞれの献身は私たちを破滅に追い込んだ。
最後の記憶は、はっきりとしない。されども、声は今でも響く。
「誠意をもって願えば、願いは必ず叶う」
優しく甘く、されども破滅を誘う予感の声が。
13歳。それが私の新人生における今の年齢。
青春を再び迎え、されど私の心は踊らず。
赤い血のような夕日に染まった帰り道、私はとある公園に近づいた。
すると、急にぱらぱらと小雨が降ってきた。傘をさすほどでもない。
一人の少女が砂場で遊んでいた。
黄色いリボンに、黄色いスカートといった出で立ち。
ふと、懐かしい感覚に襲われる。
私は彼女の向かい側に座り、それを眺めていた。
彼女はぽつりぽつりと語り始めた。
「ママがずっと帰ってこないの。会いたいよ」
ああ、この子の家庭環境はあまりよろしくないみたいだ。
「泣かないようにしてるけど、どんどん胸が苦しくなるの」
なぜだろうか、私は少女とは無関係のはずだ。
それなのに、どうしてか彼女の気持ちを思うだけで私も悲しくなる。
まるで、何かの罪を感じているかのように。
「また息ができなくなっちゃったの。
でも、パパはお医者さんに連れて行ってくれない。
ホー先生のところに行けば治るってばっかりで」
私もいつの間にか少女と一緒に砂の山を積み上げていた。
「でもね、私が病気の治し方知ってるのを、パパは絶対知らないんだ」
すると、彼女は黄色い折り紙のチューリップを取り出した。
「お話の中みたいにいっぱいチューリップを折れば、私の病気は治るはずなんだ」
そして、彼女は微笑んでそれを私に差し出した。
「お兄ちゃんにもあげるね!
苦しかったら、チューリップを折れば笑顔になれるから!」
私はふいに彼女と語り合いたくなった。
宇宙や大空を、砂浜やその辺の石ころのことを。
でも、彼女はまるで最初からそこにいなかったかのように消えてしまった。
その場に残されたのは、私と、砂山と、黄色く輝くチューリップの折り紙だけ。
次の瞬間、手と目と舌に激痛が走り、私の意識は消えた。