いつの間にかギンガ団幹部『ヴィーナス』にされた男の話   作:Mamama

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「―――君は世界の始まりを知っているか?」

 

 コイツ、ヤベー奴だ。アカギとのファーストコンタクトはあまりにも衝撃過ぎて、俺はきっとこの出来事を忘れることが出来ないだろうという確信があった。

 

アカギとの出会いの場所はナギサシティのポケモンスクールだった。

殆ど誰とも話すことなく只管学問に取り組み、休憩時間には機械イジリをしているアカギは結構な有名人だった。社交性をどこかへぶん投げた頑なな態度で、そのくせ学問では常にトップで首位の成績を他の誰にも譲ることがなかったこと。理由としてはそんなところだろうか。

お蔭で俺は万年二位の座に甘んじてしまうのだが、だからといってアカギが俺にとって目の上のたん瘤だったかというと意外とそうでもない。

正直言ってアカギが天才過ぎて嫉妬する気分ですらなかった。元々トップに固執するような生真面目な性格でもないし。

 

ただ、気になる存在ではあったのだ。

親しいポケモンを亡くしたのだとか、親の期待に応えるのが辛くてどうにかなってしまっただとか、そんな噂は結構流れてきていたのだが、噂は噂だ。

だから当時の俺はちょっと勇気を振り絞ってラジオを解体しているアカギに話しかけたのだ。

最初、アカギは俺を無視した。大抵のヤツはそこでアカギに対する関心を失くしてしまうのだが、子供の頃の俺はその態度が気に食わなく、何度も何度もアタックした。

そして、ようやっと口を開いたかと思えばアカギの口から飛び出してきたのはそんな電波な言葉だった。

 

「……どうなんだろな、そもそも世界に始まりなんてあったのか?」

「……」

 

 アカギは俺に続きを促すように見つめた。無感情な瞳に晒されて内心俺はビビっていた。

 

「前に哲学の本で見たんだけどさ。今から五分前に世界が出来たって言われてもそれは違うって証明は出来ないらしいぜ? もしかしたらこの世界は今この瞬間に出来たのかもしれない」

 

 うろ覚えだ。自分でも何を言っているのか分からなくなってくるが、口を閉じてしまうとその場の空気に耐えられなくなってしまいそうだったから、俺は必死だった。

 

「……俺には昨日の記憶もある。それはどう説明する気だ?」

「そりゃお前の主観だろ? カミサマがお前に嘘の記憶を植え付けたのかもよ?」

「荒唐無稽だな」

 

 アカギは詰まらなそうに吐き捨てる。言っておいてなんだけど俺も同感だ。

俺は話を逸らすことにした。

 

「まぁ、でも証明は出来ないだろ?」

「……それは。確かにそうだ。証明は、出来ない」

「まぁ、そういう意見もあるって話だ。世界の始まりって色々議論されてるだろ。正解を知ってるのはそれこそこの世界を作ったカミサマしかいないだろうし。……ああ、そういや知ってるか?」

「何をだ」

「星を越えて太陽系を越えて、その先に数多ある銀河ネットワーク。それが人の脳内ニューロンネットワークに似てるって話。……もしかしたら俺達の世界は誰かの脳内にある世界なのかもしれねーな」

 

 なんだろう。俺の話だけ抜き出してみると俺の方がヤバそうなヤツだな。

だがアカギはそこで本当の意味で俺を見た。それまでのアカギは無感動で、その瞳には何も映っていなかったのだが、俺という存在をそこで初めて認識した。そんな感じがした。

 

「……興味深いな」

「そりゃどうも。ちょっとした雑学みたいなもんだけどな」

「いや、中々関心を惹かれるものだった。……お前、ここのスクール生か?」

「そうに決まってるだろ」

「……名前は?」

「はぁ?」

 

 俺は苛立つよりも先に困惑した。コイツはどんだけ周囲に関心がないのか。

しかし、同時に少し嬉しさも感じてしまったのだ。

アカギという天才に俺を認識させた、というちっぽけなもの。

 

「まったく。いいか、ちゃーんと覚えておけよ、俺の名前は―――」

 

 アカギとの関係はこうして始まった。不愛想なクソガキと生意気なクソガキの間には歪ながらも友情ってものがあったんだ、と俺は思いたい。

俺が適当なことをくっちゃべってアカギが時々それに反応を示す。そんな時間はあっという間に過ぎて―――。

 

「―――タマムシ大学っすか?」

「そうそう。推薦枠が二つあってね。是非君にと」

「はぁ」

 

 俺はいきなり降ってきた留学の話に困惑した。

 

「ちなみにもう一つの推薦枠って誰ですか?」

「ああ、アカギ君だよ」

「まぁ、そうっすよね。アイツ、滅茶苦茶優秀だし」

 

 卒業するまでアカギを首位から陥落させるという俺の目論見は失敗に終わった。

結局アイツはずっと首位をキープし続けた。学問でも、ポケモン勝負でも。

 

「だったら受けますよ。アイツにも少しは娯楽ってもんを教えてやらねえといけないですからね」

 

 早くして中二病かと思われたアカギの態度は改善するどころか、増々酷くなってきていた。

多分、会話が成立する相手なんて辛うじて俺ぐらいだろう。

だが、流石にこのままではいけない。アカギと違って一般的な感性を持った俺はアカギに対して危機感を持っていた。都会の空気に触れればアカギも少しはマシになるかもしれない。

まだ見ぬキャンパスライフを想像しながら俺はその話を受け入れた。

 

結論から言うと失敗した。アカギはいつも一人で只管研究に打ち込み、周囲には誰もいなかった。

 

「―――お前、いい加減友達の一人くらい作れよ」

 

 業を煮やした俺はアカギを問い詰めた。冗談抜きにアカギは社会不適応者だ。いや、アカギほど優秀となれば態度に目を瞑る就職先なんていくらでもあるだろうが。

 

「不要だ」

「不要ってお前。人恋しくなるとかねえの?」

「ないな。必要性がない。感情など、俺には不必要なもの」

 

 こんなことを大真面目に言って、それを実践しているから質が悪い。コイツは本気で感情なんて無駄なものなんて思っている。

そしてもっと悪いことにコイツはそんな歪な思想を貫き通せるほどに優秀だということだ。

アカギがもっと馬鹿だったらこんな風にならなかっただろうに。

 

「……俺は一応、お前と友人の関係だと思ってるんだが?」

「……」

 

 アカギはそこで一瞬苦しそうな表情を浮かべた。

 

「お前は……俺にないものを持っている」

「そりゃ嫌味か?」

 

 俺はアカギの下位互換だ。大学の成績は到底敵わない。バトルでも俺がやや不利といったところだ。アカギに追いつこうと俺なりに努力をしてきたのだが、やっぱりアカギには勝てなかった。

勝てるといったら社交性くらいのものだ。

 

「感性の話だ。俺は不完全を嫌う。完璧な完全こそを、俺は求める」

 

 じゃあ俺は駄目じゃん、という俺の台詞を聞くことなくアカギは行ってしまった。

 

「……感情なんて不要かぁ。アカギ、なんでお前の手持ちにはクロバットがいるんだ? ポケモンに愛を注げるなら、お前にだって愛情っていう感情があるんだぜ」

 

 その言葉はアカギには届くことなく、俺の言葉は虚空に消えた。

俺はアカギの良い所を知っている。アカギは人に心を開いていないが、ポケモンと接する時には僅かに眉間の皺が薄くなること。強面だが、ポケモンに対しては真摯なのだ。

言動で損をしているが、アカギは悪いヤツじゃない。

無駄に敵を作るアカギの態度が俺はずっともったいないと思っていた。

 

 

大学を卒業した俺は考古学者になった。アカギは自分で会社を立ち上げるらしい。理屈はチンプンカンプンだが宇宙エネルギーを有効利用するとか。

なんと俺にも勧誘が来た。大分心が揺らいだが、俺は俺の目指すべき道を行った。一応俺の名前だけは貸しているが、名ばかりのものだ。

しかし、不安だ。会社を立ち上げて社長になるということは部下だって出来るだろう。

社員は委縮しないだろうか。

 

「……ま、大丈夫か」

 

 アイツは良く分からないがカリスマめいたものを持っているし、もしかしたら名社長として名を馳せるかもしれない。

今更ながらアカギの勧誘を蹴ったことをもったいないなと思い始めてきた。

久方ぶりに来たアカギからのメールに目を通しながら、俺は煙草の煙を肺に入れた。

 

「何がですか、先輩?」

「うぉ!?」

 

 背後から声を掛けられて俺は飛びあがった。俺の膝にいたムウマが抗議の鳴き声を上げたので、俺はすかさず頭を撫でで宥めてやる。

 

「びっくりさせんなよ、シロナ」

「サボって煙草吸ってるような人に言われたくないですね」

「ムウマが俺に煙草吸って欲しいって強請るもんだから……」

 

 嘘ではない。長年付き添っている俺のムウマは煙草の匂いが好きらしく、時折俺に喫煙を強請るのだ。

 

「で、作業もひと段落ついたのか?」

「ええ、誰かさんが発掘作業をサボるもんですから大変でしたよ」

「そ、そりゃ酷いヤツもいたもんだな」

「悪人面のムウマ使いです。これは所長に報告しなければいけませんね」

「それだけは勘弁」

 

 怒り狂った所長がスコップ片手に俺を追い回す姿を想像して、俺はシロナに許しを乞うた。

 

「あー。私、喉渇いちゃったなー」

「なんつう白々しい真似を。チャンピオンなら俺より金持ってんだろ。寧ろ俺に奢れ」

 

 そう、シンオウ地方のチャンピオンであるシロナが俺の後輩だ。アカギに負けず劣らず優秀なシロナは既に優秀な研究成果を出しており、チャンピオンであることやその美貌も相まってどうしても周囲は特別扱いをする。

そんな中に一後輩として扱う俺の存在はありがたいのか、それなりに慕ってくれているようだ。後輩といっても俺と然程歳は変わらないほぼ同世代のようなものだから、それも関係しているだろうが。

 

「言っておくが、ちょっと仕事サボったくらいのことを俺の弱みと思うなよ。へへへ、俺はお前の決定的な弱みを握ってんだ」

「へぇ、それは面白いですね。私に恥ずかしいところなんてありませんが?」

「ほー! 言うねえ。覚えてないのか? 俺は知ってるんだぜ、お前の部屋の汚さを」

「―――出てきなさい、ガブリ……!」

「ガブリアスの分まで買ってくれば良いんですね! すぐ行きます!」

 

 地雷を踏みぬいたことを感じた俺は怒り狂うシロナから逃げるべく、脱兎の如く離脱した。

 

俺の現状はこんなもの。シロナとかいう滅茶苦茶優秀な後輩に色んな意味でビビりつつ、歴史を紐解く為に研究を繰り返している。

 

「……しっかし、久しぶりだな。アイツと会うのも」

 

 俺は走りながら先ほどみたメールの中身を思い出す。

なんでも事業がある程度安定化し、時間が出来たとのことで久しぶりに会わないかという誘いだった。こんなメールをアカギが送ってくることは非常に珍しい。

アイツも社長としてやっていくうちに心境の変化でもあったのだろうか。だとしたら素直に嬉しい。

俺はアカギの仏頂面を思い出しながら少し笑った。

 

 

 




ノリで書いたから多分続かない
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