いつの間にかギンガ団幹部『ヴィーナス』にされた男の話   作:Mamama

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 シロナのガブリアスは俺に対して厳しい、というか当たりが強い。

そこに俺に対する『主人に纏わり付く悪い虫』という認識があることは間違いないと思う。しかし他に理由があることを俺は薄々感じている。

 

件のガブリアスはバトルフィールド上にいる俺のガバイトをじっと見ている。打ち倒すべき敵であるから友好的な目つきでないのは当然だ。しかし、それ以上に見定めるような印象を受ける目をしている。

進化前とはいえ、同性で同じポケモンなのだ。そこに何らかの感情を孕んでいてもおかしくない。

俺はガバイトを通して、『もっとしっかりしろ』とでも言うようなガブリアスの念を感じた気がした。

 

「……ふぅ、どうしたもんか」

「熟考ですか? 今回は許しますが、本来は駄目ですからね」

「わーってるよ」

 

 余裕そうなシロナに若干イラッとしつつ俺は呼吸を整える。

四体のポケモンによる一戦毎の入れ替え戦、既に俺は1勝2敗と追い込まれており、この段階で俺はシロナに勝つことは出来ない。もうシロナとは結構勝負をしているが、一体でも落とせたのは初めてのことで、ガバイトの為にも俺はなんとか勝たせてやりたいのだが、如何せんガブリアスが強すぎる。

 

何せシンオウ地方のチャンピオンであるシロナのエースポケモンだ。ガブリアスというポケモンが元々強いことを差し引いてもあまりに強すぎて突然変異を疑うレベルだ。

 

「……ああ、クソ。強すぎるんだよ、お前のガブリアス」

 

 思わず悪態をつく。俺なりに色々と頭の中で策を講じてみるが有効な手段などない。ガブリアスは純粋に強く、トレーナーも超一流なのだから手の付けようがない。多少の小細工など真正面から打ち破られて終わりだ。

 

「ふふ、それほどでもありますね」

 

 自信満々に髪をかき上げて笑いやがって。事実、その通りだから最早腹立たしいなんて感情も湧いてこない。

 

「ミカルゲ倒されたからって本気出しやがって。チャンピオンが大人気ないぜ」

 

 俺のムウマがミカルゲを落とし切れたのは奇跡に近い。もう一度やれと言われても難しいだろう。しかしそこでシロナに火が付いてしまい、俺の二体の手持ちはあっという間に倒された。俺のヨルノズクはミロカロスに、ユキメノコはルカリオにそれぞれ倒されて俺の腰のボールの中で眠っている。

 

「油断していたとはいえ私のミカルゲを倒すトレーナー相手に手は抜きませんよ。ええ、私が油断していたせいですが!」

「二回言わなくてもわかってるっての。……ガバイト」

 

 俺はガバイトを呼び寄せて、俺は視線を合わせる為に腰を落とす。

 

「よし、どうだ。やる気はあるか?」

 

 俺の問いにガバイトは力強く吼えた。やる気は十分だ。

 

「ついでに聞くけど、アレに勝てると思う?」

「……」

「『いや、それはちょっと』みたいな顔すんなよ」

 

 気持ちは分からんでもないが、そこで弱気になってどうする。

 

「いいか? 確かに戦力差は明白だ。でも、だからこそ気持ちで負けちゃいけねえよ。気持ちで負けてるヤツは勝負でも勝てねぇ」

 

 自分で言ってて曖昧なアドバイスだと思う。しかし、俺から送ることができる言葉はこんなものだ。ガバイトに非はなく、悪いといえばシロナのガブリアスが強すぎるだけだからだ。

 

「良く聞け、一先ずガブリアスが動き出したら『まもる』で防御だ。これは負けを長引かせるための指示じゃない。相手の動きを少しでも長く観察するためだ。俺はまだ勝負を諦めちゃいないからな」

 

 頷くガバイトの頭を俺は撫でてやる。

 

「よっしゃ、ビビらずに前向け。それにアレだ。お前だって負けてねえからな。むしろガブリアスより優れているところだってある。例えばーーー」

 

 ここまで言っておいてなんだが、全く何も思いつかなかった。

ガブリアスはありとあらゆる点で俺のガバイトの上位互換だ。これは動かすことができない。しかし期待するような顔のガバイトを裏切るわけにはいかない。

俺は頭をフル回転させて言葉を続ける。

 

「ーーーお前の方が若くて力強い」

「へぇ、私のガブリアスが歳食ってるとでも?」

 

 あ、これはヤバい。地雷に片足を乗せた状態だ。シロナの地雷ではない。流石にそんな言葉で一々怒るほどシロナの器は小さくない。問題はガブリアスの方である。

恐る恐るガブリアスに視線を向けると大層殺気立っていらっしゃる。

 

「お、おいおい。嫌だな、俺はそんなこと言ってないだろ? そりゃ被害妄想ってもんだ」

「そうでしょうね。問題は私のガブリアスがどう思うかなんですけど……ガブリアス?」

 

 シロナが声を掛けると力強く雄叫びを放つガブリアス。

 

「……ごめんなさい、こんなにやる気を出してるこの子を、私は止めることができません」

「そこは止めろや。オーバーキルにも程があるだろ。あー、ガブリアスさん。さっきの言葉は嘘だから。本気にしないでね? ……ほら、アレだよ。雌として考えたらお前の方が魅力的だから」

「ガブリアス、『ドラゴンクロー』。遠慮はいらないわ」

「ちょ、おま」

 

 次の瞬間、嫌悪感に塗れたガブリアスのドラゴンクローがガバイトの『まもる』を貫通して突き刺さり、ついでに吹き飛んだガバイトは俺の腹に直撃して衝撃で尻餅をつく。俺の腹に埋まったガバイトは完全に目を回していた。

 

「あークソ、やっぱ勝てなかったかぁ……」

 

 悶絶しつつ、俺は悪態を付いた。言い訳のしようがない明確な敗北だった。

 

 俺の腹の上で伸びているガバイトをボールに戻す。

負けは負けだが、今回は多少は進歩があったことをプラスに思うしかない。

 

「……お疲れ。良く頑張ったな」

「ええ、今日のバトルは以前から進歩が見られましたね。最後はアレでしたが」

 

 近付いてきたシロナは俺に手を差し伸べた。俺はそれを掴んで立ち上がる。

 

「今日のところは良いところまで行けると踏んだんだがなぁ」

「ムウマの奇襲が上手く決まりましたからね。ただ、二度目は通用しませんよ」

「だろうなぁ。ま、そこはもうちょい考えるさ。じゃあ俺はポケモンセンターに行ってくるから」

「ちょっと待ってください。約束覚えてますよね?」

 

 遁走しようとした俺はシロナに道を塞がれる。

ポケモン勝負において賞金を賭けることは良くあることだが、頻繁に勝負をすることを考えると俺が破産してしまう。よってその代替としての罰ゲームである。

 

「分かったよ。それで今回はなんだ? 靴でも舐めれば良いのか?」

「先輩の私に対するイメージが気になるところですね」

「思春期の少年に向かって『白い水着と黒い水着、私にはどちらが似合うでしょう』とか聞いてそう」

「偏見も甚だしいんですが!?……ちょっと個人的な調査に付き合って欲しいんですよ、今回はハクタイシティですね」

 

 考古学者の顔を持つシロナは重度の歴史オタクでもある。貴重な休みも考古学に精を出すあたりホンモノだ。

 

「今回もの間違いだろ。そんな風に休みの日もフィールドワークしてるから部屋も散らかったままなんじゃねえか」

「どうやらドラゴンクローでは満足できなかったみたいですね」

「お供させていただきます」

 

 俺は最敬礼の上で条件を飲み込んだ。

 

 

 

 

「……しかし、今日は珍しいですね。先輩から勝負を挑んでくるなんて」

 

 ポケモンセンターに向かう道中で、シロナはそんなことを言いだした。

 

「言われてみればそうかもな」

 

 大抵の勝負はシロナから吹っ掛けられたもので、俺から勝負を挑むことはあんまりない。格上との勝負は大いに参考になるのだが、負けることが確約された勝負に挑むほど、俺は性癖を拗らせていない。

 

「ガバイトを進化させてやりたいんだよ。もうちょいで進化しそうなんだけど、中々切っ掛けがなくってさ。……このガバイトは俺が捕まえたやつじゃないんだ」

「交換、というわけですか」

「そうそう。当時はフカマルだったんだけどさ、そいつはズバットが欲しかったらしくって」

「それはまた……いえ、価値観はそれぞれですしズバットに価値がないと言うつもりは微塵もありませんが」

 

 ポケモンの価値なんて俺たち人間が勝手につけて良いものではない。けれどフカマルは希少なポケモンで、ズバットは割とどこにでもいる普遍的なポケモンだ。

あっさりと交換を申し出たアカギがおかしいといえばその通りだ。

 

「そいつもちょっと普通とズレた奴だからなぁ。それで、俺が捕まえたズバットと交換したわけ。そいつのズバットはもうクロバットになってるし、今度会う時までには俺のガバイトも進化させてやりたいんだよ。コイツもそれを望んでるしさ」

「へぇ、クロバットに。それは中々のトレーナーですね」

 

 ゴルバットからクロバットに進化するにはトレーナーに懐くことが条件と言われている。生涯をゴルバットで終える個体も多く、クロバットへの進化は中々の難易度といえる。そういえばシロナもトゲキッスを持っていたっけ。

 

「少し気になりますね。それが例の先輩のご友人だったりします?」

「おう。気難しい奴だけど悪い人間じゃねえからさ、中々都合がつかないけど、今度紹介するわ」

 

 アカギのお見合い大作戦(仮)は今のところ時間の調整が難しく、目処は立っていない。ちょっと先だがアカギに会う予定も取り付けたし、その時に確認してみるか。ついでその時には久しぶりに勝負でも仕掛けてやるつもりだ。

社長業務で最近はポケモン勝負もできていないだろうから、良い刺激になるだろう。

 

 

 

 

 

「ーーー手緩い」

 

 ギンガ団のアジトにある修練場でアカギは複数名の下っ端が繰り出すポケモン相手に大立回りをしていた。

縦横無尽、疾風迅雷のように宙を駆けるクロバットを捉えることは誰にも出来ず、地面には疲弊しきったポケモン達が転がっている。

 

ギンガ団においては良く見る風景だ。忠誠心の薄い下っ端に上下関係を叩き込むという意味でも、アカギ自身の修練という意味でも。

しかし今日のところは気迫が違う。辛くも修練から逃れた下っ端達も触らぬ神に祟りなしとばかりに散っていった。

 

「ボス、そろそろ……」

 

 最後のズバットが力尽きたところでアカギの近くに立つサターンが声を掛けた。

本人は否定するだろうが、今日のところはいつも以上に力が入っているように見えた。限界を知らない子供でもあるまいし、放置していても問題はないだろうがそろそろ潮時だ。

 

「ちょうど良い、サターン。ジュピターとマーズを連れてお前も入れ」

「……は?」

「聞こえなかったか? ならばもう一度言うがーーー」

「いえ、聞こえておりますよ。ですが本気ですか?」

 

 アカギは強い。ギンガ団最強を疑う者は誰一人もいないだろう。しかし疲弊した状態で幹部陣三人を同時に相手取るなど、いくらアカギとて困難を極めるというのがサターンの見方だった。

 

「そうでなければ訓練にならない」

「……成程成程、確かにボスはお強い。ええ、万全の状態であれば私が勝利するのは困難でしょう。しかし今の疲弊した状態であればまた違う話。何よりも私とてトレーナーの端くれ、まずは私が相手になりましょう」

 

 ジュピターやマーズと違い、サターンは半ば盲目的にアカギを信奉しているわけではない。当然、敬うべき存在であるし裏切るなど毛頭考えていない。

しかしそれはそれだ。ギンガ団幹部のサターンとしてではなく、ポケモントレーナーのサターンとしてアカギの言葉には感じるものがあった。

 

ポケモン同様疲弊したトレーナー達を傍にどかせて、サターンはアカギと対峙する。

 

「……良いだろう。そういえば、お前と勝負をするのは久方ぶりだな」

「私が入団した当初以来でしょうかね? 私もあれから成長していますので、ご覧いただければ幸いですね……!」

 

 ドータクンを切り出し、サターンは啖呵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー君の名前は……? そう、ヒカリって言うの。覚えておくわね!

あたしはシロナ。ポケモンの神話を調べてる物好きなトレーナーよ」

 

 




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