筋肉魔法   作:森野熊漢

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最近とりあえず思いついたものを書いてみる症候群になってる。


目覚め

昔から勉強は好きではなかった。

興味のない物事を「将来必要になるから」の一点張りで、あれもこれも覚えることを強いられるのが苦痛だった。

苦痛だというのにそれをテストだなんだと評価し、点数に表し、出来が悪いと呼び出してこんこんと説教をされるのが嫌でしかなった。

 

昔から運動は得意と言えなかった。何なら苦手という言葉しか出ない。

するのは嫌いではなかったんだけど、事あるごとに上手くいかなくて苦手意識が芽生えた。

気のいい友人たちは誘ってくれるから、それに甘えて最初は参加していたのだが、だんだんとそういうのも減っていった。俺自身も自分から参加したいというタイプではなかったから、まあ結果的に運動もしなくなっていった。

 

じゃあ俺が何をしていたのか、という話なのだが。

ある種俺の趣味であり、俺の生きがいであり。昔から唯一続いているものである。

それは……。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『はっ!?』

 

ふと目が覚めた。

長いこと夢を見ていたようで、幼いころからの遍歴を夢でなぞっていたらしい。

別に虐められていたいとかそういうわけではないのだが、振り返りたいものかと言われるとそういうわけではないので正直気分はよろしくない。

 

「……ん?」

 

そこで気づく。明らかに俺はベッドではない質感のところで寝ている。

何なら俺が身にまとっているのは毛布とか掛け布団とかですらないし、身にまとっているという表現も全くもって正しくない。

 

「なんだこれ……水?」

 

俺の身体はなぜか全身液体に浸された状態で寝かされていた。顔も浸かっているのだが、どういう原理なのか、普通に呼吸ができていることに気づきパニックには陥らずに済んだ。

ホルマリン漬けの実験体のような状態という言葉が頭に浮かんだ。誰に言われたわけでもなく、自分の中から出てきた言葉なのに思わずむっとしてしまう。

 

(いや、よく考えてみろ。なんで俺はこんな状態になっているんだ?)

 

あまりにいつもの就寝スタイルと異なっていることに驚きはしたが、まだ思考が鈍っているからか、あまり動揺していなかった。ここまで頭の働きが鈍いのも普段の寝起きからは考えられないのだが。

 

『生体反応、再開。コンディションオールクリア』

 

不意に音声が流れると同時に、身体を浸していた水が引いていき、なくなったと同時に真正面の透明のシャッターが開いた。

色々と現実離れした光景だが、何故こうなっているのかを把握しないといけない。

そう思いつつケースから身体を起こす。

 

「……ぐっ?」

 

普段と変わらない体の動かし方をしているはずだが、いやに思ったように動けない。

まるで久々に身体を動かしたかのような感覚に陥っている。

重い身体に活を入れつつ、辺りを見回してみる。

 

ふむふむ、なるほど。まず見慣れない大きな機械が俺の目を引き、その横には少し小型の機械。

反対側にも同じような機械があって、そこからは無機質な壁と床。そして俺の寝ていたケース。

部屋の広さはものすごく広いわけではないが、かなり狭いというわけでもない。学校の教室の半分くらいだろうか。ふむふむ。

 

「いやここ何処だよ!?」

 

全く見覚えのない部屋なんですけど!? 機械に至っては病院とかでも目にしたことないようなものなんだけど!? 俺がそこまで病院の世話になったことないから詳しくは知らないけど!

 

「さっきまでびしょ濡れだったから服……はなんかもう乾いてるんだが!?」

 

明らかにおかしい要素なんだが? さっきまで液体に浸ってたのに服どころか髪も乾いてるんだが?

すごく着替えたい気持ちではあるのだが、速乾したおかげで着替える必要がなくなったせいでこの何とも言えない気持ちを何とかしたい。

正直に言うと、念のための着替えが見える範囲に欲しい。

着替えどころか、食べるものだったり連絡をとれそうなものも室内に見当たらない。

 

「いったん、他の部屋を探してみるか……」

 

ここがどこかはわからないため、勝手に動くのはあまりよくないかもしれないが、ここでじっとしているのも落ち着かない。あと少しでも身体を動かして違和感の元を探りたい。

仮に勝手に動いたことで怒られても素直に謝ればなんとかなるだろう。

 

「さて、他の部屋は……と」

 

目につく範囲にスマホや財布はないため、とりあえず気にしないことにする。

ドアは自動ドアだったため、近くに立つだけで開いてくれた。取っ手が見当たらなかったから開かなかったらどうしようかと心配になったのはここだけの秘密。

いくつか部屋を探してみたものの、俺がさっきまでいた部屋となんら変わりない部屋ばかりだった。着替えや食料といったものもゼロ。というか、人がここにいたとは思えなくなってきた。

俺がさっき考えていた、病院という線もなさそうだ。ベッドもなければ机や椅子といったものもない。

どこを見ても水道やガスが通っている様子もない。ひたすら機械が目につくため、電気だけが通っている状態だろう。

この場で期待できる物資は手に入りそうにないなら、外に行くしかない。まだ確認していない部屋を探しつつ、外につながっている出入口も探す。

程なくして、出口は見つけられた。確認できていない部屋もまだあるが、思っていたよりも広い施設だったため、とりあえず中の探索は打ち切り、外に出ることにした。

何故かガラスが全くなく、外が全く見えない状態。一度外に出ないとここがどこかもわからない。

 

「……外、出てみるか」

 

とりあえずここがどこであっても、人にさえ会えれば場所の確認と、連絡の手段は手に入れられる。

そう思いつつ、一歩外に踏み出すと。

 

 

「…………は?」

 

さんさんと降り注ぐ太陽。

柔らかくどこか清涼感を感じる風。

済んだ空気。

広がる一面緑の草原。

 

俺は見知らぬ土地に一人だった。

おかしい。俺は現代日本の、少なくともここまでの田舎にはいなかったはずなんだが。

思わずさっきまでいた施設を振り返る。周囲が自然なのにそこだけ明らかに近代施設の様相を醸し出しており、あまりにミスマッチだった。明らかに合っていない。

 

「と、とりあえず周囲を探索してみないとだな」

 

ショックは受けたが、先の施設で見当たらなかった生命線になるもの、即ち飲み物だったり食べ物を探すことをしないと、非常にまずいため、なんとか気持ちを切り替える。

身体の調子は起きたばかりの時とそれほど変わらず違和感がある。まるで長い間身体を動かしていなかったような錯覚を覚える。

 

「おっかしいなあ……力が出ねえや」

 

頭もまだスッキリはしない。だが太陽光を浴びつつ、美味しい空気を吸っていたら直にマシになるだろう。

少し離れたところに森が見えた。とりあえずはそこを目指せば食べ物が見つかるかもしれない。うまくいけば飲み水もあるだろう。

期待を胸に、俺は歩き出した。

 

徐々に起きている身体への変化にはこの時気づくことができなかった。

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