触野 千手郎著『騎馬触手技術の完成とアマゾネス文明の興亡』 川満新書 作:HASURYU
【ショクシュの生態とライフサイクル】
さて触手、触手と呼ばれているものは、動物学的には類線形動物門のモリスミオオショクシュ目、ウミナガショクシュ目の二種をさすものである。昆虫に寄生するハリガネムシと先祖と同一とし、それが進化したものであることが、近年の研究で分かってきたことである。
だが現代では、ショクシュ目のライフサイクルは長年の品種改良の結果、そのライフサイクルや形態は多様になった。だが一番原始的で最初の人間に利用されたショクシュ目のライフサイクルを見ることで、どう人間やその他の生物がショクシュを生態系の中で利用したかが見える。
典型例としてリクスミオオショクシュのライフサイクルを上げてみよう。このリクスミオオショクシュは世界各地の森林域に住む触手である。その科種も多様であり、森林狩猟民族が利用するものの半畜化されたものから、数ミリ程度の寄生主体内のセンチュウや各種寄生虫を食べるものも含めて存在する。
この図を見てもらいたい。基本、他の寄生動物と同じく、ショクシュ目は卵生で、幼体から成虫へと成長する。
この過程で鳥や魚に食べられることもあるが、多くは体内で成長、産卵し、ホストの排便とともに卵や成虫第一次形態となって、寄生主から分離する。
成虫第一次形態の成体はホスト体内に残ることもある。だが捕食されることがない限り、一定程度成長すると、ホストから離れることが多い。
この半独立寄生生物というべき成虫第一次形態のショクシュモク目は、プランクトンや腐植土の生物などを捕食しつつ、彼らの出すフェロモンに導かれて、成虫同士集積することを目指す。
そして樹上や水上に成虫群がコロニーを作る。これらのコロニーは森林域や河川の淀みでも見かけられ、適当な釣り餌として利用する方も多いであろう。この時に成虫第一次形態は変態し、成虫第一次群生形態とよばれるものに変化する。
この形態で捕食されることが多いが、この場合で捕食されても次の形態の性質である疑似器官を寄生先に与えることはなく、成虫第一次形態に分解するだけである。
だがコロニーが捕食されることなく一定の規模になると、樹上のコロニー群は移動し、一匹の昆虫のように行動する。いわゆる世間のいう触手とはこれらの群体を一個体としてみることが多い。そして第一次コロニーとは別のコロニー形態を作る。この状態まで成長したショクシュ目の成虫の形態を、成虫第二次群生形態──疑似器官態──と呼ぶ。
第二次群生形態のコロニーの寿命は、数週間~数か月である。その期間を過ぎると、コロニーは後述の機能を停止し、群体を崩壊させる。これを自然脱落と呼ぶ。
しかし機能しているあいだ、このコロニー形態は成虫第一次形態やコロニー態とは違った機能と生態を持ち始める。このコロニー群体はまるで、ダニのような生態を持つようになる。樹上もしくは水上の淵などに潜み、ホストから発している酢酸ならびに動物フェロモンを感知して、絡みつくようにして粘膜接触を優先しつつ体内に入る。
これらの群体がホストに寄生すると、成虫第一形態とは基本的な生態を持ちつつ、各ショクシュの種ごとに異なった生態を示す。
基本的な生態としては、体内に卵を産み、排便もしくは体液とともにそれらを排出するようにする生態である。この生態は第二次群生形態に寄生されたとしても変わらない。
だが第二次群生形態に寄生された生物は、第一成体とは異なった特徴を持つことになる。それは疑似的な生物器官をもつようになるのである。これがショクシュ目の大きな特徴である。
このように疑似器官態のショクシュ類に寄生されると、種によっては獲得する疑似器官は異なるとは言え、生殖戦略と生存戦略において優位さをえることになる。
特に顕著なのは、生殖器官とそれに付随した器官の発達、センチュウ類やマラリアや各種細菌に対する抗体付与、ホストに各種神経毒を与える器官の付与などである。
また一部の動物には積極的に触手に寄生されることで、生存戦略を優位に立とうとする種が現れ始める。代表的なものとしては、スライム族に寄生することによるローパーショクシュ、オオカミに寄生するダイアショクシュなどがあげられる。
ローパー種になると、もはやショクシュ目とスライム目の共依存進化の最終形態ともいえるものであり、相互進化の繰り返しにより多様なものになり、生物学的進化論的関心をえ、各種スライムの劇的進化を促したのではないかと言われている。そしてついには一種の知的反応すら可能になるものも近代後期において現れ始めた。
またこれらの生態は海上種においても変わらない。海洋域の代表種であるタコに寄生するウミナガミナミシビレショクシュは主に海藻の群生地にすむことが多いが、群生態になることで、大型回遊魚や中型~大型哺乳類に寄生することでその生存域を拡大、さらに広がった生存域に適応する形でショクシュも進化する。
これらが作り出す器官は多種多様であり、さらに家畜化されることでさらに種類を多くすることになった。この進化と各種生態系の進化戦略、それとその人類への利用法の歴史もまた面白いものであるが、本稿のテーマからは外れる。そのため巻末の参考文献を参照してもらいたい。
ただ基本的にショクシュ目は進化においてただ寄生するだけでなく、ホストに各種器官を与えることで、その生殖力をたかめることで共存共栄戦略をとってきたことが特徴である。
また人類史においては、
(1)第一次形態におけるセンチュウ類などを人体や家畜の有害な寄生虫を捕食するという生態の利用
(2)群体寄生による疑似器官のうち神経毒を与える触手器官の発達
(3)フェロモン器官そして母乳と精液増量 生殖機能の多様化
(4) (2)、(3)から発展した人類の第三の手としての利用
これらが最初期の触手技術の重要なものであることを指摘するにとどめたい。さらにこれらから発達して
(5) さらに畜産技術の発展に伴う各種疑似器官の獲得
(6)(1)、(4)、(5)を応用することで医療技術、海洋域における牧畜の発達
かくしてこのホストとの共存共栄戦略を持つことで、ショクシュ目はその生態は幅広くなり、植生限界があるかぎり広く分布することになった。そしてそれはほぼ人類種のテリトリーと重なるものである。
だが人類において家畜化されたショクシュの種は限られてきた。これは最近のショクシュのDNA解析においてもほぼ支持されている。
ここでなぜイヌやウシといったものと違ってショクシュの家畜化は遅れたのか。また現在のシュクシュ種の広範囲な利用はどのようにもたらされたのか、そのためには各地での伝統ショクシュ技術と畜産利用型ショクシュの違いとその利用法の説明、そしてその確立も含めて次節で説明したい。
【原始的触手技術の成立──生態系の中で】
先に述べたように、ショクシュ目の広範囲な分布はなぜ起きたのかは、その優れた共存共栄戦略によってである。だがすべてのショクシュが人類にとって利用可能なものであったものではない。たしかにショクシュ類は基本そのホストとの共存共栄戦略をとるものが多いとしても、それらがいつも行われるわけではないのである。
しかもショクシュ類はある種のウィルスや細菌に侵されると、その生態を狂わせられる。
とくに有名なものはゾンビ化と呼ばれるものであり、ひたすら寄生先に捕食と生殖行動のみ起こす。これらの病をもたらすものとしてのショクシュの存在のほうがその家畜化以前には顕著であり、石器時代の壁画にもショクシュに寄生された動物と戦うものが世界各地に描かれているぐらいである。
ただでさえ強力な野生動物がさらにショクシュ類の各種疑似器官によってブーストされたわけであるから、その脅威は原始時代においては多大なものであったことは想像に難くない。
さらに生殖増大機能はいつも恩恵をもたらすわけではない。ある種が繁栄することは生態系においてはバランスを崩す要因でもある。急速に増えた種を賄えるかどうかは、その生態系の豊かさによるのである。そして生存競争に敗れることで、その死体はその生態系や隣接する生態系に影響を与える。それは狩猟、採集など生態系の繁栄に依存していた原始人類にとって死活問題であった。
人類にとってのショクシュ類の出会いは、その生態学的競争者におそるべき器官を付与するものとして現れたり、各種疾病をもたらすもの、そして人間に寄生することで繁栄を与えるものとしてであった。この両義性をもった性質の中、どのように制御するかが、最初期における人類の課題だった。
まず始まったのは、触手コロニーの観察とその寄生先の見極めであった。初期人類にとって脅威である大型動物に寄生するコロニーの駆除がなされる。さらに駆除できぬならば、それらは禁足地として保護される。
これらの判別は各地狩猟民族では重要なものであり、神話によって伝えられたり、豊かな語彙によるショクシュコロニーの分類によっても窺い知ることができよう。
こうして人類が届く範囲で、限界がありながらも駆除が行われた。だが駆除することは、その生態に触れることでもある。寄生された際にどのように対処するかが次の課題であった。
この課題は比較的容易であった。実はショクシュの生存戦略である共存共栄戦略にたいして、生態系は──特に植物は──手をこまねいていたわけではないのだろう。ある種の植物の成分がショクシュに対して抗体になるように進化しわけであるから。
草食動物はこれらの植物を摂取することで、そのホストからショクシュ類を分離することが可能になった。またこの成分は肝臓類や体脂肪に附属することが多く、それらを多く摂取した草食動物を食べることで、肉食動物にもその恩恵をもたらした。
このような複雑な植物の生存戦略と触手の生存戦略の抗争の把握こそが人類は次のショクシュ利用の次の課題となった。
その成果は各地域の原始的な暦と経験則、人類の雑食性によって得たショクシュ下しを起こす植物の把握という形で現れた。
この技術の普遍性は世界レベルで現れる。各種言語にはその基本語彙として薬にあたる言葉があるが、その語源を調べると虫下しとなるものが多い。わが国でも”クスリ”は、その原義は”下すものたち”であることからも、それはわかる。
このようにショクシュと人類は敵対しつつ、その対応という形が最初期のかかわりであった。
原始時代のショクシュ技術は、前期の技術を踏まえたうえでの利用が行われた。これらの技術こそ、積極的ショクシュ利用のはじまりであった。すなわち
(1)第一次形態におけるセンチュウ類などを人体や家畜の有害な寄生虫を捕食するという生態の利用
(2)群体寄生による疑似器官のうち神経毒を与える触手器官の役畜による間接的利用の開始
この技術は新旧大陸にまたがる技術であり、エルフ族や各種森林地域では高度に発達しており、そのゲリラ戦的利用は、本稿が書かれる十年前のナムユ戦争の記憶とともにある。
採集生活だけでなく狩猟をすることで、人類は生態系のトップにたったわけであるが、それは別のリスクをもたらすことになった。とくに食肉することは、人類にとって有害なセンチュウや寄生虫を取る危険性と隣り合わせである。これらの寄生虫がもたらす苦痛と身体的被害は大きく、人類にとって危険なものである。
だがショクシュの第一形態かコロニー群の一部を摂取することにより、センチュウ類を捕食、もしくはショクシュの体液成分によって駆除することが可能になった。このようにして食肉のリスクを減らすことに貢献したのである。そしてある程度治癒すれば、虫下しを飲むことでショクシュ類を分離することでその副作用を抑え、治癒を完了させる。
このような原始的な触手医療が始まり、人類の生存確率が高まり、センチュウ類の進化との対応に追われながらも、この試みは現代にまで継続することになる。この分野の応用はさらに他の寄生虫の利用も含めて発展するわけであるが、本稿のテーマから外れるので、ここでは詳しく述べない。
だが第三の器官としてのステップアップとして重要だったのは、群体寄生による疑似器官のうち神経毒を与える触手器官の役畜による間接的利用の開始であった。
これらの技術の確立によるショクシュ目の生態のさらなる把握は、触手技術にさらなる普遍性をもたらすことになる。より活動的な、疑似器官をもたらす群種の判別である。
おそらくこれらの出会いはかなり偶然的なものであったのであろう。というのもその技術が一番古く残っている思われる旧大陸高緯度地方のシベル地域での狩猟を見ると、わかるであろう。
この地域では古くから、虫下しの木々とともに、目的に応じて触手コロニーの部族レベルでの所有権が発達している。そこで育ったシベルキタズミショクシュは高緯度のツンドラステップに対応した形で進化した。北エルフや古くからの原住民はこの触手を使って狩りをする。その際に武器になるのが天然の毒矢発生となっているショクシュを寄生させた犬たちである。このショクシュの分類も現地では様々に分類されている。
さてこれらの犬は大型獣を狩る時に使用されるか、もしくは野生の大型獣を生け捕りにする際に使われる。
通常の犬と触手を寄生させた犬は別々に使われ、目標の動物を発見されたとき、あらかじめ飢えさせた上でターゲットの獣に近づき、その毒を与える。ターゲットの獣は追い立てられ、毒を使われた大型獣はやがて体力の低下と毒の使用により、倒される。
このようにしてショクシュ群体による疑似器官は、犬の利用とともに始まったのが定説である。先ほど先史時代の壁画でショクシュに寄生された大型獣に立ち向かう人々の壁画を説明したが、人間たちの傍らにはショクシュに寄生された犬たちも書かれている。
現代の都市部の犬については、生殖機能の増幅や各種ファッションのためのショクシュを利用を目にすることが多い。だが古いパートナーである犬の力をより増すための利用がショクシュの家畜化の始まりであった。
さらにこれらのショクシュ利用は世界各地で発展した。有名なところではオーク族によ
る乗用イルカに寄生させたダイナミックな漁業であろう。かの民族はボートをイルカにひかせつつ、大型魚の集まる鳥山を探す。そして見つけるや否や、イルカに乗り込み、鳥山へと突っ込む。そこでイルカに寄生させたショクシュをターゲットに接触させ、大型魚を捕まえるのである。
この犬やイルカなどに代表させる狩猟パートナー動物にショクシュ目を寄生させるのは、新旧大陸ともに発達し、ヒューマンとアルト人種の成立史とともにあった。だがこの段階においても、まだ半積極的な利用というべきものであった。
というのもこれらの利用は複雑なものであるが、半野生化されたショクシュを利用するものである。しかもそのショクシュのコロニーを作るのは天然任せであった。
そしてコロニー自身を作るとなると運まかせであった。そして有能な犬に寄生するショクシュコロニーは発見されると、部族の秘伝として厳重に保護されていたのだった。
そして役畜へのさらなる利用──フェロモン器官そして母乳と精液増量 生殖機能の多様化──は、古代社会の成立、とくにガンダ域の文明発達を待たねばならなかった。