ベルリオーズ、幻想の地にて安住を見出したり 作:レイレナード広報部
無駄に導入が長いですが、読んで頂けると手を叩いて喜びます。
それではどうぞ。
私は、生まれついた時から軍人一家の長男として育てられ、訓練されてきた。厳格な模範軍人だった父は、政府軍の高官だった。そんな父に私は鍛えられ、成人前のある日、父にこう告げられたのだった。
《お前は、軍人ではなく、企業の人間として生きろ》
わからなかった。そう、理解が及ばなかったのだ。あの時の私は若かったが、父から叩き込まれた知識や教養は、しかし父の言う企業陣営に属して生きろという言葉を呑み込めなかった。
《何故です? ……軍に入れる為に私を鍛えたのでは?》
父は、それ以上の問いに答えようとしなかった。それに、私もそれ以上根掘り葉掘り聞くつもりもなかった。父の言う事に従う事が私にとって必要な事であり、また私自身の為であると父から教えられていたからだ。
私は、生まれ故郷から遠く離れた地に本社を置く、新興企業“Rayleonard”(レイレナード)に就職を決め、その為に数ヶ月間に渡ってエンジニアリング技術や機械工学、特に人体と機械とを生体的に繋ぎ、その生活を助ける
元々先見の明のあった父が、アナトリアの研究機関に掛け合い、民間用に開発する為のAMS技術に関する情報を得、それを私の前に突き出して「覚えろ」というのだから、その時は特に困窮したものだった。事実それは後々に役立つ事になるのだが。
そしてレイレナードに就職する時、私は精一杯に機械工学技術のアピールをしたものだが、別の理由で採用されるとわかった時は、その余りにもな呆気なさに拍子抜けしたものだ。
地球歴は、826年を持って終了する事になる。
それはイェルネフェルト教授というAMS研究の最先端を往く男が急逝し、その技術を持ち逃げした研究者集団によって、各地の企業にその技術が行き渡ったのが全ての始まりだった。
特に大枚をはたいてAMS技術を手に入れたのは、企業の中でも特に巨大だった、8の企業グループだった。
それぞれグローバル・アーマメンツ、ローゼンタール、オーメルサイエンス、イクバール、バーナード&フェリクス財団(通称BFF)、アクアビット、インテリオル=ユニオン*1、そしてレイレナード。
このうち、私はレイレナードに属する事となる。他ならぬ、AMS技術を軍事転用した最新鋭戦闘用AC《ネクスト》の搭乗員、リンクスとして。
一匹殺したぜ。残り一匹だ。
BFFのリンクス、アンシールが敵ネクストの撃破を伝える。旧ピースシティというかつて栄えた小さな街では、今や破壊の権化たるネクストが六機もの数、暴れ回っていた。そのうちの敵機を撃破し、アンシールはザンニと共にこちらに合流する。
女リンクス、ミド=アウリエルも相当の強者だったはずだが、ザンニとアンシールの攻防一体の陣は崩せなかったらしい。とはいえ、既に二機とも50パーセントを超える損害を被っている事も確かであり、それがネクストと、それを駆るリンクスに潜む潜在的な戦闘適性をいっそう顕にさせた。
『アウリエル!……くっ』
私ともう一人のリンクス、P.ダムが対峙している目の前のネクスト、ノブレス=オブリージュのリンクス、レオハルトはもう一人の仲間の被撃破に苦悶の呻きを挙げる。その間もライフルを握る指の力は緩めない。
「いけるぞ、ベルリオーズ」
「あぁ。 …油断はするな、ダム」
風が、弾丸の過ぎる音が、全てが私の体に同期し、知覚する。私は全ての頂点に生きる存在。世界を壊しかねない力を用いて、私は世界を変える。世界を生まれ変わらせ、宇宙への路を進む。
そのために、私は背部のグレネード砲を、目の前のプラチナカラーのネクスト、ノブレス=オブリージュへ向けて放った。
轟音。凄まじい熱波、そして爆風。その全てが私が戦いの場にいるという事を実感させてくれる。
有澤重工謹製のグレネードキャノン《OGOTO》の炸薬がノブレス=オブリージュを包み込み、硝煙が周囲を取り巻いた。
「ッ!」
突如煙幕を斬り裂いて現れた六基ものレーザーキャノンから放たれる六発のレーザーを、どうにか身を捻って回避しようとする。だが、そのうちの一本がネクストのプライマルアーマーを貫き、シュープリスの左腕に直撃する。左腕部マニピュレータが悲鳴を上げ、私にフィードバックして左肘が熱を帯びる。それは間違いなく、AMSと過剰にリンクした際に起こる、ネクストのダメージが本人の神経に悪影響を及ぼす現象だった。これをネクスト技術者はフィードバックと呼び、リンクスの寿命の短さを端的に表すうちの一つでもある。
避けた残り五本のうち三本がP.ダムのヒラリエスのコアに直撃し、ダムの悲鳴が聞こえてくる。ダムはこの4人の中でもAMS適性がとりわけ低い。優れた戦力にはなるのだが、精神的な脆弱さを抱える彼女を持て余したアクアビットは、ヒラリエスに可能な限りのカスタムを施した。特にダメージが本人に伝搬しにくいよう改良されているはずなのだが、それもあのレーザーキャノンの前には雀の涙だったらしい。
左腕の一本でさえ激しい痛みを覚えるというのに、コアに三発も直撃したダムの激痛は測れるべきものでは到底ないだろう。
「クッ…。 …ふっ、戦場とは…こういうものだ!」
だが、ダムは呻きながらも気丈な態度を崩さない。そのまま両腕のコジマ・ライフルをハーフチャージし放つ。
ノブレス=オブリージュはその翼のようなレーザーキャノンの発射時に失ったエネルギーの反動で動けず、コジマ・ライフルによる打撃を受ける。
『がはっ……まだ、まだっ……! 耐えられる…!』
シュープリスとヒラリエスの前にまだなお立ちはだかるレオハルト。しかし、彼の目の前に更なるネクストが到着する。
『………。』
「どうする、ノブレス=オブリージュ。 降伏するか?」
レオハルトに降伏勧告を行う。ノブレス=オブリージュは既に体のあちらこちらから火花を散らしており、その膝は地に着き、頭は項垂れ、意思は既に削がれたかのように見える。
だが、そのネクストの象徴たる背部レーザーキャノンは展開され、その砲身はこちらを向く。
「見事だ」
再度グレネードを叩き込む。ノブレス=オブリージュは業火に包まれ、爆風の反動で外れたレーザーキャノンの代わりに、右腕のライフルをこちらに向けてくる。
まるで炎に包まれる怨嗟と共にこちらを睨んでいるように見え、その姿は場馴れしていないアンシールとダムを怯ませるには充分だった。
『すまない……後を頼む…
その言葉にいち早く反応し、アンシールが旧ピースシティの外れ、北西の方向を振り向き、全機に発信する。
『敵ネクストだ。一機、来るぜ』
「敵増援を確認。アナトリアの傭兵か……厄介な男が来たものだ」
『アナトリア? ………くくっ、ああ、例の時代遅れ──』
『黙れ』
ザンニがアンシールを諌める。あの男の潜在するネクスト戦闘の才能を知らないからこそ、その出自を嗤えるのだと。
『奴は尋常じゃあないぞ』
「ああ……。 優秀な戦士と聞いている。──潰すぞ」
比較的損害の少ないシュープリス、ラフカットが前衛、ヒラリエスとレッドキャップを後衛として四機もの数でアナトリアの傭兵のネクスト《アンノウン》に当たる。
アナトリアの傭兵。それは、伝説のレイヴンにして劣悪なAMS適性を持つ、新時代の負け犬。誰もがそう思っていたし、私も大した脅威には思っていなかった。
その考えを後悔することになるのは、アナトリアの傭兵がリンクスとして戦果を挙げてすぐだった。特に彼がイクバールの最新機《SARAF》を駆るホワイトアフリカの英雄、アマジーグを撃破した事で、周囲の彼を危険視する動きは急速に高まっていく事となる。その後も彼は傭兵として数多のネクストを撃破していき、企業のネクスト戦力が三分の一も撃破された時には既に、アスピナの傭兵ジョシュア・オブライエンを凌ぐ脅威と認識されていた。
あの男が来る。
あの男は不可能と言われた作戦すら可能にする。
あの男と刃を交えた者は生きて戻らない。
そこまで来れば上等だろう。 伝説、私が確かめる。
アンノウンは、かつては名のあるレイヴンだった。レイヴンとは、傭兵として旧式のACに乗り、様々な依頼をこなす者たちの総称。アナトリアの傭兵はアンノウンと呼ばれる機体を駆り、様々な任務を確実にこなし、強者犇めくアリーナのトップとして君臨し続けた、まさに伝説と呼ばれた男だった。
レイヴン、それは今や旧来のACに縋り付く劣等。AMSに恵まれず、ネクストとは比べるべくもない矮小な存在と成り下がった者たち。国家解体戦争の折には《オリジナル》ネクスト26機に対し旧式AC1093機、MT5936機、数万以上の戦車や戦闘攻撃機などの通常兵器が投入され、しかしそれらの大半の死に対して挙げた戦果は僅かにネクスト一機。それも数え切れないほどの激戦を乗り越えた、手練のレイヴン達が決死の波状攻撃を仕掛けた後に、疲弊したオリジナルの一機に対し伝説のレイヴンたるアナトリアの傭兵が、自身が意識不明の重傷と引き換えに得た戦果だった。
各国国家がこの結果を持って企業に降伏、僅か一週間に満たない期間で電撃的な勝利を飾った中、ネクストと交戦し唯一生き残った男。
その機体は様々な企業のパーツを継ぎ接ぎに使用した、いかにも企業に縛られない傭兵らしいものだった。頭部からそれぞれ047AN、HOGIRE、JUDITH、GAN01-SUNSHINE-L 。機体の防御力やカメラ性能、運動能力などをバランスよく揃え、様々な状況に対応可能な中量二脚機体だった。傭兵らしいとも言える。武装もレーダーなど索敵兵装を排して攻撃に偏重しており、マシンガン、レーザーブレード、VTFミサイル、グレネードキャノン、ECMと、あらゆる敵を想定しているらしく、武器の組み合わせで各距離への対応力を強化している。
ブリーフィングではこの男を最大の脅威とし、一人がアナトリアの傭兵を足止めしている間に二機で敵ネクストを処理する作戦だった。それも彼が遅れてきた為に、限りなくベストに近い形となって相対することになったが。
輸送ヘリによって運ばれてきたアナトリアの傭兵とそのネクスト《アンノウン》
「………来るぞ!」
シュープリスの左腕ライフルと右背部グレネードを同時斉射して、ザンニのラフカットが両腕のレーザーライフルを速射して迎撃する。その尽くをアンノウンは避け、クイックブーストとオーバードブーストを併用した凄まじいスピードで
「何っ…!?」
『なんだと…!』
二人揃って驚愕の声を挙げる間にアンノウンは、アンシールのレッドキャップの目の前に着地した。膝を折り曲げて着地の衝撃を受け止める。
『てめぇ…舐めてんのかっ!』
アンシールが啖呵を切って背部のスナイパーキャノンをアンノウンに放つ。それをクイックブーストで回避しながら右手マシンガン《03-MOTORCOBRA》の連射をレッドキャップにあびせて行く。プライマルアーマーが瞬く間に削られていき、その合間から左背部のVTFミサイルがレッドキャップの機体に直撃する。
『な……っ!? ど、どうなってんだ!? おいっ!』
破れかぶれに右手のライフルと左背部スナイパー砲をばら撒きながら逃げようとするが、そのまま追い縋られ左腕のレーザーブレード《02-DRAGONSLAYER》によって、コアごとアンシールの上半身と下半身は泣き別れの憂き目に遭うこととなった。
『クソが…嘘だろ………』
レッドキャップの脚が機体を支えられなくなり、コアはがくりと項垂れ、機体から黒煙が吹く。
手負いとはいえ、呆気なくネクストを葬り去る。アンシールが死んだのは、あの男を過小評価し過ぎていたからに他ならない。
『ベルリオーズ、ザンニ、私を援護してくれ。 コジマ・ライフルで一挙に決める』
『私が護衛に着く、ベルリオーズ、奴を削ってくれ』
「そっちは頼む」
任せろ、と一言残してザンニは別れ、私はシュープリスのブースタを強く吹かし、オーバードブースターの出力を最大にする。コア後部から高濃度のコジマ粒子を垂れ流して、旧ピースシティを汚染しながらアンノウンに突撃を仕掛ける。ライフル弾がアンノウンのプライマルアーマーを貫徹して機体装甲を削り、グレネードキャノンの爆風がPA*2の殆どを剥ぐ。
絶好の機会だったがグレネードキャノンのリロードには時間がかかる。舌打ちしながらライフルを数発命中させるに留め、砂漠に埋もれたビルを利用してアンノウンからの射線を切る。ビルの外壁に敵のVTFミサイルが直撃し、ビルが瓦礫と化していく。姿を隠し、それにアンノウンが気を取られている隙にコジマ・ライフルのチャージを終え、ザンニの護衛を伴ったダムがコジマの光を両の手に携えて突撃してくる。ヒラリエスに飛ばされたVTFミサイルをレーザーで迎撃し、爆煙の中央を突っ切るように新緑色の双眸が、アンノウンを捉えて吶喊する。
アンノウンは身をよじる様にクイックブーストして避けるが、一発がPAに被弾、コジマ粒子同士が結合しPAが剥げていく。そこにグレネードキャノンのリロードを終えたシュープリスがビル陰から勢いよく飛び出し、ロックし次第コジマ・ライフルの被弾で硬直したアンノウンにグレネードを叩き込む。
「どうだ……」
ザンニがレーザーライフルを構えたまま動かない。ダムもライフルの充填で減ったコジマ粒子を補充している。爆煙で敵機が見えない。
ふとレーダーを見る。遅すぎたことを除けば、その判断は間違ってはいなかった。
「……? ECM……? ……ザンニ!ダム!」
『な……?』
黒煙という糸を引いて、アンノウンは飛び出す。VTFミサイルとグレネードキャノンの同時射撃をもろに受けて、ラフカットは爆発の衝撃を受け止め切れずに吹き飛ばされた。
機体が焦げ、ザンニの全身が焦熱で焼かれるかのような、AMSからの激痛のフィードバックが押し寄せてくる。
『ぐっ…!?』
機体が衝撃で硬直し続けているところに、マシンガンとグレネードの同時攻撃が炸裂していく。ラフカットも硬直から立ち直り、逆関節機体の特長を存分に活かした三次元戦闘を展開し、ヒラリエスのハーフチャージコジマライフルによる援護がザンニを助けるが、援護射撃を凌ぎ切ったアンノウンのマシンガンにより、アンシールに続いてザンニも撃破される。
『なるほど、強い……っ』
呻くように言い残してザンニも息を引き取るが、彼の死を嘆く暇はなかった。たった数分もせずに二人の仲間が殺された事にダムは怯むが、ベルリオーズの叱咤で我を取り戻し、最後の一発となったコジマライフルのカートリッジにコジマ粒子を充填させる。ラフカットを撃破したアンノウンはヒラリエスを尻目にシュープリスと一対一の形を取った。
こうして対面に敵を置くことでようやく気付いたのだが、この男、ブースタには全体的に消費の大きいアリーヤを使っているらしく、その為比較的重厚なGA製の脚部に更なる重武装を施していながら、高機動を実現させていた。この様子だとジェネレータにもマクスウェル(S08-MAXWELL)を用いている事は間違いないだろう。そう捉えてみればこのネクストには多くのレイレナード製パーツが使われている。それらの全ては確かな実績と高水準を保つ性能が保証されていた。
それは間違いなく、技術と検証、それを経て選ばれたパーツ群を用いている事の証左でもあり、つまりは
『これが、伝説……』
ベルリオーズ自身も機体の性能などを鑑みて敵対企業有澤重工のグレネード砲を装備するなど、戦いをより有利に進めるためには他の企業の武装を使用する事を躊躇わない方ではあった。
だが、傭兵という点からしてもこの男は常軌を逸していた。多少なりとも、機体の構成パーツが変わればそれは操縦感が変わり、即ち多かれ少なかれ新しい機体の習熟に時間を費やすハメになるという事だ。それはどれだけベテランの兵士だとしても、あるいは従軍初日の新兵であっても変わらない。
あれだけちぐはぐなパーツを組み合わせているネクストだ、全てが全く違う感覚をフィードバックさせるはずだ。047ANのカメラは視力の高い人間に度の強い眼鏡をかけさせるように、JUDITHの腕部は筋骨隆々な男性が華奢な女性の腕を振るうように、GAN01-SUNSHINE-Lの脚部は身軽なズボンしか履かない女性が防弾プレートの装着された野戦服を履くように。
それぞれが全く別の機体から引き抜かれたパーツであり、操作感も全く違うということであり、それを正に手足の如く使い分けるあの傭兵の
(一度、戦闘データを纏めたシミュレーションの奴と戦った事はあるが………。 低水準のAMSで短期間でこうまであんなネクストを制御するか……怪物か)
シュープリスのライフル弾とアンノウンのマシンガン、VTFミサイルが、旧ピースシティの内外を飛び交う。互いを狙う銃撃は、手数のアンノウンと一撃のシュープリスに別れている。
ビル街に身を隠しVTFミサイルのロックをさせず、例え被ロック、発射されたとしても、肩部ユニットのBFF製フレアがミサイルを寄せ付けない。弾丸を左右へのクイックブーストで避け続け、例え向こうのマシンガンがPAや、PAを貫通して機体に被弾したとしても、こちらは連射が効かないものの、マシンガンの数倍の威力を持つライフルをPAを抜いて機体に着弾させ対抗する。
戦闘は熾烈を極め、的確な回避と攻撃を行なっている筈にも関わらず、戦況は依然としてアナトリアの傭兵に有利に傾き始めていた。お互いか弾丸の撃ち合いになっている筈だが、シュープリスのライフルの火力以上にアンノウンのマシンガンによるダメージが勝っている。機体損傷は既に80パーセントを越え、アンノウンは良くてもまだ50パーセントを軽く越えた程度だろう。
四対一など、無謀な試みの筈であった。先にローゼンタールとオーメルのリンクス二人を排除できたのは幸運の筈で、四機で単体を相手取るのもまた幸運な筈であった。
それがどうだ。
既に二人も撃破され、残った二機は満身創痍に近い。
勝ち目などなかったのか? この化け物相手には……。
ベルリオーズ! 貯まった!いけるぞ!!
後方で私を信じてライフルにコジマをチャージしていたダムの、その言葉で我に返る。そうだ。私は軍人だ。戦いに雑念は必要ない。ただ勝つために使えるものを使い、仲間に指示と檄を飛ばす。私の役目は、ただ戦い、勝つこと。
「ヒラリエス、行け!」
『ああ!』
フルチャージコジマライフルから放たれた超高濃度のコジマ粒子砲が、私と戦っていたアンノウンを目指してただ突き進む。私は奴を逃すわけにはいなかい。アンノウンへ向かい、左、前、右、前、そしてまた左と、左右に連続で機体を踊らせて的を絞らせず、ライフルとグレネードキャノンによって奴の機体を硬直させる。そこにコジマ砲が派手な爆音を上げて着弾した。金属の擦り切れるような音とプライマルアーマーが爆ぜ散るかのように霧散して、アナトリアの傭兵は沈黙した。
『ベルリオーズ!』
「あぁ……私達の勝……ッ!?」
馬鹿な。
ありえない
こんなはずは
アナトリアの傭兵……貴様の、その執念は
「ダム、撤退しろ!」
『……え? 私達が勝ったのだろう?』
「違う、これは………! ダム、私が足を止める、お前はピースシティを放棄してエグザウィルに撤退し、報告しろ…!」
『………っ! わ、わかった…!』
シュープリス越しにP.ダムは見たのだろう。この男の
ヒラリエスが戦闘モードを解除し、巡航モードのオーバードブーストで戦場から離脱する。その間も、私はこの倒れ伏した筈のアンノウンから目を離せずにいた。
傭兵。この男の力の源は、正しく
「機体のダメージは既に身体へのフィードバックを終えているはずだ。つまり、貴様は既に死んでいる筈………だというのに、まさか、文字通りの再起動とはな……ありえるのか? こんなリンクスが…」
『ベルリオーズ、撤退完了だ。 逃げられそうか!?』
「……不可能。これより敵ネクストを撃破する」
直ぐにグレネード砲を撃ち込む。煙の中を抜けてアンノウンはマシンガンとVTFミサイルを乱射してくる。ばら撒きながらもその視線もロックもこちらからは一時として外れていない。
グレネードキャノンを折り畳んで、両手のライフルをアンノウンに向けて速射する。発射速度が早く、ブレの少ないBFFのライフルから放たれる弾丸は、しかしアンノウンにクイックブーストで回避される。ベルリオーズも負けじと空に飛び上がり、クイックブーストとオーバードブーストを組み合わせた複雑な機動を持って応える。
マシンガンの弾幕が押し寄せ、多少被弾するが気にも留めず撃ち続ける。そのうち遂にマシンガンが弾切れしたらしく、右手の03-MOTORCOBRAをピースシティの砂漠に棄てている。
「余裕も無さそうだな……!」
右手の格納兵装を取り出し、パルスライフルを連射してくる。堪らずグレネードで応撃し、その隙にビル陰へと身を隠す。その反対側からクイックターンとクイックブーストを併用して、凄まじいスピードで飛び出し、左手のアサルトライフルを連射していく。アンノウンはそれに、
「……馬鹿な」
それはさっきまで使っていなかったし、シミュレーターでも実際の戦闘データや映像でも一切使用していなかった技。
私が今さっき使って見せた、超高機動を実現させる技。
(まさか、一度見ただけで真似したというのか)
クイックブーストによる回避機動を行いながら、思考を巡らせる。そうか、この男が噂に聞くイレギュラー…そういう訳か。たった一人で世界を覆しかねない力を持つ男……。 それが、彼。
そうして私は、尽きたフレアを棄てた直後のミサイル攻撃に斃れる。
機体からのフィードバックによって脳が焼かれていくかのような感覚が私を襲うが、その気持ちは極めて晴れやかだった。軍人である前に、私は戦士であったのだな。
「なるほど……良い、戦士だ………」
シュープリスが膝を着き、操縦が効かなくなる。アンノウンは構えていたパルスライフルを下げ、じっとこちらを見ている。
「感傷だが………。」
アンノウンは答えない。
「別の形で、出会いたかったぞ………」
私の意識はそこで途絶えたのを覚えている。
次からベルリオーズが幻想郷の何処かで目覚めます。
それでは、また。