ベルリオーズ、幻想の地にて安住を見出したり   作:レイレナード広報部

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「隊長、スキャン結果が出ました。コジマ濃度、汚染共に平均を少し上回るレベルです。それと………」

「それと、どうした?」

「ネクストの残骸をスキャンできましたが、報告では四機…MARCHE AU SUPPLICE作戦の被害、及び撃破数と一致しません。報告によるとロストしたネクストACは自軍敵軍合わせて五機の筈ですが」

「何が消えた?」

「報告では……残骸が消えたACはベルリオーズ上級大尉の『シュープリス』だとの事です」





二話

 

 

 

 箒で雑草を薙ぎ払い、その傍らで大型ナイフを使って小枝を切り落としながら進む道を確保している魔理沙と私は、僅かに草の生えていない道を、こうして邪魔なものを排除しながら進んでいる。

 

「おい、魔理沙……ここはお前もよく通る道なのだろう?」

「あぁ…そうだぜ」

 

 箒で腰の丈ほどもある雑草を薙ぎながら、魔理沙はそう答える。

 

「だとすれば、どうしてこうまで………ふんっ! …草木に覆われている。 数ヶ月、数年は通っていないのか?」

 

 私がそう問うと、魔理沙は頬を掻きながら言った。

 

「あー…そうだな、言っといた方がいいか。 ここは『魔法の森』なんだよ。信じられないと思うけどな。あんたが倒れてたのも、多分妖力の吸いすぎだろ」

「………あー、何だと? 魔法?……妖力?」

 

 さっぱりわからなかった。ファンタジーに興味はないので無理もないが、そういった類の小説をよく購読していたダムならば、まだ話についていけもしたのだろうか。

 

「まぁ納得は出来ないだろ。でも、それが理由。この森は妖力に溢れてて、そのぶんこんな感じで植物の成長がおかしいぐらい早いんだ。……ほら、これわかるか?」

「…むっ」

 

 魔理沙が箒の先端で指した場所を注視してみれば、先程私がナイフで切り落とした蔦の切断面が、もう再生しかけていた。瑞々しいその周囲を、非常に薄い紫の霧状の何かが覆い、次々に吸い込まれていく。その度に切れた蔦が伸びていった。

 

「そういう事か……。 いよいよもって、これが現実かどうか疑わしくなってきたようだ」

「そうは言ってもなぁ。私達にとっての現実がこれだぜ。その反応は面白いけどな!」

 

 けらけらと笑いながら彼女は蔦や草木を薙いで進んでいき、私もその後を続く。

 

「で、さ。あんたが持ってる、その拳銃。そのままじゃあ、多分役には立たないと思うぜ。あんたがこの森みたいな危ない場所を探索したりするってんならね」

「どういう事だ?」

 

「えっとさ、これも信じられないと思うけど……妖怪ってのが居るんだよ。怪異にも近いな。そういうのって、実体の物は効果が薄いんだよ。効くのは概念。つまり、こいつは妖怪に効く!っていう概念がね。 盛り塩って聞かないか?」

「………あぁ、幽霊を追い払うだとか、結界になるだとか、という奴か?」

 

 魔理沙がにこりと笑った。

 

「そう」彼女は頷く。

 

「実の所、あれは盛り塩自体に力がある訳じゃあないのさ。 盛り塩が『()()()()()()()()』という()()()宿()()()()になるって事なんだ」

「つまり、盛り塩が力を持っている訳ではないんだな」

「そう、そういう物を『概念』と呼び、それが妖怪や幽霊、怪異といった非現実的なものに効くわけだ」

 

 理解は追いつかないが、それでも大体の内容は理解できた。

 

「で、それがどうして私の拳銃が役に立たなくなるか、という話だったな。実弾ではその妖怪とやらに効かないというのも、概念が効くのもわかった。では、それを私はどうしたらいい?」

 

「簡単、あんた『銀の弾丸』って知ってるか?」

銀の弾丸(シルバー・バレット)か? 悪魔や狼男を殺す、祈りの込められた……」

 

 私の脳裏に一人の男が過ぎる。初老の男性で、コードネームをテペス=ヴラドと言った。AMS研究の最先端にいながら優れたリンクスとして、同時にアクアビットの最高戦力の一人としても知られるオリジナル。彼もまた、私達と志を共にし、未来を切り拓く弾丸の意を込め、自身のネクストにシルバーバレットと名付けていた。

 

「それだよ、ベルリオーズ! わかるか?祈りの込められた銀の弾丸は、悪魔を倒せるんだよ。つまり、弾丸に()()()()()()()を取り込めさせれば良いわけさ」

 

 なるほど、と私は頷く。そういう原理なら確かに弾丸が霊を殺す事ができるようになるという理由にも納得が行く。

 

「で、それをする為には私はどうしたらよいのかな?」

「簡単さ。ほら、もう出れるぞ」

 

 そう言われて、彼女が指差す方向を見てみれば、そこにはとても広大な、太陽の光を享受する草原が広がっていた。とても私が居た土地では目にする事など出来ない光景だった。

 

「おお………とても綺麗だな」

「綺麗か………。 そっちの世界は相当に酷いらしいな」

「まぁ、な。既に都市開発がほぼ世界中に発展していた事もあって、工場から漏れ出る排煙に覆われた地球の青い空を拝む事など、ついぞ無かったよ。 物心着いた時から、戦争、戦争、戦争……」

 

 嫌味ったらしくあの世界を批判する。雲と灰色に覆われた地上に育った私には、この世界がとても素晴らしいものだと思わせる全ての要素が備わっていた。美しい空、澄んだ空気、そして広大な緑。その全てが私を拒まないような気さえする。

 だが、それは魔理沙にとっては少しばかり悲劇的なものに写ったらしかった。

 

「あー……いや、すまん。そこまで酷いとは思わなんだ…」

「いい、私はあの世界で精一杯に生きようともがいた。それだけで生きたと思えるのだ、私はな。 それに…」

 

「それに?」

 

 魔理沙が続きを促す。

 

「ここは素晴らしい。父の世代の人間すら見られなんだ、素敵な景色が、こうして一面に広がっている。美しい世界だ、ここは」

「ふーん……ま、そうまで言われりゃあいつも悪い気はしないだろうな」

 

 上を見ながら魔理沙は言った。

 

「あいつ?」

「そ、あいつ。上見てみな」

 

 そう言われて上を見てみると、人影が太陽を影に飛んでいるのが見えた。スカートのようなものを履いているようで、背格好を見ても少女である事は確かだろう。

 

「……飛ぶのか? ……人が?」

「これも常識だぜ?」

 

 頭を抱えそうになるが、既の所で堪えた。

 

「霊夢だ。私達を探してるんだ」

「我々をか? どうしてだ」

「さぁな。 すぅぅ………おぉーい!霊夢ぅー!!!」

 

 箒を手の代わりに振りながら、上空を飛ぶ少女、霊夢と呼ばれている彼女に自分の位置を合図する。霊夢もそれに気が付いたらしく、ここに降りてくるのが見える。

 

「おい、魔理沙。 ふと気になったのだが」

「ん?」

「お前も飛べるのか?」

 

 魔理沙はそれを聞くや否や、箒に跨って私の周囲を軽くくるりと舞ってみせ、そのまま元いた場所に着地した。

 

「どうだ?」

「あぁ……わかった、ありがとう」

 

 いっそ一回りして羨ましい。人がこうして飛べるようになれば、訓練すれば一定の重量以下の物資を運搬など出来るのだろうか。ヘリの方が積載量は確実に多いが、ローターの駆動音が無い分敵地での隠密行動や運搬行為を行いやすいのだろうか。

 

 そこまで考えて辞めた。 この不思議な力は、ただ秘匿によってのみ守られるものだと私は感じたからだ。広く知られれば彼女達に安寧は無いだろう。

 そして霊夢という少女は降り立った。赤と白、時折黄色の交じった巫女服と言うらしい服を着て、私達の前に立つ。

 

「魔理沙、ここに居たのね。 …そちらは?」

「ベルリオーズだ、軍人をやっている。よろしく頼む」

「博麗霊夢です。 そのベルリオーズという名前は偽名ですか?」

 

 鋭い、私はそう思わざるを得なかった。昨晩にでも、霊夢と魔理沙が秘密裏にコンタクトを取っていなければ、このベルリオーズを偽名と思う者は、日本語話者には決して多くはないだろう。

 

「…よくわかったな。これは確かに偽名だ」

「やはり、そういう気がしたので。お気を悪くされてしまったのなら、すみません」

「いやいい、看破されたとて、気にするものではない」

 

 霊夢が私にぺこりと会釈し、魔理沙に向かって何かを話し始めた。にへらと笑顔を浮かべていた魔理沙も、霊夢の話を聞くにつれて神妙な面持ちになっていく。

 

「……本当か、だとすると相当マズい事になるぞ」

「えぇ………。 彼にも話すべきかしら?」

「ああ、そいつがベルリオーズの捜し物だったら、もっと不味いことになる」

 

 そう言って魔理沙は頷き、霊夢と共に私の方を向いて、私の目を見て聞いてくる。

 

「なぁ、ベルリオーズ……。 ()()()()()()()()()()()()に見覚えは?」

 

 それを聞いて、私はすぐに分かった。シュープリスが呼んでいる、私と共に行方知れずとなった私の半身が、私に会おうとしているのだと。

 

「………何処にある?」

「やっぱりか………。 落ち着いて聞いてくれ、あれをあんたに取りに行かせる訳にはいかなくなった」

「何故…」

「それは私から説明します。魔理沙、少し待って」

「わかった……」

 

 霊夢が私に向き直り、キッパリと告げた。

 

「貴方を()()()には連れて行けない。あそこは、ただの人間が行くには些か危険に過ぎますから」

「それは承知した、取り返せそうか?」

 

 霊夢は頭を掻きながら続ける。

 

「やってみますが、何とも。聞けば巨大なヒトガタだそうで、私では持ち運びも出来ないでしょう」

「なら私が動かすしかないだろう。護衛してくれるか?」

「おい、私に振るな」

 

 魔理沙が面倒そうに言った。その態度が楽観視しているように見えたのもあってか、ネクストの本当の危険性を知らない二人に焦りを覚える。

 

「兎に角、だ。その『紅魔館』という館の人間は何をするつもりだ? 私のネクスト……いや、ヒトガタで」

 

 霊夢はバツが悪そうに続けた。

 

「私の、情報を渡してくれる……所謂伝手が、そのヒトガタの燃料を使って大きなエネルギーを得て宇宙を目指す、と教えてくれました。恐らくはロケットの開発にでも着手しているのかと」

「それは……不味いな」

「何かマズい事が?」

 

 魔理沙が聞いてくる。ネクストの危険性は知識のない人間に制御出来るものでは到底無い。

 

「ネクストとは、コジマ技術の塊だ。 それを取り出してなんぞしてみろ」

「………どうなる?」

 

「……………。 爆発する。広域にコジマ粒子が散布される事は疑いようもないだろう。最悪、館とやらと、その周囲1万ヘクタール程がコジマに包まれる。 ……そうなれば終わりだ」

 

 魔理沙が訝しむように質問する。

 

「終わる……? そ、その()()()ってのは何なんだよ、それは何を理由にどうやって終わらせてくるんだ」

 

「コジマ粒子は、自然の全てを何も考えずに生産される、重金属粒子だ。一つ草木に付着すれば、その周囲一帯の緑は一晩と持たずに枯れ果て、向こう50年、いや100年は花も芽吹かない荒地となる」

 

「な………!?」

「そんな、そこまで酷いなんて……」

 

 魔理沙は焦るように、ベルリオーズに質問を投げかける。

 

「じ…じゃあ、さ! 私達でそいつを…ネクストを動かして逃がせばいい! その間、霊夢かわたしが邪魔をする奴を蹴散らせば問題ないだろ?!」

「それが、そうもいかん……。 魔理沙には今朝頃話したと思うが、ネクストは選ばれた人間しか動かせん。選ばれなかった人間が無理に動かそうとすれば、脳神経が焼かれ損傷……精神が不安定になるか、運が悪ければ最悪廃人になるぞ」

 

 じゃあ、と魔理沙が捻り出すように呟いた。

 

「どうしたら……どうするんだよ、ベルリオーズ?」

 

「………私が行くしかない、君達二人にAMS適性があるかなど今調べる事はできない。それにあったとして、専用の機器が無い分余計に負荷が高まってしまう。私が行く方が、君達に任せ切りよりも余程賢明だ」

 

「……………くっ! 何も出来ないのが怨めしいぜ」

 

 魔理沙が草を蹴って、霊夢はそれを諌めた。

 

「そう言わないで。魔理沙はベルリオーズさんを守るのよ。私はレミリアと話をつけてくるから、何かあったら頼むわ」

「わかった…そっちは任せたぜ。 ……ところで、いつ行くんだ? ベルリオーズの鉄砲を改造するってのもまだ出来てないし…」

 

 私には考えがあった。と言っても賢い考えではない。計画等考えるのは企業軍上層の人間であったし、私は少し腕に自信があるだけの軍人だ。だからこそ正面から行く。

 

「今行こう。何、隠れてコソコソ戦う夜間戦闘も経験している、問題は無い。君達が派手に気を引いてくれれば裏で侵入できる。こっそりとシュープリスに乗って逃げればいい」

 

 そんな無茶苦茶な……。とは霊夢の言葉。面白い、気に入ったぜ!とは魔理沙の言葉。

 

「無茶も通さないといけない事態だ、理解してくれ。コジマ・ジェネレータはレイレナードのブラックボックスだ、取り出しなんぞした暁には自壊も視野に入れねばならん。時は一刻を争う、案内できるか」

 

「わかった、任せろ! 霊夢、そっちは美鈴に言って堂々と通してもらえ。 こっちは気を引く為にも、裏から派手にやる」

「咲夜の頭が痛くならない程度にね。 そうも言ってられないか、ベルリオーズさんも、よろしく頼みます」

 

 霊夢は足に軽く力を込め、そのまま跳躍して、空を飛行していく。鳥の翼がある訳でもないのに人が飛ぶ姿は、二度も見たとしても慣れないものだった。

 

「ベルリオーズ、こっちもぼちぼち行くか」

「あぁ、よろしく頼む。影で上手くやっておく。気を引いておいてくれ」

「任された。行くぜ!」

 

 魔理沙の箒に跨るよう指示され、その通りにしてみれば、私もあの前を飛ぶ霊夢のように素晴らしく澄んだ空気の空を浮遊したのだった。

 魔理沙という制約付きだったが。

 

 











 同時刻。レイレナード本社エグザウィル
 17階 作戦統括本部室③室内。


 レイレナード作戦司令室では、作戦の失敗を唯一の生き残りであるP.ダムから知らされた、MARCHE AU SUPPLICE作戦の総指揮官エド・ブラッカー中佐が、口に咥えた電子タバコを仕舞いながら溜息をついた。

「すまない、エド。皆がアナトリアの傭兵にやられたのは、私の失態だ」
「いや、その件はどうしようもなかった。それに、言っておくべきこともあるしな………。 お前達、席を外せ」

 エドがP.ダムの後ろに待機していたガードに部屋からの退室を命令する。一人が頷き、それに続いて残る三名も部屋を抜けた。中に残っているのはエドとダムだけである。

「……誰も聞いていないな。 俺の知っている情報を全て話す、お前には秘密裏に動いてもらうぞ。GAのリンクス、エンリケ=エルカーノと協働して任務に当たれ」
「……エンリケ=エルカーノ? 敵同士の筈だ」

 エドが首を横に振って否定し、そのまま続ける。

「そうもいかなくなった。 ……アクアビットには情報を捏造し、ダムは作戦の後遺症で錯乱、ネクスト一機を奪って逃亡したと報告してある。今日からリンクスナンバー21はMissing(生死不明)とする」

「おい、質問に応えていないぞ」
「ベルリオーズのネクスト、シュープリスが何者かに奪取された」
「………何…!?」

 ダムが混乱するが、エドはそれを手で制して話を戻した。

「インテリオルから貸与された我々の特殊ノーマル部隊と、数機のBFFノーマル隊がアナトリアの傭兵の離脱後、ピースシティを監視していたが、何者かが出入りした様子はない。この件は同時期に監視活動を行っていたGA側と擦り込み済みだ」

「そうか、GAもレイレナードのネクスト技術は欲しい。だがレイレナードもおいそれと渡す訳にもいかない。が、お互い単体では情報を何も得られない、成果も挙げられない。だから協力すると。そういう事で、間違いないな?」
「あぁ……。 勝手な話だがな。お上様から指示を飛ばせるのは俺だけだから、こんな面倒な仕事を俺に押し付けてきたってわけさ。やれるな、ダム?」

「任せてくれ。どうせ一度は死にかけた身だ。GAのリンクスと共に動くのも面白い」

 契約成立。そう言って、エドがニヤリと笑った。
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