禪院家の末っ子は、禪院家を潰したい。   作:バナハロ

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家族かどうかは血ではなく本人達が決める。

 乙骨憂太がその場に来たのは「なんか騒がしいなー」程度の事だった。真希も様子を見に行ってから戻ってきていないし、なんとなく気になった、と思って行ってみた。

 そこに広がっていたのは……自身のクラスメート。それもいつもの元気で一風変わった姿ではなく、みんながみんな等しく、死体のように転がっていた。

 その中心で、涙を浮かべながら立っているのは、夏油傑。涙を浮かべているのに、とても愉快そうに笑みを浮かべていた。

 

「本当はね、君にも生きていて欲しいんだ。乙骨。でも、全ては呪術界の未来のためだ」

 

 そのセリフは、耳に入らない。辛うじて憂太の耳に入ったのは、唯一意識があった棘の掠れた声だった。

 

【ゆぅだ……逃……げろ……』

 

 発動しようとした呪言は、残念ながら最後までもたなかった。しかし、お陰で別の呪いを生み出すこととなる。

 目を見開き、刀を抜いた憂太は殺意と憎しみを込めて、この場にいるもう一人を呼び出した。

 

「来い‼︎ 里香ッッ‼︎」

 

 その号令に、想い人は応えた。憂太の背後から、姿は変わり果てても中身は変わらない少女が、完全に顕現してみせた。

 呪いの女王……祈本里香。それを目の前にしながらも、夏油傑は笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

「君を殺す」

「ブッ殺してやる……‼︎」

 

 それは、開戦の狼煙の代わりとなった。法螺貝が吹かれたわけでもないのに、二人同時に動き出す。

 正面から斬りかかる憂太とは真逆に、傑は距離を取るように下がり、大量の呪いを召喚した。雑魚達による命を捨てた特攻突撃。それらの呪いを、憂太が斬り払う間に里香は倒れている三人を回収する。

 そして、一時的に傑から離れた建物の中で三人を置いた。

 

「死なせない……!」

 

 反転術式……身体を元の状態に戻す術式だ。それを三人に当てがい、体を治させる。

 そんな中だった。その中で一番、重症であった真希を、里香が攫う。

 

『ズルィ……ズルぃズルぃイイ‼︎ お前ばっかり、お前ばっがりぃいいい‼︎』

「何してる……里香」

 

 その里香に、憂太から発せられたとは思えないほどドスの効いた声が届く。

 

「その人は僕の大切な人だ……蝶よりも花よりも、丁重に扱え……‼︎」

『ッ……ごめんなさい、ごめんなさい‼︎』

 

 すぐに里香は、憂太の言うことにしたがい、涙を流して真希を返した。

 

『怒らないで!』

「怒ってないよ」

『嫌いにならないでェ‼︎』

「嫌いになんてならないよ」

 

 そう言いながら、憂太は建物の手すりに出て、外を見下ろす。真下にいる夏油傑に狙いを定めた。

 

「まずは質より量。……どう出る? 呪いの女王」

 

 そう言う通り、呪いを数多く出し、兵隊を揃えている。自分達が戦うべき相手はあっち。

 それに対し、憂太は。

 

「里香。あれをやるぞ」

 

 そう言った直後、手元に呼び出したのは狗巻家の紋章がついたスピーカーだ。

 まさか、と傑が思ったのも束の間、すぐに憂太は手っ取り早い一言を告げた。

 

【死ね】

 

 それを合図に、せっかく揃えた兵隊達は一斉に霧となって消失していった。

 呪言をいとも簡単に使いこなし、再び傑に目を向けた。狗巻家相伝の術式を、呪術を学んで一年にも満たない少年が使いこなしたことに感動しているが、憂太としては納得いっていない様子だ。

 

「難しいな……呪力が拡散して狙いが定まらないや……狗巻くんはすごいなぁ……それを、お前は……お前は……!」

 

 そう呟くと、次の手に移った。片手のものしか見ていないのでそれしか使えないが、それで十分だ。

 何をするつもりだ? と、傑が片眉を上げたのも束の間、すぐに驚いたように目を見開いた。

 

「お前なんか……お前の部下の技に殺されるのがお似合いだ……‼︎」

 

 キンッ、という甲高い音。それと同時に憂太の掌の前に現れたのは、Sの刻印だった。

 あれは……要の術式。確か名前は…… 『スイッチヒッター』だったろうか? 野球で両方の打席から打てるバッターのことを指した用語。

 前に会ったとき、要は術式を使っていなかったはずだが……いや、それより前、四月に様子見しに行った時か。

 どちらにせよ、片方しか出ていないが、片方でも厄介だ。

 

「チッ……!」

 

 あの刻印には当たるわけにはいかない。すぐに移動し、場所を移した。ここからは機動戦に切り替えた。

 

 ×××

 

 一方で、新宿では。菜々子と美々子は邪魔をしてくる現場監督を続々と吊るしていった。

 頭数は負けている……が、それは術師の話。呪いを混ぜればその限りではない。

 傑が繰り出した呪霊に援護をさせつつ、しっかりと仕事をこなしていた。

 

「あーあ……思ったより楽勝じゃん? 百鬼夜行」

「……うん。これなら……要なしでも、余裕……」

「てかさー、なんで夏油さま、京都を要一人にしたんだろーね」

「……分からない」

 

 子供一人に戦場を任せるなんて、傑らしくない。万が一があった時、保険が効かないし、京都だと傑の援護も出来ない。

 

「……ま、大丈夫でしょ」

「うん……夏油さまが考えること、だもんね……!」

 

 家族は決して見捨てない。それが傑だ。最後、乙骨憂太が持つ祈本里香を手に入れた場合、残りは自分一人で片付けるため、先に家族達には帰るように命令までしていた。

 だから、大丈夫。なんだかんだ年も近くて一緒に行動することも多かった要に情が湧いた二人は、要にも死んでほしくない。

 その二人に、弱々しくもはっきりした声音が届く。

 

「君達、歳は?」

「15ー」

「まだ子供じゃないですか。物の良し悪しもついていないでしょう。今ならまだ引き返せます」

「カッチーン」

 

 そのセリフに、菜々子が如何にも「キレました」と言うような声を漏らす。

 

「美々子ぉ、あいつゲロムカつかねえ?」

「吊るす? 菜々子、吊るす?」

 

 あいつには分からない。地図にも載っていないような田舎で、呪術を持つ者がどう言う扱いを受けているのか。

 それを助けてくれた人が言う事は絶対なのだ。物の良し悪しなどで止める理由にならないどころか、そもそも論点が違う。

 菜々子はスマホ、美々子はぬいぐるみを構えて、真っ直ぐと伊地知を睨みつける。

 

「夏油さまの邪魔をするなら、呪ってやる!」

「っ……!」

 

 ダメか、と伊地知が汗を流して狼狽えている時だ。その三人の近くに、建物を巻き込んで落下してくる影が見える。

 落下し、身体をおこしたのはミゲル。自らの武器である縄を持って、すぐに立ち上がった。

 それを見て、信じられない、と言うように声が漏れる。

 

「ミゲル⁉︎ あんた何してんの⁉︎」

「見テ分カレ!」

 

 叫び返されるが、その後ろから冷たい声音が響く。

 

「しぶといな」

「っ……!」

 

 すぐに身構えるミゲルだが、あっという間にその男は距離を詰めた。そこから繰り出されるのは、術式を込めた拳。それが直撃する前に、自らの祖国から持って来た黒縄を当てて防ぐ。

 

「チッ……」

 

 あのミゲルが……五条悟の足止め役が出来るのが、要を除いて一人しかいないと言われた、自分達の最高戦力の一人であるミゲルが、むしろ簡単にあしらわれている。

 菜々子と美々子はすぐに思い知らされた。自分達がこの戦場で無事でいられているのは、ミゲルがあの化け物を相手してくれているからに他ならない。

 

「こんな事なら……要の後について行けばよかったかも……」

「う、うん……」

 

 とりあえず、離れないといけない。万が一にも、自分達がミゲルの足を引っ張るようなことがあれば、それは最終的に傑へ影響する。

 そう思い、すぐに背中を向けて移動を始めようとした時だ。さっきまで目の前にいたはずの男が、背後で突っ立っていた。まるで、振り向くのを待っていたように。

 思わず、呼吸の仕方を忘れたように息が止まった。

 

「ねぇ、君達」

「っ……!」

「君達と同い年くらいの子、いるよね。僕、その子のことも止めないといけなくてさぁ」

 

 声音に殺意はこもっていない。だから怖かった。殺す気があるのかないのか分からなかったから。自分達のリーダーにとっては元親友らしいが、恐ろしい友達もいたもんだ。

 

「場所、教えてくれない? 教えてくれれば、あの外国人も殺さないであげるよ」

 

 どういう意味か、はすぐに分かった。自分達2人とミゲルの命。だが、その子の事を殺さないとは限らない。

 仮にも家族。身勝手で傍若無人だけど、それでも売るわけにはいかない。

 

「……い、言わない……!」

「美々子、こっち!」

 

 二人で手を繋いで逃げ出した。とにかく、ここで戦闘を続けるのは危険だ。距離を離さないと。

 

 ×××

 

「中々、根性アルダロウ?」

 

 そう声をかけてきたのは、自分が相手をしている外国人。術式……と言うより、持っているあの縄の効果だろう。完全に受けに回って時間稼ぎを上手いことこなしている。

 だが、それより感心しているのはあの子達だ。今まで、生まれた時から命を狙われてきた悟だが、先にこちらが気付き、視線を向けただけでビビって逃げ出す雑魚は多かった。ましてや「仲間の居場所を吐け」と言ってやれば絆もクソもない様子でペラペラ話す奴が多かった。

 だが、あの二人はあの年で口を塞ぎ、戦っても勝てないと分かった上で逃げている。

 

「……そうだな。お前ら、ほんとに呪詛師か?」

「ソンナ安イ言葉デ括ルナ。血モ何モ繋ガッテイナイガ、家族ダ」

「そうかよ」

 

 傑は相当、全員に対して親身に接してきたようだ。

 けど、と悟はすぐにその脆さも分かった気がした。もし、その中心人物である傑がいなくなれば、この家族は間違いなく瓦解する。

 

「……お前にも聞いといてやるよ、黒人ラッパー。要は何処だ?」

「言ウワケガナイダロ」

「……なーんか、僕が悪役みたいなやり取りだな。ちょっとムカついてきた」

 

 なんで呪詛師である向こうの方が、ちょっと主人公っぽい台詞を吐いているのだろうか。まぁ、強いとこういう面に遭遇する事も少なくはないので、あんまり気にしてはいないが。

 

「……ま、あんたの場合は容赦しないよ。自分から言いたいと思うまでサンドバッグにしてやる」

「……少シハ手加減シロ。特級」

 

 そう言うと、すぐに悟は仕掛けた。目の前まで高速移動で接近し、拳を構える。術式が乱されるなら、基礎の呪力でゴリ押しするだけだ。

 今度こそ、ラッシュを命中させる。拳と蹴りを繰り出し、顔面やボディを抉り上げ、後方へ蹴り飛ばす。建物にいくつか穴を空けてやり、走って追いつこうとすると、傑が放った呪い達がカバーしに来るが、それらは足止めにもならない。「赫」を放ち、改札を通るように抜けて祓うと、ミゲルに追いついた。

 

「!」

「何処? 要は」

「話スコトナドナイ!」

「あっそ」

 

 答えを聞いた直後、ミゲルの顔面を掴み、地面に叩きつけた後、真上に思いっきり遠投する。

 宙に浮かび上がったミゲルに、ビルの壁を走って追いつくとサッカーのオーバーヘッドシュートのように蹴ってビルの壁に叩きつける。

 そこは更に術式を使って移動し、後ろから背中に肘打ちをかました。殴り飛ばし、飛んでいく前に肩を掴んで動けなくさせ、さらに膝蹴りを何発もかました後、頭の上に手を置き、身体を思いっきり振り上げて旋回しながら、膝蹴りを胸に放って蹴り飛ばした。

 

「ゴッファッ……‼︎」

 

 すぐに追撃。追いつこうとした直後だ。比較的巨大な呪霊が壁を作るように揃った。

 

「チッ……」

 

 本当にしぶとい。このままでは、真希との約束を果たせないかもしれない。あの場で切り札となる要をわざわざ連れてきたのは、もう1人の切り札である目の前の外国人を自分にぶつけるためだったのかもしれない。

 真希も棘もパンダも、覚醒した憂太なら守り切れるだろうが、万が一にもあそこに要が来たら……。

 

「……最悪、真希以外全滅するな……」

 

 何か手を打たないといけない。

 

 ×××

 

 大量の振動と大きな音で、ふと意識が戻る。さっきまで身体に走っていた痛みは、今はもうない。ちょっとだけ怠さが残っているが、近くから聞こえる戦闘音が、寝ている場合ではないことを思い出させる。

 

「っ!」

 

 身体を起こすと、まず目に入ったのはパンダと棘。二人とも隣で倒れていたが、気絶しているだけなのか傷一つない。

 

「一体……何が……!」

 

 とりあえず振動の方に顔を向けると、そこにいたのは元気に暴れる里香と憂太、そして相手にしているのは夏油傑。呪いは使わずに三節棍を用いて、里香と怒りによってヒートアップしている憂太の2人がかりを捌いていた。

 ……いや、驚くべきは憂太の方か。過去に見ない程の速度と呪力操作を見せている。

 

「っ……」

 

 あそこに自分が行っても邪魔になるだけ、と言うのはすぐに分かった。

 また、見ているだけ……と、少しだけ自債の念が浮かんでしまいつつも、とりあえず真希は近くで寝ている友人二人を起こした。

 

 ×××

 

 傑と憂太の戦闘は激しさを増し、周りの建築物にも影響を及ぼし始めた。建物を倒す、崩す、壊すなどは当たり前。物によっては崩れた後に押し込まれ、武器にして扱われる。

 

「やるね! 片方しかない刻印だけでそこまでやるとは!」

「ッ……!」

 

 瓦礫を回避しながら、傑は雑魚を飛ばして牽制しつつ、三節棍を振るう。お互いに憂太も傑も、紙一重での回避を繰り返しながら、受けに回らず攻め続けていた。

 憂太が、刀に呪力を込める。ズズッ、と誰が見ても分かる程、大量に込められた。

 それと同時に、空中から刻印が放たれる。当たると思った傑は、呪霊を大量に呼び出して刻印を防ぐと、真上にジャンプして回避。

 そのさらに上から、里香が迫ってくる。

 

「へぇっ……!」

 

 三節棍を盾にしてガード。衝撃は消し切れないため、地面に叩きつけられた。

 受け身を取り、すぐに下がった直後、背後から悪寒。先程、大量に練られた呪力。

 それに対し傑は笑顔で応じた。

 

「そう来ると、思った!」

 

 縦に振り下ろされた刀を回避すると、それを上から呪力を込めた足で踏み付け、折った。

 呪力を込められすぎたものは脆くなる……というより、保たなくなる。わざわざ足で折ってやる必要もなかったが、懐に踏み込むついでだ。

 三節棍を振り上げようとした直後だった。メゴッ、と顔面に拳が炸裂する。それと同時に、空間に黒い歪みが発生し、周囲に弾け飛んだ。

 

「ーッ……!」

 

 ゴッ、ガッ、ゴロンッと転がり、仰向けになって寝転がる。今のは効いた。立てなくなるほどではないが、呪力のガードが間に合わなければ脳が揺れていただろう。

 里香ではたき落とした後の大振りも布石、今の一発に繋げるために武器を捨てた。戦闘経験は浅いはずなのにその思い切りの良さ、素直に賞賛に値する。

 

「……やるじゃないか」

 

 本当に、可能なら生きていてほしい子だ。高専より先に見つけていれば、とも思う。

 だが、まぁそれが叶わなかった以上は仕方ない。立ち上がりながら、首の調子を確かめるように左右に捻ると、憂太が自分に向かって叫んだ。

 

「悪いけど、お前の言う思想になんか興味ないよ!」

 

 そう言いながら、刀の柄を放って捨てる憂太。

 

「高専の外にいる呪術師がどんな目にあってるかなんて知らないし、呪術師がどうあるべきとか、世界がどうのなんて分からない‼︎」

「……」

「けど僕が、みんなの友達で良いと言えるように! 僕がこれから生きていても良いと胸を張って言えるように! ……お前を殺さなきゃならないんだ」

「……自己中心的だね」

 

 少し呆れ気味に立ち上がる。

 さて、そろそろ時間もない。こちらを早めに片付けないとミゲルが危険だ。要から聞いた情報によると、あの刻印は里香を抑えるのに長くて10秒しかもっていない。

 ならば、こちらの極の番を防ぐことは出来ないだろう。一気に決着をつける。

 

「私が今、所持している呪霊は五千を超える。それに追加し、特級仮想怨霊『化身玉藻前』。これらを一気に、君にぶつける」

 

 そう言いつつ、傑は人差し指と中指を立て、真上に掲げた。そこを中心に、ドス黒い呪いの渦が巻かれ始める。

 集められた呪い達は一つの塊となり、今にも破裂しそうなほどに禍々しく蠢いていた。

 

「呪霊操術、極ノ番『うずまき』。君に、これが耐えられるかい?」

「……」

 

 確かに、掠りでもしたら吹き飛ばされそうなものだ。まだ呪術について学び始めて一年未満でも理解出来るものだ。

 その質量を前に、憂太は死んだ後になっても自らを守ってくれていた少女を、正面から抱き締めた。

 

「里香」

『なぁに』

 

 ×××

 

 あらかじめ撤退の時間が決まっていたからか、呪詛師集団は撤退を始めた。追撃したい所だが、ミゲルを無事では済まない状態に追い込んだ悟はすぐに高専へ移動した。

 その背中を眺めながら、現場にいる夜蛾は一先ず腰を下ろす。ようやく休める……なんて年寄りみたいなことを言ってしまったが、実際に疲れたので仕方ない。

 まだ終わりではないが、残りの仕事は残りの呪霊を片付ける事。

 夏油傑の仲間達は巨大な呪いに乗って逃げて行った。

 

「お疲れ様です、学長」

 

 そう声をかけてきたのは、家入硝子。喫煙を除けば、唯一自分の生徒の中で大人しかった子だ。

 

「お疲れ。……終わったな。夏油は結局、現れなかったが」

「学校の方に現れたそうですよ」

「……なに?」

「もう、乙骨が倒してしまったかもしれませんが」

「なるほど……悟め、パンダと狗巻を送り込んだのはそう言うことか」

 

 憂太へ発破を掛けるためだ。傑なら意味もなく若い呪術師を殺すような事はしない、と信頼してのことだろう。親友ならではの信頼を武器にしたわけだ。

 

「あいつは……まったく」

「まぁ、それでみんな助かったなら良いでしょう」

「結果オーライだがな……」

 

 そう呟きながら、空を見上げた。おそらく、悟は傑を逃しはしないだろう。殺す覚悟は出来てる、と言っていた。辛い役目をさせてしまうのは、やはり彼らの元担任として気が引けてしまう。

 けど、逆に「他の奴に殺させるくらいなら」という気持ちもあるのだろう。

 

「……」

 

 思えば、教育者として何一つしてあげられなかった。そんな思いが胸を満たしていた。

 

 


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