真剣で旭に恋しなさい!〜月鏡、朝日に照らされて〜   作:夢迷月

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情報量の問題で二分割。よければお付き合いください。


第十五話 後編

 

 旭と巴を乗せた送迎車が連れてきたのは、テレビ局の裏口だった。スタッフと思しき男性に誘導され、控室に担ぎ込まれるとすぐさま別の女性スタッフが旭を囲む。

「お顔失礼しますね……うわっ、これメイクいるの?」

 すべすべの肌質で、誰がどう見ても美人とため息を漏らすほどの旭の美貌を見て、メイク担当スタッフは躊躇ったあと本当に薄くだけ化粧を施そうとする。

 旭のサラサラの髪を纏めて、少量のファンデーションを極薄に引き伸ばしながら、女性スタッフは旭と会話する。

「本当に肌綺麗ですね。普段から保湿とかされてます?」

「髪には気を遣ってるのだけれど……ここ数日肌に良いものは摂取したかもしれません」

 旭は後ろに立っている巴へ鏡越しに妖艶な視線を送った。先日から動物性タンパクをたっぷり吐き出したのを思い出して、巴は苦笑いする。

 そうこうするうちに化粧が終わり、マイクをつけたりとテキパキ出演する準備が整えられていった。

「ちょっとの化粧でぐっと変わるものね。これから勉強しようかしら? 巴」

「化粧してる旭さんも綺麗だよ。旭さんがしたいならいいと思う」

 自分の意見を述べることを避けた男に旭将軍は詰め寄って、鼻先をちょんと指で押した。

「本音は?」

「……旭さんは元々綺麗で可愛いからいらない、と言いたかったけどお化粧してもらってウキウキしてる旭さんの前じゃそんなこと言えませんでした」

「そんなに気を遣わなくていいのに」

「こう、ようやく付き合ったからには女心というものを理解する必要があるかなと」

 巴の返答を聞いて、旭は機嫌を良くしながらもたしなめた。

「私たちの間にそんなのはいらない、そう思わない?」

「惚れた女にはいつでも気の遣える男でいたい」

「ふふ。見栄っ張りで、意地っ張り。男の子らしくて素敵よ」

「素敵なら何より」

 ここまで会話したところで、男性スタッフが控室をノックする。

「最上旭さーん! ご準備の方よろしいですかー?」

「はぁい。じゃあ巴、行きましょう」

 男は頷くと、優雅な足取りで歩いていく背中に追従していった。

 

 

 

 案内された別の部屋で、最上旭はインタビューを受けていた。

 墓を共にしたいほど木曾義仲を好きだったと言われる松尾芭蕉の句を引用しながら、雪代という苗字のアナウンサーは旭に質問を重ねていく。

 一つ一つの質問に対し丁寧に、かつ威厳を持って常に良いイメージを持たせるように返答していく恋人の威風堂々とした姿を、巴はニコニコして眺めていた。

 粗方の質問を終え、インタビュアーは用意されていた最後の質問を繰り出す。

「……では、武の方にも自信があると?」

「はい。名を残した武人のクローンとして、恥じないよう努力してきたつもりです」

「では、こちらでご用意した対戦相手と腕試し、いかがでしょうか?」

 アナウンサーから為された、答えが一つしか用意されていない問いに、旭は余裕の薄笑いを浮かべて快諾を返す。

「誰であろうと、やりましょう」

 潔い返答に、雪代アナはわざとらしく驚愕してみせた。

「相手の名前も聞かずに承諾とは……! 自信の表れとお見受けしました。それでは対戦相手の名前を皆さんにもお教えしましょう!」

 

 

 

 最上旭対キルギスのイスマイル。この対戦の内容を一言で表すなら、蹂躙であった。

 イスマイルが繰り出す技の数々は全て旭の柳のような体捌きで躱され、徐々に打撃技で体力を削られていく。そして、イスマイルの一番の大技を受け切った後に旭は微塵丸を抜刀し、殺意を出しながらの峰打ちで相手の意識を刈り取った。いかに自分が強いかを誇示するような戦法で、旭は勝利を手にしたのである。

 巴は恋人の戦いを危なっかしいものだと思いつつも、お茶の間の皆さんへ挨拶を終えた彼女を出迎える。

「お疲れ様、旭さん」

「ありがとう、巴。拍子抜けだったわ。もっと強い相手が来ると思ったけど」

 汗一つかいておらず、化粧もまったく落ちていない旭に巴はタオルとお茶のペットボトルを渡す。

「まあ、急で用意出来なかったんでしょ。それに壁越えの人たちを呼ぶとなると、旭さんもああいう見栄えいい戦い方出来なかっただろうし、俺を出すわけにもいかないしさ」

「それもそうね。デモンストレーションとしては十分。今日はそれで満足しておきましょうか」

 二人が和んでいると、ディレクターとなにやら話していた幽斎が話しかけてきた。

「お疲れ、旭。巴くんも付き添いありがとう」

「お父様。私うまく出来たかしら」

 娘の問いに、父親は頭を撫でながら返答する。

「うん。これでみんな、旭の素敵さが分かったと思う。良かったな、自慢の娘だよ」

「ふふ。ありがとう、お父様」

 親子の戯れを見ていた巴が顔を綻ばせていると、幽斎が今度は娘の彼氏へ水を向けた。

「ああ、そうだ。巴くん。これから一緒に来てもらいたいところがあるんだけれど、いいかな」

 話を振られた男は動じることなく、恋人の父親のお願いを快く引き受けた。

「俺は元々幽斎さんの護衛ですから。なんなりとおっしゃってください」

「頼もしいね。流石巴くん」

「で、どこに行くんですか?」

「ふふふ。九鬼ビルだよ」

 ニコニコした幽斎の口から飛び出した名前の恐ろしさを、巴はこの時まだ理解していなかった。

 

 

 

 

 とっぷりと日の落ちた夜、テレビ局での撮影を終えた旭に留守番を言いつけて車で最上の屋敷へ帰してから、男二人は手配していた別の送迎車で大扇島の九鬼極東本部ビルに到着していた。

 玄関口に行くと従者部隊の人間が三人ほど待ち受けていて、二人を取り囲むようにして廊下を歩いていく。剣呑な雰囲気に違和感を覚え、隣を歩く実業家に若者は話しかける。

「幽斎さん、旭さんのこと秘密にしてたのって、まさか九鬼にまで?」

「それは着いてからのお楽しみさ、巴くん」

 エレベーターに乗り、また廊下を歩いて辿り着いたのは九鬼の重役たちが集まる大ホールだった。

「では、こちらへどうぞ」

 と従者部隊に扉を開けられ、二人がホールに入ろうとした、その瞬間。

 相馬巴が、月鏡を抜刀していた。かと思うとすぐに納刀し、それから室内のある人物に視線を向ける。

「クラウディオさん。いきなり糸で捕縛するとか、やめていただけますか?」

「……本気で捕らえる気で放ったのですが、やはり貴方には通じませんか」

 完璧執事はまったく残念そうな素振りを見せず、その様子を見て巴は警戒を強める。そんな彼の足元には、銀に光る極細の糸を切断したものが何本も落ちていた。

 敵対心を剥き出しにする若者の耳に、豪放な笑い声が聞こえて来る。

「はっはっは! いつかヒュームにボコボコにされてた坊主が、随分イキがよくなったみたいじゃねえか」

 そこにいたのは、着崩したシャツに巻き付けるように緩くネクタイを着用し、いくつものピンで銀色の髪を留め、額には十字傷を持つ、破天荒という言葉を体現したような男。世界を一手に担うと言っても過言ではない超々大企業たる九鬼財閥の総帥、九鬼帝であった。

 カリスマの権化のような男に声をかけられた巴は一礼を返す。

「帝様、久方ぶりにお目にかかります」

「おう。久しぶりだな相馬。流石に今回の件は見逃せなくてな。色んなことほっぽり出して来ちまった。ほらクラウディオ。お前も糸納めろ」

「承知しました」

 ミスターパーフェクトが典雅な動作で一礼したかと思うと、巴の足元に散らばっていたものまで合わせて全ての糸が回収されていった。

 クラウディオが持ち場に戻ったのを見届けてから、九鬼帝は今回の騒動の首魁、最上幽斎へ語りかける。

「んで? 最上。大人しくここに来たってことは、大体のことは説明する気なんだろ? お前はそういうやつだもんな」

 朗らかに話しかけられた幽斎は、心底愉快げに言葉を返す。

「当然だ。私には説明義務があるからね」

 幽斎がこう言った直後、巴の目の端には、口を挟もうとしてヒュームに制裁された金髪巨乳のメイド、ステイシー・コナーの姿が映っていた。巴はステイシーの横に並んでいた桃色の髪で猫耳尻尾をつけたメイド、シェイラ・コロンボと共にご愁傷様と呟き、心の中で手を合わせた。

 急に人間一人が壁に叩きつけられたのを意に介さず、幽斎は話し始める。

「私がこの計画を実行に移したのはね、君たちへの警告のつもりなんだ」

「警告、ねえ。最上、てめえは一体俺たちになにを警告するんだ?」

「九鬼は現在、企業として独走体制に入りつつある。外患を取り除いたのなら、次に取り組むべきは内憂の処理だと、私は思うんだ」

「内憂か。てめえが勝手に作り出してるように見えるが?」

「私からの試練だよ。敵対するものが居なくなれば、内側から腐り始めるのは自明の理。だからこそ、私がその役目を買って出たんだ。もちろん、皆への愛を動機にして、私が望んでやっていることには違いないけれど」

 この言葉に続けるようにして、幽斎は自分のやってきたことを朗々と話し続けた。

 武士道プラン、特に義経について、歴史通りのポテンシャルを発揮するには好敵手が必要だと考えたこと。

 九鬼の誰にも秘密裏に、独断で義仲のクローンを創り出したこと。その子を養女にして木曽の山奥で育てたこと。その過程で幽斎自身も成長できたので感謝していること。

 そして孤独に耐えうる精神が出来上がったところで、相馬巴を家臣として雇ったこと。

(改めて話を聞いてると、幽斎さんってほんとに頭おかしいよな)

 相馬巴は内心もにょもにょとしつつ、大人しく恋人の父親の話を聞いていた。

 幽斎はひとしきり自分の語り口に陶酔した後、こう言って話を一度終えた。

「歴史上では義経に軍配が上がったけれど、今の段階ではどうみても旭の方が優秀だからね。学力においても、武力においても。だから、旭の存在が義経にとってよき試練となってくれたらと思っているんだ」

「……なるほどね」

 九鬼の総帥は、こちらも愉快げに笑いながら幽斎へ語りかける。

「全ては九鬼のために行ったことだと」

「ああ。人生すべからく試練なるべし、とね」

「面白くなってきたじゃねえか。そんでお前、これからどっかに行方をくらます予定もないんだろ?」

「だって、私には負い目なんて一つもないからね。逃げも隠れもしない。監視も付けてくれて構わないし、いつでも呼び出してもらって結構。私はしばらく、川神で源氏祭りを楽しんでいるから」

「処分を受ける覚悟アリ……ってか」

 九鬼帝は、暖簾に腕押しとも言える幽斎との会話を楽しみつつ、ある違和感を覚えた。

 この会話中、ヒューム、クラウディオ、加えてマープルに動揺が見られないのだ。その意味では、内心を隠しきれていない巴の感情の方が容易に看取出来た。

 帝の思考は続く。従者部隊一位の忍足あずみを除く、部隊トップ3の面々は武士道プランSを掲げている。元々マープルが目論んでいたその計画はヒューム、クラウディオの告発によって見抜き、かつ面白そうだったので放置していたのだが、こうして最上幽斎のように好き勝手やる人間が現れた以上、内部に厳しい監査の目が入り、計画が頓挫するのはほぼ必定。

 それなのに、彼らは全くうろたえていない。

 クラウディオの幽斎に対する入室即捕縛未遂も、こうして推論を立てて考えると不審に見える。

 この少なすぎるヒントから、九鬼帝は神がかり的な勘でこう結論付けた。

(こりゃ最上の野郎と、少なくともマープル、クラウディオは組んでやがるな……?)

 そうと決まれば、九鬼の総帥の行動は早かった。

 幽斎を揺さぶってものらりくらり躱されるだけ。ならばまだ若いその護衛を狙え、と。

「おい、相馬。お前このこと知ってたの?」

 急に話を振られた若者は、なんとか動揺を表に出さずに返答する。

「いえ、知りませんでした。旭さんがクローンというのも三日前に知ったばかりです」

「……嘘はついてねえようだな」

 どーしたもんかね、と帝が頭の上で腕を組むと、最強執事ヒュームが主へ提案する。

「差し当たり、誰か監視に付けましょうか。私でも構いませんが」

「おー……いや、ちょっと待て。お前がいたか」

 生返事を返しながら、考えが纏まったのか帝は目を輝かせた。

「最上、お前んとこの相馬、いま強さにどんくらい自信ある?」

「私はその方面には疎いから……巴くん、どうかな?」

 会話のバトンを渡された巴は背中に冷や汗をかきつつ、直立の姿勢のままこう言ってのけた。

「そうですね、旭さんがいる以上、誰にも負けないと思います」

 この放言に、ホール中の空気が震撼した。一つの原因としては、大言壮語としか思えない若者の言葉への驚愕。もう一つは、ヒューム・ヘルシングが放つ他を圧倒する闘気によるものであった。

 威圧感の塊になったヒュームは、ビリビリと圧力を与える声で巴に問う。

「ほう、それは俺への挑戦状ということでいいか? 相馬」

「構いません」

「勝てない勝負は受けない腰抜けだったと記憶しているが」

「ええ。俺は腰抜けですよ。だから勝てる勝負しか受けません。そして、今の俺なら貴方に勝てる」

 若武者は老執事の威圧を涼し気に受け流し、逆に闘気を返して見せる。

 その二人の様子を見て、九鬼帝は今日一番の笑みを浮かべてこう言った。

「じゃあお前ら二人、戦っちゃえよ。最上の処遇、それで決めるわ」

 これで互いに手を抜くようならそこから追求すればいいし、互いに本気なら面白い勝負が見られる。

 九鬼帝にとって面白くはないが堅実な結末と、面白くて波乱万丈な結末が見られるのだ。どちらに転んでも損はしない。

 この時までは、彼はそう思っていた。自分の勘を信じたがゆえに、彼は一つ大事なものを失うことになる。

 その後、決闘の日取りは7月5日の日曜日とすること、場所は追って伝えること、巴が負けたら幽斎は一応の罰金、加えて監視が付き、勝てば無罪放免となることが取り敢えず取り決められた。

 話し合いが終わりかけたころ、当事者の一人となった巴が手を挙げて発言権を求めた。

「俺からもひとつ、いいですか?」

「お、いいぜ。なんだ?」

「俺が勝ったら、九鬼からいつでも退職出来るようにしてください」

 これは、不義理を出来るだけしたくない巴が九鬼入社時点から抱いていた願いでもあった。暗殺失敗という間抜けな経緯で傘下に入ったのは確かだが、これから旭と人生を歩んでいく上で九鬼への義理が足枷になる可能性を排除しておきたかったのである。

 この願いを聞いて、九鬼の総帥は大いに笑った。

「ははは! いいぜ。もしヒュームに勝てるような人材なら手放すのは惜しいケドよ。まあ勝ったとして、お前がどっか行くんなら俺の器が足りなかったってこった」

 だがよ、と帝は若者に覚悟を問う。

「ヒュームは強いぜ? お前、ほんとに勝算あるのかよ」

 相馬巴は一度呼吸し、心臓を落ち着けてからこう答えた。

「確かにヒュームさんは最強だと思いますし、俺はその域まで達していません。ですが、強いから勝つわけではありません。少なくとも、俺はそう思ってます」

「なかなか頼もしい答えじゃねえか。なあヒューム」

「口だけではないことを願っております」

「いいねえ、二人ともバチバチしてて。俄然面白くなってきた」

「うんうん、巴くん、良い試練を与えてもらったね」

 九鬼ビルでの一幕は、帝と幽斎の笑顔で幕を下ろした。

 

 

 

 

 幽斎と巴が最上の屋敷に帰ると、ポニーテールにエプロン姿の旭が二人を出迎えた。まさに若奥様といった風情の格好である。

「お帰りなさい、お父様、巴」

 二人の男がただいまと応じてから、旭将軍はエプロンを見せつけるようにくるりとその場で回ってみせる。一つに結われた髪がうなじをちらつかせつつ優雅に舞った。

「どうかしら」

「うん、可愛い」

「ありがとう。じゃあ、お帰りなさいのキスをしましょ」

 ん、と旭は背伸びをして目をつぶってみせる。巴は一度幽斎の方を見てから恥ずかしさと旭の望みを天秤にかけ、一瞬で後者を取った。

 互いに腰を抱き寄せ、押し付けるだけのキスを交わす。

「ふふふ。二人とも仲良しだねえ」

 自分の視線も憚らず口づけする娘カップルを見て、父親は笑みをこぼした。

 

 遅めの夕食と幽斎から順番を譲ってもらった入浴を済ませ、巴は自室で旭と共に和んでいた。

 男は勉強するわけでもなく、ベッドの縁に座って女に背後から抱き着き、手触りの良い髪を撫でることでなんとか精神の平静を保っていた。

 しばらくされるがままになっていた旭は、体を少しよじって彼氏の顔を見る。

「どうかしたの? 今日は甘えん坊さんね」

「……ヒュームさんと決闘することになっちゃった」

「あらら。大変ね」

 他人事のように心配する旭は器用に手を伸ばし、お返しとばかりに巴の頭を撫でた。赤子をあやしてるみたいだ、とぼんやり思考した男は、ふと浮かんだ疑問をそのまま口に出す。

「……というか、伯爵って幽斎さんの計画のこと知ってるんじゃなかったのかな」

「それとこれとは別に、貴方と勝負したかった、とか」

「避けられる勝負なら避けたかったんだけどね……まあ、いつかしないといけないと思ってたリベンジの、丁度いい機会だったと思うことにするよ」

「前向きね。男の子はそうでなくちゃ」

「京極君じゃないけど、言葉だけでも前向きにならないとやってらんないよ……」

 若干ダウナーに入りかけていた巴に旭は振り返り、頬を撫でる。それだけで男の緊張はふっと解けた。力の抜けた体を簡単にベッドへ押し倒した女は、男を見下ろして口元を三日月に歪めた。

「じゃあ、そんな貴方をもっと励ましてあげる」

「……今日は何するの?」

「明日、義経と笛で勝負しようと思うの」

 笛勝負と聞いて男は常識的に考え、演奏で勝負するのだろうと解釈した。

「それとこの状況に何の関係が?」

「だから、笛の練習をしようと思って」

 しかし予想に反して、旭は白磁の手を巴の股間に持っていく。布越しで上下に擦る手つきは、笛を扱うものとは思えなかった。

「……源さんのは横笛だった気がするけど」

「それぐらいは細かいことよ」

「いや、細かくなっ……あーっ!」

 かくして、深夜の部屋では尺八の練習が二回行われたのだった。

 

 

 

 

 

 




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