真剣で旭に恋しなさい!〜月鏡、朝日に照らされて〜   作:夢迷月

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旭の正体バレまで駆け足で行こうと思ってたのになんでこんな閑話を書いてるんだ……という回。よろしければお付き合いくださいませ。


幕間1

「ふんふんふーん。ねーちゃんに食べさせてもらうシューマイ美味しいなー、っと」

 ゴールデンウィークのこと。ガタンゴトンと揺れる列車の中を、上機嫌の川神百代は奢ってもらったシューマイ片手に歩いていた。

 川神学園2年、風間翔一率いる風間ファミリーは、彼の豪運で引き当てた温泉旅行のため電車に乗っていた。メンバーが9名のため座席から一人あぶれることになり、百代が女子大生を引っ掛けるために離脱していた。

 一通り満足した百代は余りを後輩たちに差し入れしようと、ファミリーの座席に戻って来た次第だった。

「よーうまゆまゆ。クリ。もうファミリーには慣れたか? これシューマイ。ほーらワン子。あーん」

 ワン子、と呼ばれた一子は無邪気に口を開け、放り込まれたものを咀嚼する。

「あーん……ぐまぐま。美味しいわお姉様!」

「ありがとモモ先輩。ようやく気兼ねなく過ごせてる感じだ」

「は、はいっ。友達は自然体で、ですからね」

「でもモモパイセン、この空間に慣れろとか一年坊には実際ハードルたけえぜ……」

 由紀江は松風を抱えたまま、隣の席に視線を移す。そこではトランプゲームの大定番、大富豪が行われていた。

「……zzz」

 バンダナを巻いた好青年、キャップこと風間翔一は事前調査による疲労で爆睡。

「ふっはっは! 甘いな大和! これで上がりだ!」

 筋肉こそ全て、と浅黒くはちきれんばかりの肉体をタンクトップに包んだ島津岳人は奇跡的な配牌によるパワープレイで大富豪に。

「ん。じゃあ俺二位上がり」

 ファミリーの軍師、女顔の割にほんのり鍛えられた体をした直江大和は冷静に手札を使い切り富豪へ。

「くくく。大和の隣は私にこそふさわしい。これで上がり」

 花の髪飾りが似合う青髪のナイスバディ、直江大和LOVEな椎名京は想い人にカードが渡せる貧民へ。

「うわーっ! 大和や京に負けるのはともかくガクトに負けたのだけは悔しい!」

 そして片目を前髪で隠すパソコンゲームデバイスガジェットなんでもござれなオタク、師岡卓也は大貧民になっていた。

「おいモロ! ガクトにだけってなんだよガクトにだけって!」

「初手が良かっただけだろ! 10トリプルで3枚いらない手札捨てた後エーストリプルとか、どうやって返すんだよ!」

「カード切って次の手札配っとくぞー」

「綺麗にシャッフルしてカードを配る大和も素敵……! ほら大和、私の2をあげる。私の想いが籠ったあっつ〜いトゥーを、いやチューをっ!」

「……zzz」

 カオスだった。確かに、ここに混じるのは至難の業だろう。

 納得した百代は一子を膝に乗せて席に座る。

 大富豪に参加せず、新入り二人が孤立していないかという気配りから百代は話しかけたのだが、その不参加には別の理由があったようだった。

「で? 何話してたのか気になるー。お姉さんに教えてくれるかな? 恋バナか?」

 クリスと由紀江は一瞬話しづらそうな表情をしたが、クリスの方から切り出した。

「……相馬先輩の話だ」

「おいおいクリ、あいつのことは気にするなって言ったろ?」

「うーん……でもこう、まゆっちや犬と話すと認識の相違がある気がして」

 むむむ、とうなるクリスを見て、百代は一子に話を振る。

「なあワン子。ワン子は相馬のことどう思ってる?」

「この前くず餅パフェを奢ってもらったわ! それに、何回かジュースも差し入れしてもらったの。そんな感じで普段は優しいけど、怒るとすっごく怖い先輩、って感じ?」

「なにっ。じじいめ、ワン子のは見逃してたのか……まあ、あいつは川神学園で2番目に怒らせちゃダメなやつだからな」

 唸っていたクリスが切り返す。

「1番は、モモ先輩か?」

「あったりまえだろー! ……じゃあまゆまゆ。お前は?」

「はい。その、ですね。私はお父様から聞いていた相馬のイメージとは随分違う方だな、と」

 というと? とクリスが質問を重ねる。

「えと……ではおそらく、モモ先輩より私の方が剣の道を行く者として相馬に詳しいと思うので、その辺りのお話からさせていただきます」

「一から話してくれ。私はじじいからそっちに関しては詮索するなって言われててな。結局全然知らないんだ」

 

 

 

 黛由紀江の口から、相馬流についての情報が語られていく。

 曰く、剣道で言うところの一眼二足三胆四力のうち、一眼に秀でた一族であること。

 一子相伝の殺人剣であること。

 生まれた時から子に修練を課し、ただ一振りの刀となるのを求めること。

 その力で、長年裏社会で暗躍してきたこと。

 そして、一刀流の流派であること。

 

 

 

「と、流派としての相馬流の情報は、このくらいでしょうか……って、わわわっ、皆さんに注目されてますぅ」

「もしやオラ達人気者? 照れるぜ……」

 いつの間にか、キャップを除いた全員が由紀江の語りに耳を傾けていた。

 場を代表するように、百代が口を挟む。

「でも、うちにいる相馬は二刀流だよな? あれ脇差とか小太刀差してるわけじゃないし」

「ええ。どちらも実用だと思います」

「だよなー……実用ってことは、あれもしかして」

 百代の言葉を継ぐように、由紀江は話を続けた。

 

 

 

 今度は、相馬巴本人について。

 曰く、父親相馬遙は修羅と呼ばれ、裏で有名な剣士であり実力だけで言えば黛大成にも匹敵する達人だったこと。

 その息子が12の頃に、相馬巴として名が出始めたこと。

 そして……15の年で父親を殺めたこと。

 情報が少ないながらも、内容は暗澹たるものであった。

 

 

 由紀江は一呼吸置いてから、恐る恐る言葉を紡ぐ。

「つまり、父から聞いた話が本当なら、あれらは人の血を……しかも、実の父親のものを吸ったことがあるはずです」

「オレ様も背筋がゾクゾクしてきやがったぜ……」

「ボクは現実味ないから、ゲームだと呪いやバッドステータスついてそうとかしか思わないなあ」

「ぶるぶる。私怖くなってきたわお姉様」

「良かったなークリ。お前ほんとに死んでたかもしれないぞ」

 一子の頭を撫でつつ、場を和ませるため百代がクリスへ茶化すように話を振ると、金髪のツインテールが震えた。

「じょ、冗談ではない! 二週間経った今でも首が吹っ飛んだ感触を思い出すんだ!」

 この言葉に、読書を始めていた大和と京がツッコむ。

「あれはケンカ売ったクリスが悪いと思うぞ。相馬先輩、話せば分かる人だし」

「……しょーもない。怖いと思うなら、関わらなければいい話じゃない?」

 あくまで他人事、というような二人の態度にクリスは憤慨する。

「そーじゃないんだ! もっとこう……底冷えするような、というか、気勢が削がれる、というか……わぷっ!」

 百代はワン子を撫でたまま、空いた手でクリスの髪をくしゃくしゃにする。

「まあ、そこら辺が相馬流の殺人剣たる所以だろうな。勝負が始まってしまえば、どちらかが死ぬまで止まらない。全力でやって、負けたら次頑張ろうの次もない」

 由紀江は、黛流の師であり父でもある大切な存在の、厳しくも優しかった姿を思い出しつつボソッと呟く。

「凄まじい人生だったんでしょうね……」

「ああ。だから私たちとはあまり勝負をしたくないんだろう。挑んできたら、クリのようにしてしまうから」

 百代の言葉に頷きつつも、由紀江はこう言葉を返した。

「ですが相馬先輩はなんというか、色んなものを感じさせないほど優しい、ですよね? 殺人剣の使い手といえば、もっと冷徹なイメージを持っていたので……」

 この発言には大和が続けた。

「相馬先輩は実際優しいよ。評議会議長の懐刀ってこともあって、割とトラブルは止める側だし、考えも柔軟だし。まあ、さっきまでの話を聞いてると、明確な敵を作りたくないだけなのかもしれないけど」

 どこかの誰かさんはそれでもケンカ売ったけどなと大和が釘を刺して、クリスが怒ったところでキャップが起き、

「んー、今ここにいない人のこと考えても仕方なくね? 目の前の旅行を楽しもうぜ!」

 と号令をかけたところで、相馬巴に関する話は立ち消えになった。

 

 

 

 黛由紀江は思考する。相馬巴のことを。

(パフェとあんみつを一杯ずつ奢ってもらっただけの関係ですが……何か私に出来ることはないのでしょうか……)

 ちょっと食いしん坊な彼女の思いは、旅行後すぐに成就されることになる。

 

 

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